関節リウマチ(RA)と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 甲状腺機能低下症 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
※長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。関節リウマチの診療を行っておりません。関節リウマチに合併する甲状腺の病気に対する診療のみです。
Summary
関節リウマチの抗CCP抗体陽性率74%。関節リウマチと甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病の合併率叩く、相乗効果で動脈硬化が進行。院長の論文より橋本病の炎症や破壊が関節リウマチの関節破壊(MMP-3)に密接に関連、共通自己免疫CTLA-4等の可能性。橋本病合併関節リウマチ患者の胸水はリウマチ性胸膜炎か甲状腺機能低下症の粘液水腫性胸水。関節リウマチの炎症で生じる血清アミロイドA蛋白(SAA)で甲状腺アミロイドーシスから甲状腺機能低下症に。橋本病(慢性甲状腺炎)合併で甲状腺アミロイドーシスの超音波エコー所見が隠れる。
Keywords
関節リウマチ,橋本病,血清アミロイドA蛋白,甲状腺アミロイドーシス,抗CCP抗体ト,動脈硬化,甲状腺,甲状腺機能低下症,胸水,MMP-3
関節リウマチ治療薬(生物学的製剤・CTLA-4阻害薬・JAK阻害薬・アザルフィジン・副腎皮質ステロイド)と甲状腺
関節リウマチ(RA)は、免疫系が自分自身の組織を攻撃する自己免疫が原因の関節炎(滑膜炎)です。関節リウマチ(RA)では、
- 左右対称性に手足の関節が腫れ、関節を動かさなくても激しい痛みが生じる(他の関節の病気と異なる点)
- 関節の軟骨や骨が破壊され、関節変形に至る
- 炎症により、発熱・倦怠感・食欲不振などの症状が起きる
関節リウマチ(RA)は関節炎(滑膜炎)が主体であると同時に全身疾患でもあります。関節リウマチ(RA)の関節外病変として、
- リウマチ肺(間質性肺炎・器質化肺炎・気管支拡張症);無症候性も含めれば30% 以上に認める。
- 漿膜炎・心外膜炎;10% 以下に認める。男性に多い。
- 胸膜炎
- 無痛性皮下結節(リウマチ結節);約20% に認める。骨と近接する膝・肘・殿部に多い。
- 皮膚潰瘍、潰瘍を伴う紫斑;特に血管炎が顕著な悪性関節リウマチで多い(壊死性血管炎あるいは肉芽腫性血管炎)。
- 血管炎→多発単神経炎
- 上強膜炎・虹彩毛様体炎(ぶどう膜炎)
- 顎関節障害による睡眠時無呼吸症候群
があります。関節外症状は活動性の高い関節リウマチ(RA)、特に悪性関節リウマチに多い
炎症が長期間持続すると甲状腺アミロイドーシスを起こします。
悪性関節リウマチ
悪性関節リウマチ[≒リウマトイド血管炎(Rheumatoid Vasculitis)]の改定診断基準では、リウマトイド因子960 IU/mL以上、またはRAPA で2,560 倍以上が条件。補体は低下する。
悪性関節リウマチ(≒リウマトイド血管炎)は、関節外症状を伴い、抗リウマチ薬の増量や追加で改善しない高活動性・治療抵抗性の関節リウマチ。関節リウマチ(RA)の長期治療中に、発熱と関節症状の増悪、関節外症状で発症し、抗リウマチ薬の増量や追加で改善しません。
抗CCP抗体、関節エコー検査は関節リウマチの早期診断に有用です。
抗CCP抗体[抗環状シトルリン化ペプチド(cyclic citrullinated peptide: CCP)抗体]
関節リウマチは血液検査で抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体;ACPA)陽性(陽性率74%、他の膠原病・悪性腫瘍・健常人でも陽性の場合あり)になります。しかし、それだけで関節リウマチの確定診断は付きません[関節リウマチ新分類基準(2010年)で診断]。
関節リウマチでも抗核抗体(ANA)は低力価(80倍未満)になりますが、320倍以上の高力価陽性なら他の膠原病の可能性が高くなります。また、関節リウマチに橋本病(慢性甲状腺炎)を合併すると、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)の影響で抗核抗体(ANA)が160倍くらいにはなります(膠原病と抗核抗体(ANA)と甲状腺 )。
抗CCP抗体陰性なら、増殖した関節滑膜を関節超音波(エコー)検査で見つけます。これには長崎甲状腺クリニック(大阪)と同じレベルの高性能超音波(エコー)診断装置が必要です。
※抗CCP抗体陰性の関節リウマチでは関節破壊の程度は軽い。抗CCP抗体は関節リウマチにおける関節破壊の予後不良因子ですが、関節リウマチの活動性マーカーにはなりません。
