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意外と多いSITSH、難病甲状腺ホルモン不応症のことも!    [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査の長崎甲状腺クリニック(大阪)]

甲状腺:最新・専門の検査/治療/知見①甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎クリニック(大阪)

甲状腺の、長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)でしかできない検査/治療・当院ホームページでしか得られない情報が満載です。これらは、院長が最新の海外論文に眼を通して得たもの、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

SITSH診断アルゴリズム

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Summary

TSH不適切分泌症候群(SITSH)は、甲状腺ホルモン(FT3, FT4)の数値が高いのに、 脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑制されない状態です。SITSHのひとつ、難病指定の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の病態、症状、診断、TSH産生下垂体腺腫との鑑別診断、治療を解説。甲状腺ホルモン受容体β(TRβ)の遺伝子変異、T3抑制試験、TRH負荷試験なども説明。

TSH不適切分泌症候群(SITSH)

甲状腺ホルモンのFT4が少しでも高値の時に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が抑制されないのは異常です。

TSH不適切分泌症候群(SITSH)とは、甲状腺ホルモンの数値(FT3, FT4)が上昇しているのにも関わらず、 脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑制されない不可解な状態です。

TSH不適切分泌症候群(SITSH)には、以下のような可能性があります。

真のSITSH(TSH不適切分泌症候群)は約20%で

  1. 甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)
  2. TSH産生下垂体腺腫

真のSITSH(TSH不適切分泌症候群)の事は少なく、約80%は

  1. 無痛性甲状腺炎の経過中:TSHの低下がFT3、FT4上昇に遅れる
  2. 甲状腺ホルモン剤服薬中:①TSHの低下がFT3、FT4上昇に遅れる②FT4のみ上昇する事あり(FT4→FT3の脱ヨード反応が低下)
  3. 偽高値/偽低値(本当のTSH、FT3、FT4は正常だが、異常値に出てしまう)
  4. 未成年者のFT3高値(未成年者のFT3の正常上限は成人より高値)

甲状腺ホルモン不応症類縁疾患もまれに存在

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)とは

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群、syndrome of resistance to thyroid hormone:RTH)は、常染色体優性遺伝[一家系のみ、常染色体劣性遺伝(J Clin Endocrinol Metab. 1992;74(1):49-55.)]により、50%の確率で遺伝します。甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の85%はβ型甲状腺ホルモン受容体(TRβ)遺伝子異常です[Best Pract Res Clin Endocrinol Metab.2007;21(2):277-305.]。

15%は、TRβ遺伝子に変異を認めず、甲状腺ホルモン受容体に結合するコファクター(転写共役因子)の異常が疑われます(nonTR-RTH)が、まだ証明されていません。
※nonTR-RTHの中には、後日TSH産生腫瘍が発生するTSH産生下垂体腺腫の前段階が紛れているので注意を要しますます。(第59回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠ甲状腺ホルモン不応症:RTHβとRTHα)

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の頻度

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)は、甲状腺ホルモンの標的臓器への作用が減弱している状態です。米国のスクリーニング調査では4万人に1人とされますが、反して実際の報告例数は世界で千例あまりで、正しく診断されていない患者(バセドウ病/甲状腺機能亢進症と診断されているなど)が大多数と考えられます。日本甲状腺学会が2009年に把握した国内の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)症例はわずかに98例(71家系)で,日本ではいまだ多くのRTH症例が診断されないままになっていると考えられます。

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の病態

甲状腺ホルモン受容体(TR)は、甲状腺ホルモンが作用を及ぼす標的臓器の細胞核内に存在する受容体です。

TRには、αとβの2種類があり、甲状腺ホルモン不応症は、TRβの異常です。異常TRとT3(T4からヨードが一つ外れ、TRに結合しやすくなった甲状腺ホルモン)が結合できないため、甲状腺ホルモンが作用しません。(ただし、優性遺伝では片親の正常TRβも存在するため、全く作用がない訳ではありません)

異常TRは視床下部・下垂体にも存在し、甲状腺ホルモンによる視床下部のTRH(TSH放出ホルモン)や下垂体のTSH遺伝子の抑制(ネガティブフィードバック調節)を阻害し、TSH不適切分泌症候群(SITSH)がおこります。

