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甲状腺髄様癌の治療、バンデタニブ(カプレルサ錠®)・ セルペルカチニブ(レットヴィモ®)[橋本病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺髄様癌 超音波(エコー)画像 エラストグラフィー

甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。

その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

長崎甲状腺クリニック(大阪)ではバンデタニブ(カプレルサ錠®)・ セルペルカチニブ(レットヴィモ®)を取扱っておりません。

Summary

遺伝性髄様癌は遺伝子診断で確定すれば甲状腺全摘出。散発性(非遺伝性)甲状腺髄様癌は範囲にあわせた切除。根治切除不能な甲状腺髄様癌に分子標的薬バンデタニブ(カプレルサ)、セルペルカチニブ(レットヴィモ)、レンバチニブ、ソラフェニブが保険適応。甲状腺髄様癌診療ガイドラインでは①RET遺伝子C634変異は高リスク変異で5歳以下②最も予後悪いMEN2B型は生後1年以内の予防的甲状腺全摘をが推奨。日本で年齢のみの予防的甲状腺全摘術が行われた例はない。甲状腺髄様癌が見つかった後か、見つからなくても血清カルシトニンが高値またはカルシウム負荷試験で上昇した場合のみ。

Keywords

遺伝性髄様癌,遺伝子診断,散発性甲状腺髄様癌,バンデタニブ,カプレルサ,RET遺伝子,予防的甲状腺全摘,カルシトニン,カルシウム負荷試験,治療

甲状腺髄様癌の治療指針

甲状腺髄様癌の治療は、

  1. 遺伝性髄様癌の場合、遺伝子診断で確認されれば、甲状腺全摘出。頚部リンパ節廓清も(郭清範囲は病期やカルシトニン値を参考に)。
      
  2. 散発性(非遺伝性)の場合、
    甲状腺髄様癌の広がりや大きさに合わせて切除範囲を決める(要するに必ずしも甲状腺全摘出が必要でない。)。
    ②甲状腺全摘を原則とする
    の両意見があります。
    頚部リンパ節廓清も(郭清範囲は病期やカルシトニン値を参考に)。

根治切除不能な甲状腺髄様癌には、分子標的薬が保険適応。バンデタニブ(カプレルサ®)、レンバチニブ(レンビマ®)、ソラフェニブ(ネクサバール®)の3 剤全てが使用可能。(放射線治療無効な分化型甲状腺癌にネクサバール錠®・レンビマカプセル®

散発性(非遺伝性)甲状腺髄様癌の切除範囲

散発性(非遺伝性)甲状腺髄様癌では、甲状腺全摘出せずに、甲状腺髄様癌の広がりや大きさにより切除範囲を決める方針は非現実的だと思います。

そもそも、遺伝子診断し、「既知の遺伝子変異なし」の結果でも、100%遺伝性髄様癌を否定できません。まだ報告されていない新規遺伝性変異の遺伝性髄様癌の可能性が残ります。

甲状腺髄様癌の予防的全摘出

甲状腺髄様癌は、まだ発生していないが、遺伝性甲状腺髄様癌の家系であり、遺伝子診断が確定した場合、予防的甲状腺全摘出が勧められています。遺伝性髄様癌ではRETの変異部位とリスク分類、予防的手術の時期のガイドラインがアメリカ甲状腺学会により発表されています。遺伝性髄様癌をHighest、High、Moderateの3危険群に分け、表の様になります。

(表;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)

遺伝性髄様癌、予防的手術のガイドライン

アメリカ甲状腺学会の甲状腺髄様癌診療ガイドライン(2015年)では、

  1. RET遺伝子コドン634変異(C634)の甲状腺髄様癌は高リスク変異で、5歳以下の予防的甲状腺全摘が推奨されています。
  2. 最も予後の悪いMEN2B型は、生後1年以内で予防的甲状腺全摘出おこないます。
    (Revised American Thyroid Association Guidelines for the Management of Medullary Thyroid Carcinoma Thyroid. 2015 Jun 1; 25(6): 567–610. )

欧米では標準的ですが、日本で年齢のみを根拠とした予防的甲状腺全摘術が行われた事は一度もなく、

  1. 実際に甲状腺髄様癌が見つかった後
  2. 甲状腺髄様癌が見つからなくても血清カルシトニンが高値またはグルコン酸カルシウム負荷試験でカルシトニンが上昇する場合(超音波(エコー)検査で見つからない微小な甲状腺髄様癌か、前癌段階の甲状腺C細胞過形成)

の時だけです。

幼少時の手術は合併症のリスクが成人よりも大きく、手術後の甲状腺ホルモン、ビタミンD・カルシウムの補充を(脳神経・身体の発育に直結するため)厳格に行わねばなりません。

日本の遺伝性甲状腺髄様癌は、欧米とは異なり、最も予後の悪い多発性内分泌腺腫症2B型(MEN2B)でも、再発は繰り返すものの長期生存例が多いため、甲状腺に腫瘍が確認されない限り予防的甲状腺全摘手術は行わない施設がほとんどです(甲状腺髄様癌の予後)。