※関節滑膜増殖は関節リウマチ特異的でなく、全身性エリテマトーデス(SLE)の50%にも認められます。
MMP-3
関節破壊の指標はMMP-3です。MMP-3は
- 非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)では低下しません
- 副腎皮質ステロイド薬で上昇します
- メトトレキセート(MTX)や生物学的製剤が効けば低下します
関節エコー検査
骨関節X線(レントゲン)検査
環軸椎亜脱臼
環軸椎亜脱臼は、第1頸椎(環椎)と第2頸椎(軸椎)を接合する環軸椎関節がずれて生じます。関節リウマチでは、環軸椎関節を接合する①環椎横靱帯の滑膜炎、②軸椎歯突起の破壊などにより環軸椎亜脱臼します。ダウン症候群でも環軸椎亜脱臼と甲状腺疾患の合併が多い[ダウン(Down)症候群と甲状腺の病気]。
環軸椎亜脱臼の症状は
- 後頸部痛・後頭部痛;頸を動かすと増強
- 両上肢のしびれ、物を落とす;頸髄圧迫
- めまい;椎骨動脈の圧迫による
- 頸髄圧迫が高度になると歩行障害、膀胱直腸障害、中枢性睡眠時無呼吸症、突然死も
で、洗顔など前屈時に増悪。
環軸椎亜脱臼では、前屈位もしくは通常立位頸椎X線写真側面像の環椎歯突起間距離(atlantodental interval:ADI)が5 mm 以上になる(正常3 mm 以下)。後屈位でADIが正常範囲になる場合がある。
環軸椎亜脱臼の予防は
- マット運動など頸椎に負担のかかる運動を制限
- 水泳の飛び込みは禁止
- ラグビー、レスリングなど接触性競技は禁止
- 頸椎の前屈を防ぐため、枕は低いものを使用
- 起き上がる時に上半身の反動を利用すると、環軸椎亜脱臼が進行する
- 前屈する洗顔時は頸椎カラーを外さない
- 頸部周囲筋のマッサージはしない方がよい
- 麻痺側は廃用手・足にならないように動かす
関節リウマチと橋本病の合併
関節リウマチは甲状腺の病気と同様、女性に多く、同じ自己免疫性疾患である橋本病(慢性甲状腺炎)の合併率が高い。
関節リウマチと橋本病の合併率はハンガリー(Hungary)で6%、ブルガリア(Bulgaria)では30%以上とされます。日本でも、関節リウマチ患者の30%以上が橋本病です。
関節リウマチは高齢者の病気と思われがちですが、40歳代が発症のピーク、 次いで50歳代、30歳代、20歳代と続きます。橋本病の発症年齢と非常に似ています。
以下は、筆者が大阪市立大学医学部(現、大阪公立大学医学部) 代謝内分泌内科 非常勤講師として行った最後の研究をまとめた論文です。関節リウマチと橋本病についての論文で、リウマチグループとの共同研究です。
橋本病合併関節リウマチ患者群は関節リウマチ単独患者群に比べ、
- 男女比(5/13 vs 7/28, p=0.047)・男性の比率
- TSH(甲状腺刺激ホルモン)means±SE; 7.25±0.69 vs 2.52±0.30 μIU/mL, p<0.001)
- HI(不均質係数;甲状腺組織の破壊の程度の指標)(3.8±0.2 vs 3.2±0.2 %, p=0.042)
が有意に高かった。2.と3.は当然と思いますが、意外にも橋本病合併関節リウマチ患者群の方が男性の割合が多かった。
橋本病合併関節リウマチ患者群で、関節破壊の指標であるMMP-3は
- FT3(甲状腺ホルモン;トリヨードサイロニン)と有意な負の相関(rho=-0.545, p=0.048)
- TPO-Ab(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)に有意な正の相関(rho=0.735, p=0.02)
- HI(不均質係数)に有意な正の相関(rho=0.769, p=0.01)
を示しました。これらの中で、HIはMMP-3の有意な正の寄与因子でした(r=0.883, F=31.91)。
【結論】橋本病合併関節リウマチ患者で、甲状腺のHI(不均質係数)が有意に増加し、関節破壊の指標のMMP-3の有意な正の寄与因子でした。橋本病の炎症や破壊が、関節リウマチの関節破壊に密接に関連する可能性が考えられました。
院長の論文
- Association of heterogeneity of the thyroid gland with matrix metalloproteinase-3 in rheumatoid arthritis patients with Hashimoto's thyroiditis. (Minerva Endocrinol. 2018 Dec;43(4):398-405. doi: 10.23736/S0391-1977.18.02725-6.)
