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甲状腺と血栓症-深部静脈血栓(プロテインS・プロテインC欠損症)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

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甲状腺:専門の検査治療知見③橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学系研究科(現、大阪公立大学大学院医学系研究科) 代謝内分泌内科(内分泌内科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。血栓症-深部静脈血栓の診療を行っておりません。

Summary

甲状腺と血栓症バセドウ病/甲状腺機能亢進症は凝固活性が亢進(凝固第8因子活性亢進、vW因子(血管内皮障害因子)活性亢進)し、血栓を分解する線溶系が低下(プロテインS・プロテインCの分解亢進)し深部静脈血栓・脳横静脈洞血栓の危険性。甲状腺がんでは、甲状腺がんによる頚部、縦隔内静脈圧迫、静脈浸潤、甲状腺がん自体が血液凝固能を促進、甲状腺癌に投与される生物学的製剤も血栓症おこす。抗凝固剤を中止できない脳梗塞、心筋梗塞の人で、甲状腺穿刺細胞診・甲状腺組織診・甲状腺手術する時、ヘパリンに置換によりヘパリン起因性血小板減少(HIT)の可能性。

Keywords

甲状腺,血栓症,バセドウ病,甲状腺機能亢進症,プロテインS,プロテインC,アンチトロンビン,ヘパリン起因性血小板減少,甲状腺がん,非典型溶血性尿毒症症候群,橋本病

深部静脈血栓症とは

深部静脈血栓症は、長時間、同じ姿勢でいるために脚の血流が悪くなり、血の固まり(血栓)ができて血管を詰まらせてしまう病気です。

深部静脈血栓症は

  1. 手術の後
  2. 寝たきり状態が続く時
  3. 加齢
  4. 肥満
  5. 妊娠
  6. 長時間の座位;デスクワーク、エコノミークラス、バス旅行
  7. ベルトをきつく締める傾向の人

で起こりやすくなります。

深部静脈血栓症の症状は脚の腫れ、発赤、熱感、痛みです。ただ、蜂窩織炎に比べると腫れの割に熱感は軽い傾向にあります。深部静脈血栓が肺に飛んで血管を閉塞すると、肺塞栓症をおこし命にかかわります。

深部静脈血栓症の予防は、普段から足をよく動かす事、

  1. よく歩く(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の場合いは制限あり)
  2. ベッドの上や椅子に座って足首を動かす
  3. ふくらはぎを下から上にかけてマッサージする
  4. 足を少し高くして寝る
深部静脈血栓症の予防

バセドウ病/甲状腺機能亢進症で血栓できやすい?

バセドウ病/甲状腺機能亢進症は凝固活性亢進[フィブリノゲン高値、凝固第8因子活性亢進、vW因子(血管内皮障害因子)活性亢進]、血栓分解する線溶系低下(プロテインS・プロテインCの分解亢進)し深部静脈血栓・脳横静脈洞血栓の危険。抗凝固剤を中止できない脳梗塞、心筋梗塞の人で、甲状腺穿刺細胞診・甲状腺組織診・甲状腺手術する時、ヘパリンに置換によりヘパリン起因性血小板減少(HIT)の可能性。

バセドウ病/甲状腺機能亢進症では

  1. フィブリノゲン高値
  2. 凝固第8因子活性亢進→血小板凝集能も高める
  3. vW因子(血管内皮障害因子)活性亢進
  4. 線溶活性抑制因子高値
  5. プロテインC低値

により、凝固活性が亢進し、血栓を分解するための線溶系が低下しているため、血栓を作り易いとされます。 (J Endocrinol Invest 25: 345–350, 2002)(J Clin Endocrinol Metab 92: 3006–3012, 2007)

また、血栓症を繰り返す抗リン脂質抗体症候群 の合併が多いです(Eur. J. Endocrinol., 136: 1-7, 1997.)。

バセドウ病/甲状腺機能亢進症で深部静脈血栓・脳静脈洞血栓(プロテインS・プロテインC・アンチトロンビン欠損症)

深部静脈血栓(プロテインS・プロテインC・アンチトロンビン欠損症)

プロテインS・プロテインC・アンチトロンビン欠損症は、日本人の深部静脈血栓症の65%を占めます。常染色体優性遺伝で、ホモ・複合へテロの重症型は新生児電撃性紫斑病をおこします。

また、整形外科手術後の20-60%に深部静脈血栓をおこすとされ、術前にプロテインS・プロテインC・アンチトロンビン欠損症がないか、甲状腺機能異常はないか調べるべきでしょう。

プロテインS欠損症

プロテインSは、ビタミンKに依存して肝臓で産生される凝固阻害(血を固まらせない)タンパクで、第Ⅴ/Ⅷ因子を阻害します。プロテインS欠損症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病が併発し、プロテインSの分解が亢進すると深部静脈血栓・脳横静脈洞を形成することがあります。

