免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE) [甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。免疫チェックポイント阻害薬は扱っておりません。
Summary
癌細胞は細胞表面にPD-L1(プログラムド セル デス1)を発現し、癌細胞を破壊するため活性化したTリンパ球細胞と結合、不活化して、Tリンパ球細胞の攻撃を免れる。免疫チェックポイント阻害薬、ニボルマブ(オプジーボ®)はPD-1阻害、イピリムマブ(ヤーボイ®)はCTLA-4阻害の分子標的治療薬で、自己免疫誘発し橋本病(慢性甲状腺炎)の増悪による無痛性(破壊性)甲状腺炎・甲状腺機能低下症の免疫関連有害事象をおこす。稀だが、海外ではバセドウ病、甲状腺眼症、甲状腺クリーゼの報告もある。リンパ球性下垂体炎、副腎皮質機能低下症、劇症1型を含む1型糖尿病も起きる。
Keywords
免疫チェックポイント阻害薬,ニボルマブ,オプジーボ,PD-1,イピリムマブ,ヤーボイ,バセドウ病,破壊性甲状腺炎,甲状腺機能低下症,免疫関連有害事象
悪性黒色腫細胞、肺癌、胃癌等のPD-1(プログラムド セル デス1)阻害するニボルマブ(商品名:オプジーボ)
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)で無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)・甲状腺機能低下症
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、Tリンパ球細胞を活性化し癌に対する免疫力を高めますが、自分自身に対する不必要な免疫(自己免疫)まで誘導します[免疫関連副作用(irAE)]。甲状腺に関しては、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)・甲状腺機能低下症を高頻度におこします。
国内のニボルマブ(商品名:オプジーボ)の臨床試験では、甲状腺機能障害は14.3%、(5/35例)、海外では5.9%(18/306例)でした。やはりヨード摂取量の多い日本人では無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)・甲状腺機能低下症が起こり易いようです。
また、ニボルマブ投与前から甲状腺自己抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]が陽性の場合、甲状腺機能異常は重くなるとされます。
神奈川県立がんセンターの報告では、ニボルマブで甲状腺機能障害を発生する群は投与回数が有意に多かった(8回 vs.4回, p=0.03)とされます。(第60回 日本甲状腺学会 O6-5 ニボルマブによる甲状腺機能障害のリスク因子)
無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)・橋本病(慢性甲状腺炎)は、ヘルパーT細胞(Th1細胞)の活性化が原因で起こるため、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)により活性化されたTh1細胞により、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)・橋本病(慢性甲状腺炎)の増悪による甲状腺機能低下症がおこります。(橋本病とバセドウ病は入れ替わる---元は同じ自己免疫性甲状腺疾患)
ニボルマブによる無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)の特徴
ニボルマブによる無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)は、通常の無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)と異なり、沈静化した後に永続的な甲状腺機能低下症になり易いです。(第59回 日本甲状腺学会 O4-1 ニボルマブによる無痛性甲状腺炎は特徴的な臨床像を呈する)
京都大学の報告では、甲状腺中毒症(無痛性甲状腺炎)11例中8例(約73%)は永続的な甲状腺機能低下症を続発、残り3例(約27.3%)は甲状腺機能低下症おこす事無く軽快したそうです。(第60回 日本甲状腺学会 YIA-2 ニボルマブによる甲状腺機能異常の臨床像の確立と発症機序の探索)
ニボルマブによる無痛性甲状腺炎の予後
ニボルマブで無痛性甲状腺炎おこした場合(前者)、最初から甲状腺機能低下症をおこした場合(後者)よりも悪性黒色腫の予後が良いとの報告があります。症例数が少ないため、統計上、有意と言えませんが、大阪医療センターの報告では、後者8例の内、5 例がニボルマブ投与開始9 ヶ月以内に死亡したが、前者3例の内、2 例が1年以上生存し、1例が報告時5ヶ月存命との事です。(第59回 日本甲状腺学会 O4-3 悪性黒色腫へのニボルマブ投与前後の甲状腺機能と予後に関する検討)
元の癌に対する効果不十分、甲状腺中毒症でニボルマブ中止後、甲状腺自己抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、TRAb]陰性化するも、不可逆性の甲状腺組織の破壊のため、レボチロキシン(チラーヂン)投与を継続した報告もあります。具体的には甲状腺中毒症発症・ニボルマブ中止2ヶ月後、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)、TRAb陰性化、さらに1年後に抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)も陰性化したそうです。
(第61回 日本甲状腺学会 O36-4 抗PD-1抗体投与後に甲状腺機能異常をきたし経過中に甲状腺自己抗体が陰性化した肺癌の一例)
最も、ニボルマブ投薬で、生存期間が数か月伸びたとしても、元の癌で癌死するため、甲状腺の抗体が陰性化するかは、臨床上、問題になりません。
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)でバセドウ病が再発
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)によるバセドウ病の発症は稀だが、海外では報告がありました。日本でも、野口病院が原発性肺腺癌(非小細胞癌性肺癌)にニボルマブ(オプジーボ®)投与し、寛解していたバセドウ病が再燃した例を報告しました。元々、インターフェロン治療で誘発された甲状腺機能亢進症/バセドウ病で、1年以上、無投薬で再発認められなかったが、ニボルマブ(オプジーボ®)投与後に再発、中止後も甲状腺機能亢進症/バセドウ病の状態が続いているそうです。(第60回 日本甲状腺学会 P2-6-3 インターフェロン投与で発症しニボルマブ投与で再燃したバセド ウ病タイプの薬剤性甲状腺中毒症の一例)
