長崎甲状腺クリニック(大阪)の亜急性甲状腺炎の治療プロトコル[甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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(目次)
亜急性甲状腺炎
甲状腺と血液の病気
甲状腺と似ている病気②
甲状腺と救急・外科手術
- 橋本病急性増悪
- 甲状腺と救急:甲状腺損傷・気道閉塞・そのくすりダメ 甲状腺と救急(アウトドア編) 甲状腺の手術合併症
- 橋本病の手術・橋本病の巨大甲状腺腫に131-Iアイソトープ治療
- 甲状腺内視鏡手術・甲状腺ロボット手術
- 穿刺細胞診の気を付ける点(医療従事者用) 気道狭窄を伴う甲状腺手術での気道確保
- 内臓逆位と甲状腺 甲状腺手術で胸骨切開/胸骨切除 手術の痕を目立たなくする皮膚縫合 経皮経食道胃管挿入術(PTEG/ピーテグ)は禁忌
甲状腺未知の領域
- サイログロブリン、一体何をやってるの? 甲状腺アミロイドーシス
- 伝染性紅斑(リンゴ病)、突発性発疹、ヘルペスと無痛性甲状腺炎・橋本病・バセドウ病
- 手術不能・適応外甲状腺腫瘍に対するラジオ波焼灼療法(RFA)
- iPS細胞から甲状腺細胞が作れる? 腫瘍抗原ペプチドワクチン療法 甲状腺がん探知犬
- 乳癌と甲状腺 甲状腺と前立腺
甲状腺の社会問題
- 橋本病に対する偏見
- ヒヤリハット、気付かず処方ミス、チウラジールとチラージン
- 甲状腺と体臭症
- 海外から日本へ来る甲状腺患者さん 環境ホルモン
- 乱用される『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用 他臓器癌合併した甲状腺機能亢進症/バセドウ病で抗甲状腺薬使えなくなる
- 患者自身が作り出す「やせ薬」による甲状腺中毒症
- 甲状腺と巨大災害 地球温暖化と甲状腺 法医学と甲状腺 アスリートの甲状腺 ドーピング
- 甲状腺癌の終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア/ベストサポーティブケア(BSC)
亜急性甲状腺炎の診療停止について
日本での新型コロナウイルス感染が完全に終息するまで亜急性甲状腺炎の診療を停止させていただきます。
亜急性甲状腺炎の基本的なことは亜急性甲状腺炎を御覧ください。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、一端、開始すれば(平均)3-4カ月掛かり、途中で止める事はできません。長崎甲状腺クリニック(大阪)に継続して通院できない方は、受診を御遠慮ください。
Summary
長崎甲状腺クリニック(大阪)オリジナルの亜急性甲状腺炎の治療は、中途再燃・再発を防ぐため、超音波(エコー)検査で炎症範囲を毎回調べ、改善度に応じてステロイド量を調整。炎症の強い部分は黒く、血流乏しく、エラストグラフィーで青くなる。副作用チェックはステロイド肝障害・膵炎・筋障害・低カリウム血症・糖尿病。甲状腺乳頭癌の合併、亜急性甲状腺炎ではなく、甲状腺乳頭癌の事も。亜急性甲状腺炎はバセドウ病,橋本病に合併、あるいは誘発する事も。頚部腫大、甲状腺中毒症が先行する場合、エコー検査で偶然見つかる事も。数年かかっても完全治癒しない亜急性甲状腺炎も稀に存在。
Keywords
甲状腺,甲状腺機能低下症,バセドウ病,甲状腺機能亢進症,甲状腺乳頭癌,橋本病,亜急性甲状腺炎,橋本病,エコー,ステロイド,再発
亜急性甲状腺炎は診断さえ付けば、副腎皮質ステロイドが劇的に効きます。2-3日で嘘のように痛みが消え、血液検査でも炎症反応(WBC/CRP)・甲状腺ホルモン値が正常化するため、あたかも完治したような錯覚おこします。そして、うかつに副腎皮質ステロイドを中止、急な減量おこなうと、短期間で再燃・再発し、結局一からやり直すことになります(結局1年以上かかった症例も報告されています)。中途再燃・再発した亜急性甲状腺炎の方が長崎甲状腺クリニック(大阪)を訪れ、ステロイド治療をやり直すことが非常に多いのが現状です。
なるほど痛みも消え、炎症反応(WBC/CRP)・甲状腺ホルモン値も正常化した状態では、何を基準にステロイド減量していけば良いのか判らないのが一般的です。教科書には「3か月かけて、2週間に5mgずつ減量せよ」と書いてあります。
また、ステロイドの開始量も、外来使用最大量の20mgに設定します。しかし、どうしても30mg以上必要と判断される場合、大阪市立大学医学部 代謝内分泌内科への入院となります(20mgまで減量した時点で退院)。
先日の甲状腺学会で、隈病院の中村浩淑先生も同じ方法で亜急性甲状腺炎を治療していることを知り驚きました。
長崎甲状腺クリニック(大阪)オリジナル亜急性甲状腺炎治療副作用チェックとして
- 肝機能(ステロイド肝障害)
- 膵酵素(ステロイド膵炎)
- 筋酵素(ステロイド筋障害)
- カリウム(ステロイド低カリウム血症)
- 血糖(グルコース)もしくはHbA1C(ステロイド糖尿病)
を必要に応じて1カ月ごとに調べます。
日本では亜急性甲状腺炎の数%が不可逆な破壊(永続性甲状腺機能低下症)になるといわれます。Saudi Arabiaでは14.3%(Int J Endocrinol. 2014;2014:794943.)
