甲状腺と出血、特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です
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特発性血小板減少性紫斑症(ITP)は、最近では免疫性血小板減少性紫斑病とも言います。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の診療を行っておりません。また、特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)を合併した甲状腺疾患の治療はハイリスクなため、内分泌内科、血液内科、脳出血を起こした時の救命救急すべてある高次機能病院で行うのが安全です。
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甲状腺機能亢進症/バセドウ病の血小板減少は①代謝亢進で血小板寿命短縮②抗甲状腺剤メルカゾール・プロパジール/チウラジールの薬剤性血小板減少③特発性免疫性・血小板減少性紫斑症(ITP)合併、多腺性自己免疫症候群3c型。ITPで皮下出血(点状出血/紫斑)、歯肉出血、鼻出血、下血、血尿、過多月経(甲状腺機能低下症様)、頭蓋内出血、Pa-IgGは診断価値低い、治療はピロリ菌除菌、ステロイド、摘脾、トロンボポエチン受容体作動薬。甲状腺全摘術後に血小板減少が改善したITP合併甲状腺乳頭癌の報告。EDTA依存性偽性血小板減少症は橋本病/バセドウ病他自己免疫疾患に多い。
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出血によってできる紫斑には
- 点状出血(petechiae、径1~5mm):血小板異常症、特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)、血管炎
- 斑状出血(ecchymosis、径数cm 以内):特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)、凝固異常(後天性血友病A/ 後天性von willebrand症候群)
- びまん性出血(suggillation、面積の大きい皮下出血):凝固異常(後天性血友病A/ 後天性von willebrand症候群)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で血小板減少を認めた場合
甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者の血小板減少には、日常よく遭遇します。血小板減少は未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病の3.3 %に認められます。原因として、
- 甲状腺機能亢進による代謝亢進で血小板の寿命が短くなるのが主原因と考えられるが、詳細は不明な部分も多い。網内系の刺激や免疫学的機序も考えられています。
- 抗甲状腺剤メルカゾール・プロパジール/チウラジールによる薬剤性血小板減少
- 特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の合併
が考えられます。
正直、2.3.を厳格に鑑別することは難しく、抗甲状腺剤メルカゾール・プロパジール/チウラジール治療開始後に起きたなら、いずれであっても薬剤誘発性の可能性が高いため、
に、持ち込むしかないでしょう。[Clin Case Rep. 2023 Sep 27;11(10):e7960.][Autops Case Rep. 2015 Jun 30;5(2):45-8.]
その際、術前の血小板コントロールには血液内科の協力が必要になります。
※Pa-IgGは特異性が低く、陽性だからと言って特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の診断にはなりません。血小板数が正常なバセドウ病患者の約36%、橋本病患者の40%はPa-IgGが高値。[Ann Intern Med. 1981 Jan;94(1):27-30.]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病により、血小板の消費が亢進した場合の血小板減少。過去の報告では、血小板数4.6万/μL まで低下しており、I-131内照射(アイソトープ治療)後に甲状腺機能が正常化すると14.7万/μL に回復したとされます。治療前、Pa-IgGは陽性ながら、骨髄は正形成でした。(第54回 日本甲状腺学会 P091 放射性ヨード内用療法による甲状腺機能の正常化に伴い血小板減少が改善したバセドウ病の一例)
※Pa-IgGは特異性が低く、陽性だからと言って特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の診断にはなりません。血小板数が正常なバセドウ病患者の約36%、橋本病患者の40%は、Pa-IgGが高値。[Ann Intern Med. 1981 Jan;94(1):27-30.]
抗甲状腺薬投与による甲状腺機能正常化に伴い治癒する血小板減少症は多数報告されており、同様の機序と考えられます。骨髄は過形成で特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)と同じです。[Pediatr Hematol Oncol. 2003 Jan-Feb;20(1):39-42.][Acta Biomed. 2020 Nov 20;91(4):e2020194.]
汎血球減少症に伴うPa-IgG陰性の血小板減少症を呈した甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者の報告では、骨髄巨核球の減少が考えられました。抗甲状腺薬投与により汎血球減少症・血小板減少症はある程度改善したが、グルココルチコイドの方が有効性が高かった。血小板の消費亢進に加え、再生不良性貧血的な要素が合併していたと推察されます。[Medicine (Baltimore). 2022 Oct 14;101(41):e31042.]
