不妊症/習慣性流産/体外受精(IVF)と甲状腺 [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 動脈硬化 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学医学部附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会学術集会で入手した知見です。
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TSH↑(≧2.5)≒ プロラクチン(PRL)[妊娠させないホルモン]↑≒ 相対的にLHとFSH[妊娠に必要な卵胞・黄体刺激ホルモン]↓
Summary
不妊治療専門クリニックの10数%の女性は甲状腺が原因。甲状腺機能低下によるTSH上昇はプロラクチン(PRL)[妊娠させないホルモン]を上昇させる。TSH≧2.5の流産率は30%以上。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性妊婦は妊娠が進むと甲状腺ホルモン低下が顕著になり、流産の危険は増す。橋本病の女性のヨード過剰摂取で甲状腺機能低下症が悪化し不妊の原因に。子宮卵管造影検査、体外受精(IVF)時の採卵前のFSH/hMG頻回注射は急激な甲状腺機能低下起こす。甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)補充でTSH<2.5になるよう厳格に調整すれば、甲状腺だけが原因の不妊・流産は解決する。
Keywords
不妊症,習慣性流産,甲状腺,橋本病,甲状腺機能低下症,甲状腺ホルモン,TSH,プロラクチン,体外受精,IVF,バセドウ病
衝撃的事実
不妊治療専門クリニックで治療されている方の10数%は、実は甲状腺が原因とされます。
- 習慣性流産(反復性流産)、不妊症の約20%は橋本病の自己抗体[自分の甲状腺を破壊する抗体;抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が原因との報告がありますが、一方で関係ないとの意見もあります(最近では、これらの抗体は無関係で、下記の甲状腺ホルモン自体の問題との結論になっています)。
しかしながら、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性妊婦では、妊娠が進むにつれ、甲状腺ホルモン低下が顕著になり、流産の危険は増していきます。
- また、習慣性流産(反復性流産)、不妊症の10数%は軽度の甲状腺ホルモン不足(潜在性甲状腺機能低下症)が原因とされ、ほぼ確定的です。しかも、流産リスクは中等度以上の甲状腺機能低下症(顕性甲状腺機能低下症)と同程度とされます。
※習慣性流産(反復性流産)とは3回以上流産する場合で、甲状腺異常の他、卵管狭窄・閉塞、抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、凝固因子異常などが原因です
潜在性甲状腺機能低下症で不妊症・習慣性流産
甲状腺ホルモン(FT3,FT4)は正常だが、TSHが高値の状態を「潜在性甲状腺機能低下症」と言います。潜在性甲状腺機能低下症は、女性に多いです。

習慣性流産(反復性流産)、不妊症の10数%に、潜在性甲状腺機能低下症が存在すると報告されます。厚生労働省の統計では、日本人女性の流産率は13%ですが、上條甲状腺クリニックの上條桂一先生によると、TSH≧2.5の流産率は30%以上とされます(上條甲状腺クリニックの甲状腺疾患Q&A)。
そして、甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]補充治療により出産できる確率は増えます。韓国の甲状腺研究者の報告では、治療による出産率は50%とされます。
※100%にならないのは、甲状腺以外の原因も同時に持っているからです(例えば、加齢による卵子の劣化、女性ホルモン・子宮自体の問題、夫の精子との相性)
甲状腺専門医による適切な治療で、甲状腺が原因の不妊は解決できます。
どうして、潜在性甲状腺機能低下症で不妊症・習慣性流産になるの?
プロラクチン(PRL)の上昇
脳下垂体ホルモンで、乳汁分泌をおこし、一方で妊娠を妨げるプロラクチン(PRL)[妊娠させないホルモン]は、脳内でTSH(甲状腺刺激ホルモン)と調節機構が同じです(不妊・生理不順 高プロラクチン血症)。
プロラクチン(PRL)[妊娠させないホルモン]上昇は、相対的なLH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)低下→プロゲストロン(黄体ホルモン)、エストラジオール(E2)[妊娠ホルモン]低下を起こします。
橋本病(慢性甲状腺炎)など甲状腺機能低下症)では、
甲状腺ホルモン不足→下垂体-甲状腺フィ-ドバック機構によるTRH(TSH放出ホルモン)上昇→TSHとプロラクチン上昇がおこり、妊娠し難く、かつ受精しても妊娠を維持出来なくなります。
実際、どれ位プロラクチン(PRL)[妊娠させないホルモン]が低下するか?
