糖尿病じゃないよ!尿崩症・抗利尿ホルモン(バソプレッシン)・夜間頻尿・夜尿症[甲状腺 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。尿崩症・心因性多飲・バソプレッシン・夜間多尿・夜間頻尿・夜尿症の診療を行っておりません。
Summary
抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシン)出ない中枢性尿崩症(ADH 分泌不全)[特発性尿崩症、続発性(脳腫瘍の頭蓋咽頭腫・胚芽腫、サルコイドーシス、脳外傷・脳手術後、脳動脈瘤・脳炎、リンパ球性漏斗下垂体炎、遺伝性]。症状は1日3L以上の薄い尿、口渇・多飲・多尿の脱水。MRIで下垂体後葉の信号低下、途絶。5%高張食塩水負荷試験・バソプレッシン負荷試験・水制限負荷試験で診断。副腎不全では仮面尿崩症。抗利尿ホルモンは門脈圧亢進症治療薬。高齢者は相対的尿崩症。心因性多飲(心因性多尿)は抗利尿ホルモン低値、糖尿病などの夜間多尿・夜間頻尿と鑑別。
Keywords
中枢性尿崩症,ADH,心因性多飲,抗利尿ホルモン,バソプレッシン,夜間頻尿,糖尿病,甲状腺,バセドウ病,仮面尿崩症
口渇、多飲、多尿でも糖尿病とは限りません。尿崩症もあります。典型的には1日尿量は3000ml以上のダダ漏れで、脱水になります。
抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシンと呼び方は色々)は、尿を減らして、体内に水分を留めるホルモンです。脳の視床下部で産生され、下垂体茎を通り、下垂体後葉に貯蔵され、血中へ分泌されます。抗利尿ホルモンの量が減ったり、血中に放出できないと、多量の薄い尿が出ます。
- 原因のはっきりしない特発性尿崩症(40%)
- 脳の腫瘍(頭蓋咽頭腫・胚芽腫)、サルコイドーシス、脳外傷・脳手術後、脳動脈瘤・脳炎、リンパ球性漏斗下垂体炎などが原因がある続発性尿崩症(60%):下垂体腺腫は少ない
- 常染色体優性遺伝の抗利尿ホルモン合成障害家族性尿崩症(1%):異常構造の抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシン
常染色体優性遺伝のWolfram(ウォルフラム)症候群、WFS遺伝子異常。
中枢性尿崩症(ADH 分泌不全)の治療はデスモプレシン[合成抗利尿ホルモン(バソプレシン)製剤]。12~24時間と長時間効果が持続するが、個人差が大きい。スプレー型点鼻薬、経口剤の2種類。過量投与で低ナトリウム血症、水中毒。
尿崩症はナトリウム濃度の低い低張尿が多量に排泄され、高ナトリウム性脱水となるため、応急処置的に5%ブドウ糖液の点滴を要する。ブドウ糖は体内で代謝され、ブドウ糖液は自由水となります。
仮面尿崩症
副腎不全(アジソン病など原発性副腎皮質機能低下症、下垂体性副腎皮質機能低下症)を併発すると、代償的に抗利尿ホルモン合成が促進され尿崩症がマスクされます(仮面尿崩症)。副腎皮質ホルモン補充で、尿崩症が顕在化されます。
高齢者では正常人でもMRI T1 強調画像で下垂体後葉輝度の低下を認め、抗利尿ホルモン産生が低下してます。高齢者の相対的尿崩症は夜間多尿の原因になります。
Wolfram(ウォルフラム)症候群は常染色体劣性遺伝性疾患にWFS遺伝子異常
- インスリン依存性糖尿病
- 視神経萎縮
- 感音性難聴
- 中枢性尿崩症
かつて多発性硬化症(MS)の亜型と考えられてきた視神経脊髄炎(NMO:Neuromyelitis Optica)は、現在では独立した病態です。最近は視神経脊髄炎関連病・視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とも言われます。
視神経脊髄炎(NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は、アストロサイト(星状細胞)の足突起に高密度に発現する水チャンネルタンパク(アクアポリン4)に対する抗アクアポリン4(AQP-4)抗体によるアストロサイト傷害です。神経線維の髄鞘が壊れるため多発性硬化症(MS)と同じ脱髄疾患に分類されます。膵ベータ細胞を自己免疫で破壊する1型糖尿病との合併は健康人より多いとされます。糖尿病性網膜症の重複が紛らわしくなります。バセドウ病、橋本病、シェーグレン病、SLE(全身性エリテマトーデス)とも合併します。
視神経脊髄炎(NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)は女性に多く、発症年齢は30-40歳が中心で、甲状腺の病気に重なります。
視神経脊髄炎(NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の症状は
- 失明に至る視神経炎;両側性障害、水平性半盲。;抗アクアポリン-4抗体(抗AQP-4抗体)陽性者では、急速に網膜神経節細胞の壊死が始まるため、採血の結果を待たずにステロイドパルス療法を開始。
- 横断性脊髄炎;3椎体以上、両側性に強いしびれ・疼痛
- 脳炎、脳幹部脳炎
延髄;吃逆(しゃっくり)が数日~数週間止まらない(呼吸中枢障害)、吐き気や嘔吐
視床下部;過眠症(ナルコレプシー)、内分泌異常(尿崩症など視床下部異常)を伴う
大脳;意識障害、片麻痺、片側の感覚障害
- 多発性硬化症(MS)と異なり自己免疫疾患の合併が多い高カルジオリピン抗体
甲状腺関連自己抗体
[抗TSH受容体抗体(TR-Ab)
抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)(31.8% vs 健常人16.2%)
抗ぺルオキシダーゼ抗体(TPO-Ab)](37.5% vs 健常人14.9%)(J Neurol Sci. 2016 Jul 15;366:3-7.)