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)でバセドウ病が発症
イタリアのピサ大学の報告では、TSH受容体自己抗体(TRAb)は陰性ながら、甲状腺中毒症の持続性、甲状腺超音波(エコー)検査での血流増加、甲状腺シンチグラフィーでの取り込み増加で、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合致する所見でした。メチマゾール(日本ではメルカゾール®)投与で速やかに甲状腺機能正常化したそうです。(Eur Thyroid J. 2019 Jul;8(4):192-195.)
他の報告でもTRAbは陰性です(Case Rep Endocrinol. 2019 Oct 17;2019:2314032.)が、そもそもTRAbは発症直後は陰性で、甲状腺ホルモンの上昇に遅れて上昇するものです(TRAb陰性甲状腺機能亢進症/バセドウ病)。
しかし、日本(群馬大学)ではTRAbは陰性でも、TS-Abの上昇を確認し、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と診断しています。やはり、発症直後はTRAbよりTS-Abの方が陽性率が高いです(TR-AbとTS-Abの違い)。(第62回 日本甲状腺学会 P14-2 ニボルマブ投与によりTSAB陽性の甲状腺中毒症をきたした1例)
さらに、ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ) と同様に、最初からTRAb・TS-Ab陽性になるケースも報告されています。しかも、日本医科大学千葉北総病院の報告では、ニボルマブ投与前の保存検体ではTRAb・TS-Ab陰性だったそうです。(第62回 日本甲状腺学会 P13-5 二ボルマブ投与後にバセドウ病を発症した1例)
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)で発症した甲状腺機能亢進症/バセドウ病の転帰
ニボルマブを中止し、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)投与を開始。甲状腺機能改善に伴い減量し、ニボルマブを再開したが、TS-Abは陰性化、甲状腺ホルモンも正常化、興味ある事に、再度の甲状腺機能異常は認めなかったそうです。 (第62回 日本甲状腺学会 P14-2 ニボルマブ投与によりTSAB陽性の甲状腺中毒症をきたした1例)
ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)も同じ抗PD-1 抗体で、
- 悪性黒色腫
- 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
- 再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
- がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮癌
- がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)
- 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
- 再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌
甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療中に無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)が起きる
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で抗甲状腺薬投与中にペムブロリズマブ(キイトルーダ®)使用すると無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)が起きる事があります。
メルカゾール2錠投与中に甲状腺中毒症になれば、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発したと考えるのは自然ですが、報告例では明らかに無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)です(メルカゾール増やさないのに自然軽快)。
しかも、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)を起した後は、
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性が低下したのか
- 甲状腺組織が破壊されたためホルモン産生量が減ったのか
分かりませんが、逆にメルカゾール1錠隔日投与でコントロール良好になったそうです。(第61回 日本甲状腺学会 O36-7 ペムブロリズマブ投与後に破壊性甲状腺炎をきたしたバセドウ の一例)
同様の報告は、アメリカでもあり。甲状腺機能亢進症/バセドウ病で抗甲状腺薬(メルカゾール)等投与中にペムブロリズマブ(キイトルーダ®)使用し、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)発症。薬物治療で抑えきれず、甲状腺全摘手術になったそうです。(Endocr Pathol. 2019 Jun;30(2):163-167.)
ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)で甲状腺機能亢進症/バセドウ病が新規発症
ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)で甲状腺機能亢進症/バセドウ病が新規発症した報告は、日本で多く、最初からTRAb陽性になるケースが多いです。(第62回 日本甲状腺学会 P13-4 抗PD-1抗体ペムブロリズマブ投与後にTRAb陽性の甲状腺中毒症を呈した1例)
マイクロサテライト不安定性(Microsatellite Instability:MSI)
マイクロサテライトは、1~数塩基の塩基配列が繰り返すDNAの一部で、DNA複製時に繰り返し回数のエラーが生じやすい。癌細胞ではミスマッチ修復(MMR)機能の低下によりマイクロサテライトの繰り返し回数が異常になります(マイクロサテライト不安定性:MSI)。(J Clin Oncol. 2010 Jul 10; 28(20):3380-7.)
