甲状腺と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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甲状腺機能低下症であれ、甲状腺機能亢進症であれ、甲状腺ホルモン異常がある人は、新型コロナウイルス感染(coronavirus disease 2019:COVID-19) で重症化しやすく、死亡率が高いとの報告があります(Mol Cell Endocrinol. 2021 Feb 5;521:111097.)
また、新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:SARS-CoV-2) が結合し、増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2は、甲状腺・下垂体にも発現しています(発現していないとの意見もあり)。(Infect Dis Poverty. 2020 Apr 28;9(1):45.)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。新型コロナウイルスの診療、抗原検査、PCR検査は一切行っておりません。
新型コロナワクチンは取り扱っておりません。
Summary
甲状腺機能が低下すると全身の新陳代謝低下と低体温で2次的免疫不全に。甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充開始したばかりで血中の甲状腺ホルモン値が正常化していない状態で新型コロナウイルス感染したら重症化して肺炎になるかも。甲状腺機能亢進症/バセドウ病で未治療(見つかっていない)、治療途中、服薬自己中断など甲状腺ホルモンが正常でない時に新型コロナウイルス感染すると致死率が十数%の甲状腺クリーゼ起こし生命に危険及ぼす可能性。甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能低下症/橋本病では新型コロナウイルス感染により致死率十数%の粘液水腫性昏睡に至る可能性。
Keywords
甲状腺機能低下症,免疫不全,甲状腺ホルモン,新型コロナウイルス,肺炎,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺クリーゼ,橋本病,粘液水腫性昏睡
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、甲状腺の病気を持つ人にとって、他人事ではありません。
甲状腺機能低下症と免疫力低下には、いろいろな意見があります。甲状腺ホルモンの低下そのものが、免疫系統に直接影響する証拠はありません。[ただし、最近の基礎医学研究では甲状腺ホルモンそのものが免疫細胞に直接影響する結果が大半です(下記)]
甲状腺機能が低下した状態では、全身の新陳代謝の低下と、低体温による2次的な免疫不全が存在します。
例え、甲状腺機能低下症の方でも、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)で血中甲状腺ホルモン濃度を正常範囲にコントロールすれば、正常な人と同じ免疫力になります。
しかしながら、甲状腺機能低下症が見逃されたり、甲状腺機能低下症と診断されても患者自身が治療を放棄、あるいは、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充を開始して間がなく、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない状態では免疫不全の状態です。(第58回 日本甲状腺学会 P2-10-6 急速に進行した甲状腺機能低下症にRamsay Hunt症候群を認めた83歳女性の一例)
血中の甲状腺ホルモン値が正常化していない状態で、もし新型コロナウイルス感染したら、重症化して肺炎になるかもしれません。オミクロン株であれデルタ株であれ、重症化するのは免疫力が低下している人です。
また、甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能低下症/橋本病では、新型コロナウイルス感染により致死率が十数%の粘液水腫性昏睡に至る可能性があります。
さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の社会的影響として、受診抑制による検査機会の減少、服薬アドヒアランス低下(特に通院中断)により、粘液水腫性昏睡 に至る可能性が懸念されます。
最近の基礎医学研究の論文
基礎医学の分野では、「甲状腺ホルモンそのものが免疫系の細胞に作用し活性化させる」研究結果が大半を占め、感染防御に大きな役割を担うとされます。(甲状腺と自然免疫 )
(Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Jun 4;10:350.)
甲状腺機能正常橋本病では?
甲状腺ホルモンが正常で、甲状腺を破壊する自己免疫抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)もしくは抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]のみを持っている人=甲状腺機能正常橋本病は、正常な人と同じ免疫力があります。
よって、正常な人より新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しやすい事は無く、重症化しやすい事もありません。(参考までに新型コロナウイルスで重症化、死亡しやすい人)。
新型コロナウイルス感染(COVID-19)発症7~20日後に倦怠感を認め、潜在性甲状腺機能低下症/橋本病が見つかった報告があります。いずれのケースも甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)補充療法を受け改善しています。
ただ、これについては、
- 新型コロナウイルス感染(COVID-19)により新たに誘発されたのか
- 元々あった潜在性甲状腺機能低下症/橋本病の症状が増悪したのか
- 感染後の倦怠感を機に偶然見つかったのか
不明です。[Singapore Med J. 2021 May;62(5):265.][BMJ Case Rep. 2021 Aug 9;14(8):e244909.]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で未治療(見つかっていない)、治療途中、服薬自己中断など甲状腺ホルモンが正常でない時に新型コロナウイルス感染(COVID-19)の炎症が加わると、全身の臓器が過剰な甲状腺ホルモンと炎症に耐えられなくなり、生命に危険が及ぶ危険性があります。このような状態は甲状腺クリーゼと呼ばれ致死率が十数%です(Lancet. 2016 Aug 27; 388(10047):906-918.)。
実際、テキサス州では、新型コロナウイルス感染(COVID-19)で甲状腺クリーゼを発症した25歳女性の報告があります[AACE Clin Case Rep. 2021 Nov-Dec;7(6):360-362.]
