I-131 アブレーション・アジュバント・治療後の甲状腺癌再発・2次発癌[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺癌全摘出後のヨード131(I-131)アイソトープ(放射線)治療を行っておりません。セカンドオピニオンもお断りしています。
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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Summary
I-131 治療(放射性ヨウ素内用療法)は放射線治療専用個室に入院が必要だが平均待機時間は約3ヶ月。甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)再発は10-20年後でもおこる。最初は遠隔転移が無くても放射性ヨウ素治療後に遠隔転移再発する事も。I-131 自体の放射線で二次性白血病、耳下腺癌など2次発がんが生じる可能性ある。secondary primary malignant tumor(SPM)は、最終の放射性ヨウ素治療から一年以上経過して診断された甲状腺以外の悪性腫瘍で、I-131治療と無関係のものも含む(肺がん、乳がん・結腸がん、胃がんが多い)。
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高容量の放射性ヨウ素(I-131)を使用する治療には専用個室への入院が必要になります[I-131 アブレーションと30mCi(1,110MBq=1.1GBq)以下のアジュバントは外来で可能]。そのため、ベッドへの昇降や排泄、身の回りの事が独りでできる人にしか行えません。
転移のない甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)患者であれ、転移のある患者であれ、I-131 治療(放射性ヨウ素内用療法)は、なるべく早い段階で行うことが望ましいとされます。しかし、日本国内でI-131 治療ができるRI 治療病室数は、2002 年の188 件から2015 年には135 件と減少しており、RI 治療病室不足が大きな問題となっています。
このRI 治療病室は、患者一人の治療が終了すると、放射性物質を除染した後でなければ次の患者が入室できません。よって、非常に回転が悪く、日本における患者の平均待機時間は3カ月とされます。この3カ月間に遠隔転移巣が悪化する可能性もあるため困ったものです。
最近では、「放射線治療無効な分化型甲状腺癌」にネクサバール錠®・レンビマカプセル®が保険適応になって、I-131 治療(放射性ヨウ素内用療法)が効かなければ早々に撤退するため、日本のRI 治療病室不足は相対的に改善されています。
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の再発は10-20年後に(43年後の報告もあり)おこることがあります[World J Surg. 2002 Aug;26(8):879-85.][Thyroid Res. 2017 Oct 10;10:8.]。
甲状腺癌全摘出・I-131 アブレーション・アジュバント・治療後に血中サイログロブリン値の変化がない場合、あるいは明らかに減少した後でも再上昇の危険があるため注意を要します。
- 甲状腺分化癌全摘術時に遠隔転移無く、I-131 アブレーション・アジュバント後に遠隔転移再発をきたす症例は、初回手術時の進行例が多いものの、進行は比較的緩やか[遠隔転移再発までの期間は平均8.3 年(2.3-15.6年)]と報告されます。(第56回 日本甲状腺学会 O5-2 甲状腺分化癌術後アブレーション後に遠隔転移再発をきたした症例の検討)
3.に繋がる疑問だが、I-131 アブレーション・アジュバントの有無を問わない限局性甲状腺乳頭癌の再発率も同じくらい。
- そもそも、本当に「I-131 アブレーション・アジュバントが甲状腺癌全摘出術後の予後を改善しているか?}については、懐疑的な意見も多くあります。(I-131 アブレーション・アジュバントをしてもしなくても同じではないか?)
東北大学の報告では、I-131 アブレーション・アジュバントは、
①甲状腺癌全摘出術前に診断できなかった遠隔転移を発見できる
②しかし、統計的な再発予防効果・生命予後改善効果は得られなかった
としています。(第54回 日本甲状腺学会 P112 当院における甲状腺癌全摘出術後ablation症例の検討)
逆に、転移がない限局性の低リスク甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)に対するI-131 アブレーション・アジュバントは、1·1 GBq(29.7 mCi)の低用量でも再発率を下げ予後を改善するとの報告が多い。[Thyroid. 2016 Jul;26(7):951-8.][Lancet Diabetes Endocrinol. 2019 Jan;7(1):44-51.]
ヨード131(I-131)自体の放射線で発がんが起こる可能性があります[2次発がんと言います。]。
バセドウ病に使用される程度のI-131ですら、30年後には2次発がんの原因になる事が証明されました[緊急速報!バセドウ病アイソトープ(放射線)治療で全身の癌発生率が上昇]。
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)ではバセドウ病の5-10倍以上のI-131(放射性ヨウ素)を半年~1年毎に使用します[I-131(放射性ヨード)大量内用療法]。若くで使用する程、残りの人生での2次発がんの可能性が高くなります。しかし、“今そこにある病気”の治療が最優先です。10年以上先に起こるかどうか不確かな2次発がんより、10年先も生きていられるように治療する方が大事です。
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)患者の2次発がんは中央値8.8年(5.0-17.0年)のフォローアップで
- 発生率はI-131 (放射性ヨウ素)治療群6.9%、非治療群4.8%
- 特に200mCi以上の高放射線量でリスクが増加
- 乳癌(31%)、尿生殖器癌(18%)、胃腸癌(18%)
- 相対危険度1.84 [CI 1.02-3.31]
(Thyroid. 2017 Aug;27(8):1068-1076.)