※一方で、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、正反対の作用を持ち、ビタミンKに依存して肝臓で産生される凝固因子も分解が亢進します。プロテインS欠損症がない限り、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で血栓が出来やすい事は無いと思います。

プロテインC欠損症

プロテインCは、ビタミンK依存性に肝で合成され、血管内皮細胞上のトロンボモジュリン(TM)と結合したトロンビンにより活性化され、活性化プロテインCになり第Ⅴ/Ⅷ因子を阻害します。

「先天性プロテインC欠損症を有し甲状腺クリーゼと同時に発症した上矢状静脈洞血栓症」が報告されています。BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 2007; 59(3);271-276)

プロテインC欠損症

脳静脈洞血栓症

脳静脈洞血栓症(CVST:cerebral venous sinus thrombosis)は、全脳卒中の約 0.5~1%と稀で、約80%が50歳未満の若年者にみられます[N Engl J Med. 2005 Apr 28;352(17):1791-8.][Stroke. 2005 Aug;36(8):1720-5.]。甲状腺機能亢進症/バセドウ病も50歳未満の若年者が比較的多い病気なので、発症年齢がかなり重なります。

脳静脈洞血栓症(CVST)では、脱水(血が粘っこくなる。甲状腺機能亢進症/バセドウ病での発汗過多)、貧血(造血の亢進により血小板増加)が誘因となります。直接の原因は

  1. 凝固異常;
    甲状腺機能亢進症/バセドウ病(下記)
    遺伝性血栓性素因(プロテインS・プロテインC・アンチトロンビン欠損症);約 32%[Int J Hematol. 2014 Apr;99(4):437-40.]
    妊娠産褥期経口避妊薬(ピル)
    膠原病、抗リン脂質抗体症候群
  2. 循環障害(血流の停滞);うっ血性心不全
  3. 静脈炎(静脈壁の障害)
  4. 腫瘍の圧迫

脳静脈洞血栓症では、脳浮腫、脳圧亢進、脳梗塞、脳出血に至ります。その症状は

  1. 頭痛が最も多い、嘔吐
  2. 脳神経症状;
    動脈性の片麻痺と異なり、近位筋優位になるためvenous hemiplegiaと呼ばれます。
    ものが二重に見える(複視)がおこり甲状腺眼症(バセドウ病眼症)との鑑別が必要
  3. 意識障害

です。

脳静脈洞血栓症の検査所見は、

  1. 血液検査でFDPやd-dimerが上昇
  2. CTでは上矢状静脈洞(大脳鎌に沿う)・横静脈洞(小脳テントに沿う)・S状静脈洞に高吸収を認めます。出血は主として大脳白質にみられ、点状出血から大出血まで様々です。脳溝深部で皮質近傍に見られる小出血(カシューナッツ型)は静脈性梗塞に特徴的です。
  3. MRIではT2強調画像・拡散強調画像(DWI)で血栓が写ります。頭部造影MRIで血栓に一致して静脈相の消失を認めます。

脳静脈洞血栓が起こる部位

脳静脈洞血栓が起こる部位

脳静脈洞血栓 MRI画像

脳静脈洞血栓 MRI画像

甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、脳静脈洞血栓症(CVST)の11%を占めるとされます。既往歴まで含めると20.9%になります。[Front Neurol. 2020 Oct 22;11:561656.]。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では凝固活性が亢進し、脳静脈洞血栓症をおこす危険があります。その病因は

  1. 凝固因子である第VIII 因子活性亢進(バセドウ病にともなう第VIII 因子活性亢進により脳静脈洞血栓症をきたした若年男性の1 例.Rinsho Shinkeigaku. 2006 Apr;46(4):270-3.)[J Clin Endocrinol Metab. 2007 Jul;92(7):2415-20.]
  2. 第VIII 因子活性亢進に加えフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor;VWF)活性高値(血管内皮障害因子)を認め、甲状腺機能亢進症の改善に伴い低下したそうです。(甲状腺機能亢進症に併発した脳静脈洞血栓症の1 例.脳卒中39: 273–276, 2017)[J Clin Endocrinol Metab. 2007 Jul;92(7):2415-20.]
甲状腺機能亢進症・バセドウ病による脳静脈洞血栓症

甲状腺機能亢進症/バセドウ病による脳静脈洞血栓症[BMJ Case Rep. 2018 Jun 4;2018:bcr2017224143.]

甲状腺機能亢進症/バセドウ病による甲状腺クリーゼとプロテインC欠損症から脳静脈洞血栓症を起こした報告があります[Brain Nerve. 2007 Mar;59(3):271-6.]。

甲状腺クリーゼだけでも脳静脈洞血栓症を起こした報告があります[Thyroid. 2000 Jul;10(7):607-10.]

理由は不明ですがリーデル甲状腺炎(Riedel甲状腺炎)で脳静脈洞血栓症を起こした報告もあります[Panminerva Med. 2010 Dec;52(4):362-4.]

