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脳下垂体と甲状腺-中枢性甲状腺機能低下症(総論)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

視床下部下垂体のTSH分泌調節

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学研究科(現、大阪公立大学大学院医学研究科) 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

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(表)バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用

脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の異常で、甲状腺ホルモンの異常が起こります。

Summary

下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の量、構造上の欠陥による中枢性甲状腺機能低下症の60%は下垂体腫瘍が原因。症状は原発性甲状腺機能低下症と同じで、無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、傾眠傾向、記憶力低下、便秘、嗄声など。超音波(エコー)画像は正常な甲状腺と変わりない。血中TSHは低い-正常-高いと原因により異なり、血中甲状腺ホルモン(FT4, FT3)低い(特にFT4が低い)、脳MRI、TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験で診断。治療は続発性副腎皮質機能低下症の合併を除外した上で、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)投与。

Keywords

下垂体,甲状腺刺激ホルモン,TSH,甲状腺ホルモン,中枢性甲状腺機能低下症,TRH負荷試験,FT4,FT3,下垂体腺腫

中枢性甲状腺機能低下症とは

体内では、血液中の甲状腺ホルモンが常に一定の値を維持できるよう、脳の視床下部―下垂体が調節をおこなっています。

視床下部より分泌されたTSH放出ホルモン(TRH)は下垂体門脈系を通り、下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生細胞を刺激し、TSHが合成されます。

糖たんぱく質ホルモンであるTSHの合成過程は複雑で、α鎖とβ鎖の二本のタンパク質に

  1. 重合
  2. シアル酸・硫酸塩と結合した糖鎖の付加(α鎖の2カ所、β鎖の1カ所)

がおこり、初めて完全な形の甲状腺刺激ホルモン(TSH)になります。

下垂体から分泌されたTSHは、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン(T4, T3)の分泌を促します(視床下部―下垂体による甲状腺ホルモンの調節)。

しかしながら、不完全な形のTSHは生物学的活性が低く、甲状腺を刺激する作用は弱くなります。

視床下部―下垂体のTSH分泌調節

中枢性甲状腺機能低下症は、下垂体から分泌される

  1. TSHの量が少ない
  2. TSHに構造上の欠陥があり、機能の弱いTSHが分泌される
  3. その両方

ため、甲状腺への作用が減弱するのが原因の甲状腺機能低下症です。

中枢性甲状腺機能低下症には

  1. 下垂体が原因の二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症
  2. 視床下部が原因の三次性(視床下部性)甲状腺機能低下症:視床下部から分泌されるTRH(TSH放出ホルモン)は、TSHの分泌を促すと同時に、TSHを構成する部品であるα鎖β鎖の重合や糖鎖の修飾によりTSHを生物学的活性を有する完全な形に変えます。

があります。現在の医学ではTRHの測定が不可能で、下垂体性と視床下部性を区別できないため、まとめて中枢性甲状腺機能低下症と言います。(表、バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)

中枢性甲状腺機能低下症の原因

中枢性甲状腺機能低下症の原因は、

  1. 下垂体腫瘍(最も多い)
    非機能性(約60%);約25%に中枢性甲状腺機能低下症(FT4値が低値だが、ほぼ全例で血中TSH値は低下せず基準値内)(J Clin Endocrinol Metab. 2019 Oct 1;104(10):4879-4888.)
    TSH以外のホルモンを産生する機能性腫瘍(約40%);先端巨大症[成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫]は、ソマトメジン-C(IGF-1)による甲状腺刺激により中枢性甲状腺機能低下症を起こし難い(先端巨大症[成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫]とは )。
  2. 視床下部腫瘍などの脳腫瘍

    (間脳下垂体領域の腫瘍が約60%を占める)
  3. 脳外傷・くも膜下出血後(十年以上して発症することも)、脳外科手術後、ラトケのう胞シーハン症候群
  4. 下垂体前葉機能低下症の一症状として起こる場合
  5. GH(成長ホルモン)製剤の投与後;‎甲状腺ホルモン剤を同時投与する場合、通常よりも多い量を投与せねばなりません。‎[J Clin Endocrinol Metab. 2007 Nov;92(11):4144-53.]
    カルバマゼピン・オキシカルバゼピン[BMJ Case Rep. 2021 Sep 3;14(9):e245018.][Pediatr Neurol. 2006 Mar;34(3):242-4.]
    副腎皮質ステロイド[Arch Endocrinol Metab. 2018 Apr 5;62(2):164-171.]
    などの薬剤によるもの
  6. 遺伝性;TSHBTRHRIGSF1TBL1XIRS4などの遺伝子変異
  7. 自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎抗下垂体抗体(PAb-1)が陽性
    IgG4関連下垂体炎

などです。

一般的には、TSH単独欠損症は稀で、大抵その他の下垂体前葉ホルモン異常(下垂体前葉機能低下症)に付随するとされるも、事実は異なります。長崎甲状腺クリニック(大阪)で最も多いのは、ラトケのう胞と原因不明(成人発症なので、何らかの遺伝子異常か自己免疫の可能性)のTSH単独欠損症です。下垂体前葉機能低下症は重症なので、内分泌系以外の医師にも簡単に見つけられますが、TSH単独欠損症は、かなりの確率で見逃されています。