実際、どれ位プロラクチン(PRL)[妊娠させないホルモン]が低下するのでしょうか?報告では、妊娠希望女性21例、
- 年齢34.8±7.5歳
- 血中TSH値 5.44±2.41μIU/mL
- 血中PRL値 25.5±13.1ng/mL
甲状腺ホルモン剤(チラーヂン等)を平均35μg 投与、
- 補充後血中TSH値 1.66±0.96μIU/mL
- 補充後血中PRL値 20.8±10.6ng/ mL
有意な低下を認めた(P<0.05)そうです。簡単に考えると 血中TSH値 3~7を、2.5未満にすれば、プロラクチン(PRL)は平均5(約20%)低下する事になります(これは大きい!)。
(第60回 日本甲状腺学会 P1-2-1 妊娠希望の潜在性甲状腺機能低下症患者に対する甲状腺ホルモン 補充療法前後の血中プロラクチン濃度の変化)
わずかなプロラクチン(PRL)上昇も不妊の原因になるとの報告もあり(潜在性高プロラクチン血症)重要な事だと思います。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)が、子宮内膜NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化
TSH(甲状腺刺激ホルモン)が、子宮内膜NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化するとの論文があります。NK(ナチュラルキラー)細胞は血液中の癌細胞やウイルス感染細胞を排除するリンパ球で、子宮内に移動、子宮内膜NK細胞となり、胎児を守ります。しかし、NK(ナチュラルキラー)細胞活性が強過ぎると、胎児を排除する方向に働きます。[Clin Rev Allergy Immunol. 2010 Dec;39(3):176-84]
では、甲状腺ホルモン剤どこまで増やせばいいの?
甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS錠)補充量の目安
妊娠前TSH(μIU/ml) | チラーヂンS補充量(μg) |
---|---|
2.5-3.0 | 25 |
3.0-3.5 | 37.5 |
3.6-4.5 | 50 |
4.6-6.0 | 62.5 |
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、表の如く初期量を設定しています。
ただし、チラーヂンSは吸収率に、かなり個人差があり、また、患者さんの血圧・脈拍を考慮せねばならないため、あくまで目安です。
甲状腺ホルモン剤を増やせば出産できるの?
甲状腺ホルモンが正常でも、橋本病の自己抗体[自分の甲状腺を破壊する抗体;抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が高い女性は不妊症/習慣性流産/出産後甲状腺炎おこす確率が高いと言われていました。最近では、
- 橋本病の自己抗体自体は流早産・不育に関係なく、甲状腺ホルモンの多い少ないのみが関係する
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性妊婦では、妊娠が進むにつれ、甲状腺ホルモン低下が顕著になり、流産の危険は増していくため、適切な甲状腺ホルモン補充療法が必要不可欠です。
(確かに適切に甲状腺ホルモン補充療法がなされれば、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]があっても流産率は上がりません) - 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性妊婦では、出産後甲状腺炎起こし易い
と言う事になっています。
表は、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性妊婦(妊娠12週未満)にTSH<2.5になるよう甲状腺ホルモン補充療法行った有名な研究です。(J Clin Endocrinol Metab. 2010,95,1699-1707)
HYPO(甲状腺機能低下症妊婦)かつUniversal screeningが甲状腺ホルモン補充療法行った妊婦(左前方)。
HYPOかつCase findingの低リスク群が甲状腺ホルモン補充療法しなかった妊婦(左後方)。
EUは何もしない正常妊婦(右)
TSH<2.5になるよう甲状腺ホルモン補充療法行うと、例え抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]陽性であっても、流早産率は正常妊婦と同じになります。
