腎臓癌(腎細胞癌)と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。腎臓癌の治療を行っておりません。
Summary
腎細胞癌の治療薬の分子標的薬スーテントカプセル®(スニチニブ)、インライタ錠®(アキシチニブ)、ヴォトリエント錠®(パゾパニブ)は、甲状腺のチロシンキナーゼも阻害、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害による甲状腺組織内血管内皮障害(微小血管障害)で血流低下し、甲状腺組織の破壊から甲状腺機能低下症や破壊性甲状腺炎おこす。腎臓癌は甲状腺に転移、転移性甲状腺癌になる。エコー上、腺腫様結節、濾胞性腫瘍と区別難。淡明細胞型腎臓癌は穿刺細胞診でも甲状腺濾胞癌の明細胞型と区別難だがサイログロブリン染色陰性、CD10陽性。甲状腺癌が腎臓に転移すると腫瘍破裂・腎被膜下出血。
Keywords
腎細胞癌,分子標的薬,スーテント,スニチニブ,インライタ,アキシチニブ,甲状腺機能低下症,破壊性甲状腺炎,転移,転移性甲状腺癌,甲状腺
チロシンキナーゼ阻害薬の甲状腺機能障害
しかしながら、
- 甲状腺のチロシンキナーゼも阻害するため、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害による甲状腺組織内血管内皮障害(微小血管障害)で血流低下→甲状腺細胞機能低下(可逆性)と甲状腺組織の破壊(不可逆性)→甲状腺機能低下症(J Natl Cancer Inst. 2007;99:81-83)
強度の虚血により破壊性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎);破壊された組織から一気に甲状腺ホルモンが放出(Ann of Endocrinol79: 569-573, 2018)
- 甲状腺における
ヨード(ヨウ素)摂取障害[ヨード(ヨウ素)を取り込むナトリウム-ヨード シンポーター(NIS)の抑制](J Natl Cancer Inst. 99:81-83, 2007)
ヨード有機化障害;ヨード(ヨウ素)有機化し甲状腺ホルモン合成行う抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)阻害(Thyroid 17:351-355, 2007 ) 山梨大学の報告では甲状腺萎縮後も、ヨードシンチグラフィ(123Iシンチグラフィ)で24時間後ヨード(ヨウ素)摂取率は11%とごく軽度の低下のみだったとの事で、あまり関係ないかもしれません(第57回 日本甲状腺学会 P1-056 スニチニブ投与後に著しい甲状腺萎縮と不可逆性の甲状腺機能低下をきたした一例)
- 肝臓での甲状腺ホルモン不活化酵素、3型脱ヨード酵素を誘導し、消費性甲状腺機能低下症もおこします(J ClinEndocrinolMetab2011;96:3087-94)。
のため、約30%に甲状腺機能障害[(ほとんど)甲状腺機能低下症(軽症)や(散発的に)破壊性甲状腺炎]をおこします。多くは可逆性とされますが、長期投与では上記の理由で不可逆性になるようです。[J Natl Cancer Inst. 2007 Jan 3;99(1):81-3.](第55回 日本甲状腺学会 P2-10-01 スニチニブによる一過性甲状腺中毒症の一例)
分子標的薬スーテントカプセル(成分:スニチニブ)、インライタ錠(成分:アキシチニブ)で甲状腺機能障害
腎細胞癌に使用する分子標的薬(生物学的製剤)にはスーテントカプセル(成分:スニチニブ)、インライタ錠(成分:アキシチニブ)があります。
クリーブランドクリニックの報告では84%に甲状腺機能低下症を認めました[J Natl Cancer Inst. 2007 Jan 3;99(1):81-3.]。
横浜市立大学の報告では35 名中、甲状腺機能低下症は62.9%におこり、スニチニブ投与終了後3ヶ月間生存していた8名中7例が不可逆性の甲状腺機能低下症だったそうです。(第55回 日本甲状腺学会 P2-10-03 当院のスニチニブ投与における甲状腺機能障害の頻度と不可逆性甲状腺機能低下症を来たした一例の経過)
- スニチニブは甲状腺内の毛細血管を障害し、血流が低下するため甲状腺が萎縮します。スニチニブを中止すると、早期なら甲状腺機能低下症が回復する事がありますが、遅れると回復しません。また、肝での甲状腺ホルモン不活化酵素、3型脱ヨード酵素を誘導し、消費性甲状腺機能低下症をおこします。
スニチニブは薬剤性心筋障害もおこします。
- アキシチニブは投与後4週間で早々に甲状腺ホルモン異常をおこします。アキシチニブは薬剤性白質脳症もおこします。アキシチニブによる甲状腺機能低下症は18.3%、甲状腺中毒症は0.6%と報告されています。