しかし、筆者の経験では、甲状腺に腫瘍が確認された時点で、甲状腺全摘手術しても、術後に血清カルシトニン値が正常化した事はなく、その後、延々と再発を繰り返すため、遅いと思います。やはり、

  1. 血清カルシトニン値が上昇した時点
  2. 血清カルシトニン値が正常でもカルシウム負荷試験でカルシトニンが上昇した時点
    (※長崎甲状腺クリニック(大阪)ではカルシウム負荷試験を行っておりません。)

は、超音波(エコー)検査で見つからない微小な甲状腺髄様癌か、前癌段階の甲状腺C細胞過形成)が存在するため、甲状腺全摘手術に踏み切る方が良いと思います。

根治切除不能な甲状腺髄様癌にバンデタニブ(カプレルサ錠®)・ セルペルカチニブ(レットヴィモ®)

バンデタニブ(カプレルサ錠®)

甲状腺髄様癌ではRET遺伝子変異が高率に認められるため、

  1. 血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)
  2. 上皮増殖因子受容体(EGFR)
  3. RET受容体

などのチロシンキナーゼを阻害する分子標的薬(マルチキナーゼ阻害薬)バンデタニブ(カプレルサ錠®)が根治切除不能な甲状腺髄様癌患者に使用されます。

約半数以下の患者で甲状腺髄様癌が縮小するものの(第3相試験にて奏効率43.7%)、ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)と同じく無増悪生存期間の延長が認められるのみで、甲状腺髄様癌を消滅させる事はできません。[J Clin Oncol. 2012 Jan 10;30(2):134-41.]

副作用は全症例(100%)におこり、

  1. 発疹・ざ瘡、光線過敏症などの皮膚症状(71.4%)
  2. 下痢(71.4%)、高血圧(64.3%)
  3. 角膜混濁(42.9%)
  4. 疲労(42.9%)
  5. 重大な副作用;間質性肺炎、QT間隔延長(最初の1か月でおこりやすい)、心室性不整脈(Torsade de pointesを含む)など

これでは甲状腺髄様癌自体による癌死より、薬の副作用で命を落とすで・・・・・。日本人の甲状腺髄様癌の予後は、転移しまくっていても悪くないという報告が多いのに( 甲状腺髄様癌の予後 )。

バンデタニブ(カプレルサ錠®)はマルチキナーゼ阻害薬につき、標的遺伝子に対する特異性が欠如しているため、薬物関連毒性が高くなり、減量、中断または中止につながるのが大きな問題です。さらに、マルチキナーゼ阻害薬は新たな遺伝子変異[RET Val804残基ゲートキーパー遺伝子変異(RET Val804 residue gatekeeper mutations)]による薬剤耐性をおこし、後述のRET阻害薬 レットヴィモ®(セルペルカチニブ:selpercatinib)を効きにくくします。[Ther Adv Med Oncol. 2022 Jun 21:14:17588359221101691.]

E768D変異ではバンデタニブ(カプレルサ錠®)の治療効果が高い

家族性甲状腺髄様癌(FMTC)のみに現れるE768D変異に対して、バンデタニブ(カプレルサ錠®)の治療効果が高いとの報告があります(Endocrinol Metab Clin North Am. 2019 Mar;48(1):285-301.)。

もちろん、甲状腺髄様癌が縮小するのみで、完治する訳でなく、副作用のため休薬になるお決まりのパターンです。元々、E768D変異の家族性甲状腺髄様癌(FMTC)は、予後が悪くないとされ(Fam Cancer. 2006;5(2):201-4.)、バンデタニブ(カプレルサ錠®)を使用する意義があるのか否か疑問が残ります。

ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)

レンバチニブは、

  1. 日本における全組織型の甲状腺癌を対象とした第2相試験にて、甲状腺髄様癌に対する奏効率22.2%、無増悪生存期間中央値9.2ヶ月。[Future Oncol. 2019 Mar;15(7):717-726.]
      
  2. 海外における甲状腺髄様癌を対象とした第2相試験にて奏効率36%、無増悪生存期間中央値9 ヶ月。[Clin Cancer Res. 2016 Jan 1;22(1):44-53.]

ソラフェニブは、日本における甲状腺未分化癌甲状腺髄様癌を対象とした第2相試験にて甲状腺髄様癌に対する奏効率25.0%、病勢制御率75%。[Thyroid. 2017 Sep;27(9):1142-1148.]

これらの薬剤はマルチキナーゼ阻害薬につき、標的遺伝子に対する特異性が欠如しているため、薬物関連毒性が高くなり、減量、中断または中止につながるのが大きな問題です。さらに、マルチキナーゼ阻害薬は新たな遺伝子変異[RET Val804残基ゲートキーパー遺伝子変異(RET Val804 residue gatekeeper mutations)]による薬剤耐性をおこし、後述のRET阻害薬 レットヴィモ®(セルペルカチニブ:selpercatinib)を効きにくくします。[Ther Adv Med Oncol. 2022 Jun 21:14:17588359221101691.]

