長崎甲状腺クリニック(大阪)新着情報[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波（エコー）検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

 甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門の長崎甲状腺クリニック(大阪)からのお知らせです。日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医として甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,内分泌などのホットな話題をお届けします。

甲状腺機能低下症妊婦（TSH 13.2 ± 0.3 μIU/mL, means ± logSD）から生まれた子供の7～9 歳時における知能指数（IQ）スコアは、健常女性の子供よりも平均で 4 ポイント低くなります（p＝0.06）[ウェクスラー児童用知能評価尺度（WISC：Wechsler Intelligence Scale for Children），第 III 版で評価]。さらに、知能・注意・言語・読解能力・学校での行動・視覚–運動能力に関連した 15 種類の検査すべてで、健常女性の子供よりも僅かに悪くなります。[N Engl J Med. 1999 Aug 19;341(8):549-55.]

胎児の脳は、妊娠初期（約4週）から神経管の形成が始まり、妊娠8週頃に脳の基本的な構造が完成します。その後も発達を続け、24週（6ヶ月）頃には脳が大きく発達し、28週（7ヶ月）頃から表面にシワができ始めます。妊娠後期には、大人の脳とほぼ同じ外観になります。

胎児の脳形成に甲状腺ホルモンが最も重要な役割を果たす時期は、妊娠初期の約12週頃までです。妊娠7週から11週の間、母体から胚/胎児への甲状腺ホルモン供給は最大レベルに達します[Eur J Endocrinol. 2004 Nov:151 Suppl 3:U25-37.]。この時期に母体の甲状腺ホルモンが不足すると、脳や神経の形成が不十分になり、知的障害や運動発達遅延を引き起こす可能性があります。

少なくとも、「妊娠初期（約4週～約12週頃）の甲状腺ホルモン不足が、胎児のIQに何の影響も及ぼさない」と言うのは、あまりに不自然かもしれません。

スペインで行われたセントカルロス妊娠・甲状腺プロトコル（The St Carlos Gestational and Thyroid Protocol）では、子供のIQを評価しているわけではありませんが、TSH >2.5μIU/mL（正常範囲内高値）の僅かな甲状腺機能低下症妊婦に対する妊娠早期（9週前後）のレボチロキシン（日本ではチラーヂンS）治療は妊娠中の有害事象を減少させます。[Front Endocrinol (Lausanne). 2021 Oct 19:12:743057.]

一方、アメリカの報告は、「妊娠初期の潜在性甲状腺機能低下症（TSH >4.0μIU/mL）に対するレボチロキシン（日本ではチラーヂンS）補充療法は、児のIQに影響しない」と結論を出していますが、致命的な欠陥があると考えます[N Engl J Med. 2017 Mar 2;376(9):815-825.]

具体的には「妊娠8～20週（平均16～18週）の潜在性甲状腺機能低下症妊婦（TSH >4.0μIU/mL）にレボチロキシン（日本ではチラーヂンS）を投与してもしなくても、5歳時のIQスコア（検査データがない場合は3歳時）に差は無い」[IQ評価は、幼児版ウェクスラー知能検査（Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence III[WPPSI-III]]との内容です。

お気付きの通り、レボチロキシン（日本ではチラーヂンS）投与するのが遅すぎるのです。、

妊娠初期（約4週～8週）[脳の基本構造が完成] x 妊娠8～20週（平均16～18週）[レボチロキシン（日本ではチラーヂンS）投与

「3歳時のIQスコアに差は無い」と結論しているウェールズ（UK）の論文も、レボチロキシン（日本ではチラーヂンS）治療開始時の妊娠期間中央値は13 週 3 日で、これまた遅すぎる[N Engl J Med. 2012 Feb 9;366(6):493-501.]

すなわち、「脳の基本構造形成（土台作り）が終わった後に、レボチロキシン（日本ではチラーヂンS）を投与しても遅いのではないか？」「土台がしっかりできていないのに、上に立派な家を建ててもダメなんじゃないか？」との疑念が残ります。

その他、橋本病/甲状腺機能低下症と妊娠の問題は、 妊娠と橋本病/甲状腺機能低下症 を御覧ください。

今日は「妊婦の甲状腺ホルモン不足で子供の知能指数（IQ）が低くなる」の話でした。

文責：長崎甲状腺クリニック(大阪)院長　日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医　長崎俊樹

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。

今日は「甲状腺専門医の悩み①妊娠中の潜在性甲状腺機能亢進症を治療すべきか？早産,流産との関連は？」の話でした。