薬剤性甲状腺異常(前立腺がん,乳癌,子宮内膜症,子宮筋腫治療)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見④ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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Summary
前立腺がん,乳癌,子宮内膜症,子宮筋腫治療のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)誘導体リュープロレリン、黄体ホルモン剤(メドロキシプロゲステロン)、エストロゲンとエストロゲン誘導体(ラロキシフェン、タモキシフェン、フルオロウラシル)、深在性真菌症治療剤ボリコナゾールは薬剤性甲状腺中毒症(破壊性甲状腺中毒症)・甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症を誘発。子宮頸がん予防(HPV;ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種で甲状腺機能低下症/橋本病に。抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール・チウラジール)の薬剤性過敏症症候群はヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)再活性化で重症。
Keywords
薬剤性,甲状腺機能低下症,甲状腺ホルモン,薬剤性過敏症症候群,乳癌,子宮内膜症,子宮頸がんワクチン,甲状腺,黄体ホルモン剤,GnRH
- 前立腺がん、乳癌、子宮内膜症、子宮筋腫の治療で薬剤性甲状腺機能障害
- エストロゲン製剤とエストロゲン誘導体(SERM、乳がん、骨粗しょう症治療薬)の薬剤性甲状腺機能低下症
- タモキシフェン(乳がん治療薬)の副作用を甲状腺機能亢進症/バセドウ病と勘違い
- 経口避妊薬の危険性
- エストロゲン製剤とエストロゲン誘導体(SERM)、黄体ホルモン剤、経口避妊薬は甲状腺の手術前に中止
- 子宮頸がん予防(HPV;ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種と甲状腺
- 炭酸リチウム(商品名リーマス)と甲状腺
- てんかん薬と甲状腺
- 抗うつ剤;塩酸セルトラリン(ジェイゾロフト®)
- 悪性黒色腫治療薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)[免疫チェックポイント阻害薬]で、無痛性甲状腺炎・甲状腺機能低下症
- 不整脈治療薬 アミオダロン(アンカロン®)が引きおこす甲状腺機能異常
- インターフェロンαと甲状腺
- 抗がん剤5―フルオロウラシル(5-FU)で甲状腺機能低下症
- 分子標的治療薬で甲状腺機能異常(腎臓がん、関節リウマチ)
- 黒色甲状腺
- 深在性真菌症治療剤ボリコナゾール 抗生物質シプロフロキサシン
- 結核治療薬で甲状腺機能低下症・糖尿病も悪化
GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)
の偽閉経療法に使用されます。保険適応は薬剤により微妙に異なります。
最初は、ゴナドトロピン(LH, FSH)分泌を刺激し、卵胞ホルモン(エストロゲン)を増加させますが、長期投与でGnRH 受容体の脱感作による反応低下(down-regulation)から逆に卵胞ホルモン(エストロゲン)が減少します。
- 最初は、放出されたゴナドトロピン(LH, FSH)が直接甲状腺を刺激。LH, FSHは弱いながらTSH(甲状腺刺激ホルモン)作用を持ちます
- 長期的には、甲状腺の自己免疫を誘発。卵胞ホルモン(エストロゲン)はステロイドホルモン属なので自己免疫を抑える作用があるため、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病, バセドウ病)の活動性は抑えられます。卵胞ホルモン(エストロゲン)がジェットコースターのように頂上から急降下すると、抑えられていた自己免疫がリバウンドします。
以上から、
- 破壊性甲状腺中毒症型(薬剤性無痛性甲状腺炎)誘発[元々、橋本病(慢性甲状腺炎)がある人に起こり易い]
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病誘発、悪化、再発
- 甲状腺機能低下症、粘液水腫性昏睡 誘発、増悪
[Endocr J. 2000 Dec;47(6):783-5.][Thyroid. 2003 Aug;13(8):815-8.]
発症時期は、出産後甲状腺炎のパターンと同じで、
- 破壊性甲状腺中毒症型は投与開始数週~3-4 か月以内に発症するものが殆どです。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病型は数ヶ月から1年程度での発症が多い。一端、発症すると薬剤終了後も持続するため、薬剤終了後1年して顕在化する場合があります。(第57回日本甲状腺学会P2-032 酢酸リュープロレリンによる薬剤誘発性甲状腺中毒症が疑われたバセドウ病の1 症例)
- 甲状腺機能低下症;約8か月後に発症の報告[J Pediatr. 2004 Mar;144(3):394-6.]
- 粘液水腫性昏睡 約8か月後に急性膵炎を合併して発症した報告[Intern Med. 2018 Nov 1;57(21):3117-3122.]
