プロピルチオウラシル（PTU）(プロパジール,チウラジール)で胎児奇形？ 頭蓋骨縫合早期癒合症[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺：専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年、どこかで開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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(図；頭蓋骨縫合早期癒合症 アメリカCDCのHPより)
バセドウ病妊娠はハイリスク妊娠です。産科,内分泌科,NICU(新生児集中治療室)全てある総合病院で管理しないと母児ともに危険性が高まります。妊活中のバセドウ病女性も最初から、そちらを受診ください。
「設備が無い所で、リスクを冒してまで行う出産が良い医療とは思えない」医療ドラマ「コウノドリ2 第1話」四宮ハルキ先生のセリフ。
「たまたまうまくいっても、運が良かっただけだ。」全シーズン通して四宮先生がよく言うセリフ。
妊娠中に開始するバセドウ病の治療は、非妊娠時と比べ遥かにリスクが高くなります。しかし、治療しなければ母児ともに、更に危険な状態になるため、治療開始するしか道はありません。本来、バセドウ病は妊娠前のブライダルチェックで見つけて、完全にコントロールしてから妊娠すべきものです（例え妊娠前に完璧にコントロールしてもハイリスクなのがバセドウ病妊娠の怖いところですが・・）。
Summary
プロピルチオウラシル（PTU）[プロパジール・チウラジール]の胎児奇形（頭頚部・尿路系異常）の可能性が報告されたが、日本のPOEMスタディ・伊藤病院の統計・海外の研究も否定的。日本の先天性十二指腸狭窄症の報告は、妊娠10週からPTU治療され、重大な消化管奇形（気管食道瘻、食道閉鎖症）がおきる妊娠4-7週ではない。動物実験ではPTUは影響もなく、甲状腺機能亢進症自体が先天性十二指腸閉鎖症の発生率を上げた。健常妊娠の先天奇形発生率は2-3%でPTUは無関係。頭蓋骨縫合早期癒合症も甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体が原因と考えられる。
Keywords
プロピルチオウラシル,PTU,プロパジール,チウラジール,胎児奇形,POEMスタディ,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,妊娠,メルカゾール
第62回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅠでとんでもない話を聞きました。海外（デンマーク）でプロピルチオウラシル（PTU）[プロパジールかチウラジールかは不明]の胎児奇形の可能性が報告されたそうです。頭頚部異常と尿路系の異常らしいが、日本では聞いた事もないし、POEMスタディでも皆無、筆者も出くわした事がありません。
薬剤服用歴も、大きな病気も無い妊娠の先天奇形の発生率は2-3%なので、プロパジールのせいとは思えません。
世界各国で行われた12の研究で、プロピルチオウラシル(PTU)の奇形発生率は、抗甲状腺薬を必要としなかった妊婦と同じとなり、プロピルチオウラシル(PTU)に催奇形性が無い事は揺るがぬ事実です（PLoS One. 2017 Jul 3;12(7):e0180108.）。
第61回 日本甲状腺学会にての報告ですが、妊娠期間中をプロピルチオウラシル（PTU）で治療後、児に先天性十二指腸狭窄症（CDS）を生じた難治性バセドウ病妊婦があったそうです。
先天性十二指腸閉鎖・狭窄症（CDS）は新生児消化管通過障害の中で、鎖肛、食道閉鎖症に次いで多く（Surg Gyneco1 0bstet 1984;158:461-3）、甲状腺が正常の妊婦からでも生まれるため、プロピルチオウラシル（PTU）[プロパジールかチウラジールかは不明]のせいと決め付けるのは尚早です。何十年もの間、あらゆる国でプロピルチオウラシル（PTU）は妊婦に使用され、そんな話は聞いた事がありません。
