根治切除不能甲状腺がんにレンビマ®(レンバチニブ)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
長崎甲状腺クリニック(大阪)ではレンビマ®カプセル(レンバチニブ)を取扱っておりません。
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レンビマカプセル®(レンバチニブ)(本ページ)
Summary
レンビマカプセル®4mg(レンバチニブ)は甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)、甲状腺髄様癌・甲状腺未分化癌含む根治切除不能甲状腺がんに適応ある分子標的薬。腫瘍血管新生・腫瘍悪性化に関与する受容体型チロシンキナーゼ(VEGFR、FGFR、RET)の選択的阻害。ネクサバール錠®(ソラフェニブ)抵抗性に効く事も。血管新生阻害作用強いため高血圧・ネフローゼ症候群・出血・血栓症の副作用、腫瘍が壊死すると出血の危険。可逆性後頭葉白質脳症、薬剤性心筋症も。気管浸潤病変で①出血、壊死組織が気管閉塞②気管瘻形成。休薬すると急激に甲状腺癌が進行するフレア現象。
Keywords
レンビマ,レンバチニブ,甲状腺,甲状腺乳頭癌,甲状腺未分化癌,甲状腺がん,分子標的薬,副作用,出血,フレア現象
レンビマカプセル®4mg(一般名:レンバチニブメシル酸塩)は、甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)のみならず、甲状腺髄様癌・甲状腺未分化癌を含む「根治切除不能な甲状腺がん」に適応のある日本で始めての分子標的薬です。
レンビマ®(レンバチニブ)は、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR) や線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、KIT、RET などの腫瘍血管新生・腫瘍悪性化に関与する複数の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に対する選択的阻害薬です(m-TKI:multi-targeted tyrosine kinase inhibitor)。
特に甲状腺がんの増殖、腫瘍血管新生に関与するVEGFR、FGFR およびRET を同時に阻害します。
※要するに、レンビマ®(レンバチニブ)の作用機序は、甲状腺がんの
- 血管新生を阻害し増殖を抑える
- 更に、酸素供給を減らし壊死させる
- 増殖自体を抑える
臨床第III相試験(SELECT試験)において、
- 無増悪生存期間(甲状腺がんが進行せず安定した状態である期間)は、レンビマ®(レンバチニブ)群で中央値18.3か月、プラセボ群(有効成分の入っていない薬を飲んだ群)で3.6か月(ハザード比0.21)
- 64.8%にレンビマ®(レンバチニブ)投薬に対する反応(改善)があった
要するに、約1年半寿命が延びるということですが、様々な副作用に悩まされます[レンビマ®(レンバチニブ)の副作用]。
レンビマ®(レンバチニブ)の実際の使用方法として、
- 推奨量は24mg/日ですが、副作用のため継続困難なことが多く、減量しつつ副作用をコントロールできる量で維持します。レンビマ®(レンバチニブ)の治療効果は高く、有害事象(副作用)をコントロールしながら投与継続しなければなりません。ただし、命に係わる重篤(重症)な副作用なら中止も止む無しです。
- 愛媛大学臨床腫瘍学の報告では、8-10mgから開始し増量していくのが現実的との事です。その量でも、早期に甲状腺がんは縮小し、治療効果は大きいとの意見です。(第114回 日本内科学会 156 進行期甲状腺がんに対するレンバチニブ治療の検討)
切除不能な肝細胞癌に対する使用量は12mg/日なので、そのくらいの量で良いと筆者は考えます。長期的な維持量としては4-12mg(隔日 or 連日 or 週数日)が現実的です。
ネクサバール錠®(ソラフェニブ)が、最初は効いていても治療抵抗性になる場合があります。レンビマ®(レンバチニブ)に変更し、病勢の増悪無く経過した甲状腺未分化癌の症例が報告されています。(第59回 日本甲状腺学会 O4-5 ソラフェニブ無効となった甲状腺乳頭癌に対してレンバチニブへ変更した一例)
レンビマ®(レンバチニブ)の副作用はネクサバール®(ソラフェニブ)と同じようなものですが、ネクサバール®(ソラフェニブ)より血管新生阻害作用が強いため、高血圧・ネフローゼ症候群・出血・血栓症が多いとされます。そのため、血管合併症の多い糖尿病患者には使い難いです。また、レンビマ®(レンバチニブ)投与で甲状腺癌が縮小する時、糖尿病が増悪した報告があります(BMC Cancer. 2018 Jun 28;18(1):698.)。癌細胞が崩壊する時に放出されるサイトカインが原因かもしれません。