以上の結果が、現在の米国甲状腺学会ガイドライン2011の元になっています。日本では、治療基準(ガイドライン)が未だに作られていません。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、忠実に米国のガイドラインに乗っ取り、流産しないための甲状腺ホルモン補充療法行います。
※ただし、甲状腺無関係の健常日本人妊婦の流産率は13%(厚生労働省の統計)ですので、甲状腺ホルモン補充しても、甲状腺以外の原因で流産が起こる可能性はあります。
米国甲状腺学会ガイドライン2011に準じて
- 妊娠前期(13週まで):甲状腺刺激ホルモン(TSH) 0.1~2.5μU/ml
- 妊娠中期(14週~27週): 〃 0.2~3.0μU/ml
- 妊娠後期(28週~41週): 〃 0.3~3.0μU/ml
になるようコントロールします。
具体的な欠陥内容
米国甲状腺学会ガイドライン2017が発表されましたが、やはりアメリカは橋本病の患者が少ないためか、橋本病の研究者が少ないためか、「理解していない」部分が多くあります。なぜ不妊症で甲状腺ホルモン剤)治療をするのか、原理を理解していません。
自然妊娠を試みる場合
米国甲状腺学会ガイドライン2017によると、⾃然妊娠予定の女性でも不可解な記載が・・・。
「(Recommendation 18)⾃然妊娠を試みている甲状腺自己抗体(橋本病の抗体)陰性の潜在性甲状腺機能低下症(TSH>5μIU/ml)⼥性は流産などのリスク増加が予想される。LT4(甲状腺ホルモン剤、チラーヂン)治療が受胎能を改善するかどうかを決定する証拠は不⼗分である。ただし、妊娠が達成されると、より重大な甲状腺機能低下症への進行を防ぐ能力があるため、この設定ではLT4の投与を検討することができる。」
- 流産リスク増えると予想されるのに、必ずしも甲状腺ホルモン剤、チラーヂン投与せずとも良い事になります。それに、前述の通り、甲状腺ホルモン剤投与の効果を証明する論文は数多く出ており、何より、実際にチラーヂンを投与している日本の甲状腺専門医が身をもって分かっている事です。
- 橋本病の抗体の有無でなく、甲状腺ホルモン自体が不妊の原因なのだ。そもそも橋本病の抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が陽性化するのは閉経前後の女性ホルモンが欠落した時に多く、若い妊娠可能年齢の女性では例え抗体を持っていても陽性化しない事が多いんだ(知らないの?😱)。
- しかも、妊娠すりゃ、重大な甲状腺機能低下症になると認めてるなら、先に甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)補充しとかないと間に合わないでしょう。チラーヂンの半減期は1週間なので、飲んでもすぐに効かず、血中濃度が安定するのに最低でも2週間は掛かるんだ(何も知らねーな🤢)。
高度生殖補助医療(ART)[体外受精(IVF)や顕微受精(ICSI)]の場合
米国甲状腺学会ガイドライン2017によると、「高度生殖補助医療(ART)[体外受精(IVF)や顕微受精(ICSI)]においては、
「(Question 26) 甲状腺自己抗体の有無によらずTSH値が非妊時基準値上限以上の潜在性甲状腺機能低下症(TSH>5μIU/ml)の場合はTSH2.5μIU/ml 未満を目標としたレボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)治療するのがprudent(⽤⼼深い、慎重である、賢明である)。
基準値上限以下(TSH<5μIU/ml)でも抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性の場合はレボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)治療の潜在的利益を考慮する」
と記載されています。
この時点で既に意味不明、まるで役人が書いた文書の様に、あいまいな表現。
体外受精(IVF)や顕微受精(ICSI)などでは、
- 甲状腺自己抗体が無くTSH 2.5-5.0 μIU/ml の場合、2.5 μIU/ml 未満にしなくても良いんかい?素人でも、矛盾に気付きます。
- 「潜在的利益を考慮する」と意味不明な文言です。
(ガイドラインとは、たとえ専門家でなくても、その通り行えば間違いのない基準なのに、言葉の意味が不明ではガイドラインにならんわ😩)
甲状腺ホルモン剤使うのか否か、TSHをいくらにするのか数値目標無し!