妊娠ラットを用いた動物実験でさえも、プロピルチオウラシルは何の影響もなく、甲状腺機能亢進症自体が、先天性十二指腸閉鎖症の発生率を上げました（Pediatr Surg Int. 2014 Feb;30(2):151-7.）。動物実験につき、薬理学的な量（要するに人体ではあり得ない大量）のプロピルチオウラシルを使用しているはずなので、如何にプロピルチオウラシルが無関係であるかの証明になります。
問題の報告では、妊娠10週からプロピルチオウラシル（PTU）治療が始まっており、重大な消化管奇形（気管食道瘻、食道閉鎖症）がおきる妊娠4-7週には、プロピルチオウラシル（PTU）どころか甲状腺機能亢進症/バセドウ病すら分かっていなかった。少なくともプロピルチオウラシル（PTU）は無関係と考えるのが妥当でしょう。
しかも、妊娠中の母体の甲状腺ホルモン値は不安定で、出生時、臍帯血TSHは123.8 μIU/mL と異常高値だったため、胎児はプロピルチオウラシル（PTU）が効き過ぎ状態でした。甲状腺ホルモンそのものが先天性十二指腸閉鎖・狭窄症（CDS）の発生に関与した可能性の方が疑わしいと思います。
（第61回 日本甲状腺学会 O37-4 妊娠中プロピルチオウラシル（PTU）で治療後、児に先天性十二指 腸狭窄症（CDS）を生じた難治性バセドウ病の1例）
[先天性十二指腸閉鎖・狭窄症（CDS）のダブルバブルサイン Radiopaedia]
伊藤病院の統計では、産後1年間の奇形発生率は、
- メルカゾール（MMI）は0%；妊娠14週までメルカゾール中止しているためと推察されます
- プロピルチオウラシル（PTU）[プロパジールかチウラジールかは不明]は7.3％
- ヨウ化カリウムは5.5％
- 内服なし5.7％
- チラーヂンSかレボチロキシンか不明（LT4）は5.5％
で、メルカゾール投与群を除けば、各群で統計的な有意差は認めず、頭頚部、尿路系、循環器系別の奇形発生率も有意差なかったそうです。（第62回 日本甲状腺学会 HSO3-1 バセドウ病合併妊婦の妊娠初期の治療薬と児の形態異常との関連 （産後1年調査））
デンマークでの統計では、妊娠初期の甲状腺機能亢進症妊婦で、プロピルチオウラシル(PTU)誘発性の
- 顔面および頸部の先天性欠損症（鰓裂洞、先天性耳瘻孔、耳介のう胞）；調整ハザード比4.92(95%CI 2.04-11.86)
- 泌尿器系における先天性欠損症（単一の腎嚢胞、水腎症）；調整ハザード比2.73(95%CI 1.22-6.07)、生殖器の先天性欠損症も合併
が生じるとの報告があります。ただし、メルカゾールによる胎児奇形に比べると遥かに軽症です[Thyroid. 2014 Oct;24(10):1533-40.]
もし本当にプロピルチオウラシル（PTU）[プロパジール、チウラジール]胎児奇形が存在するならば、メルカゾール胎児奇形を避けるのと同じ方法を取り、妊娠15週まで無機ヨウ素(ヨウ化カリウム：KI)に変更しなければなりません（メルカゾール胎児奇形を避けるために）。
頭蓋骨縫合早期癒合症は、本来成長を続けて大きくなる頭蓋骨の成長線（縫合線）が閉じてしまい、骨成長が止まる病気です。縦横、どの縫合線が閉じるかによって頭蓋の形が決ります。妖怪”ぬらりひょん”の頭は、典型的な矢状縫合線の癒合です。（図； アメリカCDCのHPより）
アメリカで行われた先天奇形予防研究（National Birth Defects Prevention Study）の結果、母体の甲状腺の病気、特に甲状腺機能亢進症/バセドウ病またはその治療が頭蓋骨縫合早期癒合症（とうがいこつほうごうそうきゆごうしょう）に関連します。
頭蓋骨縫合早期癒合症の発症率は、健常妊婦で1.6%、甲状腺の病気を持つ妊婦で4.4%です。
（Obstet Gynecol. 2007 Aug;110(2 Pt 1):369-77.）
筆者の考えですが、過剰な甲状腺ホルモンは骨端線の閉鎖を早めるため、抗甲状腺薬の副作用と言うより甲状腺機能亢進症/バセドウ病自体の影響でしょう。
甲状腺関連の上記以外
の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。