ネガティブフィードバック調節

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の症状

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の症状は、

  1. 甲状腺ホルモンが高値にもかかわらず、甲状腺機能亢進症状を欠きます。
    甲状腺ホルモン作用の減弱が甲状腺ホルモン増加により代償されるため,多くは3.甲状腺腫と4.軽度の頻脈程度で治療を必要としません
    しかし、甲状腺中毒症症状が強く、注意欠陥/多動性障害や著しい頻脈を示す患者もまれではありません[Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2007;21(2):277-305.]
  2. 例外的に、心臓は アルファ型甲状腺ホルモン受容体(TRα)経路、甲状腺ホルモン受容体を介さず甲状腺ホルモンが心筋細胞膜に作用する経路(non-genomic action)が存在するため、動悸、不整脈、収縮期高血圧(上の血圧が高くなる)がおきます。
    頻脈から心房細動を起こす頻度が比較的高く、若年で脳梗塞を起こした報告もあります[QJM. 201;104(8):705-707.]
  3. TSHが持続的に高く、甲状腺を刺激し続けるので甲状腺腫(甲状腺の腫れ)を認めます(66-93%)。
  4. 橋本病/バセドウ病の合併が多く、診断・治療を困難にしています。[甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)が発見されない原因と考えられます]
  5. 受容体異常が特に強いと(劣性型・ホモ型:両親からTRβ遺伝子異常を受け継ぐ)、先天性甲状腺機能低下症の症状(知能発達遅延・低身長・難聴)起こす事あります[J Clin Endocrinol Metab. 1967;27(2):279-294.]。

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)と妊娠

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)女性が、遺伝子変異をもたない正常児を妊娠した場合,胎児は母体甲状腺ホルモンによる甲状腺中毒症おこし、低出生体重児になることがあります[JAMA. 2004;292(6):691-695.]。

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の診断

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群:RTH)診断アルゴリズム

RTH診断アルゴリズム

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群、syndrome of resistance to thyroid hormone:RTH)診断アルゴリズムが厚労省研究班から出されています。

真のSITSH(TSH不適切分泌症候群)の事は少なく、約80%は

  1. 無痛性甲状腺炎の経過中:TSHの低下がFT3.FT4上昇に遅れる
  2. 甲状腺ホルモン剤服薬中:FT4のみ上昇する事あり
  3. FT3.FT4偽高値, TSH偽低値
  4. 未成年者のFT3高値(未成年者のFT3高値は成人より高値)

です。(甲状腺ホルモン不応症の臨床検査所見と鑑別診断.甲状腺疾患 改訂第2版.大阪:最新医学社;2012.pp.78-88.)

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の診断手順

注意!甲状腺専門医以外の医療従事者の方へ

前項でも述べたように、SITSH(TSH不適切分泌症候群)の約80%は真のSITSHでは無く、約90%は甲状腺ホルモン不応症ではありません。TRβの遺伝子変異を調べる検査は、各都道府県の甲状腺専門医を通して(セカンドオピニオンでも良いと思います)、本当に甲状腺ホルモン不応症が疑われる方のみに行うべきです。

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の診断は、TSH産生下垂体腺腫がないことを証明した上で、遺伝子解析になります。

  1. ダイナミック下垂体MRI:大阪市立大学病院 代謝内分泌内科、あるいは近隣の提携病院に依頼。TSH産生下垂体腺腫が存在しない事を確認。
  2. TRH負荷試験:大阪市立大学病院 代謝内分泌内科に依頼
    ・TRHを静注。マクロアデノーマでは下垂体卒中に注意・妊婦は禁忌
    ・注射前、30分、60分後にTSHとプロラクチンを測定
     注射前と120分後にT3を測定、増加したTSHの生物活性(甲状腺を刺激できる正常な造りのTSHかどうか)を確認   します
    ・健常人や甲状腺ホルモン不応症では、TSHはTRHに反応して増加
     TSH産生腫瘍の92%がTRHに反応しません
     