甲状腺機能亢進症/バセドウ病でワーファリン効果が増強される

甲状腺機能亢進症/バセドウ病を発症する以前に、先天性アンチトロンビン III(ATIII) 欠損症で、ワーファリン療法を行い、既に凝固因子が低下している場合、

甲状腺機能亢進症/バセドウ病を発症すると、

「アンチトロンビン III(ATIII)の分解亢進から凝固活性の亢進 ≪ 凝固因子の分解亢進から凝固活性の低下」

となり、出血傾向、PT-INR の著しい増加(凝固時間延長)を認めます。(結果的に、ワーファリンの効果を増強する)

もし、ワーファリン療法中に、異常に効きが良くなれば、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症を疑う必要があります(Case Rep Med. 2014;2014:292468.)。

甲状腺がんと血栓症-深部静脈血栓

甲状腺がんによる頚部、縦隔内静脈圧迫・静脈浸潤、甲状腺がん自体が血液凝固能を促進[トルーソー症候群(Trousseau症候群)、がん関連血栓症]で脳梗塞・静脈血栓症。甲状腺癌に投与される生物学的製剤[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]も血栓症おこす。甲状腺がんの長時間手術中や手術後、下肢静脈血栓症・静脈血栓塞栓症(VTE)→血栓が肺に飛び、肺動脈が詰まる肺血栓塞栓症は突然死の原因。予防に弾性ストッキング。

甲状腺がんと血栓症

甲状腺がんによる血栓症[トルーソー症候群(Trousseau症候群)、がん関連血栓症]

トルーソー症候群(Trousseau症候群)は、悪性腫瘍による血液凝固亢進で全身の血栓塞栓症(脳梗塞・肺梗塞・静脈血栓症)を生じます。

特に腺癌で起こり易く、乳癌・子宮癌の婦人科系腫瘍が多く、肺癌・消化器癌・腎臓癌・前立腺癌だけでなく、甲状腺癌も原因になります。

  1. 甲状腺乳頭がん(Ear Nose Throat J. 1995 Feb;74(2):110-2.)(J Clin Neurosci. 2012 Nov;19(11):1593-4.)
  2. 甲状腺髄様癌(Thyroid. 2003 Jun;13(6):601-5.)
  3. 甲状腺未分化がん(Intern Med. 2016;55(12):1637-9.)

のトルーソー症候群(Trousseau症候群)が報告されています。

写真は甲状腺未分化がんで多発性脳梗塞を起こした患者のMRI画像(Intern Med. 2016;55(12):1637-9.)。

甲状腺未分化がんで多発性脳梗塞[トルーソー症候群(Trousseau症候群)]

一般的に、がん細胞と周囲の炎症おこした場所からは、血栓の原因となる凝固促進因子、サイトカインなどが放出されます(がん関連血栓症)。

更に、がん細胞は血液に乗って血管の中を移動する際、血栓の成分をがん細胞周囲に付着させ(カムフラージュ)、免疫細胞の攻撃を逃れ多臓器に転移する説もあります。

甲状腺がんでの凝固能亢進を報告した論文があります。甲状腺がんの重症度が静脈血栓症に関与するとされます。(Int J Endocrinol Metab. 2018 Jan; 16(1): e57897.)

甲状腺がんによる静脈圧迫

甲状腺がんは、頚部、縦隔内に浸潤、静脈を圧迫し血栓を作ります(Ann Thorac Surg. 1975;20(3):344–59.)(World J Surg Oncol. 2008;6:36.)。

甲状腺がんによる静脈浸潤

甲状腺がんは、頚部、縦隔内に浸潤、静脈にも浸潤し血栓を作ります(Surgery. 2014;155(1):196–7.)(Jpn J Thorac Cardiovasc Surg. 2005;53(1):55–7.)。

甲状腺癌に投与される生物学的製剤

根治切除不能の甲状腺癌に保険適応が認められた、ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)、特にレンビマ®(レンバチニブ)は、血管新生阻害作用が強いため、高血圧・ネフローゼ症候群・出血・血栓症が多いとされます。静脈血栓が起り易いです。(「放射線治療無効な甲状腺癌」にネクサバール・レンビマ)

甲状腺がん手術と血栓症

大抵の甲状腺手術は2-3時間以内に済みますが、広範囲に浸潤した甲状腺がんを摘出する長時間の手術中や手術後では下肢静脈血栓症を生じる場合があります[静脈血栓塞栓症(VTE)]。

血栓が肺に飛び、肺動脈が詰まる肺血栓塞栓症は突然死の原因となります。医療機関によっては、下肢静脈血栓予防のため、弾性ストッキングを使用する所もあります。[Cochrane Database Syst Rev. 2012 May 16:(5):CD007162.]

血栓症を繰り返す抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群は、自己免疫抗体の一つ、抗リン脂質抗体習慣性流産、全身の動静脈血栓症、血 板減少症などを起こすものです。他の自己免疫疾患を高率に合併します。

抗リン脂質抗体症候群 を御覧ください。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療        長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,浪速区,東大阪市も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


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