新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と内分泌（ホルモン）異常・後遺症(脱毛,嗅覚味覚障害)[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺：専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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中国湖北省武漢市から感染拡大が続き、世界各国で感染者、死者が出た新型コロナウイルス(COVID-19)感染症。
現在の主流であるオミクロン株は弱毒化し重症化が少ないため、今や世界中がウイズコロナになりました。重症化するのは高齢者や免疫不全の人に限られ、普通に健康な人のコロナへ対する警戒は薄れてしまいました。しかしながら、後遺症の問題は依然として存在し、オミクロン株の後遺症は報告にもよりますが4-5％とされます。これは通常の風邪では考えられない高い数字です。[Lancet. 2022 Jun 18;399(10343):2263-2264.]
その中でも後遺症としての内分泌障害が問題になっています。
主には新型コロナウイルス(COVID-19)感染により誘発された甲状腺の病気ですが、疲労感・食欲不振・brain fogが続いてコロナ後遺症外来を受診しても単なるコロナ後遺症として見逃されている場合があります。[新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がバセドウ病発症・再発の引き金に！？、新型コロナウイルス感染(COVID-19)で中等症患者の20％が甲状腺中毒症[無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)]に！？、新型コロナウイルスで亜急性甲状腺炎を発症]
甲状腺以外の新型コロナウイルス(COVID-19)感染誘発性内分泌障害は、本ページに詳しく記載されています。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。新型コロナウイルスの診療、PCR検査を一切行っておりません。
新型コロナワクチンの取り扱いはありません。
Summary
新型コロナウイルス感染症（COVID-19）と内分泌（ホルモン）異常。下垂体、視床下部、副腎、副甲状腺、甲状腺には新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖するのに必要なACE2が発現している。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染とその後遺症として脱毛、嗅覚味覚障害、唾液腺炎、中枢性尿崩症、炎症による相対的な副腎不全、中枢性（続発性）副腎皮質機能低下症、副腎炎、下垂体損傷、下垂体卒中、下垂体機能低下症、ビタミンD欠乏症および相対的な副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症、高プロラクチン血症がおきる。
Keywords
新型コロナウイルス,下垂体,副腎,低カルシウム血症,ACE2,後遺症,脱毛,嗅覚味覚障害,唾液腺炎,尿崩症
[図；新型コロナウイルス感染症（COVID-19）診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第2.0版]
デルタ株・初期型からオミクロン株に交代が進み、少なくなりましたが新型コロナウイルス感染症（COVID-19）により、あるいはその後遺症として脱毛が起こります。詳しい機序は分かっていませんが、可能性として、
- 毛根を栄養する血管内皮細胞が障害され血流不全
- サイトカインストームで免疫が暴走し、毛根に対する自己免疫が過剰になる
などが考えられます。
元々、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、亜鉛欠乏症、円形脱毛症があれば、それらによる脱毛が増強される可能性があります。（甲状腺ホルモン異常と皮膚・脱毛、円形脱毛症と甲状腺疾患）
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後、一年しても脱毛をはじめとする後遺症は消えません。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染した患者は、嗅覚味覚障害を訴えることがよくあります。嗅覚味覚障害は感染初期に出現し、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染では他の上気道感染症よりも高頻度です。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の唯一の症状である場合もあります。嗅覚味覚障害は呼吸器症状が消えた後も長期間持続する可能性があります。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による嗅覚味覚障害の原因は、直接的な嗅覚ニューロンと味蕾への感染ではなく（ただし、直接感染との説もある）、粘膜内の非ニューロン系の支持細胞の機能障害との説が有力になっています。
[Neurosci Lett. 2021 Mar 23;748:135694.]
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後、一年しても嗅覚・味覚障害をはじめとする後遺症は消えません。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染で唾液腺炎を起こす場合があります。
- 50代後半の男性で重症新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染をおこし、耳下腺炎と舌下腺炎を合併した報告があります。[BMJ Case Rep. 2022 Dec 19;15(12):e251730.]
- 21歳女性で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)誘発性耳下腺炎のみが有症状だった報告[Am J Emerg Med. 2021 Jan;39:254.e1-254.e3.]
- 46歳男性で発熱はあるが気道症状を認めず、後に両側性耳下腺炎を発症した報告[IDCases. 2021;24:e01122.]
などがあります。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連唾液腺炎[BMJ Case Rep. 2022 Dec 19;15(12):e251730.]
（上）新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連唾液腺炎 機序[Front Cell Infect Microbiol. 2022 Mar 2;12:831744.]
（下）新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連唾液腺炎 CT画像；(A)耳下腺炎 (B)舌下腺炎[BMJ Case Rep. 2022 Dec 19;15(12):e251730.]
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の晩期後遺症（合併症）として、
- 感染後6週間で中枢性尿崩症を発症した報告[BMC Endocr Disord. 2022 May 19;22(1):134.]
- 中枢性尿崩症と心筋炎をおこした報告[J Investig Med High Impact Case Rep. 2021 Jan-Dec;9:2324709621999954.]
- 中枢性尿崩症と中枢性（続発性）副腎皮質機能低下症を発症した報告[Pan Afr Med J. 2021 Feb 26;38:222.]
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に中枢性尿崩症を合併した19歳女性の報告[Case Rep Crit Care. 2021 Aug 4;2021:5942431.]
などがあります。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2[ACE-2]は、甲状腺・下垂体にも発現しています（発現していないとの意見もあり）。（Infect Dis Poverty. 2020 Apr 28;9(1):45.）.
