甲状腺癌全摘出後のI-131 アブレーション・アジュバント治療[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺癌全摘出後のヨード131(I-131 )アイソトープ(放射線)治療を行っておりません。セカンドオピニオンも、お断りしています。

甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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Summary
I-131 アブレーション治療は治療前3週間から厳重なヨード(ヨウ素)制限。治療約1カ月前から放射線治療専用個室退出、最後のI-131 シンチグラフィーまで甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)中止するため甲状腺機能低下症で心不全・うつ悪化、腎機能低下(低ナトリウム、高カリウム血症、放射性ヨウ素排泄遅延で被ばく量増加)。若年者甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の微細肺転移に有効、高齢者、大結節状肺転移・骨転移、乳頭癌型・濾胞癌型低分化癌は有効性低い。有害事象は唾液腺障害、嘔気と嘔吐、反回神経麻痺、永続的不妊、甲状腺クリーゼ、汎血球減少。
keywords
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甲状腺ホルモンを合成する正常細胞(甲状腺濾胞細胞)と同様に、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)がヨード(ヨウ素)を取り込む性質を利用し、放射性ヨウ素(I-131)を癌細胞に取り込ませ、放射線(ベータ線)により破壊します。ベータ線は体内では1mm以下の距離しか届かず、癌細胞のみを死滅させます。
しかし、甲状腺癌細胞のヨウ素(ヨード)取り込み能力は、正常甲状腺細胞の1/10~1/100程度しかないので、正常な甲状腺組織が残っていると放射性ヨウ素(I-131)は正常甲状腺細胞にだけ集まり、甲状腺癌細胞に取り込まれません。
よって、甲状腺全摘手術した後で、甲状腺癌細胞しか残っていないのが、放射性ヨウ素(I-131)治療を行う条件です。
具体的には、甲状腺全摘手術後に放射線治療専用のRI治療病室に入院し、放射線を出すヨード(放射性ヨード、I-131)カプセルを飲むだけです。
現在、日本のI-131 アブレーション治療は、日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編集の甲状腺腫瘍診療ガイドライン(2018年の改訂版)に乗っ取り行われています。
2018年の改訂ガイドラインでは、放射性ヨウ素内用療法を3分類し
- アジュバント治療(補助療法:adjuvant therapy);画像診断では確認できないが、顕微鏡的な微少残存病巣が存在すると考えられる状況で、再発予防のため行われるのを「アジュバント治療」と定義。今後は再発予防のためのI-131 投与をアジュバント治療と言わなければなりません(混乱が生じるだけと思います)。
- アブレーション(ablation)治療;高リスク群の転移巣・残存病変の診断(I-131 シンチグラフィー)と再発予防目的で、アジュバント治療の3倍量以上の放射性ヨウ素(I-131)を使用[100-150 mCi(腎障害があれば少量)]。
- 治療(treatment);画像上、残存腫瘍や遠隔転移が存在する場合。I-131 投与量は大量100-200 mCi(腎障害があれば少量)。
ただし、分子標的薬の出現によって、最終的な治療から中間的な治療になっている。
同ガイドラインでの適正投与量は3,700-5,550MBq(100-150mCi)とされます。
再発予防のため外来で行われるI-131 アジュバント治療
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)全摘手術後は、甲状腺床(甲状腺をはく離した部位)の残存細胞を完全に消滅させ、同時に微少残存病巣を破壊し、再発予防のため30mCi(1,110MBq=1.1GBq)のI-131 アジュバント治療を外来で行う場合があります[残存甲状腺破壊を目的としたI-131(1,110MBq)による外来治療実施要綱]。
改訂「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」では、高リスク患者に限り3.7-5.6GBq(100-150mCi)のアジュバントが推奨されますが、外来ではできません。
正常甲状腺細胞が完全に消滅し、サイログロブリンを産生するのは甲状腺癌だけになるため、腫瘍マーカーとしてのサイログロブリン値の解釈が容易となり、術後の再発診断に役立ちます。
ついでに甲状腺癌遠隔転移の診断も兼ねます(I-131 シンチグラフィー)が、遠隔転移巣を破壊するには、その3倍以上の放射線量が必要です(もちろん入院で)。
ただし、外来で行う条件として、
- わかっている遠隔転移がないこと(既に肺・骨転移が見つかっている場合は不可)
- 自宅に妊婦や幼児がいないこと
- I-131服用後は直接自宅に帰ること
があります。
北光記念病院の報告では、遠隔転移の無い中~高リスクの甲状腺分化癌全摘出後に30mCiのI-131 アジュバント治療行い、80%以上が完全寛解し、完全寛解後の再発率は15%以下だったそうです。(第62回 日本甲状腺学会 O5-1 30mCiのI-131は甲状腺癌に対するadjuvantとして適当か)
再発制御を目的としたI-131 アジュバント治療(補助療法)
中~高リスクの甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)・低分化癌全摘出後に、再発制御を目的としたI-131 アジュバント治療(補助療法)行います。当然ながら、遠隔転移が見つかりI-131 アブレーション治療に移行する場合もあります。
大阪市立大学(現、大阪公立大学) 内分泌外科では、I-131 アブレーション治療に移行した人を除けば、30-150(中央値60)mCiの投与量でした(外来では30mCiまで、それ以上は放射線治療専用個室にて)。約6年間の観察で
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)・低分化癌全摘出後からI-131 アジュバント治療までの期間が1年以上と長い場合、有意に再発が多くなる。(要するに、やるなら時期を逃さず早急におこなうべき)
- 79%で無再発生存が得られる。
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)・低分化癌全摘出後、1年以内にI-131 アジュバント治療行えば、早期再発が抑えられる可能性が高くなります。(第62回 日本甲状腺学会 O5-2甲状腺癌に対する放射性ヨウ素内用による補助療法の検討)
I-131 アブレーション効果の効果として、
- 若年者の甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の微細な肺転移には有効ですが、
①高齢者(初回I-131 アブレーション治療時年齢55歳以上)
②大結節状の肺転移(転移巣1cm以上)
③骨転移、脳転移
④初回I-131 アブレーション治療時の血清サイログロブリン値 400ng/ml以上(多い腫瘍量)
⑤乳頭癌型・濾胞癌型低分化癌
には有効性が低い。[2015 American Thyroid Association Management Guidelines. Thyroid. 2016 Jan;26(1):1-133.]