確かに、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は甲状腺の破壊の程度に相関し(Thyroid Res. 2013 Mar 23;6(1):5.)、TPO抗体陽性妊婦は甲状腺の予備力が低下しているため、妊娠週数が進むにつれ甲状腺ホルモン低下が大きくなります。
しかし、重要なのは妊娠するか否かの最も初期で、着床時に「甲状腺自己抗体の有無によらず」、TSHが低い=プロラクチン(PRL;授乳ホルモン、妊娠させないホルモン)が低いなのです。
さらに付け加えると、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗)が陽性化するのは閉経前後の女性ホルモンが欠落した時に多く、若い妊娠可能年齢の女性では例え抗体を持っていても陽性化しないので全くナンセンスです。
すなわち、「TSH>5であろうが<5であろうが」、「甲状腺自己抗体の有無によらず」、着床(妊娠成立)するための条件がTSH2.5 μIU/ml 未満なのです。
日本での現実
日本での現実は以下の通り、
- 厚生労働省の統計では、日本人女性の流産率は13%ですが、上條甲状腺クリニックの上條桂一先生(尊敬しております)によると、TSH≧2.5の流産率は30%以上とされます。
- 隈病院の網野先生(尊敬しております)の報告では、妊娠可能かつ甲状腺の病気がない健康女性のTSH(甲状腺刺激ホルモン)は0.39(ほぼ0.4)~3.0μU/ml(95%信頼区間)です。そこで、一般的な正常上限の5.0でなく3.0をカットオフ値とし、甲状腺ホルモン剤でTSHを3未満にすると、84.1%が妊娠したそうです。
ならば、「高度生殖補助医療(体外受精IVF や顕微受精ICSI)」を行わなくても、不妊女性はTSH<2.5 μIU/mlにすべきは明らかです。
日本では、挙児を希望するカップルの10~15% が不妊に悩んでおり、不妊女性の潜在性甲状腺機能低下症の頻度は約12%、流産リスクは顕性甲状腺機能低下症と同程度です。近年、日本の出生率は減少から転じて微増傾向にあります。不妊医療を行う婦人科の先生方の甲状腺に対する関心が高まり、甲状腺専門医が協力して管理を行う事で満期出産が増えたのが一因と思います。(必ずしもアベノミクスの恩恵だけでもないと思います)
それに水を差すかのような米国甲状腺学会ガイドライン2017は無視(一蹴)してよいと考えます。アメリカと日本では、人種やヨード摂取量の違いによりTSHの基準値は異なるはずで、そのことを考えず米国のガイドラインを鵜呑みにしてはいけません。
日本人はヨード過剰摂取する食生活が普通です。橋本病の女性がヨード過剰摂取していると、甲状腺ホルモンの合成が抑制され(持続性ウォルフチャイコフ効果)、甲状腺機能低下症が悪化します(ヨウ素(ヨード)と甲状腺 )。甲状腺機能低下症は前述の通り、不妊の原因となります。
また、橋本病の女性でも、橋本病でない女性でも、ヨード過剰摂取は甲状腺組織の破壊を促進し、妊娠後の甲状腺ホルモン必要量の増加(非妊娠時の1.3-1.5倍)をまかなうための予備力を低下させます。
日本人の1日のヨード平均摂取量は0.5mg-3mgとされ、厚生労働省の推奨値0.13mg, 上限値2.2mgを超えています(Thyroid 18: 667-668,2008)。WHO(世界保健機構)の勧告では、1日のヨード推奨量は250μg(0.25mg)で、
- 妊娠時は500μg(0.5mg)以上を過剰摂取
- 非妊娠時は300μg(0.3mg)以上を過剰摂取
としています。(Geneva, World Health Organization,2007)
- 甲状腺機能正常化しても、血中プロラクチン(PRL)値が30ng/mL前後で正常上限(閉経していない女性の正常値;6.1~30.5ng/mL)、カベルゴリン(プロラクチン分泌抑制薬)を併用して妊娠・出産に至った症例。(第55回 日本甲状腺学会 P1-10-04 自己免疫性甲状腺疾患を伴った不妊症例に対するカベルゴリン併用治療の有用性について)