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の社会的影響として、受診抑制による検査機会の減少、服薬アドヒアランス低下(特に通院中断)により、甲状腺クリーゼ に至る可能性が懸念されます。
更に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病は再発する病気です。例え、メルカゾール(あるいはプロパジール)服薬中で、甲状腺ホルモン値を正常に保っていても、投薬中止して安定していても、バセドウ病の活動性が高ければ再発する可能性があります。
例えば、メルカゾール1錠/日で何年間も安定した人と、メルカゾール6錠/日で何とか甲状腺ホルモン値が正常な人を比べればバセドウ病の活動性の差は歴然です。
バセドウ病の3大再発原因は、
- ストレス(感染症、精神的なもの、妊娠(前期)・出産)
- タバコ(受動喫煙含む)
- アレルギー
です。ついにスペインで、人類史上初の、新型コロナウイルスでバセドウ病が再発した可能性がある報告がなされました(新型コロナウイルス(COVID-19)がバセドウ病発症・再発の引き金に!?)。
最悪の決断、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の薬物治療はブロック補充療法[『メルカゾール(あるいはプロパジール、チウラジール)』と『チラーヂン』の併用]に
新型コロナウイルス感染(COVID-19)の重症化率、死亡率が日本とは桁違いのヨーロッパでは、欧州甲状腺学会が公式にトンデモナイ提言を行いました[Eur J Endocrinol. 2020 Jul;183(1):G33-G39.]。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の初期治療では、2週間ごとに抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用チェックと、1カ月ごとに甲状腺ホルモン測定による投与量調節が必要です。しかし、新型コロナウイルスの嵐が吹き荒れるヨーロッパでは、患者が安易に病院まで行けない、医療従事者が甲状腺どころではないから、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の初期治療が難しい状況にありました。
そこで、欧州甲状腺学会が出した結論は、
「甲状腺機能亢進症/バセドウ病の薬物治療は最初からブロック補充療法[『メルカゾール(あるいはプロパジール、チウラジール)』と『レボチロキシン(日本ではチラーヂン)』の併用]にしろ」
という信じられないものでした。ブロック補充療法(Block and Replacement Therapy またはBlock-Replacement Therapy)は、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)単独では、頻回に再発を繰り返す極めて不安定な甲状腺機能亢進症/バセドウ病において、甲状腺ホルモンを安定させるのに有効な(ある意味最終)手段の一つです。[その他の最終手段は、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療、手術療法(甲状腺全摘出)]
ブロック補充療法を行うと、甲状腺ホルモンは安定しますが、バセドウ病の寛解率の上昇は望めません[Cochrane Database Syst Rev. 2005 Apr 18;(2):CD003420.][Indian J Endocrinol Metab. 2015 May-Jun;19(3):340-6.]。
そのため、ブロック補充療法は半永久的に続き、何年あるいは何十年して抗甲状腺薬が必要なくなる可能性を最初から奪い去ってしまいます。(そりゃあ甲状腺ホルモンを下げるだけ下げて、下げた分を補充してりゃ永遠に終わらんわな)。(乱用される『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)服薬中の方は、例え何年-何十年経っても(確率は下がるでしょうが)無顆粒球症 を起こす危険があります。新型コロナウイルスは、重症例において血小板減少症、無顆粒球症、単球減少症、再生不良性貧血を引き起こします。(Am J Blood Res. 2020 Aug 25;10(4):60-67.)
抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)服薬中の方が新型コロナウイルス感染すれば、無顆粒球症を起こす可能性があります。
日本では、4年間、メルカゾール服薬で安定しているバセドウ病患者が、中等度の新型コロナウイルス感染症で入院治療中に無顆粒球症 を発症した報告があります(第64回 日本甲状腺学会 37-2 COVID-19の発症を契機に無顆粒球症を呈したバセドウ病の一例)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の最も危険な副作用は無顆粒球症 です。
無顆粒球症の症状は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とほぼ同じです。無顆粒球症 の方が、新型コロナウイルス(COVID-19)感染より遥かに緊急性が高く、待ったなしなので、新型コロナウイルス(COVID-19)感染と間違えられたら大変なことになります。(無顆粒球症の症状)
日本での甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療の第一選択は、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)による薬物治療ですが、欧米ではアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療を第一選択にしています。その根拠は、「さっさと甲状腺を破壊して二度と再発しない様にすれば死ぬまでに掛かる医療費が安くつく」との医学と掛け離れた欧米的な発想です。それはさて置き、なるほど抗甲状腺薬さへ使わなければ無顆粒球症も起こらないので、コロナ禍でアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療をさらに推す論文が欧米から出るのも納得できます[Adv Clin Exp Med. 2021 Jul;30(7):747-755.]。
ただし、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療の欠点があるため、筆者は日本の「バセドウ病治療ガイドライン 2019」の通り、抗甲状腺薬を第一選択にすべきと考えます。
また、発熱(薬剤熱)、antithyroid arthritis syndrome、MPO-ANCA関連血管炎の症状も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とほぼ同じです。しかし、antithyroid arthritis syndrome、MPO-ANCA関連血管炎では移動性関節痛が出る点が、antithyroid arthritis syndromeでは皮疹が出る点が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と異なります。
新型コロナウイルス感染症で誘発された亜急性甲状腺炎をバセドウ病と誤認し、カルビマゾール(海外で使用されているメルカゾールの類縁薬)を投与した結果、antithyroid arthritis syndromeを起こした報告があります[Diabetes Metab Syndr. 2021 May-Jun;15(3):683-686.]。
信じられない研究結果が、イタリアから出ました。ICUに入るまでもなく、一般病棟に入院した中等症の新型コロナウイルス感染(COVID-19)患者の
- 約20%に甲状腺中毒症
- 約5%に甲状腺機能低下症
が認められました。(Eur J Endocrinol. 2020 Oct;183(4):381-387.)
甲状腺中毒症は、バセドウ病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎など原因を問わず、甲状腺ホルモンが過剰になる状態です。新型コロナウイルス感染(COVID-19)によるサイトカイン・ストーム(インターロイキン(IL)-2、IL-6、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロンガンマ誘発タンパク、単球遊走タンパク-1、TNFα;Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1033-1034.)が甲状腺に直接作用する可能性が考えられます(Hum Pathol. 2007 Jan;38(1):95-102.)。
また、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) が結合し、増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2は、甲状腺にも発現しています(発現していないとの意見もあり)(Infect Dis Poverty. 2020 Apr 28;9(1):45.)。しかし、現時点で、これらの甲状腺機能異常が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による直接的な甲状腺の破壊で起きる証拠は報告されていません。
香港大学の報告でも、軽度から中等度の新型コロナウイルス感染(COVID-19)患者の約15%が甲状腺機能障害(甲状腺ホルモン異常)を示しました。約半数が潜在性甲状腺中毒症(軽度の甲状腺中毒症)、約半数が低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)です。
潜在性甲状腺中毒症と低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)の程度は、
- 炎症マーカーC反応性タンパク質(CRP)
- SARS-Cov-2ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)サイクル閾値
に相関します。要するに、新型コロナウイルス感染(COVID-19)が重症である程、起こりやすいのです。(J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jan 23;106(2):e926-e935.)
イタリアの報告によると、high-intensive care unit(HICU)で入院治療中のCOVID-19の15%におきた甲状腺中毒症は無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)で、新型コロナウイルス関連非定型甲状腺炎(SARS-CoV-2-related atypical thyroiditis)と名付けました。しかし、ウイルス感染で無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)が誘発されるのは、ヒトパルボウイルスB19[伝染性紅斑(リンゴ病)の原因]でも知られているため、敢えてそのような名称は不要と思われます。一方、Low-intensive care unit(LICU)での無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)の頻度は2%なので、やはり新型コロナウイルス感染(COVID-19)の重症度に関連するようです。Lancet Diabetes Endocrinol. 2020 Sep;8(9):739-741.