隈病院の統計では、53.6%が発症後6カ月以内に一時的に甲状腺機能低下症になるが、永続的甲状腺機能低下症になるのは5.9%。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)使用で永続的甲状腺機能低下症になる確率は下がります。永続的甲状腺機能低下症になった人は全員、甲状腺の左右両側に低エコー領域があり、最終的に甲状腺は萎縮したそうです。(J Endocrinol Invest. 2009 Jan;32(1):33-6.)
エラストグラフィーを用いて亜急性甲状腺炎が永続性甲状腺機能低下症になるかを判定する試みが始まっています。石川県立中央病院の発表では、硬さの指標ストレインレ-ト(strain ratio)が大きいと、永続性甲状腺機能低下症になるようです(第57回 日本甲状腺学会P2-053 亜急性甲状腺炎経過後に、永続性甲状腺機能低下症に至る要因に関して)。
下は亜急性甲状腺炎の超音波(エコー)画像で、炎症の強い部分は黒く、エラストグラフィーでは青くなります。
既に別の病気でステロイド剤(PSL;プレドニゾロン)を飲んでいる場合、全体量を20mg(治療抵抗性なら30mg)になる様、追加投与します。例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)でPSL 12.5mg飲んでいる場合、7.5mgを追加投与します。(第53回 日本甲状腺学会 P42 SLE治療中に発症した亜急性甲状腺炎の一例)
亜急性甲状腺炎ではなく、甲状腺乳頭癌だった
甲状腺乳頭癌は無痛が普通ですが、
- 被膜浸潤
- 腫瘍内出血
- 急速な増大
- 甲状腺乳頭癌周囲の炎症巣
[血液検査で炎症反応(WBC, CRP)も陽性で、炎症部の穿刺細胞診でも癌細胞検出されず、亜急性甲状腺炎と勘違いします。ステロイド治療で炎症治まれば、低エコー領域は縮小しますが、甲状腺乳頭癌本体は消えないため、再度の穿刺細胞診で診断されます。手術摘出後の病理標本では、甲状腺乳頭癌周囲のリンパ球浸潤が確認されます。]
で痛みが生じることがあります。亜急性甲状腺炎と高をくくっていても、甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺乳頭癌だった症例報告があります。
亜急性甲状腺炎に甲状腺乳頭癌が合併
ステロイド治療し、甲状腺全体の腫れが引くと、甲状腺乳頭癌の低エコー域も縮小するので、亜急性甲状腺炎の炎症と勘違いする可能性があります。例え縮小しても、消えなければ、しかも石灰化を伴っていれば甲状腺乳頭癌を疑うべきです。亜急性甲状腺炎が沈静化しない内に穿刺細胞診すると、炎症所見が混ざって、病理医が甲状腺乳頭癌の診断を下し難い様です。
バセドウ病に亜急性甲状腺炎を合併 /亜急性甲状腺炎からバセドウ病が誘発
バセドウ病に亜急性甲状腺炎を合併する事があります。
- 元々持っていたが、発見されなかったバセドウ病の経過中に亜急性甲状腺炎を発症するのか?