- 甲状腺ホルモン剤少量にてプロラクチン(PRL)は軽度低下したが、さらにカベルゴリンを併用し、直後に妊娠が成立した症例。(同じ)
- 甲状腺ホルモン剤のみで妊娠しにくく、生理中のプロラクチン(PRL)正常値15ng/mlを超える不妊女性にカベルゴリンを併用すると、3か月以上投与継続できた14例のうち、半数が、併用開始から平均5か月(3~8か月)で妊娠成立した。(まみ内科クリニックさんの報告)(第61回 日本甲状腺学会 O37-3 当院における不妊症例に対するレボチロキシン補充療法およびカ ベルゴリン併用治療の有用性の検討)
が報告されています。[※長崎甲状腺クリニック(大阪)では、カ ベルゴリンの投与は行っておりません。]
院長の論文
- (Nihon Rinsho)
成長ホルモン、プロラクチンの総説
不妊症の最大の原因は卵管狭窄で子宮卵管造影検査(HSG)は必須。HSG後に妊娠率上昇し不妊治療的な効果もあるが、使用するヨード造影剤は2.4-4.8gの異常量のヨード(ヨウ素)を含む。水溶性ヨード造影剤のイソビスト®(イオトロラン)は体内に蓄積せず、最小限の影響で済み、甲状腺の病気(特に橋本病/甲状腺機能低下症)の女性にお勧め。油性ヨード造影剤のリピオドール®(ヨード化ケシ油脂肪酸エステル)は高ヨウ素血症が1カ月後にピーク、1年以上続き、甲状腺機能低下症が2-3カ月後におこり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)上昇が6カ月後まで、甲状腺腫が1年以上続く。
不妊症の原因で最も多い(約20~30%)のは卵管因子(卵管の通りが悪い)です。STD(Sexually transmitted disease; 性行為感染症)による外性器からの上行性感染症や子宮内膜症などで卵管狭窄が起こります。
そのため子宮卵管造影検査(Hysterosalpingography:HSG)は避けて通れません。子宮卵管造影検査後に妊娠率が上昇するため、不妊治療的な効果もあります。一方で、子宮卵管造影検査はヨード造影剤を使用するので、甲状腺→妊娠、胎児への影響があります。
子宮卵管造影検査(HSG)に用いるヨード造影剤は、1回の検査で2.4-4.8g(2400-4800mg)の異常な量のヨード(ヨウ素)を含んでいます[コンブ出汁200ml(みそ汁1杯)でヨード(ヨウ素)3mg]。
水溶性ヨード造影剤のイソビスト®(イオトロラン)は、ヨード含有量少なく、体内に蓄積せず、最小限の影響で済むため、甲状腺の病気を持つ(特に橋本病/甲状腺機能低下症)女性にお勧めです。(残念な事に水溶性ヨード造影剤を使う不妊治療クリニックは極少数です)
長崎甲状腺クリニック(大阪)では水溶性ヨード造影剤を使用された場合、1か月後の甲状腺機能を調べます。
一方、大多数の不妊治療クリニックで使用され、より妊娠率が高い油性ヨード造影剤のリピオドール®(ヨード化ケシ油脂肪酸エステル)は、甲状腺と無関係の不妊女性に投与した場合でも、
- 高ヨウ素血症が1カ月後にピークになり、1年以上続く
- 甲状腺機能低下症が2-3カ月後におこり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)上昇が6カ月後まで続く
- 1年以上の甲状腺腫(甲状腺の腫れ)を認める
ため、せっかく妊娠しても流産率が高くなり、無事出産しても子供の脳のIQ(知能指数)が低くなる危険性があります。(ただし、この事を知っている産婦人科医が甲状腺専門医を紹介し、出産まで適切なコントロールをした場合は問題ありません)
油性ヨード造影剤で胎児甲状腺腫
油性ヨード造影剤使用後すぐ妊娠すると、例え母体の甲状腺機能正常でも、胎児甲状腺腫がおこる事があります(胎児の甲状腺が働き出す妊娠20週以降におこります)。前述の通り、2-3カ月後に母体の甲状腺機能低下症がおこり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)上昇が6カ月後まで続くためです。