下の写真は、新型コロナウイルス肺炎に罹った甲状腺機能正常橋本病患者の感染前後6か月の超音波(エコー)画像です。新型コロナウイルス肺炎になる6か月前と6カ月後に、1年に1回の定期検査のため長崎甲状腺クリニック(大阪)を訪れていました。新型コロナウイルス肺炎発症時の甲状腺機能は不明ですが、少なくとも6カ月後は正常でした。しかし、発症前に比べて甲状腺は腫大し、下部の低エコー領域(黒い部分)が拡大しており、橋本病の炎症が増悪した可能性が推察されます。発症時には破壊性甲状腺炎(無痛性甲状腺炎)を起こしていても不思議ではありません。
新型コロナウイルス(COVID-19)が自己免疫甲状腺疾患の引き金としても作用する可能性が報告されています。スペインの報告では、
- バセドウ病が寛解して35年経つ60歳の女性が、新型コロナウイルス(COVID-19)感染1か月後にバセドウ病を再発。
- 53歳の女性が、新型コロナウイルス(COVID-19)感染2か月後に甲状腺機能亢進症/バセドウ病を新規発症。
(SARS-COV-2 as a trigger for autoimmune disease: report of two cases of Graves' disease after COVID-19. J Endocrinol Invest. 2020 Oct;43(10):1527-1528.)
アメリカ、ミシガン州(AACE Clin Case Rep. 2021 Jan-Feb;7(1):14-16.)、マルタ[BMJ Case Rep. 2021 Aug 6;14(8):e244714.]、イタリア[J Endocrinol Invest. 2021 Sep;44(9):2011-2012.]などでも同様の報告があり、増え続けています。
その発生機序として、新型コロナウイルス感染(COVID-19)により
- 上昇したインターロイキン(IL)-2、IL-6、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロンガンマ誘発タンパク、単球遊走タンパク-1、TNFαなどのサイトカイン(Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1033-1034.)が甲状腺の免疫反応を誘発
- 自己免疫疾患に関連する自己抗原[MPO、PRTN3、PADI4、IFIH1、TRIM21、PTPRN2、およびTSHR(TSH受容体)]の発現が増加[Front Immunol. 2021 Jun 30;12:686462.]
などが考えられます。
新型コロナウイルス感染(COVID-19)後に、橋本病(慢性甲状腺炎)を基盤とする出産後甲状腺炎(無痛性甲状腺炎型)を発症した日本(和歌山県立医大)の報告があります。(Endocr J. 2021 Mar 28;68(3):371-374.)
まだ、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したのが、妊娠中でなくで良かったですね。新型コロナウイルス感染(COVID-19)も、出産後甲状腺炎も治癒したそうです。
その発生機序として、新型コロナウイルス感染(COVID-19)により上昇したインターロイキン(IL)-2、IL-6、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロンガンマ誘発タンパク、単球遊走タンパク-1、TNFαなどのサイトカイン(Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1033-1034.)が甲状腺の免疫反応を誘発したと考えるのが自然でしょう。
副腎皮質ステロイド剤は、過剰(有害)な免疫反応(自己免疫など)を抑える良い効果がある一方、ウイルス感染に対する抵抗力も弱める諸刃の剣(もろはのやいば)です。
バセドウ病眼症(甲状腺眼症)で副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン、リンデロンなど)飲んでいる方は、免疫力が抑えられているため、新型コロナウイルス(COVID-19)感染により重症化する危険が非常に高いです。甲状腺の病気の中で、最も危険な状態と言えます。真剣に新型コロナウイルスの予防策を取らねばなりません。
だからと言って、いきなり副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン、リンデロンなど)を止めると、それこそ命に係わる副腎クリーゼ(急性副腎不全)、副腎出血 おこす危険があります(急な中止はダメ)。減量するなら主治医の指示に従い、ゆっくりと減らしていかねばなりません。また、失明の危険がある場合、副腎皮質ステロイド剤を減らす事自体、難しいです。
繰り返しますが、副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン、リンデロンなど)を飲んでいる方は主治医とよく相談し、できる限りの新型コロナウイルス予防をしてください。
※当院では、一切、他院の患者さんの相談はお断りしています。あくまでも、御自分の主治医と相談してください。
新型コロナウイルス(COVID-19)感染でもバセドウ病眼症(甲状腺眼症)でも結膜炎
新型コロナウイルス(COVID-19)感染により結膜炎を生じるため、バセドウ病眼症(甲状腺眼症)による結膜炎と間違えない様注意。(J Med Virol. 2020 Jun; 92(6):589-594.)