ソラフェニブも同様のマルチキナーゼ阻害薬ですが、なぜか甲状腺の副作用は言われません。むしろ放射性ヨウ素治療抵抗性の局所進行または転移性の分化型甲状腺がんに治療適応が認められ、甲状腺乳頭癌で発現するBRAFを阻害します。
- パゾパニブ(ヴォトリエント®錠)も同じ系統のマルチキナーゼ阻害薬で、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、幹細胞因子受容体(c - Kit)を阻害します。悪性軟部腫瘍と腎細胞癌患者を対象とした第三相試験で12.6%に甲状腺機能障害が起こるとされます。
- mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)阻害薬エベロリムス、スニチニブは膵神経内分泌腫瘍にも有効です。
スーテントカプセル®(スニチニブ)投与で甲状腺機能低下症がおきた方が、腎細胞癌の無増悪生存期間と生存率が改善するとされます[Med Oncol. 2017 Apr;34(4):68.][Chemotherapy. 2012;58(3):200-5.]。
まれながら、スニチニブ投与で高アンモニア血症とAm J Ther. 2016 Mar-Apr;23(2):e583-7.を同時におこした報告がありますが、そのメカニズムは不明です[Am J Ther. 2016 Mar-Apr;23(2):e583-7.]。
スーテントカプセル(成分:スニチニブ)は原発性副腎皮質機能低下症も
スーテントカプセル(成分:スニチニブ)は原発性副腎皮質機能低下症も起こします。腎細胞癌と共に片方の腎臓を摘出した場合、副腎も同時に摘出され、副腎は残り1個の状態です。スニチニブの組織障害が残りの副腎に及ぶと、甲状腺機能低下症のみならず副腎皮質機能低下症も起きます。(第56回 日本甲状腺学会 P2-081 分子標的治療薬使用中に甲状腺機能異常と低血糖症を認めた腎細胞癌の一例)
甲状腺腫瘍も縮小させる
甲状腺内の血流低下は、甲状腺腫瘍の縮小と言う、思わぬ効果をもたらします。腎臓癌の甲状腺転移のみならず、特に血流豊富な甲状腺腫瘍では縮小効果が大きい様です。(第59回 日本甲状腺学会 P4-6-2 アキシチニブ投与後に著明な縮小と血流低下を呈した甲状腺腫瘍の一例)
分子標的薬スーテントカプセル(成分:スニチニブ)の腎細胞がん以外の保険適応
分子標的薬スーテントカプセル(成分:スニチニブ)の腎細胞がん以外の保険適応は
- イマチニブ抵抗性のKIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍;4週間ON-2週間OFF のサイクルで投与
- 膵内分泌腫瘍;連日投与
御存知のネクサバール錠(ソラフェニブ)は根治切除不能、放射線内照射(I-131 アブレーション)抵抗性の分化型甲状腺癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)に保険適応のある分子標的薬(ネクサバール)。ついに腎臓がんにも保険適応が。
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、悪性黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がんのみならず切除不能な腎細胞癌、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫、再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌などにも適応が拡大されています。更に適応される癌の種類が増える勢いです。
やはり、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)・橋本病(慢性甲状腺炎)はじめ甲状腺・内分泌系の副作用が多いです。
分子標的薬が現れる以前は、手術をするしないに関わらず腎臓がん治療の花形でした。現在でも、腎臓がんの転移巣が肺転移のみ、サイズが小さい、転移数が少ないなどの条件下で、初期治療として使用される事があります。15~20%ほどで腎臓がんが半分以下に縮小しますが、分子標的薬に比べると効果が劣ります。甲状腺の副作用が多いのは有名です(インターフェロンαと甲状腺)。
腎細胞癌甲状腺転移は、原発巣摘出後かなり長期で見つかる事が多く、平均7.7(3.3-13)年とされます(ANZ J Surg. 2021 Apr;91(4):708-715.)。腎細胞癌切除後、
- 9年して甲状腺転移が見つかる(Int J Surg Case Rep. 2015;16:59-63.)