レンビマ®(レンバチニブ)治療の副作用は高血圧(67.8%)、下痢(59.4%)、疲労感(59.0%)、食欲不振(50.2%)、体重減少(46.4%)、吐き気(41.0%)、口内炎(36.8%)、蛋白尿(32.6%)、手掌・足底発赤知覚不全症候群(31.8%)でした。14.2%の甲状腺癌患者が副作用により使用中止。(国際共同第Ⅲ相試験)
レンビマ®(レンバチニブ)治療における口内炎の発症時期は退院後に多く、痛みで食事が摂り難くなります。甲状腺癌患者が、ある程度、自己管理せねばなりませんが、対処法は、潜在性シェーグレン症候群/顕在性シェーグレン症候群における生活上の注意に準じればよいと思います。
甲状腺学会でも、全科が関わるような副作用に「がん専門医でない甲状腺専門医が対応できるのか?」との意見が相次ぎました。確かに、これほど重篤(重症)な副作用のオンパレードでは甲状腺専門病院・クリニックでの対応は不可能と思えます。甲状腺専門医がいて、かつ全科そろった大学病院クラスでなければ使用は困難でしょう。
レンビマ®(レンバチニブ)の肺転移例に対する使用は要注意。レンビマ®(レンバチニブ)が効いて癌組織が壊死すると、以下の様な事態になる事があります。
- 気胸の危険(臓側胸膜に浸潤する病変で)
- 気管浸潤する病変では
①レンビマ®(レンバチニブ)は血管新生阻害作用が強いため出血→失血死、気管閉塞、窒息の危険
②壊死した癌組織が剥がれ落ち、気管閉塞、窒息の危険
②癌の一部が壊死し気管瘻(瘻孔)を形成
しかし、甲状腺未分化癌自体の気管浸潤で窒息の危険がある場合、使わざる得ない。気管瘻形成でレンビマ®(レンバチニブ)中止するとフレア現象をおこす危険性。
特に、甲状腺未分化癌、白血球減少症が生じた場合に起こり易いとされます。(Anticancer Res. 2019 Jul;39(7):3871-3878.)
レンビマ®(レンバチニブ)は血管新生阻害作用が強く、腫瘍が壊死すると出血をおこす可能性があります。肺・骨転移では、気管内に浸潤した状態でなければ、問題になりません。しかし、脳転移では、即、脳出血に至ります。
だからと言って、脳転移例に対するレンビマ®(レンバチニブ)使用が禁忌と言う訳ではありません(レンビマ®(レンバチニブ)は最終手段なので)。主治医は、脳出血の危険性について、あらかじめ患者に説明しておくべきでしょう。
甲状腺癌の頸動脈浸潤、頸椎転移による椎骨動脈浸潤に対してレンビマ®(レンバチニブ)を使用すると、癌病変の壊死・縮小・それに伴う感染などから頸動脈・椎骨動脈破綻出血をおこし致死的になります。[Int Cancer Conf J. 2016 Jul 27;5(4):197-201.]
頸動脈破綻出血が起こり、救命目的で緊急ステントグラフト留置術を試みた報告があります。実際は間に合わないし、癌が浸潤した場所なので一時しのぎにしかなりません。(頭頸部外科 28(2):177-182,2018)
放射性ヨウ素治療(I-131 内照射)+放射線外照射併用療法を施行した後でのレンビマ®(レンバチニブ)投与は、頸動脈破綻出血がおこりやすい。[Gan To Kagaku Ryoho. 2017 Nov;44(12):1610-1612.]
頚動脈・椎骨動脈出血を避けるために
頸動脈・椎骨動脈破綻出血を避けるための工夫を、東京医科大学が提案しています。特に、甲状腺未分化癌について、術後1ヶ月後からウィクリー パクリタキセル[weekly Paclitaxel(w-PTX)]開始、4ヶ月継続後、椎骨動脈周囲の遺残腫瘍は不明瞭化。 ここでレンバチニブに切り替えたが椎骨動脈出血なく、術後16ヶ月で担癌生存中。
つまり、マイルドな効果のパクリタキセル(Paclitaxel)で頸動脈・椎骨動脈周囲の甲状腺がんを縮小させ、その後、レンビマ®(レンバチニブ)に切り替えるのと言う方法です。(第60回 日本甲状腺学会 P2-8-8 甲状腺未分化癌手術の動脈周囲遺残腫瘍に対し、パクリタキセル 治療後にレンバチニブを投与した一例)
食道浸潤に対するレンビマ®(レンバチニブ)使用で腫瘍食道瘻を形成する危険性あり。
気管食道瘻の報告もあります[Thyroid. 2014 May;24(5):918-22.]。
血管障害ではありませんが、レンビマ®(レンバチニブ)による薬剤性心筋症(心筋炎)と心不全を疑われた症例があります。虚血性心疾患・心臓弁膜症は、心臓エコー・心血管造影(CAG)で否定されたそうです。(第60回 日本甲状腺学会 P2-8-4 レンバチニブ投与後に心不全を発症した甲状腺乳頭癌多発肺転移の1例)
レンビマ®(レンバチニブ)の添付文書にも、「心障害として、
- 心電図QT延長(5.0%)[Future Oncol. 2019 Aug;15(24s):7-12.]