亜急性甲状腺炎でも、副腎皮質ステロイド剤を数か月間投与します(亜急性甲状腺炎の治療 )。しかも初期投与量は20mgが一般的です。この間、新型コロナウイルスに感染すれば、間違いなく重症化して命の危険が生じます。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では新型コロナウイルスの流行が終わるまで亜急性甲状腺炎の診療を停止(ステロイド投与中の新型コロナウイルス感染は重症化するため)。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、新型コロナウイルス感染を起こしてもすぐに対処できるよう、コロナ病棟のある病院で行った方が良いと思います。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では新型コロナウイルスの流行が終わるまで亜急性甲状腺炎の診療を停止(新型コロナウイルスによる亜急性甲状腺炎の報告あり、ステロイド投与中のコロナ感染は重症化)。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、新型コロナウイルス感染にすぐ対処できるよう、コロナ病棟のある病院で行った方が良いと思います。
ついに恐れていたことが現実になりました。従来の一般コロナウイルスは亜急性甲状腺炎の原因としてのエビデンスはありませんでした。2002年に流行した旧型SARS-CoV-1感染の患者では、死亡者の病理解剖で甲状腺損傷が見つかっただけでした(Hum Pathol. 2007 Jan; 38(1):95-102.)
しかし、新型コロナウイルス感染後に亜急性甲状腺炎を発症した報告が続々出ています。新型コロナウイルス感染症状は、発熱、下痢、咳症状が多く、咽頭痛や喉(のど)の痛みは少ないので、新型コロナウイルス感染とは別の事態が起きているのに気付き易いかもしれません。
イタリアのピサ大学の第一例目は18歳の女性で、新型コロナウイルス感染自体は軽症(数日で完全回復)、PCRでSARS-CoV-2(COVID-19)陽性確認された15日後に亜急性甲状腺炎を発症(J Clin Endocrinol Metab. 2020 Jul 1;105(7):dgaa276.)
トルコ アンカラ市立病院の第2目は41歳の白人女性で、新型コロナウイルス感染自体は不顕性感染(症状皆無)、亜急性甲状腺炎の発症時にPCRでSARS-CoV-2(COVID-19)陽性を確認(J Endocrinol Invest. 2020 Aug;43(8):1173-1174.)
イタリアのピサ大学で更に4名が追加報告されました。4名ともは女性(29〜46歳)、新型コロナウイルス感染が落ち着いた6〜36日後に亜急性甲状腺炎を発症(J Clin Endocrinol Metab. 2020 Oct 1;105(10):dgaa537.)
その後、メキシコ(Case Rep Endocrinol. 2020 Sep 28;2020:8891539.)、ニューヨーク(Cureus. 2020 Dec 26;12(12):e12301.)でも報告がありました。
新型コロナウイルスは変異を続けており、亜急性甲状腺炎を起こし易い型、起こし難い型があるかもしれません。現時点で、日本の変異株での報告はありません。
その発生機序として、新型コロナウイルス(COVID-19)感染により上昇したインターロイキン(IL)-2、IL-6、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、インターフェロンガンマ誘発タンパク、単球遊走タンパク-1、TNFαなどのサイトカイン(Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1033-1034.)が甲状腺の免疫反応を誘発したと考えるのが自然でしょう。
日本の厚生労働省も、イギリスの国民保健サービス(NHS)も、不急の甲状腺手術/入院・I-131 アイソトープ治療は延期する様、全医療機関に通達を出しています(外科手術トリアージ)。
甲状腺に限らず、全身麻酔手術は、正常な免疫を低下させ、術後肺炎・術後感染症の危険が生じます。特に、術後甲状腺機能低下症では、更に免疫力が低下し危険です。
しかし、進行性の甲状腺がん、薬剤で重症副作用(無顆粒球症 劇症肝炎 など)が出て、あるいは甲状腺クリーゼ おこし手術しか選択肢の無いバセドウ病は、命の危険を覚悟してするしかありません。
バセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後1年間は甲状腺ホルモンが乱高下します。甲状腺機能低下症になった時は、免疫力が低下し、新型コロナウイルス感染すれば重症化します[アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後1年間 ]。
新型コロナウイルス感染(COVID-19)において、
入院時の低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)は、年齢、炎症・組織障害マーカー(C反応性タンパク質:CRP)とは独立した増悪の予測因子です。
即ち、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)になっている新型コロナウイルス(SARS-CoV-29)感染者は、入院後に増悪(重症化)する可能性があります。(Clin Endocrinol (Oxf). 2021 Apr 4:10.1111/cen.14476.)
多少の違いはありますが、他の報告でも、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)は新型コロナウイルス感染(COVID-19)の重症化、予後と関連します。[J Clin Endocrinol Metab. 2021 Jan 23;106(2):e926-e935.]