- I-131 アブレーションで、I-131が転移リンパ節・遠隔転移巣に取り込まれても、縮小するとは限りません[甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の2/3は放射線抵抗性]。
- I-131 アブレーション治療抵抗性の甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の平均生存期間は、2.5-3.5年とされます。
I-131 アブレーション治療(内照射)に外部からの放射線照射(外照射)を併用すれば、治療効果は増します[Int J Mol Sci. 2017 Jun 17;18(6):1292.](第65回 日本甲状腺学会 O2-4 局所進行甲状腺分化癌に対する術後補助的外部放射線治療の傾向スコア解析を用いた治療成績)。
I-131 アブレーション治療(内照射)が効きにくい局所残存病変の制御には外照射の方が有効だからです[Crit Rev Oncol Hematol. 2013 Apr;86(1):52-68.][Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2002 Mar 1;52(3):784-95.]。
頸部放射線照射(外照射)により
- 頸動脈壁が損傷し破綻出血をおこしやすくなります(carotid blowout syndrome)[Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2021 May 1;110(1):147-159.]。
- 放射線誘発性アテローム性動脈硬化症がおこります。頸動脈狭窄の発生率は、頭頸部癌の放射線治療を受けた患者では18〜38%。カラードップラー超音波検査で検出され、頸動脈血管形成術とステント留置術の血管内治療が第一選択治療。[Radiother Oncol. 2014 Jan;110(1):31-8.]
- 特に、甲状腺癌が頸動脈浸潤していると、病変の壊死・縮小・それに伴う感染などから頸動脈破裂をおこします。[BMJ Case Rep. 2021 Nov 30;14(11):e246084.]
I-131 アブレーション治療(I-131 アジュバント治療)には以下の問題点があります。
- I-131 アブレーション治療は診断(I-131 シンチグラフィー)とアジュバント治療の3倍量以上の放射性ヨウ素(I-131)を使用するため、体内の放射線量が基準を下回るまで(30μSv/hr以下)の数日、放射線を遮断し、放射性下水処理できる等の放射線治療専用個室に入院が必要(I-131 アブレーション治療の社会的問題点)。
- 治療前の約1カ月間、および放射線治療専用個室を退出し、確認のI-131 シンチグラフィーが終わるまで、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を中止するため、甲状腺機能低下症になります。倦怠感、むくみ、体重増加、体温低下などの症状、心不全・うつ悪化、腎機能低下(低ナトリウム血症、高カリウム血症)による放射性ヨウ素の排泄遅延と被ばく量増加。治療後にホルモン剤を再開すると改善しますが、一番の問題は心不全の危険です。若くて甲状腺以外問題ない人なら難なく乗り越えられますが、元々、心機能に問題ある方には命の危険が生じます。
- 治療前3週間(少なくとも治療前2週間)からの厳重なヨード(ヨウ素)制限食が極めて重要だが、日本の食品の大多数はヨード(ヨウ素)を含んでいるため、かなり難しい。
- I-131 の合併症(下記)
- 放射線治療専用個室を退出後も、周囲への被曝を軽減するため、バセドウ病アイソトープ治療後と同じ指導が必要。
- 胎児への影響から妊婦や妊娠の可能性のある女性には禁忌です。乳汁にも放射性ヨード(I-131)が排泄されるため授乳もできません。しかし、この治療が原因で不妊が生じる事はないと言われています。
- 有効であれば、半年あるいは1年ごとに治療を繰り返すので、累積被ばく量は半端な量ではありません。(しかし、癌細胞を、せん滅しなければ命は無いため止む得ません。)
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)に対する放射性ヨード内用療法(RI 治療;I-131 アブレーション)で認められる有害事象(合併症)は、
- 唾液腺(耳下腺・顎下腺)障害:I-131 は唾液腺(耳下腺・顎下腺)にも取り込まれ、組織を破壊します。唾液分泌障害により、つばが出ず、口内乾燥、虫歯・舌炎、味覚障害になります。
①急性期唾液分泌障害から、回復する場合、永続的な障害に移行する場合
②急性期症状なく、永続的な唾液分泌障害になる場合
がありますが、放射性ヨード治療を何度も繰り返し、積算投与量が増えると永続的障害になる確率が上がります。
- 嘔気(吐き気)と嘔吐:(ベータ線とは異なる)ガンマ線を高レベルで浴びると、一般的な放射線障害を起こします。嘔気などの放射線宿酔で一時的なものですが、放射性ヨード治療を何度も繰り返すと永続的なものになります。体重あたりのI-131 投与量が多い程、強く、I-131 大用量使用時50~67%、低用量使用時4%と報告されています。
胃潰瘍、胃炎があると、わずかな嘔気(吐き気)でもマロリーワイス症候群(Mallory-Weiss syndrome)を起こす事があります(J Nucl Med. 1997 Nov;38(11):1831.)
