甲状腺と免疫力・肺炎球菌、肺炎球菌ワクチン[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学講座で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。肺炎球菌治療、ワクチン接種は行っておりません。
Summary
安定していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病、免疫力低下した甲状腺機能低下症/橋本病で肺炎球菌感染すると甲状腺クリーゼ、粘液水腫性昏睡の危険性。橋本病/バセドウ病で自己免疫性溶血性貧血(AIHA)・特発性血小板減少性紫斑症(ITP)合併し脾臓摘出手術すると、肺炎球菌による脾臓摘出後重症感染症(OPSI)から副腎クリーゼ(急性副腎不全)、副腎出血おこし死亡率は50~75%。肺炎球菌ワクチンの事前投与が必要。選択的IgA欠損症は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病に合併、自己免疫性多内分泌腺症1型(APS1型)の慢性皮膚粘膜カンジダ症の一症状の事も。
Keywords
甲状腺,橋本病,バセドウ病,脾臓摘出,肺炎球菌,脾臓摘出後重症感染症,副腎クリーゼ,急性副腎不全,肺炎球菌ワクチン,選択的IgA欠損症
甲状腺機能低下症と免疫力低下には、いろいろな意見があります。甲状腺ホルモンの低下そのものが、免疫系統に直接影響する証拠はありません。また、甲状腺機能低下症の方でも、甲状腺ホルモン製剤(チラーヂンS)で血中甲状腺ホルモン濃度を正常範囲にコントロールすれば、正常な方と同じ免疫力になります。
しかしながら、甲状腺機能低下症が見逃されたり、甲状腺機能低下症と診断されても患者自身が治療を放棄、あるいは、甲状腺ホルモン補充を開始して間がなく、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない状態では、全身の新陳代謝の低下、低体温による2次的な免疫不全が存在します。(第58回 日本甲状腺学会 P2-10-6 急速に進行した甲状腺機能低下症にRamsay Hunt症候群を認めた83歳女性の一例)
最近の基礎医学研究の結果
基礎医学の分野では、甲状腺ホルモンそのものが免疫系の細胞に作用し、活性化させる研究結果が大半を占め、感染防御に大きな役割を担うとされます。(甲状腺と自然免疫 )
(Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Jun 4;10:350.)
甲状腺と肺炎球菌
糖尿病と肺炎球菌
糖尿病の高血糖下では白血球の機能が低下します。糖尿病のコントロール悪い方は免疫不全状態と言えます。肺炎球菌に感染すると肺炎起こす危険性があり、感染により血糖コントロールさらに悪くなり糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群など重篤な状態になる危険性があります。

自己免疫性甲状腺疾患 橋本病/バセドウ病では自己免疫性溶血性貧血(AIHA)・特発性血小板減少性紫斑症(ITP)を合併し、脾臓摘出手術を行う事があります。また、進行胃がんの切除手術で脾門部リンパ節転移が疑われる脾臓摘出します。
脾臓摘出すると1%(100人に1人)の確率で肺炎球菌に対する免疫力が低下します。肺炎球菌による脾臓摘出後重症感染症(OPSI)にかかると、副腎クリーゼ(急性副腎不全)、副腎出血おこし死亡率は50~75%とされています。肺炎球菌ワクチンの事前投与が必要。ただし、手術直後の術後肺炎球菌感染にワクチンは間に合わないので、手術の数か月前に接種しておかねばならないと思います(髄膜炎菌/肺炎球菌で副腎クリーゼ(急性副腎不全)、副腎出血)
しかし、遺伝性球状赤血球症、小児特発性血小板減少性紫斑症(ITP)で、幼少時に脾摘され、本人が覚えてない事があります(幼小時の手術痕は成人後は分り難くなり、見ても分からない事多い)。当然、昔は肺炎球菌ワクチンなど存在していません。偶然の腹部エコー、腹部・骨盤CTで脾臓が無い事が確認されれば、速やかに肺炎球菌ワクチンの投与を考えなばなりません。また、肺炎球菌ワクチン奏効率は100%ではないため、昔に接種していても、5年毎の投与が必要です。
発症(発熱前)から死亡まで24時間以内で、血液培養と尿中肺炎球菌抗原検査の後、抗生剤CTRXを最大量で開始しても手遅れです。
肺炎球菌は成人の細菌性髄膜炎の起炎菌として最も多いです(次いでインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌)。
肺炎球菌の全身性感染症として最も重篤で死亡率数%、神経学的後遺症は10-20%。症状は発熱、頭痛、嘔吐、意識障害、痙攣など。劇症型肺炎球菌髄膜炎は、発症から24時間以内に死亡する場合もあります。副腎皮質ステロイド薬を使うと、聴力の低下の後遺症、死亡率が減少するとされます(Cochrane Database Syst Rev. 2015 Sep 12 )。
肺炎球菌性敗血症の6%に急性感染性電撃性紫斑病(Acute infectious purpura fulminans:AIPF)を合併したという報告があります(Am J Surg 1993;165:642―5.)。急性感染性電撃性紫斑病(AIPF)は、敗血症、DIC による皮膚の微小循環障害(出血性梗塞・血管塞栓)です。
ペニシリン/経口セフェム薬/テトラサイクリン/マクロライド/クリンダマイシン/ニューキノロン抗菌薬に耐性をもつ多剤耐性肺炎球菌が80%以上を占めます。重症肺炎球菌にはメロペネムが有効。
NHCAP(医療介護関連肺炎)は
- 長期療養型病床もしくは介護施設に入所
- 90日以内に病院を退院
- 介護を必要とする高齢者、身障者
- 通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等による治療)を受けている
のいずれかに該当するものです。
成人肺炎の30%を占め、肺炎球菌・インフルエンザ桿菌が10%強ずつ。誤嚥性肺炎が圧倒的に多く、反復しやすく予後不良。口腔内ケア、ACE阻害薬(ACE-I、サブスタンスP・ブラジキニン増加)、アマンタジン(脳内ドーパミン増加)で予防。