マイクロサテライト不安定性が高いMSI-High固形癌は11種類あり、子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、結腸・直腸癌、子宮頸癌、神経内分泌腫瘍、甲状腺癌(末期のみ)(Science 2017; 357:409-413)。ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)はMSI-High固形癌に有効とされます。
マイクロサテライト不安定性(MSI)検査(FFPE)は商品化され一部の検査センターで受注している様です。※長崎甲状腺クリニック(大阪)では契約しておりません。
末期甲状腺癌の新たな治療選択肢にならない
放射線治療無効な、根治切除不能な甲状腺癌 に レンビマ ネクサバール バンデタニブ(カプレルサ錠®) が使用されますが、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)は新たな選択肢となる可能性がありました。
海外の報告では、
- マイクロサテライト不安定性(MSI)を持つ甲状腺癌は80%以上です(BMC Cancer 13:1–7)
- しかし、マイクロサテライト不安定性が高い(MSI-high)のは、甲状腺癌の中で甲状腺濾泡癌だけで、それでも、わずか2.5%(40人に一人)と確率は極めて低く、実際ほとんど役に立たない。 (Thyroid. 2019 Apr;29(4):523-529.)
癌細胞を攻撃するヒト細胞傷害性T細胞は、CTLA-4(Cytotoxic T Lymphocyte Antigen-4; ヒト細胞傷害性T細胞抗原 4)を発現し、癌の抗原を提示する樹状細胞に結合、自己の過剰な活性化を抑制します。
イピリムマブ(商品名ヤーボイ)はCTLA-4を標的とした免疫チェックポイント阻害薬で、CTLA-4に結合し、ヒト細胞傷害性T細胞が不活化されるのを防ぎます。切除不能な悪性黒色腫などに保険適応があります。
自己免疫性下垂体炎(下垂体irAE)
続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症=ACTH分泌不全には、生理量ヒドロコルチゾン 10-20mg/日を投与。
- 薬理量(自己免疫を抑える大量)のグルココルチコイド(副腎皮質ステロイド薬)は予後改善のエビデンスがないため推奨されません。
- 副腎皮質ステロイド薬、プレドニゾロンの大量投与は、免疫チェックポイント阻害薬で高められた癌免疫も低下するため、原疾患(元の癌)の全生存期間を短くする可能性あり(Cancer 124(18):3706-3714, 2018)。
ただし、下垂体腫大による視神経圧迫・視力視野の障害、頭蓋内圧亢進による頭痛がある場合、プレドニゾロンの大量投与を検討。
免疫チェックポイント阻害薬によるT細胞活性化作用により、過度の免疫反応が誘発されると、自己免疫疾患疾患が発症します。特に内分泌系(甲状腺、下垂体、副腎、膵臓のランゲルハンス島)の自己免疫疾患疾患が問題になっています。内分泌系の免疫関連有害事象 (immune-related adverse event, irAE)は、自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎以外にも、原発性副腎皮質機能低下症、劇症1型を含む1型糖尿病などです。
内分泌系の免疫関連有害事象 (irAE)は、複数の内分泌腺(内分泌臓器)が時間差を置いて発症します。そのため、最初の疾患の治療中に別の疾患が加わり、治療内容の変更を余儀なくされます。特に、甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモン剤を投与中、副腎皮質機能低下症が発症すれば、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が甲状腺ホルモン剤により分解されるので重症化します。
逆に、副腎皮質機能低下症に副腎皮質ホルモン剤を投与中、破壊性甲状腺炎・バセドウ病が発症すれば、副腎皮質ホルモン剤が甲状腺ホルモン(T3)により分解され重症化します。
他の内分泌腺(内分泌臓器)にも異常が起きないか、常に注意を払う必要があります。
免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE)
自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎(下垂体irAE)
自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎が
- 抗PD-1 抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の1%前後(J Clin Endocrinol Metab. 98:1361−1375,2013.)。
- 抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)の3.8%(JAMA Oncol. 2018 Feb 1;4(2):173-182.)。
、投与後7週以降に起こります。不思議な事に報告例のほとんどはACTH(副腎皮質刺激ホルモン)単独欠損症による続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症です。
甲状腺学会での報告ですが、下垂体irAEとしてのACTH単独欠損症の約半数はACTHが正常範囲にあるとされます。要するにコルチゾール(副腎皮質ホルモン)の低下に応じたACTHの上昇が起こらないと言う事です。(第63回 日本甲状腺学会 CR2-4 抗PD-1抗体による下垂体関連有害事象は甲状腺機能異常を合併する)
免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎(下垂体irAE)が起これば、
- 逆に原疾患(元の癌)の全生存期間は有意に延長(Ann Oncol28(3):583-589, 2017)(Cancer 124(18):3706-3714, 2018)
- 副腎皮質ステロイド薬、プレドニゾロンの大量投与は、