- 反回神経麻痺:I-131 そのもので反回神経麻痺おこすとは考えにくく、すでに反回神経に、あるいはその周囲に甲状腺分化癌の影響が出ており、それが顕在化すると考えるのが自然でしょう。
片側の反回神経が甲状腺癌の浸潤で麻痺し、もう片側がI-131 アブレーション後に麻痺すると両側性反回神経麻痺になり、自力で呼吸できなくなります。気管切開し、人工呼吸器無しでは生きれません。
(第57回 日本甲状腺学会 P2-074 放射性ヨウ素内用療法後に反回神経麻痺を発症した甲状腺乳頭癌の1例)
- 永続的な男性不妊(精巣への放射線障害)
- 甲状腺クリーゼ
- 汎血球減少(白血球・赤血球・血小板すべてが減少);臨床的に問題となるような高度の汎血球減少は極めてまれとされます。しかし、①I-131 の累積投与量が多い②広範な骨転移により骨髄造血機能が、既に低下している③骨髄への照射線量(骨転移に対する放射線外照射)が高値などで、高度の汎血球減少が起こり得ます。
I-131 アブレーション治療を何回行うのか明確な規定は有りません。もちろん高い放射線量のI-131を使用するので、合併症も考慮しながら、かつ甲状腺分化癌に対する効果が出なければなりません。最初から、遠隔転移巣がI-131を取り込まず、たとえ取り込んでも画像上の縮小も、サイログロブリンの低下もなければ早々に止めるしかありません。
神戸市立医療センター中央市民病院は関西でも屈指のI-131 アブレーション治療施設で、I-131 治療を4回以上施行し中断した16例の臨床検討を報告しています。治療回数平均9.5±4.7回、治療中断理由はI-131 集積著減8例・回数が多いため4例・挙児(妊娠)希望2例・酸素投与が不要になったため1 例・高齢のため1例。中断後経過観察期間12.2±4.7 年(4-24 年)では4例が再発・増悪のためI-131 治療を再開したそうです。(第57回 日本甲状腺学会 P1-088 131I 治療を4 回以上施行し治療中断した16 例の臨床的検討)
フランスの報告では、遠隔転移を有する甲状腺分化癌患者に対して累積投与量3.7-22 GBq(100-600 mCi)のI-131 アブレーション治療を行った場合、
- 治療開始後5年以上で約半数患者の転移巣がシンチグラフィー上で消滅
- 特に若年者、分化度の高い例で有効
- 転移巣がシンチグラフィー上で消滅した患者の7%が再発、10年生存率92%(非消滅例では19%)
との結果です(J Clin Endocrinol Metab. 2006 Aug;91(8):2892-9.)。そのため、累積投与量の上限を22 GBq(600 mCi)とする意見があります。
最近では、「放射線治療無効な分化型甲状腺癌」にネクサバール錠®・レンビマカプセル®が保険適応になったため、I-131アブレーション治療が効かない症例に無理に繰り返す必要はなくなりました。
I-131 アブレーション治療抵抗性の判断基準は、まちまちでDECISION試験、SELECT試験など統一されていません。単純明快な基準は、「3-4回 I-131アブレーション施行した後の病変部増大」です。
がん・感染症センター都立駒込病院等の報告では、I-131 アブレーション治療を行った111名[年齢中央値60歳、乳頭癌:濾胞癌:乳頭癌+濾胞癌:低分化癌=53:53:3:2名、投与量中央値500mC(i 範囲;300-1250mCi)、初回投与前の遠隔転移部位 なし:肺:骨:肺+骨=19:43:39:10名]
その内、I-131 アブレーション治療抵抗性と判断された患者は99名/111名(89%)で投与回数中央値は3回(範囲;1-12回)。
I-131 アブレーション治療効果継続群と抵抗性群の5年生存率100%/100%、10年生存率89.9%/61.7%(p=0.036)。
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