  3. 保険適応外検査(血中の性ホルモン結合蛋白SHBG, TSHのαサブユニットが正常)
  4. TRβの遺伝子変異を調べる検査を
    ①京都医療センター(国立病院機構)
    ②群馬大学 病態制御内科学(日本甲状腺学会誌にて公示)
    ③名古屋大学 環境医学研究所(日本甲状腺学会誌にて公示)
    へ依頼。
    TSH不適切分泌症候群(SITSH)診断のアルゴリズムでは、早期に行うよう推奨されています。ただし、甲状腺ホルモン不応症の15%は、TRβ遺伝子に変異を認めず、受容体に結合するコファクター(転写共役因子)の異常が疑われていますが、まだ証明されていません。
     
    報告されているTRβの遺伝子変異
    R243Q,R243W,M313T,A317T,R320C,R320L,R338W,R438W,P453S,P453T
    Met310Val(hetero)など、かなりの種類があります。
    I250F(exon8)(新規変異)(第55回 日本甲状腺学会 P1-07-10 甲状腺ホルモン受容体β遺伝子に新規の変異を検出した甲状腺ホルモン不応症兄妹例)
    Y321C(exon9)(新規変異)(第55回 日本甲状腺学会 P1-07-09 甲状腺ホルモン受容体β遺伝子の新規変異を認めた甲状腺ホルモン不応症の1例)
    R320H(第56回 日本甲状腺学会 O8-7 SITSH2 症例におけるTRH 負荷試験併用T3 抑制試験を用いた甲状腺ホルモン作用の評価)
     
  5. T3抑制試験:T3製剤で部分的にTSHが抑制されます(優性遺伝では片親の正常TRβも存在するため、全く抑制されない訳ではありません)。(明確な判定基準もなく、リスクを伴うため、TRβの遺伝子変異が確認できなかった時のみおこないます。)

TRβの遺伝子検査で異常が見つかった場合

TRβの遺伝子検査では、遺伝形式から、1人に異常が見つかれば、血縁者の遺伝子異常の確率まで自動的に判ってしまいます。

そもそもTRβ遺伝子診断は保険診療に認められておらず、簡単に検査センターで行えず,研究の一環として行われているのが現状です。遺伝子を扱う倫理上の問題,遺伝子診断に伴い発生する責任などのため、手続も煩雑で、病院の倫理委員会を通さねばなりません。

T3抑制試験

T3抑制試験は即効性の甲状腺ホルモン剤[合成トリヨードサイロニン(LT3)]を負荷して,

  1. 50、100、200μg/日のT3を12時間毎に各3日間、計9日間経口投与
  2. 投与前日(day0)と各量最終日(day3 6 9)に
    血液検査[甲状腺機能、コレステロール、クレアチンキナーゼ、フェリチン、性ホルモン結合蛋白(保険適応外)]
    TRH負荷試験(TSHとプロラクチン測定)を行います。
  3. 体重、睡眠中脈拍、基礎代謝、食事摂取量の測定は毎日行います。
軽症の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)

甲状腺ホルモン不応症が軽度の場合、TRH負荷試験併用T3抑制試験で、

  1. TSH前値はT3の用量依存性に低下(T3で抑制される)
  2. T3 増量投与後のTRH 負荷試験でのTSH の反応は徐々に鈍くなり消失(T3で抑制される)

と言う結果になります。T3 抑制試験で軽症の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)診断は困難です。(このような場合、TRβの遺伝子検査の方が有用のようです)(第56回 日本甲状腺学会 O8-7 SITSH2 症例におけるTRH 負荷試験併用T3 抑制試験を用いた甲状腺ホルモン作用の評価)

TSH産生下垂体腺腫と甲状腺ホルモン不応症の鑑別診断

TSH産生下垂体腺腫がないことを証明せねばなりません。ただし、極めてまれに、甲状腺ホルモン不応症TSH産生下垂体腺腫を合併した報告や、非機能性下垂体腺腫を合併した報告があります。

  1. 家族性がある(甲状腺ホルモン不応症でも家族性が見つかっていない場合もあります)
  2. TRH負荷試験・ダイナミック下垂体MRI・保険適応外検査(血中の性ホルモン結合蛋白SHBG, TSHのαサブユニット)
  3. T3抑制試験:T3製剤で部分的にTSHが抑制されます。