一方、高齢者市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)の重症例ではβ―ラクタム系抗生物質とマクロライド系抗生物質の併用が予後を改善するとされ、ステロイド補助療法とともに推奨されます。
23価肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP)の副反応報告状況で、これまでに1例だけ「副腎機能不全」の報告があります。
肺炎球菌ワクチン接種歴がない人では、65 歳になると役所から接種券が届き、公費で肺炎球菌ワクチン定期接種の1 回目が受けられます。その後は70 歳、75 歳、80 歳、85 歳、90 歳、95 歳、100 歳で同様に公費の肺炎球菌ワクチン接種券が役所から送られてきます。
例外として「60 歳から65 歳未満の人で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活活動が極度に制限される程度の障害やヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害がある人」は肺炎球菌ワクチン接種対象になるため、保健センターと主治医に相談する必要があります。
麻疹(はしか)・選択的IgA欠損
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。麻疹(はしか)・子供の予防接種・選択的IgA欠損・コクサッキーウイルス感染症の診療は行っておりません。
麻疹(はしか)の感染経路は空気(飛沫核)・飛沫・接触感染。麻疹の自然感染、ワクチン接種は甲状腺自己抗体を抑える効果あるとの報告。麻疹肺炎で麻疹甲状腺炎が認められた。選択的IgA欠損症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病を合併した報告あり、自己免疫性多内分泌腺症1型(APS1型) の慢性皮膚粘膜カンジダ症の一症状の事も。
麻疹(はしか)とは
麻疹(はしか)は五類感染症で7日以内に届け出義務あります(全数把握疾患)。麻疹(はしか)は感染力が強く、感染経路は空気(飛沫核)・飛沫・接触感染と多彩。空気(飛沫核)感染するのは、麻疹(はしか)以外では、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌。
日本は2015年、WHOから麻疹排除国の認定を受け、国内での麻疹(はしか)は撲滅されたました。海外、東南アジアなどから持ち込まれ、地域的小流行が起きています。
ワクチン既接種者でも効力が低下し麻疹(はしか)に感染します。糖尿病の免疫不全で重症化。
麻疹(はしか)の潜伏期は10日~2 週間程度。発熱は二峰性で、
麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)接種で95%以上が麻しんウイルスに対する免疫を獲得できますが、5%未満は2回目の接種を受ける必要があります。また、接種後年数経過し、糖尿病などで免疫が低下した人も2回目のワクチンを受けることで免疫を増強できます。
麻疹、流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)の自然感染、またはワクチン接種は、甲状腺自己抗体を抑える効果を有するとの報告があります(Pediatrics. 1999 Jul;104(1):e12.)。
麻疹肺炎で死亡した患者では、重度の急性膵炎、壊死性唾液腺炎および麻疹甲状腺炎が認められました(Histopathology. 2000 Aug;37(2):141-6.)。
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は変異麻疹ウイルスによる中枢神経系への感染です。麻疹感染後数年の潜伏期間を経て発症。麻疹ワクチン接種で発症率は下がりますが、完全には防げません。イノシンプラノベクス(イソプリノシン®)、インターフェロンα/βで延命効果あり。
麻しん・風しん・ムンプス・水痘ワクチン
麻しん・風しん・ムンプス・水痘ワクチンは生ワクチン(弱毒化されているが生きたウイルス)なので、
- 妊婦の接種は禁忌。ワクチン接種後約2カ月間は避妊必要。
- 約90~95%で接種後2週間以内に抗体を獲得
- 医療従事者が接種しても、免疫不全の患者に伝播しない。弱毒生ワクチンなので正常免疫者の体内での増殖は限定的のため。
生ワクチンは不活化ワクチンと比べ、
- 強い免疫力が得られ、持続期間も長い
- 副反応の確率が若干高い
選択的IgA欠損症は、Bリンパ球細胞の異常で、欧米では最も多い免疫不全症ですが、わが国での実態は不明です。選択的IgA欠損症の家系が存在します。
選択的IgA欠損症は、血中IgA濃度 7mg/dL未満、IgGおよびIgM 濃度は正常です。
選択的IgA欠損症は、
- 約2/3は無症状
- 感染症を繰り返しす場合いがある
- 自己免疫疾患の合併率が高い;バセドウ病、橋本病、1型糖尿病、セリアック病、全身性エリテマトーデス(SLE)
- 悪性腫瘍(IgA 産生に関連する組織の悪性腫瘍:骨髄異形成症候群など)の合併を認めることがある
[Autoimmun Rev. 2014 Feb;13(2):163-77.][Scand J Immunol. 2017 Jan;85(1):3-12.]
選択的IgA欠損症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺乳頭癌を合併した報告があります。
(第58回 日本甲状腺学会 P2-4-6 IgA欠損症を合併したバセドウ病の1例)
(第56回 日本甲状腺学会 P1-074 甲状腺機能低下症と選択的IgA 単独欠損症を発症した透析患者の一例)
[Nihon Naika Gakkai Zasshi. 1987 Apr;76(4):533-6.]
選択的IgA欠損症は、毛細血管拡張性小脳失調症、自己免疫性多内分泌腺症1型(autoimmune polyendocrinopathy type 1: APS type 1) の慢性皮膚粘膜カンジダ症の一症状として認められることがあります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)

最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,浪速区,天王寺区東大阪市も近く。