①免疫チェックポイント阻害薬で高められた癌免疫も低下するため、原疾患(元の癌)の全生存期間を短くする可能性(Cancer 124(18):3706-3714, 2018)
②続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症の予後を改善すると言うエビデンスは無い
などの理由で
続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症=ACTH分泌不全がある場合、生理量ヒドロコルチゾン 10-20mg/日を投与
ただし、副腎クリーゼ(急性副腎不全)の場合は副腎皮質ステロイド薬大量投与してステロイドレスキュー治療行う。 - たとえ免疫チェックポイント阻害薬を中止しても自己免疫性(リンパ球性)下垂体炎の経過は不変。一端おこると最後まで止まらない(ClinCancer Res 21(4):749-755, 2015)。
- TSH分泌障害(中枢性甲状腺機能低下症)、性腺刺激ホルモン分泌障害は可逆的でも、ACTH分泌障害[続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症]は永続性(Clin Cancer Res. 2015;21(4):749–755.)。
高カルシウム血症で副腎皮質機能低下症
免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫性副腎皮質機能低下症は報告例が少なく、正確な頻度は不明ですが0.7%とされます。抗PD-1 抗体と抗CTLA-4抗体のコンビネーション治療で増え、4.2%になります。(JAMA Oncol. 2018 Feb 1;4(2):173-182.)
免疫チェックポイント阻害薬投与中に高カルシウム血症おこれば、続発性(2次性、下垂体性)副腎皮質機能低下症、原発性副腎皮質機能低下症の発症を疑わねばなりません(副腎皮質機能低下症でも高カルシウム血症 )。
もちろん、無痛性甲状腺炎単独でも高カルシウム血症は起こり得ますが(甲状腺と高カルシウム血症 )、副腎皮質機能低下症も同時発症していると、さらに高カルシウム血症になります。報告では、補正Ca 13.2mg/dlまで上昇し、プレドニゾロン(PSL)30mg点滴静注、 ゾレンドロン酸静注により血清カルシウム値は低下したそうです。(第60回 日本甲状腺学会 P2-6-4 悪性黒色腫に対するニボルマブ治療中止後2ヶ月目に強い倦怠感・ 嘔気を伴う甲状腺中毒症、高カルシウム血症で緊急入院となった 一例)
インスリン依存型糖尿病
免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫性インスリン依存型糖尿病は報告例が少なく、正確な頻度は不明ですが0.2%とされます。(JAMA Oncol. 2018 Feb 1;4(2):173-182.)
免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)で劇症1型糖尿病と無痛性甲状腺炎を同時発症した報告もあります(Tohoku J Exp Med. 2018 Jan;244(1):33-40.)。このケースの劇症1型糖尿病は、明らかに自己免疫性インスリン依存型糖尿病が、加速されて発症しただけと筆者は考えています。
免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE)は、
- 発症頻度はニボルマブで約7% 、イピリムマブで約2%
- 約6割は投与3ヶ月以内に発症
- 日本では無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)がほとんど
- 最初から甲状腺機能低下症をおこす事もあり
- 海外では多く、日本では稀だが、バセドウ病や甲状腺眼症(Eur J Endocrinol. 2011 Feb; 164(2):303-7.)の報告もある
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療中に無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)が起きる
- 軽症が多いが、海外では甲状腺クリーゼの報告が2例ある
- 免疫チェックポイント阻害薬投与前より、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)や抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が陽性の場合、陰性例に比べ
無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)発症する確率が高く(50% vs 1.7%)
永続的な甲状腺機能低下症になった後の甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)補充量が多くなる(Endocr Pract. 2019 Aug;25(8):824-829.)(J Endocr Soc. 2018 Feb 6;2(3):241-251.) - 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)や抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)が経過中に陽性化すると、顕在性甲状腺機能低下症に移行する頻度が高い
- 副腎皮質ホルモンで顕性甲状腺機能低下症への移行を阻止できるかどうか不明
甲状腺中毒症[無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)、バセドウ病含む]
甲状腺中毒症[無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)、バセドウ病含む]は、抗PD-1 抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の1.0-7.7%、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)の1.0-2.3%に起きます(JAMA Oncol. 2018 Feb 1;4(2):173-182.)