妊娠後期に新型コロナウイルス感染(COVID-19)と下垂体卒中から中枢性甲状腺機能低下症に至った28歳妊婦の報告があります。
偶然、新型コロナウイルス感染(COVID-19)を合併していただけなのか、それとも、新型コロナウイルス感染(COVID-19)で下垂体出血のリスクが増加したのか不明です。
[Pituitary. 2020 Dec;23(6):716-720.]
新型コロナウイルス感染(COVID-19)で
- 脳内出血[New Microbes New Infect. 2020 Mar 27;35:100669.]
- 急性出血性壊死性脳症[Radiology. 2020 Aug;296(2):E119-E120.]
をおこした報告もあるため、下垂体出血のリスクが増加した可能性は否定できません。
また、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) が結合し、増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2は、甲状腺だけでなく下垂体にも発現しているため[Infect Dis Poverty. 2020 Apr 28;9(1):45.]、直接、下垂体が障害された可能性もあります
オミクロン株はデルタ株・初期の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に比べ、感染力は強いが毒性(重症化率)は低いとされます。オミクロン株は爆発的に増えていますが、重症者はデルタ株ほどではありません。もちろん、ワクチンの普及や、ある程度有効な抗ウイルス薬や抗体製剤の開発の恩恵もあるでしょう。
厚生労働省が公表した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2022年7-8月の重症化率は、60歳未満で0.01%(1000人に1人)、60-70歳代で0.26%(500人に1.3人)、80歳以上で1.86%(100人に1.8人)と、正常な免疫力を持つ若い人はほとんど重症化しません。
もう一度くらい変異すれば、感染力はさらに強まるものの、弱毒化が進みインフルエンザ、うまくいけば風邪程度になると言う専門家もいます(5類感染症への格下げ)。
オミクロン株の症状もデルタ株・初期の新型コロナウイルス(COVID-19)とは異なります。
- 発熱(72%)
- 咳(58%)
- だるさ(50%)
- のどの痛み(44%)
- 鼻水・鼻閉(37%)
- 呼吸困難(6%)、嗅覚障害(2%)、脱毛は少ない
1-3はデルタ株と共通ですが、のどの痛み、鼻水・鼻閉はデルタ株・初期の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ではほとんどありませんでした。呼吸困難、嗅覚障害、脱毛が少ないのもオミクロン株の特徴です。重篤な症状が少なく、風邪と変わらない症状に変化しています。(沖縄県の50人のオミクロン株陽性者による解析)
発熱・のどの痛みが揃ったので、益々、亜急性甲状腺炎と紛らわしくなりました。
オミクロン株の症状の1つ、のどの痛みだけが非常に強く、発熱を伴わない場合があります。痛みの場所が甲状腺より遥かに上なので亜急性甲状腺炎と区別は付きますが、急性喉頭蓋炎、Killer sore throat(致死的なのどの痛み)との鑑別のため耳鼻咽喉科で精査する必要があります。
オミクロン株も小さな変異(マイナーチェンジ)を繰り返し、R.4.8以降、BA.5が主体になっています。いくら弱毒化しても、基礎疾患があって免疫力が低下した高齢者が感染すれば重篤化します。それこそ、カゼでも肺炎をおこす高齢者は昭和の時代と変わりありません。
また、第4波の大阪府以降、医療が逼迫(ひっ迫)するたびに、手が回らず治療が遅れる、入院できないなどの要因で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)致死率が上がるという現象が起きています。
デルタ+オミクロンの混合ウイルス「デルタクロン株」
デルタ株とオミクロン株両方の特徴を持つ混合ウイルス「デルタクロン株」が世界中で見つかっています。今の所、主流でなく散発的に見つかる程度で、どのような性質かはっきりしていません。最悪、デルタ株の高い病原性とオミクロン株の強い感染力を併せ持っていた場合、「デルタクロン株」の流行により感染者と重症者が一気に増える危険性がありましたが、杞憂だったようです。
甲状腺の病気(バセドウ病、橋本病、甲状腺腫瘍)は、優先接種の対象になるの?
甲状腺の病気(バセドウ病、橋本病、甲状腺腫瘍)は、優先接種の対象になる基礎疾患には含まれません。新型コロナワクチンの問診票の「基礎疾患を持っているか?」の項目には記載が必要です。
ただ、甲状腺癌の進行した状態、あるいは甲状腺癌末期は優先接種の対象になる可能性があります(主治医とよく相談ください)。
当院で治療している患者さん以外の方の、新型コロナワクチン相談は一切お断りしています。
尚、当院は新型コロナワクチン接種および副反応に対応しておりません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。