典型的には、TSH・FT4・FT3すべてが正常下限の場合です。無痛性甲状腺炎 の経過中、低T3低T4低TSH症候群(ノンサイロイダルイルネス)も同じようなパターンになるため、慎重に判定せねばなりません。

例え血中TSH値が正常であっても、FT4・FT3が正常下限なのにTSHが上昇しないのは明らかに異常です。(正常なら、FT4・FT3を増やすために、TSHが上昇するはず;視床下部―下垂体による甲状腺ホルモンの調節 )

中枢性甲状腺機能低下症の症状

中枢性甲状腺機能低下症の症状は、

  1. 甲状腺自体が原因の原発性甲状腺機能低下症状と同じで、無気力、易疲労感、眼瞼浮腫・むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、傾眠傾向、記憶力低下、便秘、声がかすれる(嗄声;させい)など。(さらに詳しくは甲状腺機能低下症の症状
     
  2. 下垂体腺腫が原因の場合、
    ①他の下垂体ホルモン過剰産生の症状をともないます。ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病,)先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進症
    ②他の下垂体ホルモン分泌不全の症状をともないます。ACTH系の障害による続発性副腎皮質機能低下症GH(成長ホルモン)分泌不全症尿崩症性腺機能低下症[月経不順を訴える若年女性はLH/FSHの分泌も悪い事が多い(第59回 日本甲状腺学会 P1-7-1 月経不順を契機に発見された中枢性甲状腺機能低下症8例の解析)]などです。
    下垂体腺腫が大きいと、視神経圧迫による視力障害(両耳側半盲)、頭蓋内圧亢進による頭痛

     
  3. 視床下部性甲状腺機能低下症では、体温の調節障害(視床下部症候群)を伴う事があります。

中枢性甲状腺機能低下症の超音波(エコー)画像

中枢性甲状腺機能低下症の超音波(エコー)画像は、特に橋本病(慢性甲状腺炎)を合併していない限り、正常な甲状腺と変わりません。ただ、ドプラーモードで内部血流を見ると増加している事があります(もちろん増加していない場合も多い)。TSHの刺激が乏しいはずなのに不思議な現象です。筆者の推測ですが、最近、サイログロブリンは「甲状腺ホルモン合成を調節している」との発見があり(新しく解ったサイログロブリンの役割)、TSHの刺激が足りない分を代償的に甲状腺ホルモン合成しようとして内部血流が増加しているのかもしれません。

中枢性甲状腺機能低下症(男性) 超音波(エコー)画像

中枢性甲状腺機能低下症(男性) 超音波(エコー)画像;甲状腺大きさは、平均よりやや小さめです。甲状腺内部は、等エコー、均一で破壊性変化はなく、正常な甲状腺と変わりません。

中枢性甲状腺機能低下症(男性) 超音波(エコー)画像(ドプラー)

中枢性甲状腺機能低下症(男性) 超音波(エコー)画像(ドプラー)

中枢性甲状腺機能低下症(女性) 超音波(エコー)画像

中枢性甲状腺機能低下症(女性) 超音波(エコー)画像;甲状腺サイズは、正常よりやや小さめです。

正常な甲状腺(女性) 超音波(エコー)画像

正常な甲状腺(女性) 超音波(エコー)画像

中枢性甲状腺機能低下症(女性) ドプラーモード

中枢性甲状腺機能低下症(女性) ドプラーモード;TSHの刺激が掛からないため、内部血流が少なくなる場合が多い。

写真のケースは甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)112.5μg/日を要する。

中枢性甲状腺機能低下症と橋本病の合併

ケース①

橋本病合併中枢性甲状腺機能低下症 超音波(エコー)画像

橋本病合併中枢性甲状腺機能低下症(女性) 超音波(エコー)画像;橋本病による慢性炎症性変化が加わると、もはやエコーでの鑑別は困難です。

ケース②

中枢性甲状腺機能低下症と橋本病の合併(水平断)

中枢性甲状腺機能低下症橋本病の合併(水平断);橋本病による破壊の程度は軽いのに甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を100μgを必要とする。

中枢性甲状腺機能低下症と橋本病の合併(垂直断)

中枢性甲状腺機能低下症橋本病の合併(垂直断)

中枢性甲状腺機能低下症の検査・診断

中枢性甲状腺機能低下症の検査・診断は、

  1. 血中TSHは低い-正常-高いと原因により異なります。[多く(特に非機能性下垂体神経内分泌腫瘍)は基準値内で、生物学的活性のみが落ちている]
     
  2. 血中甲状腺ホルモン(FT4, FT3)低値
    (特にFT4低値)
     
  3. 脳MRI(腫瘍やラトケ嚢胞の有無、特徴的なリンパ球性下垂体炎IgG4関連下垂体炎を確認)
     
  4. TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験[Nihon Naibunpi Gakkai Zasshi. 1983 Aug 20;59(8):1131-7.]

が必要です。(グラフ)バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用

自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎:抗下垂体抗(PAb-1)は保険適応外ですので、自費になります。

TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験

TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験

TRH(TSH放出ホルモン)負荷試験;中枢性甲状腺機能低下症を含む下垂体機能低下症の確定診断に必要な負荷試験で、入院安静状態にて行わねばなりません。長崎甲状腺クリニック(大阪)では大阪公立大学附属病院(旧 大阪市立大学附属病院) 代謝内分泌内科に依頼し、短期入院で行います。

TRH(ヒルトニン®) 0.2mgを緩徐に静脈注射し、

  1. 正常人のTSHピーク(頂値)は15から30分以内で、30分値の判定で6.0 μU/mL以上。少なくとも30~60分で10~40μU/mLのピークを示します。60分-120分のピークは遅延反応で異常とみなします。
  2. 正常では反応したTSHが甲状腺を刺激し、120分後のFT3は負荷前(0分)と比較して約30%の上昇を認めます。 
TRH負荷試験

中枢性甲状腺機能低下症においては、

  1. 下垂体性甲状腺機能低下症;TSHは無反応~低反応、あるいは遅延反応
    視床下部性甲状腺機能低下症;TSHは正常あるいは遅延反応[J Clin Pathol. 1991 Jun;44(6):522-3.]
  2. TSHが正常反応でも、120分後のFT3は上昇しません。[生物学的活性の低い(甲状腺を刺激する機能の弱い)TSHなので]

中枢性甲状腺機能低下症の診断基準は、

  1. TSHの30分値あるいはピーク値<6.0 μU/mL;偽陰性が多い
  2. ピーク(頂値)の遅延反応、FT3上昇率の低下の方が診断的価値が高い

(第65回 日本甲状腺学会 P8-7下垂体・傍鞍部腫瘍による中枢性甲状腺機能低下症におけるTRH試験の検討)

※糖鎖の修飾が不完全な非活性型TSH(異常TSH)検出方法が開発されれば、中枢性甲状腺機能低下症の診断能は飛躍的に進歩します。群馬大学大学院医学系研究科の堀口和彦先生が、その方法を研究中です。

中枢性甲状腺機能低下症の鑑別診断

中枢性甲状腺機能低下症の鑑別診断は意外と難しいのです。それは中枢性甲状腺機能低下症は脳内の下垂体の異常なので、特徴的な甲状腺超音波(エコー)検査の所見が存在しないためです。鑑別できなければ、最終的に入院してTRH(TSH放出ホルモン)負荷試験になりますが、可能ならその前に鑑別を付けたいものです。

鑑別すべき病気は

  1. 無痛性甲状腺炎の経過中:FT3,FT4の低下が先行し、TSHの上昇が遅れる場合(これは時間が経てば回復し定常状態に戻るので鑑別できます。)
     
  2. 低T3症候群(low T3 syndrome)、低T3,T4症候群、低T3,T4,TSH症候群:これは、ややこしい。これらは、栄養状態・全身状態が悪い時に起こるので、代謝が低下する中枢性甲状腺機能低下症と区別が付きません。中枢性甲状腺機能低下症なら、下垂体でTSHと同じ調節機構のPRL(プロラクチン)、調節機構が重なるGH(成長ホルモン)の低下を伴うと鑑別できます。
TSHとPRL(プロラクチン)調節機構

中枢性甲状腺機能低下症の治療

中枢性甲状腺機能低下症の治療は、甲状腺自体が原因の原発性甲状腺機能低下症と同じで、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)を投与しますが、

  1. 治療の指標として血清TSHは当てにならないため、FT4の値を基準値の上1/2内、FT3が基準範囲内になるよう維持します。 
     
  2. ACTH系の障害による中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症を合併している例も多いです[中枢性甲状腺機能低下症中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症下垂体前葉機能低下症]。
    甲状腺ホルモン剤を投与すると副腎皮質ホルモンの代謝分解が亢進し、副腎皮質機能低下症を悪化させます。最悪、副腎クリーゼ(急性副腎皮質不全)もあり得ます。必ず副腎皮質ホルモン製剤(ヒドロコルチゾン;コートリル®)を先に投与し、少なくとも1週間後より甲状腺ホルモン剤の投与を開始します。 

視床下部または下垂体の障害なので、理論的にはTRH製剤、TSH製剤の投与を考えてしまいますが、それらは

  1. 非常に不安定で、経口投与できない
  2. 持続的な投与が不可能;持続型の注射薬を開発して毎日自己注射を行うか、ポンプから体内に入れるかしかなく、現実的に無理。

甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)を一日1回服薬する方が、はるかに簡便で効果大。

下垂体腫瘍に伴う下垂体機能低下症では腫瘍による圧迫を解除しても下垂体機能が改善しない事が多いですが、プロラクチン産生腫瘍(プロラクチノーマ)摘除、あるいはラトケ嚢胞自然縮小により中枢性甲状腺機能低下症が改善した報告があります(第60回 日本甲状腺学会 P2-10-8 下垂体腫瘍の縮小に伴って改善した中枢性甲状腺機能低下症の2例)。

中枢性甲状腺機能低下症(各論)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,浪速区,東大阪市,生野区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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