中枢性尿崩症が起きる機序として、
- 炎症を介した可逆性下垂体炎
- 直接的な免疫介在性損傷
が考えられます。[J Investig Med High Impact Case Rep. 2021 Jan-Dec;9:2324709621999954.]
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連唾液腺炎による口内乾燥症が原因でおきる心因性多飲症 と鑑別が必要です。
新型コロナウイルス感染(COVID-19)による下垂体損傷が可逆的かどうかは未解決のままです。過去の報告では１例[Cureus. 2023 Aug 21;15(8):e43884.]を除いて前例が不可逆性で、デスモプレシン投与を中止できていません。
下垂体、視床下部、副腎は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を発現しています。
重症新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)肺炎患者ではすでに相対的な副腎不全状態にあります[Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2009 Oct;16(5):392-400.]。
視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)下垂体炎により障害されると致命的です[Am J Physiol Endocrinol Metab. 2021 Apr 1;320(4):E784-E785.]。
副腎炎とその後遺症としての副腎不全を引き起こす可能性もあります[AACE Clin Case Rep. 2022 Mar-Apr;8(2):51-53.]。
しかも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)肺炎に対して副腎皮質ステロイド剤（デキサメタゾン）を使用した後の糖質コルチコイド誘発性副腎不全の危険もあります。[Int J Mol Sci. 2022 Jun 30;23(13):7326.]
下垂体機能低下症患者は、高血圧、高血糖、肥満、椎体骨折などの代謝合併症を持っているため、新型コロナウイルス感染（COVID-19）が重症化する危険あり。[Int J Infect Dis. 2020 Oct;99:47-56.][Pituitary. 2021 Jun;24(3):465-481.]
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2[ACE-2]は、甲状腺・下垂体に発現しています。（Infect Dis Poverty. 2020 Apr 28;9(1):45.）.
下垂体損傷、下垂体卒中、下垂体機能低下症が起きる機序として、
- 間接的な炎症を介した可逆性下垂体炎
- 直接的な免疫介在性損傷、血管障害による下垂体組織の虚血・出血
が考えられます。[Rev Endocr Metab Disord. 2022 Apr;23(2):215-231.]
新型コロナウイルス感染（COVID-19）は最近、下垂体卒中の誘発因子として注目されています。ほとんどは既存のマクロ下垂体腺腫の患者におこっています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) は嗅神経を介して鼻咽頭上皮を通って脳に侵入し、血液脳関門を通過するか、血液脳関門を欠く正中隆起を直接通過するとされます[ACS Chem Neurosci. 2020 Jun 3;11(11):1520-1522.]
そして、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2) が結合し、増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2[ACE-2]は、甲状腺だけでなく下垂体（および脳血管内皮）にも発現しています[Infect Dis Poverty. 2020 Apr 28;9(1):45.]。
新型コロナウイルス感染（COVID-19）による脳血管内皮障害で血小板減少症、凝固障害、および血小板機能障害などがおこり
- 脳内出血[New Microbes New Infect. 2020 Mar 27;35:100669.]
- 急性出血性壊死性脳症[Radiology. 2020 Aug;296(2):E119-E120.]
に至った報告があるため、下垂体出血のリスクが増加した可能性が考えられます。
- 妊娠後期に新型コロナウイルス感染（COVID-19）と下垂体卒中から中枢性甲状腺機能低下症に至った28歳妊婦[Pituitary. 2020 Dec;23(6):716-720.]
- 新型コロナウイルス感染（COVID-19）後6日して下垂体卒中をおこした44歳女性[J Endocr Soc. 2021 Jan 2;5(3):bvaa203.]
- 新型コロナウイルス感染（COVID-19）肺炎と下垂体卒中を同時発症した27歳男性[Surg Neurol Int. 2020 Sep 25;11:304.]
の報告があります。
[(下)Pituitary. 2020 Dec;23(6):716-720.より改変]
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症患者では、 特に重症患者でビタミンD欠乏症および相対的な副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症の有病率が高い。[J Bone Miner Metab. 2022 Jul;40(4):663-669.]
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が増殖するのに必要な細胞膜結合酵素アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の受容体発現増加は、副甲状腺の好酸性細胞でも認められます。[J Pathol. 2006 Nov;210(3):288-97.]
インターロイキン1β、インタールキン-6やTNF-αなど炎症性サイトカインが、腎臓および副甲状腺細胞のカルシウムセンサー受容体(CaSR)のアップレギュレーションを誘導し、血清総カルシウムに対するCaSRの感受性を高めます。結果、PTH分泌に対する副甲状腺細胞の閾値が高くなります。[J Biol Chem. 2005 Apr 8;280(14):14177-88.][J Biol Chem. 2008 May 16;283(20):13586-600.]
プロラクチン(PRL)は、女性の乳汁産生に関与し、不妊症の原因にもなる下垂体前葉ホルモンです。プロラクチン(PRL)には炎症誘発作用と抗炎症作用の両方があり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)をはじめ様々なウイルス感染で高プロラクチン血症が見られます。
新型コロナウイルス感染症（COVID-19）でプロラクチン(PRL)が増加するメカニズムはよくわかっていません。
- 炎症性サイトカインに呼応してプロラクチン(PRL)が上昇
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が低下してプロラクチン(PRL)放出が活性化
などが考えられます。[Mol Cell Biochem. 2022 May;477(5):1381-1392.]
妊活中、不妊治療中の方は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染で高プロラクチン血症が起きることを頭の片隅に入れておいてください。
プロラクチン(PRL)の生理作用と炎症への関与[Mol Cell Biochem. 2022 May;477(5):1381-1392.]
新型コロナウイルス感染症（COVID-19）でプロラクチン(PRL)が増加
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
- 甲状腺編
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- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。