胎児甲状腺腫は、
- 胎児の嚥下障害(羊水を飲み込めない)による羊水過多で早産
- 分娩時の回旋異常・気道閉塞(窒息)
をおこします。羊水過多を認めた場合、母体の甲状腺機能正常でも、
- 超音波(エコー)検査で胎児の甲状腺サイズを測定し、胎児甲状腺腫を確認
- 胎児甲状腺腫を認めた場合、可能なら羊水中の甲状腺ホルモン濃度を測定
- 可能なら母体の尿中総ヨウ素(ヨード)濃度を測定
必要に応じて甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)補充の可否を検討
油性ヨード造影剤による有痛性甲状腺炎(橋本病急性増悪)
油性ヨード造影剤で有痛性甲状腺炎(橋本病急性増悪)をおこす可能性があります。報告例は、油性ヨード造影剤使用後3ヶ月で発症し、ステロイドで劇的に改善(Nihon Naibunpi Gakkai Zasshi. 1992 Oct 20;68(10):1089-95.)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病における不妊症/習慣性流産
コントロールされた甲状腺機能亢進症/バセドウ病における
- 不妊症の率は5.8%;甲状腺機能低下症の不妊率と同程度
- 流産率は11.4-12.5%;厚生労働省の統計での日本人女性の流産率13%と差はありません。
しかし、未治療の甲状腺機能亢進症/バセドウ病の流産率は21%と報告されています。(Br J Obstet Gynaecol 87: 970-975,1980)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の不妊率が甲状腺機能低下症と同程度である理由として、甲状腺機能亢進症/バセドウ病妊娠は母児ともに命の危険が生じるハイリスク妊娠(妊娠とバセドウ病)なので、
- 甲状腺機能が安定するまで数年の長い時間が掛かる
- 甲状腺機能が安定してもバセドウ病抗体(TR-Ab)が高いと胎児・新生児バセドウ病とおこす危険がある
ため妊娠が許可されないのが理由でしょう(Int J Endocrinol. 2014; 2014: 982705.)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病女性の不妊治療の問題点
甲状腺機能亢進症/バセドウ病女性の不妊治療では以下の問題があります。
- hCG注射薬・hMG注射薬は甲状腺を刺激してバセドウ病を増悪・再発させる危険性があります。
- 女性ホルモン剤、黄体ホルモン剤はバセドウ病の活動性を抑えますが、生理周期に合わせて投与したり止めたり(バセドウ病を抑えたり、放したり)を繰り返すと、リバウンドでバセドウ病を増悪・再発させる危険性があります。
もちろん、必ずしも甲状腺機能亢進症/バセドウ病が増悪・再発するとは限りません。
しかし、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発すると、不妊治療は中止となります。甲状腺機能が安定するまで再開のめどは立ちません。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の投薬開始(再開・増量)後は、頻回の副作用チェックが必要になります。そのため長崎甲状腺クリニック(大阪)での診療は①大阪市と隣接市のバセドウ病患者に限定②来院できず薬を自己中断するバセドウ病は診れません。
採卵前の頻回注射(FSH/hMG)
体外受精(IVF)をおこなう際、採卵前の頻回注射(FSH/hMG)(上図)は急激な甲状腺機能低下(TSH上昇・ fT4低下)を起こします(下図)。甲状腺に異常がない不妊治療女性でも、TSH≧2.5になることがあります。まして、元々甲状腺ホルモン産生する予備力のない橋本病/甲状腺機能低下症女性では、甲状腺機能低下の程度が、甲状腺に異常がない健常女性に比べ、はるかに大きくなります(下図)。(Fertil Steril. 2012;97:585-91.)
