甲状腺・副腎の病気と鑑別:糖尿病性神経障害[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
注意!長崎甲状腺クリニック(大阪)で自律神経失調症は扱いません。
自律神経障害は、自律神経失調症とは別物です。自律神経障害は神経細胞が部分的あるいは完全に、可逆的あるいは不可逆的に破壊される状態です。自律神経失調症は、単なる自律神経の調節障害です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。
糖尿病:専門の検査/治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・内分泌代謝・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
Summary
糖尿病性神経障害は最初に自律神経障害され、脈のばらつき(CVRR)、残尿・頻尿の神経因性膀胱、発汗障害・乾燥肌、胃無力症(胃アトニー、機能性胃腸症)、食事性低血圧、低血糖症状おこり難く重症化。有痛性糖尿病性神経障害にプレガバリン、デュロキセチン。糖尿病性筋萎縮症は甲状腺中毒性ミオパチー(甲状腺機能亢進症/バセドウ病)・甲状腺機能低下性ミオパチー(甲状腺機能低下症)と鑑別要。糖尿病性外眼筋麻痺はバセドウ病眼症/甲状腺眼症と鑑別要。糖尿病性舞踏病は甲状腺機能亢進症/バセドウ病の舞踏病と鑑別。
Keywords
甲状腺,橋本病,バセドウ病,糖尿病性神経障害,甲状腺中毒性ミオパチー,神経因性膀胱,甲状腺機能低下症,糖尿病,糖尿病性筋萎縮症,自律神経障害
糖尿病性神経障害は、糖尿病の三大合併症の中で、最も多く、最も早く起こります。持続する高血糖そのものと、栄養血管の障害による虚血が原因。
糖尿病性自律神経障害
糖尿病で最初に自律神経が障害されます。
CVRR:心電計を用いて
心臓は自律神経の調節で、脈の速さが微妙に変化します。脈のばらつき(CVRR)を調べれば、自律神経が正常に働いているか否か判ります。
糖尿病性神経障害、アルコール性神経障害、自律神経失調症の診断や、心臓突然死の予測、心筋梗塞後の再発率の予測に有用です。
※長崎甲状腺クリニック(大阪)では、現在CVRRは行っておりません。
起立性低血圧
起立性低血圧は、安静臥床後に起立して3分以内で収縮期血圧20mmHg以上、拡張期血圧10mmHg以上の低下がみられる病態。脳血液灌流量を維持する血圧を保てないために起こります。症状は、起立時のめまい、ふらつき、吐き気、ひどい場合は失神。
起立性低血圧を生じやすい疾患は、
- 糖尿病性神経障害;自律神経反射弓の障害
- 動脈硬化症;血管の反応性が低下
- 加齢;心臓・血管平滑筋のベータアドレナリン作動性刺激に対する反応が低下[Clin Geriatr Med. 1985 Feb;1(1):223-50.]
- 副腎皮質機能低下症;ホルモン応答に欠陥
- 褐色細胞腫;循環血液量減少
- アミロイドーシス
- パーキンソン病;自律神経反射弓の障害[Neurology. 2002 Apr 23;58(8):1247-55.]
