長崎俊樹 院長ブログ[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]

 こんにちは。甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門の長崎甲状腺クリニック(大阪)院長　長崎俊樹です。日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医として甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,内分泌などのホットな話題をお届けします。

海外と日本の不妊治療は全く状況が異なり、海外の不妊治療論文の結果を日本人にそのまま当てはめるのは大問題です。

妊娠前レボチロキシン（日本ではチラーヂンS）治療（プレコンセプション治療）が、潜在性甲状腺機能低下症（TSH >4.0μIU/mL）女性の妊娠および妊娠アウトカム（生児率・妊娠率・流産率）に与える影響を調べた過去の論文（ランダム化比較試験）すべて（全て海外のもの）の分析（システマティックレビューおよびメタアナリシス）結果が報告されています[Thyroid. 2024 Apr;34(4):519-530.]

それによると、妊娠前レボチロキシン（日本ではチラーヂンS）治療（プレコンセプション治療）を

1. TSH 2.5-4.0 μIU/mL（正常範囲内高値）の妊娠前女性におこなっても生児率・妊娠率・流産率は変わらない
2. TSH >4.0 μIU/mL（潜在性甲状腺機能低下症）の妊娠前女性におこなった場合、生児率・妊娠率・流産率が改善する可能性がある

しかしながら、これをそのまま不妊治療中の日本人女性に当てはめるのは大問題です。なぜなら、

1. 中国・韓国などアジア人のデータは含まれていますが、後は欧米人・イラン人・エジプト人のデータのみで、全てがヨウ素（ヨード）欠乏国。ヨウ素（ヨード）過剰摂取国に暮らす日本人女性は含まれていない
    
2. 不妊治療を受ける女性の特徴が、海外と日本では大きく異なる
   日本の体外受精実施件数は多いが、成功率は欧米に比べて極めて低い（治療による出産率は、アメリカの25％に過ぎない）
   その理由として、海外では
   ①不妊治療開始する年齢が若い[配偶子（精子・卵子）の劣化が少ない]；日本では晩婚化のため治療開始年齢が高い（平均約40歳）が、アメリカでは平均約34歳（）と若い。40歳以上の割合は日本43% vs 世界平均 24%、35歳未満の割合は日本 21.2% vs 世界平均 40.2%
    
   ②（健康な子宮・卵巣を持つ）代理母出産や第三者の正常な配偶子（精子・卵子）提供（エンジェルバンクなど）が認められている国が多い

海外の不妊治療は、TSHの値にかかわらず、元々成功する確率が高い（甲状腺に関係なく、妊娠するべくして妊娠する）との解釈も成り立ちます。

あくまで、海外のデータとして参考程度に考えるべきで、そのまま日本人に当てはめてはならないと思います。もし、日本人に推奨してしまったら、大変なことになる可能性（日本の少子化が促進される危険）を危惧します。

その目で見ると、日本人に当てはまらない海外の不妊治療論文は多々あります。中国・北京大学の論文で、妊娠前レボチロキシン（チラーヂンS）治療を行わない体外受精(IVF)/卵細胞質内精子注入法(ICSI)の話ですが、「採卵前治療で排卵誘発剤、卵胞ホルモン剤、黄体ホルモン剤、ゴナドトロピン製剤）を使用（管理下卵巣刺激）した後、0.55<TSH<2.5 μIU/mLの患者と4.78≧TSH≧2.5 μIU/mLに患者を比較した結果、生児率・妊娠率・流産率に有意差はなかった」と結論を出しています。

しかし、患者は1回目または2回目の体外受精(IVF)に限定され、患者の平均年齢は0.55<TSH<2.5 μIU/mL群が31.9歳、4.78≧TSH≧2.5 μIU/mL群は32.3 歳と、日本とは全く状況が違います（異次元の話）[Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Aug 29:14:1159991.]

今日は「海外と日本の不妊治療は全く状況が異なる--海外の論文を日本人にそのまま当てはめるのは大問題」の話でした。

文責：長崎甲状腺クリニック(大阪)院長　日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医　長崎俊樹

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