甲状腺に異常がない健常女性、橋本病/甲状腺機能低下症女性ともに、甲状腺機能低下(TSH上昇・ FT4低下)のピークは、排卵誘発のhCGワンショット後1週間におきます。
この時の甲状腺機能低下が、その後の着床・妊娠成功率にどのような影響を与えるのか、いまだ論文・学会発表はありません。しかし、良い影響があるはずもないので、長崎甲状腺クリニック(大阪)では
- 元々のTSHを正常範囲内(0.5-5.0)で可能な限り下げておく(TSH1台が安全圏と考えています)。
- ヨード過剰摂取制限を行い、橋本病(慢性甲状腺炎)の炎症を改善させ、可能な限り炎症の無い健常人の甲状腺に近付ける。
そうすればFSH/hMG、hCG注射後のTSH上昇も、その分、抑えられるはず。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病誘発される事も
採卵目的のFSH/hMG注射で甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症、あるいは寛解中に再発する可能性があります(Br Med J (Clin Res Ed). 1988 Jan 16;296(6616):171-2.)。FSH/hMGはTSH(甲状腺刺激ホルモン)と類似構造であるため、甲状腺を刺激して”寝た子を起こす”様に、くすぶっているバセドウ病を目覚めさせるのかもしれません。
排卵誘発剤GnRH
排卵誘発剤GnRH投与で、甲状腺を破壊する抗体;抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が陽性者は無痛性甲状腺炎(痛みを伴わない甲状腺の亜急性破壊)を誘発おこしやすくなります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の男性の精子数は著しく低くなり、性欲減退/インポテンツも起こり、男性不妊、男性更年期障害の原因になります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では
- 末梢のアロマターゼを直接刺激しアンドロゲンから女性ホルモン(エストロゲン)への変換が起こり、血中エストロゲンが増加。黄体形成ホルモン(LH、脳下垂体ホルモン)の減少→遊離テストステロン(生物活性のある、ホルモン作用のあるテストステロン)の減少
- 遊離T3(FT3)、遊離T4(FT4)の増加に伴い、肝での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)合成が亢進し、遊離テストステロン(生物活性のある、ホルモン作用のあるテストステロン)の減少
(Ann Clin Biochem. 2001;38:596‐607.)(Endocrine. 2017 Dec;58(3):397-407.)
- 甲状腺ホルモンそのもが酸化物で、トリヨードサイロニン(T3)、L-チロキシンナトリウム塩(T4)ともに、精子のDNAを損傷(Mutagenesis. 2004;19(49): 325–330.) 。
が起こります。
高プロラクチン(PRL)血症
プロラクチン(PRL)が高いと精子の運動性が低下します(J Reprod Med. 1999;44(12 suppl): 1085–1090.)
プロラクチン(PRL)と甲状腺ホルモン(FT4)が精漿(精液の液成分)の抗酸化能に相関し、男性不妊症の原因となる酸化ストレスに関与している可能性も報告されています。(J Androl. 2009 Sep-Oct;30(5):534-40.)
亜鉛欠乏
亜鉛欠乏も男性不妊の原因として有名です(甲状腺と似ている合併している亜鉛欠乏症)。
肥満
男性の肥満も、性ホルモンの減少と不妊症に関連しています。不妊男性は、肥満度(BMI)・体脂肪率が高く、卵胞刺激ホルモン(FSH)・黄体形成ホルモン(LH)・男性ホルモンのテストステロン・性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の値が低くなります。(Andrologia. 2019 Feb;51(1):e13147.)
中枢性性低ゴナドトロピン性腺機能低下症
視床下部・下垂体が原因の中枢性性低ゴナドトロピン性腺機能低下症の可能性もあります。
精索静脈瘤
長崎甲状腺クリニック(大阪)の元には、産婦人科、不妊治療専門クリニックから甲状腺の治療精査依頼で絶えず患者が紹介されてきます。不妊治療専門医は、甲状腺に関心のある医師、関心の無い医師、両極端です。
甲状腺に関心のある不妊治療専門医なら少なくとも、甲状腺専門医を紹介し、不妊の原因の十数%に当たるTSH≧2.5を100%解除してくれます。長崎甲状腺クリニック(大阪)と提携している不妊治療専門の岡本クリニック(大阪市 住吉区 長居東)は、甲状腺を重要視しておられる数少ない医療機関です。
甲状腺に関心の無い不妊治療専門医は厄介です。実際、筆者が良く経験する症例は、TSHが高値なのに(5-10μU/mlの場合が多い)、5年以上、延々と体外受精を続けていて、結局、妊娠しない、流産、不育症で胎児死亡を繰り返すパターンです。患者さん自身が、ネットで甲状腺が不妊の原因の少なからずを占める事を知り、長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診されます(もちろん紹介状などありません)。無意味な数年間で、卵子は経年劣化し、今更、TSH<2.5にしても妊娠しにくくなるのが実情です(卵子自体がダメになってはどうしようもない)。
不妊治療専門クリニックを選ぶなら、甲状腺に関心のある所を選んでください!!
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,東大阪市,天王寺区,浪速区,生野区も近く。