- 十数年して甲状腺転移が見つかる(第55回 日本甲状腺学会 P1-06-12 腎細胞癌による転移性甲状腺腫瘍の2例)
- 20年で膵臓転移が見つかり、24年して甲状腺転移が見つかる。(第59回 日本甲状腺学会 P3-1-6 原発巣手術から27 年目に診断に至った腎細胞癌甲状腺転移の1症例)
転移性甲状腺癌(腎臓癌甲状腺転移)超音波(エコー)所見
腎臓癌甲状腺転移は孤立性(単発性)が多いですが、反回神経麻痺、頚部リンパ節転移、喉頭気管食道浸潤、内頸静脈浸潤をきたす場合もあります(Surgery. 2010 Jan;147(1):65-71.)。
エコー上、境界明瞭、内部は充実部分と嚢胞部分が混在し、腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍[良性濾胞腺腫(淡明細胞型)、悪性の甲状腺濾胞癌]と見分けが付きません。破壊性にサイログロブリンも上昇する事もあるので、益々、診断が付きにくくなります。
転移性甲状腺癌(腎臓癌甲状腺転移)細胞診・組織診所見
また、淡明細胞型腎臓癌は穿刺細胞診でも甲状腺濾胞癌の明細胞型と区別しにくく、穿刺吸引細胞診では「class2、正常または良性」判定になります。しかし、核内封入体もあり、免疫染色で甲状腺由来のTTF-1あるいはサイログロブリンに染まらず、CD10に染まります(でも、現実は、細胞診の検体を免疫染色までしてくれる病理なんて筆者は知りません)。ただ、正常または良性判定でも、血液(血球)成分がやたら多いので、腎細胞癌の既往がある場合、甲状腺転移を疑う理由になります。
結局、切除標本でしか診断できない事がほとんどです。
[耳鼻咽喉科展望 57(4), 194-197, 2014]
(第55回 日本甲状腺学会 P2-087 腎癌甲状腺転移と診断された一手術症例)
結局は診断が付かないものの、増大傾向あるため手術切除の方針になり、摘出標本で初めて腎細胞癌甲状腺転移が分かります。
診断が付かない甲状腺腫瘍で、①肉眼的血尿(患者に聞けば分かる)、②顕微鏡的血尿(検尿しなければ分からない)あれば、一度、腎臓がんの甲状腺転移を疑いましょう。
慢性腎盂腎炎では、腎尿細管がコロイド状物質を含む甲状腺濾胞のように変性する事が知られています(Pathol Res Pract. 1983 Mar;176(2-4):284-96.)。
腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌(Primary thyroid-like follicular carcinoma of the kidney)は、甲状腺様濾胞癌の腎臓転移と鑑別を要します。腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌の特徴は、
- 全例被膜に包まれる
- 卵円形核、核小体も認める。細胞質は好酸性
- 免疫組織検査で甲状腺由来を示すサイログロブリン、TTF-1陰性
- 遺伝子検査で淡明細胞型腎細胞がん・嫌色素性腎細胞がんとも異なる
- 悪性度は低いが腎門部リンパ節転移する事もある
(Am J Surg Pathol. 2009 Mar;33(3):393-400.)
結節性硬化症は、常染色体優性遺伝ながら、1万人に1人の発生頻度で、日本人には稀な疾患です。
結節性硬化症では、
- 良性の腎血管筋脂肪腫を発症するのが有名だが、腎細胞癌を合併する事もある。
- 心臓横紋筋腫も発症する。
- リンパ脈管筋腫症(LAM)も合併し気胸を起こす。
- 皮膚症状は
乳児期;体幹や下肢に葉状白斑が多発
幼児期;顔面、鼻部周囲に血管線維腫が多発
思春期;爪囲線維腫(Koenen 腫瘍) - 精神発達遅滞、てんかん(けいれん発作)
結節性硬化症は、TSC1とTSC2の2つの遺伝子変異が原因で、TSC1遺伝子は膵島細胞、甲状腺濾胞細胞にも発現します。[Mod Pathol. 1999 May;12(5):539-45.]
結節性硬化症患者に胸部CT行うと、20.4%に甲状腺結節が認められ、その半数は多発性、約1%に甲状腺乳頭癌も見つかるそうです(Am J Med Genet A. 2015 Dec;167A(12):2992-7.)。
※解像度の悪いCTで、この結果なので、甲状腺超音波(エコー)検査すれば、更に高い確率になります。
結節性硬化症家系の13歳の少年に発症した甲状腺乳頭癌も報告されています(Curr Oncol. 2017 Oct;24(5):e423-e428.)
腎臓がん、膵神経内分泌腫瘍に適応があるmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)阻害薬エベロリムス(アフィニトール®)は、腎血管筋脂肪腫にも使用が認められていますが、有効性・安全性は確立されていないため、リスクとベネフィットを十分考慮しなければなりません。
エベロリムスの主な副作用は口内炎(約60%)、高コレステロール血症 (約40%)、高血糖(約30%)、下痢(約20%) 間質性肺炎(約15%) だが、まれに甲状腺機能亢進症(0.4%)→おそらくバセドウ病でなく無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)、甲状腺機能低下症を起こします。(Trends Endocrinol Metab. 2020 Mar;31(3):239-255.)(第62回 日本甲状腺学会 P14-6 長期投与下で二相性に甲状腺機能異常をきたしたエベロリムス誘 発性甲状腺機能異常症の1例)
甲状腺癌の腎転移は、日本で約30例の報告があります。甲状腺癌が腎臓に転移すると、腫瘍破裂・腎被膜下出血をおこす事があります。腫瘍破裂すると
- 背部痛おこり
- CTで腎腫瘍の破裂を確認
- 再破裂予防目的で、無水エタノールによる腫瘍焼却術および腎生検を実施(甲状腺乳頭癌の腎転移と診断)
- 甲状腺乳頭癌を探し、甲状腺全摘出術とアイソトープ治療行う。
(第56回 日本甲状腺学会 P2-086 腎転移を認めた甲状腺癌の2 例)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。