2次発癌は全ての方におこる訳ではありません。要は、I-131(放射性ヨウ素)大量内用療法後のフォローを欠かさないことです。
二次性白血病
白血病は、放射性ヨウ素(I-131)治療後のまれな後期合併症で、高用量放射線被ばく後に発症します。ほとんどが急性骨髄性白血病(AML)ですが、慢性骨髄性白血病(CML)の報告もあります[Haematologica. 1998 Aug;83(8):767-8.][Clin Endocrinol (Oxf). 1995 Nov;43(5):651-4.]。
甲状腺乳頭癌術後にI-131(放射性ヨード)大量内用療法後2年半で急性骨髄性白血病を発症した82歳女性の症例報告があります。生命予後が変わらないなら、高齢者にI-131(放射性ヨード)大量内用療法はしない方が良いかもしれません。(第54回 日本甲状腺学会 P114 甲状腺乳頭癌に対するI131内用療法後に急性骨髄性白血病を発症した一例)
二次性白血病は急性骨髄性白血病であることが多いですが、フィラデルフィア染色体陽性B細胞性急性リンパ性白血病(フィラデルフィア染色体陽性ALL)の報告もあります。20代女性で甲状腺乳頭癌術後1回目のI-131(放射性ヨード)大量内用療法後9年して発症したそうです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-091 甲状腺癌に対するI-131(放射性ヨード)大量内用療法後に急性リンパ性白血病(ALL)を発症した一例)
骨髄増殖性疾患
I-131(放射性ヨウ素)大量内用療法後に骨髄増殖性疾患[真性多血症・本態性血小板血症・慢性骨髄性白血病(CML)・原発性骨髄線維症]を発症する相対的なリスクは、2年目と3年目で一般人口の3.13倍(95%信頼区間、1.1-6.8);P=0.012になります。(Leukemia. 2018 Apr;32(4):952-959.)。
I-131(放射性ヨウ素)大量内用療法を積極的に行っているので有名な神戸市立医療センターが、治療後の耳下腺癌を報告しています。I-131 は顎下腺・耳下腺にも取り込まれるため、2次発癌が起こっても不思議ではありません[Nucl Med Mol Imaging. 2014 Sep;48(3):203-11.]
報告された2症例は、若年・中年女性です。一般的に、I-131(放射性ヨウ素)大量内用療法の回数を重ねる毎に唾液腺への集積は低下しますが、治療時のI-131 シンチグラフィーで耳下腺に局所的な集積が増加し、粘表皮癌が見つかったそうです。更に若年女性の方は、鎖骨上窩に悪性末梢神経鞘腫も合併。
(第59回 日本甲状腺学会 O4-2 131I 治療後に耳下腺癌を発症した甲状腺癌の2 例)
[写真;Medicine (Baltimore). 2017 Jun;96(25):e7164.]。
I-131 アブレーション治療後の耳下腺粘表皮癌の発生は海外でも報告されており、I-131 アブレーション治療後1年と短期間で起こっています[J Nucl Med Technol. 2017 Jun;45(2):116-118.][Hum Pathol. 2017 Oct;68:189-192.]。
粘表皮癌は、甲状腺内にも発生する稀な腫瘍です。詳細は、 甲状腺粘表皮癌 を御覧下さい。
second primary cancer[second primary malignancy (SPM):二次がん、治療関連二次性悪性腫瘍]は、「最初のがん[一次がん:primary malignancy(PM)]に対する抗がん剤あるいは放射線療法を施行した後、6か月以上して見つかり、かつ一次がんと異なる癌」と定義されます。
一次がんが甲状腺癌ならsecond primary malignancy (SPM)は、最終の放射性ヨード治療(I-131 アブレーション・アジュバント・治療)から6カ月以上経過して診断される甲状腺以外の悪性腫瘍になります(非甲状腺性第二原発癌:nonthyroidal second primary malignancies)。
second primary cancerには、
- 放射性ヨード治療(I-131 アブレーション・アジュバント・治療)が原因・誘因の2次発がん
- 偶然合併しただけの重複癌
のいずれも該当し、両者を鑑別するのは難しい。確かに、血液系の癌を除けば、2次発がんか重複癌か分かりません。しかし、重複癌であっても放射性ヨード治療(I-131 アブレーション・アジュバント・治療)による被曝、あるいは遺残・再発した甲状腺癌による正常免疫の低下が、重複癌の成長を加速する可能性があります。
北光記念病院の報告によると、甲状腺癌のsecond primary cancerは、肺がん、乳がん・結腸がん(同数)、胃がんの順に多く、その他、CLL(慢性リンパ性白血病)、 悪性リンパ腫、膵臓がん、肉腫です。、乳がん・結腸がんの一部は3次がんを誘発したとの事です。I-131 の総投与量は30~450mCi で様々でした。
(第57回 日本甲状腺学会 P2-089 甲状腺分化癌に対するアイソトープ治療後のsecondary primary malignant tumor(SPM)―自験例の検討)
イタリア、ピサ大学の報告では、10.52 ± 7.69 年に渡る追跡調査の結果、甲状腺癌のsecond primary cancerとして、女性では乳がん、卵巣がんの発生率が高く、男性で肺がん、前立腺がんの発生率が高い。[Int J Cancer. 2020 Nov 15;147(10):2838-2846.]
また、 I-131で治療された甲状腺癌患者とI-131療法を受けていない甲状腺癌患者を比較すると、second primary cancerの発生率に有意差はないとの報告もあります[Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2022 Apr 1.]。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。