抗甲状腺剤メルカゾール・プロパジール/チウラジールによる薬剤性血小板減少は、
- 免疫性血小板減少性紫斑症;血小板に対する自己免疫が誘導される
- 単なる血小板減少症(非ITP);免疫性血小板減少性紫斑症と、どう違うか?血小板に対する自己免疫と言えない血小板減少症。しかしながら、Pa-IgGは不確かなので、自己免疫か非自己免疫か厳密に鑑別する事はできない[Clin Case Rep. 2023 Sep 27;11(10):e7960.]
の2通りが考えられます。症状に違いはなく、歯ぐきの出血、皮下出血、鼻血、出血が止まりにくい、青あざができる等です。[J Endocrinol Invest. 2019 Nov;42(11):1273-1283.]
愛媛大学の報告では、メルカゾール投与後に血小板減少が起こり、骨髄検査を行うも正常。甲状腺全摘手術前に、ヨウ化カリウム(KI)がエスケープ現象で効かなくなり、PTU(プロパジール/チウラジール)併用投与にて甲状腺機能はコントロールできた。しかし、約1か月後、徐々に血小板減少したためPTUも中止。ヨウ化カリウム(KI)の休薬と再投与により甲状腺機能を安定させ、さらに血小板減少に対しγグロブリン製剤投与、甲状腺全摘術手術にこぎ着けた。(第60回 日本甲状腺学会 P2-4-9 MMIとPTUによる血小板減少を認めた小児バセドウ病の1例)
特発性血小板減少性紫斑症(ITP)[免疫性血小板減少性紫斑病]では、血小板膜蛋白(GPⅡa-Ⅲb, GPⅠb-Ⅸ)に対する自己抗体が結合、脾臓での血小板破壊が亢進し血小板減少。皮下出血(点状出血/紫斑)、歯肉出血、鼻出血、下血、血尿、過多月経(甲状腺機能低下症の様)、頭蓋内出血がおこります。
(Blood. 2011 Apr 21; 117(16):4190-207.)
特発性血小板減少性紫斑症(ITP)[免疫性血小板減少性紫斑病]の
- 89%に自己免疫性甲状腺疾患 橋本病/バセドウ病を合併します(Clin Exp Immunol. 1998 Sep; 113(3):373-8.)。
- 39%で抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性(Platelets. 2008 Jun; 19(4):252-7.)
また、特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の8-14%が甲状腺機能亢進症/バセドウ病にいずれ移行する報告もあります。(Semin Hematol. 2007 Oct;44(4 Suppl 5):S24-34.)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)が発症する機序として、
- 甲状腺ホルモンが細網内皮系(肝脾リンパ組織の貪食系細胞)を活性化(Acta Haematol. 1980;63(4):185-90.)
- 重複する自己免疫;血小板と甲状腺の抗原性が類似[GPIDα(platelet membrane glycoprotein)とTABP (truncated actin binding protein)が甲状腺の抗原部位と似た構造](Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 Jul 1; 90(13):5994-8.)(Ann Endocrinol (Paris). 2007 Feb; 68(1):55-7.)
が考えられます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病による代謝亢進で血小板の寿命が短くなる場合、抗甲状腺剤メルカゾール・プロパジール/チウラジールの副作用でも血小板減少おこるので鑑別を要します(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と血小板減少)。
自己免疫性甲状腺疾患に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、特発性・免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)いずれか、あるいは両方(Evans 症候群)合併すると、多腺性自己免疫症候群3c型(APS3c)に分類されます[APS(多腺性自己免疫症候群)3C型=甲状腺に自己免疫性溶血性貧血(AIHA) or 特発性・免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併]。
甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併は特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の出血、全生存率に影響しませんが、これら甲状腺疾患を治療すると、血小板減少が改善しやすくなる報告があります(Ann Hematol. 2021 Feb;100(2):345-352.)(Endocr Metab Immune Disord Drug Targets.)(Hematol Oncol Clin North Am. 2009;23(6):1251-60.)。
一方で、甲状腺機能が正常化しても血小板数に変化無いとの報告もあります(Rev Med Interne. 1989 Nov-Dec; 10(6):565-9.)