- シャイ・ドレーガー症候群[多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)];自律神経反射弓の障害
- レビー小体型認知症
- ドパミン受容体刺激薬ブロモクリプチン(パーロデル®),テルグリド(テルロン®),カベルゴリン(カバサール®)の副作用
- 高齢者の高血圧症
- 起立性不耐症[神経原性起立性低血圧、体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome:POTS)]
など。
起立性低血圧に選択的α1受容体刺激薬ミドドリン(メトリジン錠®)を投与したら高血圧、頻脈、不整脈、狭心症、閉塞性動脈硬化症、前立腺肥大に伴う排尿困難が悪化する危険性があります。
頻尿(神経因性膀胱):腹部超音波(エコー)を用いて
膀胱を動かす神経が障害されると、尿を全部出し切れなくなり、残尿が生じます(神経因性膀胱)。残尿があるため、すぐに膀胱が満杯になり頻尿になります。膀胱超音波(エコー)で診断。
残尿が多いと、尿中に細菌が繁殖しやすくなります。特に、糖尿病では尿中の糖は細菌の栄養源となり、尿路感染症(膀胱炎)がさらに起こりやすいです。頻尿を理由に、水分摂取を怠る(あるいは逆に水分制限する)と尿路感染症(膀胱炎)の危険が高まります。
神経因性膀胱では頻尿であっても水分摂取を怠ってはなりません。
神経因性膀胱から腎膿瘍・腸腰筋膿瘍
神経因性膀胱から致死的な腎膿瘍・腸腰筋膿瘍おこすことがあります。ドレナージで排膿しないと、菌が全身に広がり敗血症で死亡します。(第209回 日本内科学会近畿地方会 演題117 腎周囲から腸腰筋にかけて広範囲な膿瘍を合併した糖尿病の1例)
腸腰筋膿瘍は、糖尿病などの免疫不全状態で発症。症状は、発熱・腰痛・痛みのため股関節を伸ばせない。診断は、腸腰筋穿刺で、膿の確認、起因菌塗沫染色・培養同定し、治療はそのままドレナージ。
頸髄症でも神経因性膀胱
頸髄症でも神経因性膀胱。圧迫部位の感覚障害・筋委縮・腱反射消失と、腹部知覚異常・神経因性膀胱をおこします。頸髄症は変形頸椎に圧迫されるの原因で、糖尿病では骨・関節変形が早くから始まり、重症になります。
発汗障害:汗をかけない
糖尿病性神経障害で汗腺の神経が障害され、汗が少なく皮膚が乾燥することがあります(乾燥肌、ドライスキン)。アミロイドニューロパシー、Wallenberg症候群、small fiber neuropathyと鑑別。もちろん、甲状腺機能低下症・副腎皮質機能低下症・成人成長ホルモン分泌不全・亜鉛欠乏症・橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群との鑑別が必要です。
致命的な:糖尿病性神経障害:両側横隔神経麻痺
両側横隔神経麻痺は、めったにありませんが、時々学会報告されます。糖尿病性神経障害により、呼吸筋である横隔膜を支配する横隔神経が左右とも機能が悪くなると、肺での換気ができなくなります。二酸化炭素が体内にたまり、血液が酸性に傾き、意識障害をきたす危険な状態になります(CO2ナルコ-シス、呼吸性アシドーシス)。
「機能性胃腸症(FD: Functional Dyspepsia)」は、内視鏡で胃に潰瘍やがんがないのに、
- つらいと感じる食後のもたれ感
- 早期飽満感
- 心窩部痛
- 心窩部灼熱感
を感じる病気です。胃無力症(胃アトニー)とは、糖尿病性自律神経障害により胃の筋肉の緊張が低下した状態で、機能性胃腸症のひとつです。甲状腺機能低下症・副腎皮質機能低下症・成人成長ホルモン分泌不全・亜鉛欠乏症との鑑別が必要です。
機能性胃腸症(FD)の原因は
- 胃腸運動神経障害
- 交感神経亢進
- 胃粘膜知覚過敏
- ヘリコバクターピロリ菌
などです。
機能性胃腸症(FD)の治療は
- モサプリド クエン酸塩(商品名:ガスモチン錠):胃十二指腸のセロトニン5-HT4受容体を刺激、アセチルコリンを増大させ、消化管運動促進させます。
- アコチアミド(商品名:アコファイド):アセチルコリン分解酵素、アセチルコリンエステラーゼを阻害、アセチルコリンを増大させ、消化管運動促進させます。