甲状腺ホルモン不応症の治療

ほとんどの甲状腺ホルモン不応症は、甲状腺ホルモン作用の減弱が甲状腺ホルモン増加により代償されるため,甲状腺腫と軽度の頻脈程度なので治療を必要としません。

  1. 頻脈強い場合、βブロッカー剤
  2. 甲状腺ホルモンを補充する場合、
    成人では、代謝マーカーを指標に、
    小児では、骨年齢、成長曲線、精神発達を考慮しながら
    T3投与を行います。
    ただし、頻脈増悪するため、βブロッカー剤を併用します。
甲状腺ホルモン不応症患者が甲状腺摘出後の甲状腺ホルモン補充療法

甲状腺ホルモン不応症患者が、甲状腺癌/甲状腺腫瘍などで、甲状腺摘出後の甲状腺ホルモン補充療法はいかに行うか?もちろん、代謝マーカーが指標の一つですが、九州の有名甲状腺クリニックでは、手術前のTSH(甲状腺刺激ホルモン)値を指標にして甲状腺ホルモン補充療法量を調整するようです。[第58回 日本甲状腺学会 P1-10-6 腺腫様甲状腺腫に対して甲状腺全摘を行った甲状腺ホルモン不応症(RTH)の一例:甲状腺ホルモン補充量の目安について]

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の予後

ほとんどの症例で,予後は健常人と変わりません

甲状腺ホルモン不応症類縁疾患

甲状腺ホルモン不応症類縁疾患として、

  1. TRα(甲状腺ホルモン受容体アルファ)異常症
  2. アラン・ハーンドン・ダッドリー症候群 [monocarboxylate transporter 8(MCT8)異常症]
  3. SBP2遺伝子異常症 [selenocysteine insertion-sequence binding protein 2(SBP2)異常症]
があるが、甲状腺ホルモン不応症とは臨床像が異なる。

偽高値/偽低値(本当のTSH、FT3、FT4は正常だが、異常値に出てしまう)

抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体、抗ヒトTSH自己抗体

PEG(ポリエチレングリコール)沈殿法で解決

偽高値(本当のTSH、FT3、FT4は正常だが、異常値に出てしまう)は、抗マウスグロブリン抗体(異好抗体HAMA)や抗ヒトTSH自己抗体、抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体が血液中に存在するためおこります。

抗ヒトTSH自己抗体、抗ヒトT3自己抗体、抗ヒトT4自己抗体をまとめて、甲状腺ホルモン自己抗体(THAAbs)と称します。THAAbs保有率は一般人口の1.8%、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病バセドウ病)の7%と言われ、特に自己抗体[抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体),抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)]強陽性患者に多いとされます。(Clin Chem 1990;36:470-473.)

BML検査センターに依頼。これらの抗体をPEG(ポリエチレングリコール)沈殿法で除去して、再測定します。

2step測定法のアーキテクト®(アボットジャパン)で解決

FT3、FT4はPEG(ポリエチレングリコール)沈殿法で、本当の値に極めて近い近似値に換算する事できますが、TSHは換算式が確立していないため換算値を出せません。このような場合、抗ヒトTSH自己抗体に影響されない2step測定法のアーキテクト®(アボットジャパン)を用いれば正確な値を出せます。

2 ステップ法は、測定途中での洗浄操作により未反応物質(血清中のTSH-抗ヒトTSH自己抗体複合体)を除去するため、反応の最終段階まで反応セル内に血清成分が存在する1 ステップ法と比べ自己抗体等の干渉物質の影響を受けにくいとされます。※残念ながらアーキテクト®(アボットジャパン)の測定機械を持っている施設・検査センターは、ごく少数です。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、埼玉のBML研究所に航空便で依頼しています。

抗TSH 自己抗体の存在を疑うべき時

どのような場合、抗TSH 自己抗体の存在を疑えば良いでしょうか?