関節リウマチと橋本病と胸水
橋本病合併関節リウマチ患者群で胸水を認めた場合、
- リウマチ性胸膜炎・胸水は高頻度ですが治療を必要としません
- 甲状腺機能低下症による粘液水腫性胸水の可能性もあります。
関節リウマチと動脈硬化と甲状腺機能低下症/橋本病
関節リウマチでは、血管の炎症により動脈硬化が促進されます。
関節リウマチの血管石灰化は、大動脈>冠状動脈>頚動脈の順に起こるとされます(Clin Rheumatol. 2017 Apr;36(4):807-816.)。
関節リウマチ患者の0.57%(200人に一人以上)が発症後5年以内に心血管障害になり(Ann Rheum Dis. 2006 Dec;65(12):1608-12. )、関節リウマチの早期死亡患者の約50%が心血管疾患(CVD)によるとされます(Int J Rheum Dis. 2017 Mar;20(3):287-297.)。
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病でも動脈硬化が進行し、狭心症/心筋梗塞の発症率が上がります。甲状腺機能低下症患者で、動脈硬化の指標の総頚動脈内膜中膜肥厚度(CCA IMT)が高値になり、潜在性甲状腺機能低下症で、血管年齢(baPWV)が高くなることを、私、長崎俊樹が医学界で初めて証明しました。
もし、関節リウマチと甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病を合併すればどうなるか?当然、相乗効果で動脈硬化は加速されると思います。
関節リウマチ(RA)では炎症の活動性に比例して炎症反応物質が血液中に作られます。CRPがもっとも代表的ですが、SAA(血清アミロイドA蛋白)という炎症反応物質も同時に作られます。 このSAAがアミロイドーシスの原因となります。SAAは正常状態なら分解されますが、長期間、高濃度で血中に存在すると、分解途中でAA(アミロイドA蛋白)という溶けにくいタンパク質なり、臓器に沈着してアミロイドーシスを発症します。 つまり、関節リウマチ(RA)のコントロールの悪い患者さんに発症するのです。
甲状腺にアミロイドが沈着すると、甲状腺は硬くなり、甲状腺機能低下症状態になります(甲状腺アミロイドーシス)。超音波(エコー)画像では、
- 濾胞組織が破壊された後の脂肪浸潤により高エコー輝度になる。ベッタリ白く見えるため、正常な甲状腺と見間違う事がある(J Ultrasound Med. 2010 Aug;29(8):1251-5.)
- 濾胞組織の炎症、破壊で、脂肪浸潤がなければ低エコー輝度になる(第58回 日本甲状腺学会 P2-11-4 透析導入直後の甲状腺腫大を契機に診断されたAA型アミロイドーシスの1例)
と、両方の報告があります。
さらに、橋本病(慢性甲状腺炎)が合併すると、甲状腺アミロイドーシスの超音波(エコー)所見が隠れてしまいます。
血清アミロイドA蛋白(SAA)とC反応性蛋白(CRP)の同時測定はできません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,生野区,天王寺区,八尾市,東大阪市,浪速区も近く。