- 特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の診断はは除外診断であり、
末梢血塗沫標本で
①血小板サイズの異常(巨大血小板は常染色体劣性遺伝のBernard-Soulier症候群/微小血小板)が無い
②白血球封入体、破砕赤血球に異常が無い
のを確認する必要があります。
常染色体劣性遺伝の血小板無力症(Glanzmann病)は末梢血塗沫標本では鑑別難。 - Pa-IgGは非特異的IgGも測定するので診断価値低い
- 未成熟血小板比率(mmature platelet fraction:IPF);骨髄穿刺しなくても、血小板産生能を評価できる。
- 骨髄穿刺、骨髄生検;巨核球を認める(正形成-過形成)。造血細胞に形態異常は認めない。
特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の治療は、
- ピロリ菌の除菌で40-60%が改善
- 無効なら副腎皮質ステロイド剤投与。あるいは重症ならピロリ菌の除菌と同時に。。
- さらに6カ月以上で効果なければ摘脾(肺炎球菌による脾臓摘出後重症感染症に注意)
- 不応ならトロンボポエチン受容体作動薬(ITPの内因性トロンボポエチンは正常~やや増加)のエルトロンボパグ;内因性トロンボポエチンとは構造が異なり、血栓症・骨髄線維症の副作用
慢性特発性・免疫性血栓性血小板減少性紫斑病に、抗CD20モノクローナル抗体のリツキシマブ(リツキサン®)が有効。
- 従来の治療で十分な効果が得られない
- 副作用の多いステロイド投与を長期間続けられない
- 摘脾手術できない
状態で、かつ出血リスクが高い時に適応。
妊娠合併特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)
特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)は、癌を合併することがあり、日本では腎癌(最多)・胃癌・肺癌・結腸直腸癌・乳癌・食道癌・胆嚢癌・子宮頚癌・尿管癌が報告されています[Hinyokika Kiyo. 2005 Jun;51(6):377-80.]。単なる偶然なのか、因果関係があるのか分かりません。自己免疫性疾患は悪性腫蕩を合併しやすいと言う原則に矛盾しませんが、その具体的な機序は不明です(まあ、正常な免疫が損なわれ、癌に対する免疫も低下するんでしょうが)。
福島県立医科大学が、甲状腺全摘術後に、血小板減少が改善した特発性・免疫性血小板減少性紫斑病合併甲状腺乳頭癌の症例を報告しています。特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の40-60%がピロリ菌の除菌で改善することを考えれば不思議はありません。癌やピロリ菌感染に対する免疫反応が、特発性・免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)の免疫反応と交差するためと筆者は考えています。(第53回 日本甲状腺学会 P-243 甲状腺全摘術後に、血小板減少の改善を認めた特発性血小板減少性紫斑病合併甲状腺乳頭癌症例)
甲状腺癌ではなく乳癌ですが、がん誘発性免疫性血小板減少症の報告があります。根治的乳房切除術によって血小板数は正常化。[Asian J Surg. 2023 May;46(5):2144-2145.]。
「術後乳糜漏・肺塞栓症・ヘパリン起因性血小板減少を併発した甲状腺癌の1例」 が報告されています。[日本臨床外科学会雑誌Vol. 73 (2012) No. 12 p. 3048-3051]
ヘパリンは、急性肺塞栓症の治療薬です。また、抗凝固剤を中止できない病気(脳梗塞、心筋梗塞)の人で、どうしても甲状腺穿刺細胞診・甲状腺組織診(コア生検)・甲状腺手術しなければならない場合、抗凝固剤を一時的にヘパリンに置き換えてから行います(もちろん入院管理が必要になります)。
ヘパリン起因性血小板減少(Heparin-induced thrombocytopenia : HIT)は、ヘパリン投与例の1~5%におこるとされます。血小板減少しますが出血は稀で、適切な治療をしないと30日以内に新たな血栓が形成され、5%が死亡します。急性腎不全で無尿となり、多臓器不全へ進展、一時的に血液透析が必要になる場合もあります。治療はヘパリンを抗トロンビン薬に変えることです。
人工心肺を使わねばならない心臓外科手術で
ヘパリン起因性血小板減少(HIT)患者は、自己免疫疾患[全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ、橋本病(慢性甲状腺炎)(13.6%、対照群は3.6%)]を有する可能性が高い[WMJ. 2018 Mar;117(1):13-17.]。
ヘパリン起因性血小板減少(HIT)で甲状腺クリーゼと動脈血栓症を発症した報告があります。[Can J Cardiol. 2001 Nov;17(11):1180-2.]
HIT抗体(血小板第4因子・ヘパリン複合体抗体)測定
またヘパリンはブタ腸粘膜由来なので豚肉アレルギーのある方は念のため注意してください。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。