 レットヴィモ®(セルペルカチニブ:セルパーカチニブ:selpercatinib)

RET阻害薬 レットヴィモ®(セルペルカチニブ:セルパーカチニブ:selpercatinib)は、

  1. RET融合遺伝子陽性の根治切除不能な甲状腺癌(甲状腺乳頭癌甲状腺低分化癌も含まれる)
    (第1-2相試験にて、治療歴のあるRET融合陽性甲状腺がん患者に対する奏効率79%、1年無増悪生存率64%)
      
  2. RET遺伝子変異陽性の根治切除不能な甲状腺髄様癌
    (第1-2相試験にて、バンデタニブ、カボザンチニブ投与歴がある患者に対する奏効率69%、1年無増悪生存率82%)
    (第1-2相試験にて、バンデタニブ、カボザンチニブ投与歴がない患者に対する奏効率73%、1年無増悪生存率92%)
      
  3. RET融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌

に承認されています(2022年 5月)。セルペルカチニブのコンパニオン診断薬であるオンコマインDx Target TestマルチCDxシステムでRET遺伝子変異を確認。この診断薬は保険適応があり、しかも遺伝子パネル検査に該当しないため、標準治療を省いて使用することができます。

全ての有害事象を合わせるとほぼ100%(94%)に副作用が出現。グレード3以上の重い有害事象は66%に認められ、高血圧(21%)、アラニンアミノトランスフェラーゼ値の増加(11%)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値の増加(9%)、低ナトリウム血症(8%)、下痢(6%)・便秘(1%)、低カルシウム血症(5%)、QT延長症(2%)。2%が薬物関連の有害事象のためにセルペルカチニブを中止。それでもバンデタニブ、ソラフェニブ・レンバチニブと比べて、はるかに少ない。

その他、グレード2以下の軽い有害事象は、口渇・口内乾燥、血中クレアチニン値の上昇、発疹・手足症候群(17%)、肝機能障害、甲状腺機能低下症など。セルペルカチニブ特有の過敏症

(現在も進行中の国際共同第1/2相試験 LIBRETTO-001のデータ)[N Engl J Med. 2020 Aug 27;383(9):825-835.]

早い話、RET遺伝子変異さえ確認できれば、わざわざ効果に乏しく、副作用が多過ぎる非特異的マルチキナーゼ阻害薬バンデタニブ、ソラフェニブ・レンバチニブを使う必要はなく、最初からRET特異的阻害薬であるレットヴィモ®(セルペルカチニブ)を使用した方が良い。

しかも、先に非特異的マルチキナーゼ阻害薬[バンデタニブ、カボザンチニブ(日本未発売)]を使用すると、最初からレットヴィモ®(セルペルカチニブ)を使用した場合に比べて奏効率が低下します。いわゆる抗がん剤耐性が誘導されたと考えられます。[N Engl J Med. 2020 Aug 27;383(9):825-835.]

セルペルカチニブ誘発性甲状腺機能障害

セルペルカチニブには2型脱ヨウ素酵素(D2)を抑制するoff-target効果があり、甲状腺ホルモン剤(合成T4製剤、レボチロキシン)補充中の甲状腺全摘出患者のT3値を約60%低下させます(セルペルカチニブ誘発性甲状腺機能障害)。

海外では合成T3製剤のリオチロニンを使用したそうです。[JCO Precis Oncol. 2022 Jun:6:e2100496.]

セルペルカチニブ特有の過敏症

セルペルカチニブ特有の過敏症が存在します。甲状腺がんではなく、非小細胞肺癌に対する第1-2相試験 LIBRETTO-001のデータでは7%におこり、以前、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を投与されていた患者で起こりやすいとされます(甲状腺がんでこの状況はゼロに近いですが)。[J Thorac Oncol. 2022 Jun;17(6):768-778.]

  1. 発熱
  2. 関節痛/筋肉痛
  3. 黄斑丘疹(皮疹を伴わないこともある)
  4. 肝酵素上昇
  5. 血小板減少
  6. 低血圧
  7. 頻脈
  8. クレアチニン上昇

などで、可逆性とされます。

伊藤病院の報告(当然、甲状腺がんに対して)では、

  1. 開始後3週目に発熱と肝障害にて過敏症と診断
  2. 過敏症発現頻度は第1-2相試験 LIBRETTO-001のデータよりも高い可能性がある
  3. 症状が複数なら過敏症を疑い、 速やかにセルペルカチニブを休薬してプレドニゾロン投与
  4. プレドニゾロンを漸減・中止しながら、(これは主治医の判断になるんでしょうが)セルペルカチニブを少量から再開
(第66回 日本甲状腺学会 P22-3 甲状腺癌に対するセルペルカチニブによる過敏症の経験)

甲状腺外科

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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