炭酸リチウム(リーマス)と甲状腺機能低下症,無痛性甲状腺炎,甲状腺機能亢進症[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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炭酸リチウム(商品名リーマス)は、甲状腺と関連の深い薬です。うまく使えば治療になるし、精神神経科・心療内科で漫然と長期間投与され、甲状腺障害をおこすこと多々あります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。精神神経病・うつ病・そう病・双極性障害自体の診療は行っておりません。
また、妄想・幻覚・幻聴などで精神科治療中の方、待合室で叫ぶ方、暴れる方、被害妄想で他の患者さんに暴言を吐く方、その他、マスクを外す方、不衛生な行為をする方など、他の患者さんに迷惑を掛ける方は、当院では手に負えません。精神科と内分泌内科のある総合病院を受診して下さい。
Summary
そう病・双極性障害治療薬の炭酸リチウム(リーマス®)はヨウ素(ヨード)と同くNIS(ナトリウム-ヨード シンポーター)から甲状腺濾胞細胞に取り込まれ甲状腺機能低下症、無痛性甲状腺炎おこす[橋本病(慢性甲状腺炎)で起こり易い]。その副作用を逆手に取り、甲状腺機能亢進症/バセドウ病のI-131アブレーションまでの待機期間、メルカゾール、プロパジールが副作用で使えない時に短期使用。リチウム中毒は甲状腺機能亢進症/バセドウ病に似た症状。甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺クリーゼに似た悪性症候群も起こす。リチウムは副甲状腺機能亢進症(副甲状腺過形成)も起こす。
Keywords
そう病,双極性障害,リチウム,リーマス,甲状腺,甲状腺機能低下症,無痛性甲状腺炎,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病
良くも悪くも炭酸リチウム(商品名リーマス)と甲状腺(本ページ)
そう病・双極性障害・うつ病(季節性うつ病、SSRI単剤で治療効果が得られない場合)治療薬の炭酸リチウム(商品名リーマス)は甲状腺と関連の深いくすりです。ヨウ素(ヨード)と同じように、[NIS(ナトリウム- ヨード シンポーター)から]甲状腺ホルモンをつくる濾胞細胞に取り込まれ、
- ヨウ素(ヨード)の取り込みを阻害
- ヨード-チロシン結合を阻害
- サイログロブリンの構造を変化させる
(Thyroid. 1998 Oct; 8(10):909-13.)
その結果、
- 40%で甲状腺腫、20%で甲状腺機能低下症(Best Pract Res Clin Endocrinol Metab . 2009 Dec;23(6):723-33.)
特に、中年女性で20%以上の高リスクで甲状腺機能低下症に(Br J Psychiatry. 1999 Oct;175:336-9.) - 長期服薬で無痛性甲状腺炎(痛みを伴わない甲状腺の亜急性破壊)を誘発;800-900mgと限界以上の維持量を数年~十数年間の服薬で起こります。橋本病(慢性甲状腺炎)を持っている人に起こり易い。
(Clin Endocrinol (Oxf). 1994 Jun;40(6):759-64.) - 粘液水腫性昏睡をおこした68歳男性の報告があります(Psychiatry Clin Neurosci. 2018 Feb;72(2):131)。
- 甲状腺腫瘍と関連なし(Acta Psychiatr Scand. 1996 Jul; 94(1):45-8.)。
などを起こす反面、その副作用を逆手に取り、
- 甲状腺クリーゼの治療に有用
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病のI-131内照射(アブレーション)までの待機期間、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)が副作用のため使用できない時に有用。I-131の甲状腺への取り込みも促進(炭酸リチウム(リーマス®))。
炭酸リチウム(リーマス®)は、
- 即効性がない
- 甲状腺の副作用
- 新たなそう病・双極性障害治療薬の普及
MARTA(多元受容体標的抗精神病薬);オランザピン(ジプレキサ®)、クエチアピン(セロクエル®、ビプレッソ®)は体重増加・血糖上昇の副作用
抗てんかん薬;ラモトリギン(ラミクタール®)は高率に皮膚障害の副作用[中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、薬剤性過敏症症候群]をおこします。甲状腺はじめ、内分泌系の副作用、骨粗しょう症は報告されていません。
などの理由で処方が減っている様です。
炭酸リチウムは
- 血中濃度が安定しにくい
- 治療域と中毒域の幅が狭い
ため、リチウム中毒が起こりやすい。痛み止め・風邪薬(NSAIDs)、降圧薬のACE阻害薬・AT2受容体拮抗薬の併用で血中リチウム濃度が上昇します。
リチウム中毒の初期には甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺クリーゼに似た症状
- 発熱、発汗
- 嘔気、嘔吐、下痢等の消化器症状
- 振戦(手のふるえ);血中リチウムが至適濃度でも起こる場合がある
- めまい、傾眠(もうろう)、錯乱等の中枢神経症状
- 脱力、運動障害、構音障害、運動失調等の運動機能症状(甲状腺機能亢進症/バセドウ病で有名なのは(アテトーゼ不随意運動)
- 徐脈;唯一、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と逆、洞機能不全→心停止をきたす場合も
が起こります。
リチウム誘発性の甲状腺中毒症と紛らわしいですが、甲状腺ホルモン値を測れば済むことです。
リチウム中毒が進行すると、
- 急性腎障害(AKI)
- 腎性尿崩症;抗利尿ホルモン(ADH)が上昇しているのに、尿濃縮は不十分で低張尿。血中リチウムが至適濃度でも起こる場合がある
- アニオンギャップが小さくなる代謝性アシドーシス
- 全身けいれん、ミオクローヌス等中枢神経症状
リチウムは1日1回の内服にした方が腎障害のリスクは低下するとされます。
リチウム中毒の解毒剤はないので、ICUにて全身管理、補液、利尿剤、血液透析でリチウム除去
[Int J Bipolar Disord. 2016 Dec;4(1):27.][Lancet. 2012 Feb 25;379(9817):721-8.][QJM. 2017 Dec 1;110(12):821-827.][Int J Bipolar Disord. 2016 Dec;4(1):1.]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺クリーゼに間違えられる悪性症候群もおこります。
リチウム誘発副甲状腺機能亢進症の機序として、リチウムが副甲状腺細胞のカルシウム感知受容体(カルシウムセンサー:CaSR)の感度を低下させるためと考えられます。血中カルシウム濃度が正常なのに、低カルシウム血症と誤認した副甲状腺から副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰分泌され、高カルシウム血症になります。(Indian J Endocrinol Metab. 2013 Sep; 17(5):930-2.)(Eur J Endocrinol. 2009 Feb; 160(2):317-23.)
日本甲状腺学会での報告例は、補正Ca 値13.0mg/dl、血清P 1.7mg/dl、intact-PTH 422 pg/ml と、かなりの重症ですが、炭酸リチウム中止後わずか2週間で補正Ca 11.5mg/dl、intact-PTH 277pg/ml まで改善したそうです。MIBI シンチでは両側頸部に結節状の集積亢進が認められ、副甲状腺過形成と考えられます。(第56回日本甲状腺学会P2-078 炭酸リチウムによる甲状腺機能低下症と副甲状腺機能亢進症を同時に来した1 症例)
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,浪速区も近く。