- 駆出率減少(1.8%)
- 心房細動(Af)・粗動(AF)(0.5%)
- 心不全(0.3%)
等があらわれることがある。十二誘導心電図検査の実施等、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、減量、休薬又は中止等の適切な処置を行うこと。」と明記されています。
レンビマ®(レンバチニブ)誘発性心筋症は単独でおこるのでなく、血球減少症、腎障害、ネフローゼ症候群など他の有害事象と同時発症する報告が多い[World J Clin Oncol. 2021 Apr 24;12(4):272-281.]。
レンバチニブによる可逆性後頭葉白質脳症(PRES)と、たこつぼ心筋症を同時発症した報告もあります[Oncotarget. 2018 Jun 15;9(46):28281-28289.]。チロシンキナーゼ阻害薬によるたこつぼ心筋症は、ヴォトリエント錠®(パゾパニブ)でも報告されています[Int J Cardiol. 2009 Jan 24;131(3):e92-4.]。
レンバチニブ誘発性腫瘍内出血の一つとして、副腎転移に使用した時におきる副腎出血があります。突然の右or左季肋部~背部痛、腰痛が出現したら、副腎出血を疑いCT検査が必要。副腎の腫大と周囲組織の炎症性変化を認めます。
- 出血前から副腎転移の診断が付いており、左副腎転移の切除を余儀なくされたケース[Case Rep Oncol Med. 2020 Nov 5:2020:2107430.]
- 保存療法のみで副腎クリーゼ(急性副腎不全)を起こさなかったケース(第66回 日本甲状腺学会 P6-7 甲状腺乳頭癌副腎転移に対してレンバチニブを投与中に副腎出血を生じた1症例)
が報告されています。
レンビマ®(レンバチニブ)投与中に
- 副作用(有害事象)
- 偶発する他の病気(胆のう炎など)
- 原発巣・転移巣共に縮小し十分な治療効果があった
などの理由でレンビマ®(レンバチニブ)を休薬すると、急激に甲状腺癌の進行を来すフレア現象が高率に起こります。
甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌、甲状腺低分化癌を対象とした伊藤病院の報告では、レンバチニブ中止して平均9日(4〜30日)後、14.3%の患者にフレア現象を認めたそうです(Medicine (Baltimore). 2020 Mar;99(11):e19408.)。
特に甲状腺未分化癌で一端、フレア現象がおきると、レンビマ®(レンバチニブ)を再投与しても、もはや効きません。
1.は止むを得ないですが、2.3.は副作用が無い限り、減量してでもレンビマ®(レンバチニブ)継続投与すべきでしょう。
和歌山県立医大の報告によると、フレア現象が7例中5例におこり、その詳細は、
1週間の休薬後に、
- 腫瘍熱
- 癌性疼痛(甲状腺癌による痛み)
- 血液検査で肝機能増悪、CRP(炎症反応)上昇
2週間の休薬後に、
- 血清サイログロブリン値の急な上昇(甲状腺癌細胞の急激な増殖)
- 胸水増大
だったそうです。(第114回 日本内科学会 449 進行期甲状腺におけるレンバチニブ中断時のフレア現象とその対策)
また、レンビマ®(レンバチニブ)の減量だけで、遠隔転移巣が明らかに増大する事もあります。浜松医科大学の報告では、手足症候群などの副作用が現れたため、レンビマ®(レンバチニブ) 24mg/日を 8mg/日 まで漸減すると、MRIにて仙骨転移巣の増大が認められたそうです。(第60回 日本甲状腺学会 P2-8-6 甲状腺濾胞癌に対するレンバチニブ投与中に肺転移巣において未分化転化が疑われた1例
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
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- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。