  1. 甲状腺機能低下症症状が全くないのに、TSHが50~100~200μIU/ml以上が持続
  2. 甲状腺機能正常~潜在性甲状腺機能低下症が持続していたのに、突然TSHが上昇し出し、50~100~200μIU/ml以上が持続(第58回 日本甲状腺学会 P1-026 潜在性甲状腺機能低下症の経過観察中にTSH 異常高値となり抗TSH 自己抗体の存在が疑われた一例)

家族性であっても甲状腺ホルモン不応症(non-TR RTH)でなく、抗T4 抗体によるFT4偽高値の事も

秋田大学が、興味深い報告をしています。家族性にFT4高値で、甲状腺ホルモン不応症を疑いTRβ 遺伝子解析を実施しても第4~10 エキソンに変異無し。当然、non-TR RTH(TR以降の刺激伝達系でおこる甲状腺ホルモン不応症)が疑われますが、2 ステップ測定法[アーキテクト®(アボットジャパン)]で測定するとFT4 は正常範囲内であり、家族性にFT4偽高値という結果になります。

  1. そもそも抗ヒトT4自己抗体は、遺伝性の強い自己免疫性甲状腺疾患(橋本病バセドウ病)の7%に存在するとされ、家族性に持っていても不思議ではありません。
  2. また、下記の家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症も可能性として考えられます。

(第56回 日本甲状腺学会 P1-027 家族性に不適切TSH 分泌症候群(SITSH)に合致する検査所見を示したが、2 ステップ測定法でSITSH が共に否定された親子例)

家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症 : 日本人家系

家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症は、常染色体優性遺伝性に異常アルブミンが(甲状腺ホルモンの)T4とT3に高い親和性を持ち、何らかの機序で血液検査上、高サイロキシン(T4)血症になります。(アルブミン遺伝子のR218部分の一塩基変異の報告例が多い)[Clin Chem. 2009;55(5):1044-1046.] TSH不適切分泌症候群(SITSH)の一つと言えます。

見かけ上、free T4(FT4), free T3(FT3)も高値になるため、測定系への干渉が原因と考えられ, 異なる測定キットを使うと正常値になることあります。

そもそも、遊離型のFT4、F3なら異常アルブミンとの親和性は関係ないはずなのに、なぜFT4、FT3高値になるのか謎のままです(まだ、だれも解明していません)。

千葉大学の報告では、HPLC を用いたゲルろ過法で、家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症患者血清のAlb分画分離し、T4・FT4 を測定すると、T4・FT4 がピークで、FT4/T4 比は0.63。これが、FT4測定過程で添加されるバッファや抗体などにより遊離し、試験管内ではFT4 が偽高値を示すと推測しています。(第56回 日本甲状腺学会 O8-2 HPLC を用いたサイズ分画分離による家族性異常アルブミン性高サイロキシン血(FDH)患者血清におけるT4 結合の解析)

もちろん、実際のFT4、FT3は正常ですので何の症状もないのです。

近年, 高T3血症のみで, 高T4血症を伴わない家族性異常アルブミン血症がタイ人で報告されています。

家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症の診断

家族性異常アルブミン性高サイロキシン血症の確定診断は、アルブミンの遺伝子解析しかありませんが、簡単に行える施設はほとんどありません。アルブミン遺伝子のR218部分の一塩基変異の報告例が多いです[Clin Chem. 2009;55(5):1044-1046.]。

ある特定の測定キット(エクルーシス試薬、ECLIA法)のみでFT3、FT4が高めに出てしまう

日本で25%の市場シェアを占めるロシュ・ダイアグノスティックス社製の測定キット(エクルーシス試薬、ECLIA法)でFT3、FT4が高めに出てしまい、TSH不適切分泌症候群(SITSH)とまぎらわしい事があります。エクルーシス試薬に含まれ発色に関与するルテニウムに対する患者血清中の何らかの阻害物質が原因と考えられます。ルテニウムを含む試薬を使っているのはエクルーシスのみです。ルテニウムの問題が解決されない限り、エクルーシス試薬の測定結果を100%信用するのは危険と思います。

エクルーシス試薬
ルテニウム

[Falsely elevated thyroid hormone levels caused by anti-ruthenium interference in the Elecsys assay resembling the syndrome of inappropriate secretion of thyrotropin. Endocrine Journal 2012, 59 (8), 663-667]

長崎甲状腺クリニック(大阪)では、臨床症状・甲状腺超音波(エコー)所見と矛盾する甲状腺ホルモン値が出た場合、ルテニウムを含まないシーメンス社(ドイツ)製の測定キット[ケミルミ]で再測定します。(埼玉県の施設まで、検体を送るので時間が掛かります、)

ケミルミ試薬

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