(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-03 バセドウ病診断時に亜急性甲状腺炎を合併していた1 例)
(第54回 日本甲状腺学会 P075 バセドウ病に亜急性甲状腺炎が合併した症例と無痛性甲状腺炎が合併した症例の甲状腺機能の相違)
- 亜急性甲状腺炎からバセドウ病が誘発されるのか?(第55回 日本甲状腺学会 P2-08-02 亜急性甲状腺炎からバセドウ病を発症した比較的高齢女性の1 例)(第56回 日本甲状腺学会 P1-048 亜急性甲状腺炎の加療中にバセドウ病を発症した一例)
不明です。可能性として
- ステロイドを減量する際、潜在的に持っていたバセドウ病が、リバウンド的に誘導されるのかもしれません。
- 亜急性甲状腺炎の免疫反応自体が原因で、バセドウ病の自己免疫が誘導される。
- 破壊された甲状腺組織が抗原となり、抗体が出現する
などが、考えられます。
バセドウ病と亜急性甲状腺炎が同時に存在する時の99mTcシンチグラフィ
バセドウ病と亜急性甲状腺炎が同時に存在する時の99mTcシンチグラフィは、亜急性甲状腺炎の炎症巣では、取り込み欠損を認め、非炎症巣では、摂取率高値になります。
バセドウ病抗体(TRAb)のみ陽性になり、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症しない・一過性で終息
バセドウ病抗体(TRAb)のみ陽性になり、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症しない・一過性で終息する様な症例も報告されています。兵庫県立加古川医療センターの報告では、
- 症例1;血液検査でTSH 0.003μIU/ml,FT4 1.66ng/dl,FT3 4.45pg/ml,CRP 1.95mg/dlと破壊性甲状腺炎のパターン。後日TRAb 3.4IU/L(<2.0)が判明、99mTcシンチグラフィでは右葉に集積。プレドニゾロン漸減・投薬中止後も甲状腺機能は正常を維持(TRAb が、その後下がったか不明)。
- 症例2;TSH 0.003μIU/ml,FT4 3.03ng/dl,FT3 9.21pg/ml,CRP 3.09mg/dlと甲状腺機能はバセドウ病パターン。初診時TRAb 1.1IU/L(<2.0)とグレーゾーン、1ヶ月後8.6 IU/Lまで上昇、99mTcシンチグラフィでは右葉に集積。プレドニゾロン漸減・投薬中止と後、一時的に甲状腺機能低下になったが、甲状腺機能は正常を維持(TRAb が、その後下がったか不明)。
(第60回 日本甲状腺学会 P1-3-3 TRAb陽性を認めバセドウ病との鑑別を要した亜急性甲状腺炎の2例 )
ただ単に、TRAbのみ陽性になっただけか、実際に甲状腺機能亢進症/バセドウ病になったのか、前項の99mTcシンチグラフィで、はっきりする可能性があります。
亜急性甲状腺炎の際の血液検査で、橋本病(慢性甲状腺炎)の自己抗体[抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)]を認めることがあります。その理由として
- 橋本病(慢性甲状腺炎)の経過中に亜急性甲状腺炎を発症する
- 亜急性甲状腺炎から橋本病(慢性甲状腺炎)が誘発される
2通りのパターンがあります。可能性として
- ステロイドを減量する際、潜在的に持っていた橋本病(慢性甲状腺炎)が、リバウンド的に誘導されるのかもしれません。
- 亜急性甲状腺炎の免疫反応自体が原因で、橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫が誘導される。
- 破壊された甲状腺組織が抗原となり、抗体が出現する
などが、考えられます。
伊藤病院の報告では、ステロイドを使用しなかった亜急性甲状腺炎293人中の69人(23.5%)が抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性。NSAIDsも使用せず経過観察した38人中の19人(50%)が持続陽性、19人(50%)が陰性化したとの事です。(第54回 日本甲状腺学会 P098 亜急性甲状腺炎(SAT)での自己抗体の推移)
コントロール不良糖尿病に亜急性甲状腺炎を合併すると
- 甲状腺中毒症による血糖上昇
- 嚥下痛で飲水・摂食が不十分となり脱水
により高血糖高浸透圧症候群を起こす可能性があります。(第60回 日本甲状腺学会 P1-3-5 亜急性甲状腺炎の発症を契機に、高血糖高浸透圧症候群に至った 2型糖尿病の1例)
患者さんが甲状腺部に痛みを訴える病気で一番多いのは、亜急性甲状腺炎です。しかし、実際、亜急性甲状腺炎以外の場合が約25%存在します。
甲状腺の痛み をご覧ください。
詳細は、 急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿瘍 を御覧ください。
亜急性甲状腺炎でも激烈なものは、
- 高度の甲状腺中毒症:FT4 ≧7.77ng/dl(甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎の様)
- 血中Tg(サイログロブリン)異常高値 1723.0ng/ml
- 高度の炎症:WBC11800μl(好中球81.1%), CRP 12.0mg/dl(急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿瘍の様)
をおこします。(第54回 日本甲状腺学会 P097 核の左方移動を伴う白血球増加がみられた亜急性甲状腺炎の1例)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。