シェーグレン症候群関連自己抗体(抗SS-A 抗体,抗SS-B 抗体)
抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール・チウラジール)内服中にも出現するMPO-ANCA
など自己抗体の発現頻度が高い[J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011 Dec;82(12):1360-4.]
などの特徴があり、甲状腺眼症(バセドウ病眼症・橋本病眼症)に似ています。甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を合併すると、増々、見分けが付きにくくなります。
視神経脊髄炎(NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)と甲状腺
視神経脊髄炎(NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)と
- 橋本病を基盤とする無痛性甲状腺炎(Ger Med Sci. 2015 Nov 18;13:Doc22.)
- 甲状腺機能低下症/橋本病(Oxf Med Case Reports. 2015 Oct 1;2015(10):325-9.)
を合併した報告があります。
また、日本人の視神経脊髄炎(NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)では、
- 19.8%にシェーグレン症候群
- 13.6%に甲状腺疾患
を合併します。[J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2011 Dec;82(12):1360-4.]
抗利尿ホルモン(バソプレッシン)は V1 受容体を介し強力な血管収縮作用で、以下のように使用されます。
- 門脈圧亢進症による静脈瘤出血の緊急止血、門脈圧亢進症性胃症に使われます。βブロッカー:プロプラノロール(インデラル®)も同様の作用。
- 肝腎症候群の治療
- 敗血症性急性腎障害(AKI)は末梢血管拡張しているため、大量輸液、エピネフリン・バソプレッシン・ドパミン(低用量ではダメ)。使用方法は施設により異なり、最初から使用する場合、ノルアドレナリンをこれ以上増やせない時に使用する場合など様々。
- 血液分布異常性ショックでカテコラミンにパソプレシンを併用すると心房細動(Af)発症率が低下するとの報告があります。(JAMA. 2018 May 8;319(18):1889-1900.)
尿崩症と鑑別を要する心因性多飲症、夜間多尿・夜間頻尿、小児夜尿症(おねしょ)
尿崩症と同じく水利尿をおこす心因性多飲(心因性多尿)の原因は、精神疾患、向精神病薬の抗コリン作用による口内乾燥水による大量飲水。尿崩症と同じく低張尿(尿浸透圧低下)、血漿抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシン)低値。尿崩症と異なり①脱水がないため血漿浸透圧は高くない②下垂体MRI正常③5%高張食塩水負荷試験・バソプレッシン負荷試験・水制限負荷試験正常。糖尿病・心不全で夜間多尿、夜間頻尿。夜尿症の原因の5%未満は甲状腺機能亢進症、尿崩症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群(甲状腺機能低下症、先端巨大症、巨大甲状腺腫が原因の事も)。
尿崩症と同じく水利尿をおこすのは、心因性多飲(心因性多尿)です。大抵、精神疾患があり、
- 強迫的な観念から水を多量に飲んでしまう。
- 向精神病薬の抗コリン作用による唾液の分泌不全で口内乾燥
が原因と考えられます。検査所見は
- 低張尿[尿比重1.008~1.012(血漿成分と同じ等張尿)以下]が出て、尿浸透圧低下。(尿崩症と同じ)
- 脱水がないため、血漿浸透圧は尿崩症の様に高くなりません。(尿崩症と異なる)
- 体内の水分過剰になるため血漿抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシン)は代償性に低値。(尿崩症と同じ)
- MRIで下垂体後葉の高信号は保たれ、視床下部から下垂体へ至る経路が途中で途絶は認められない。(尿崩症と異なる)
- 確定診断のため、5%高張食塩水負荷試験・バソプレッシン負荷試験・水制限負荷試験(但し脱水の危険あると、しない)は大阪公立大学病院(旧、大阪市立大学病院) 代謝内分泌内科に短期入院して行います。
心因性多飲(心因性多尿)を伴う甲状腺クリーゼと糖尿病性ケトアシドーシスの合併例が報告されています。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、糖尿病いずれも脱水気味になり、喉が渇くため当然かもしれません。[BMJ Case Rep. 2019 Jan 28;12(1):bcr-2018-227554.]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、発汗による脱水、代謝亢進による体温上昇のため心因性多飲をおこす可能性があります。(心因性多尿)(第65回 日本甲状腺学会 P1-1 多飲・多尿を主訴に来院したバセドウ病の一例)
夜尿症の原因の5%未満は
- 甲状腺機能亢進症(Urology. 1983 Aug;22(2):151-2.)
尿排出速度の低下、残尿増加、膀胱容量の拡大、会陰筋が締まる。(Br J Urol. 1997 Oct;80(4):563-6.)
脳幹反射(排尿反射)の制御が失われる(Acta Paediatr. 2010 Jan;99(1):145-6.) - 尿崩症
- 糖尿病
- 睡眠時無呼吸症候群;甲状腺機能低下症の気道粘膜浮腫・巨大舌、先端巨大症、橋本病などの巨大甲状腺腫、腺腫様甲状腺腫が原因の事も
など治療を要する病気です。治らない夜尿症は、これらの病気を疑う必要があります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。