群馬大学の報告では、3例だけだが、甲状腺中毒症発症時・発症後に、何らかの理由で(効果不十分・下垂体炎、薬剤性肺炎、サルコイ ドーシス様の両側肺門リンパ節腫脹を発症した)免疫チェックポイント阻害薬を中止、または高用量プレドニゾロン投与すると永続性甲状腺機能低下症への移行を阻止できる可能性があるとされます。(第60回 日本甲状腺学会 P2-6-1 当院で経験した免疫チェックポイント阻害薬投与後に甲状腺機能異常を呈した6例の臨床的特徴)
しかし、筆者が思うに、免疫チェックポイント阻害薬で高められた癌免疫も、ステロイド(高用量プレドニゾロン)で低下するため、何もしない方が良いケースもあるかもしれません。
最初から甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、抗PD-1 抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の0.5-3%、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)の2.3-6.5%に起きます(JAMA Oncol. 2018 Feb 1;4(2):173-182.)
免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE)おこした場合の予後
免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE)が起これば、逆に原疾患(元の癌)の全生存期間は有意に延長(Ann Oncol28(3):583-589, 2017)(Cancer 124(18):3706-3714, 2018)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の再発・甲状腺眼症を除けば、甲状腺irAE発症しても容易に対処できる事が多いため、甲状腺irAE発症リスク患者が免疫チェックポイント阻害薬の良い適応かもしれない。
免疫チェックポイント阻害薬による内分泌異常は、異所性異時性に発症します。複数の内分泌腺の障害が、同時、もしくは時間差を置いて発症。
免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺中毒症[無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)]と下垂体炎の合併報告もあります。特に、抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体の併用治療を受けている患者に起こり易く、下垂体炎と破壊性甲状腺炎の発症までの時間は短いです(Version 2. Genes Dis. 2016 Dec;3(4):252-256.)
甲状腺中毒症[無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)]の急性期が過ぎて、甲状腺機能低下期に続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症=ACTH分泌不全が起きた場合は、さほど問題にはなりません。先行してヒドロコルチゾンを投与、補充した後、甲状腺ホルモンを開始。(In Vivo. 2018 Mar-Apr;32(2):345-351.)
しかし、甲状腺中毒症[無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)]の急性期に続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症が同時発症すると、過剰な甲状腺ホルモンが副腎皮質ホルモンを分解するため、副腎不全の重症度が増します。
報告例では、プレゾニゾロン(PSL)70mg/日の大量投与おこない、甲状腺中毒症は沈静化、甲状腺機能も正常に回復するも、続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症は改善せず、ハイドロコルチゾンの補充療法のみを継続したそうです。(第62回 日本甲状腺学会 P13-3 抗CTLA4抗体イピリムマブ投与にて破壊性甲状腺炎、薬剤誘発性 肺炎、下垂体炎など多彩な自己免疫関連有害事象を呈した悪性黒 色腫の一症例)
また、ニボルマブ投与3ヶ月後に無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)を発症し、ニボルマブ中止4ヶ月後に続発性(下垂体性)副腎皮質機能低下症→ACTH単独欠損症を発症した報告もあります。(J Med Case Rep. 2019 Mar 26;13(1):88.)
免疫チェックポイント阻害薬による下痢は、通常の抗がん剤による下痢とは異なります。重症下痢にはステロイド剤を投与。ロペラミド(ロペミン)などの止瀉薬は、かえって重症化させる危険があるため要注意。
無痛性甲状腺など甲状腺中毒症が起きている時は、下痢しやすいです(甲状腺ホルモンと便秘・下痢)。
ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とペムグロリズマブ(商品名キイトルーダ)は、非小細胞肺がんに対しても保険適応が認められています。特に、喫煙者、EGFR変異が無い、中枢神経転移がない患者に有効との事です。組織の免疫染色で、PD-L1陽性なら当然効きます。
また、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、
- 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
- 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
- 再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
- 再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌
- がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌
- がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫
などにも適応が拡大されています。更に適応される癌の種類が増える勢いです。
さらに同じような免疫チェックポイント阻害薬が続々と販売、治験入りしています。結局、同じ様な作用機序であるため、頻度こそ多少違えど、同じ免疫関連副作用[免疫関連有害事象, irAE]が起きて、甲状腺・下垂体・副腎の内分泌障害が生じます。
例えば、イミフィンジ®(デュルバルマブ)、テセントリク®(アテゾリズマブ)などです。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。