ただし、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)誘導体投与前から甲状腺機能亢進症/バセドウ病が存在し、未治療、コントロール不良なら、直接の甲状腺刺激により速やかに悪化します。
それら甲状腺機能障害をおこさない場合でも、FT3値のみ有意に低下するとされます[J Adolesc Health. 2007 Mar;40(3):252-7.]。
黄体ホルモン剤(メドロキシプロゲステロン)でも薬剤性甲状腺中毒症
黄体ホルモン剤(メドロキシプロゲステロン)高用量を投与すると、エストロゲン(卵胞ホルモン)合成・分泌が抑制され、エストロゲン依存性の乳がん・子宮がん細胞の増殖が抑えられます。
乳がんの第一選択薬でなく、他の薬剤の効果が鈍くなった時に使用。
エストロゲン(卵胞ホルモン)が減少すれば、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病, バセドウ病)の活動性を抑えられなくなり、薬剤性甲状腺中毒症が誘発される場合があります。(第56回日本甲状腺学会 P2-076 酢酸メドロキシプロゲステロン投与により再燃したと考えられるバセドウ病の一例)
エストロゲン製剤とエストロゲン誘導体[SERM: selective estrogen receptor modulator(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)]の
- ラロキシフェン(エビスタ錠®)やバゼドキシフェン(ビビアント錠®)(骨粗しょう症治療薬)
- タモキシフェン(乳がん治療薬)
- 5―フルオロウラシル(5-FU)(抗がん剤)
などは、甲状腺ホルモンのサイロキシン(T4)と結合する血中サイロキシン結合蛋白(TBG;thyroxinebindingglobulin)のシアル化を促進し、その半減期を延長させるため、血中TBGが増加。そのため、TBGと結合していない遊離型サイロキシン(FT4)が減少し、甲状腺ホルモン作用の低下が起こる。T3に対する影響は軽微です。
またエストロゲンは肝臓でのTBGの合成を促進します。
甲状腺ホルモン剤(レボサイロキシン、チラーヂンS)補充中に、エストロゲン剤を併用すると、甲状腺ホルモン剤の補充必要量が30~50%増加します。(Pharmacotherapy. 2006 Jun;26(6):881-5.)エストロゲン誘導体(SERM)では比較的、影響は軽度です。
ラロキシフェン(エビスタ錠®)やバゼドキシフェン(ビビアント錠®)(骨粗しょう症治療薬)は、甲状腺ホルモン剤(レボサイロキシン、チラーヂンS)の吸収阻害作用もあります。
タモキシフェン(抗エストロゲン薬、乳がん治療薬)の副作用は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の症状と似ていて勘違いされる事があります。特に、
- 発汗、ほてり(ホットフラッシュ)、全身倦怠感(疲れやすい)
- 無月経(生理が止まる)・月経異常(生理不順)(甲状腺と生理不順)
- 吐き気・嘔吐・下痢(甲状腺ホルモンと便秘・下痢)
- 脱毛(甲状腺ホルモン異常と皮膚・脱毛)
- 体重増加;体脂肪率の増加(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肥満)
- 浮腫(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のむくみ(浮腫))
- 肝障害(甲状腺ホルモン異常と肝障害)
- 血栓症(エコノミー症候群、肺塞栓)(バセドウ病/甲状腺機能亢進症で血栓できやすい?)
などの症状は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と同じです。
エストロゲン製剤とエストロゲン誘導体(SERM)、黄体ホルモン剤、経口避妊薬は血栓リスクがあるため、甲状腺手術前後の服薬が禁忌になっています。
- アンジュ®(レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール合剤);甲状腺手術4週間前から術後2週まで休薬
- プレマリン®(成分:結合型エストロゲン);甲状腺手術4週間前から休薬
- バゼドキシフェン(ビビアント®);甲状腺手術前から術後完全歩行できるまで休薬
- ラロキシフェン(エビスタ®);甲状腺手術3日前から術後完全歩行できるまで休薬
- タモキシフェン(ノルバデックス®);添付文書に休薬記載は無いが、英国では休薬フローチャートが存在(Int J Surg 313-316, 2012)
経口避妊薬の危険性
経口避妊薬の危険性 を御覧ください。
黒色甲状腺は無害との報告が多いですが、
- 薬剤性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎)もおこします[Thyroid. 2008 Jul;18(7):795-7.][Horm Res Paediatr. 2019;92(4):276-283.]。
- 甲状腺機能低下症をおこす可能性があります。[Int J Legal Med. 2006 May;120(3):157-9.][J Pediatr. 2016 Jun;173:232-4.]
黒色甲状腺はミノサイクリン非投与例に見られる事もあります。
薬剤性色素沈着症
ボリコナゾールは、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症/食道カンジダ症、クリプトコックス髄膜炎/肺クリプトコックスなどの深在性真菌症(カビ)治療剤です。重篤な肝障害を起こすことは有名ですが、副腎皮質機能不全、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症も起こします。
ニューキノロン系抗生物質シプロフロキサシンは甲状腺ホルモン剤の吸収阻害を起こすため、同時投与は避けましょう(BMJ. 2005 Apr 30;330(7498):1002.)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,浪速区,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。