- ドンペリドン:ドーパミンD2受容体への拮抗作用により、消化管の運動を促進。プロラクチン産生下垂体腫瘍には禁忌。
- メトクロプラミド:ドーパミンD2受容体を遮断し、平滑筋収縮の抑制を解除し、消化管機能を改善。褐色細胞腫には禁忌。
- セレキノン(一般名:トリメブチン):オピオイド作動薬
- 六君子湯(人参を含むため甲状腺機能亢進症・糖尿病には向かない)
- 胃酸分泌抑制薬
- 抗不安薬
- ヘリコバクターピロリ除菌(保険適応なし)
食事性低血圧
腸管ホルモン(ニューロテンシン、コレシストキニン)による過度の末梢血管拡張と、糖尿病性自律神経障害により脳血流維持できないのが原因。食事中から終わり頃のふらつき/失神。糖質の多い食事ほどおこりやすいとの報告があります。甲状腺機能低下症・副腎皮質機能低下症・成人成長ホルモン分泌不全・亜鉛欠乏症・低血糖症との鑑別が必要です。
自己免疫性自律神経節障害 (AAG)
自律神経節アセチルコリン受容体に対する自己抗体が原因で、
- 交感神経障害:起立性低血圧、無汗症
- 副交感神経障害:膀胱直腸障害、脈拍変動、口渇、瞳孔収縮異常
をきたし、糖尿病性自律神経障害・甲状腺機能低下症・副腎皮質機能低下症・成人成長ホルモン分泌不全・亜鉛欠乏症・橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群との鑑別が必要です。
低血糖症状おこり難く、重症化
低血糖の動悸、発汗、皮膚蒼白などの低血糖症状は、交感神経の亢進により血糖を上昇させようとする、低血糖に対する体の防御反応です。また、低血糖に気付かせてくれる体のSOSサインでもあります。交感神経が障害され、低血糖症状が起こりにくくなれば、低血糖は気付かないまま重症化し、いきなりけいれん発作や意識障害をきたす危険があります。
糖尿病性感覚神経障害
糖尿病性感覚神経障害の代表的な症状は、シビレ・痛み、逆に感覚消失です。夜も眠れないほどのシビレ、痛みになる事もあります。また、感覚が低下するため、痛みを感じず、足に傷や焼けどを負っても気が付かない場合もあります(糖尿病足と閉塞性動脈硬化症・壊疽)。
傍腫瘍性感覚性ニューロパチー
傍腫瘍性感覚性ニューロパチー(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)は小細胞肺癌に伴うことが多く、ギラン・バレー症候群と同様に血中自己抗体(抗ガングリオシド抗体)が陽性になることがあります。糖尿病性感覚神経障害と鑑別要。
糖尿病性筋萎縮症
高齢者に多く、おしり・太ももの筋肉の疼痛、筋力低下、筋萎縮をおこす糖尿病性末梢神経障害の一つです。遠位筋優位の筋萎縮性側索硬化症(ALS)に似ていますが、糖尿病性筋萎縮症は近位型で痛みがあり、血糖コントロールで改善します。甲状腺中毒性ミオパチー(甲状腺機能亢進症/バセドウ病)・甲状腺機能低下性ミオパチー(甲状腺機能低下症)との鑑別が必要。
糖尿病性単神経障害
糖尿病性外眼筋麻痺
糖尿病性外眼筋麻痺は糖尿病の1%に合併、動脈硬化性血流障害で高齢者におこりやすいとされます。半数で発症前から眼窩内や眼周囲の痛みが先行。動眼神経麻痺が最も多く、眼球運動障害・眼瞼下垂をきたすが散瞳を生じないのが特徴(神経辺縁部は虚血が軽い)。次いで外転神経麻痺。滑車神経麻痺では頭部を健側に傾けると複視が改善します。3カ月で自然回復します。バセドウ病眼症/甲状腺眼症との鑑別要。
うつ薬デュロキセチン(商品名サインバルタ)は、セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬で、糖尿病性神経障害に伴う疼痛に保険適応があります。日本ペインクリニック学会のガイドラインでも神経障害性疼痛の第一推奨薬の一つです。めまい、ふらつき、傾眠(眠い)などの副作用で、プレガバリン(リリカカプセル®)・ミロガバリン(タリージェ®)が使用できない時に有用。
しかし、高血圧、心疾患のある患者には、心拍数増加,血圧上昇,高血圧クリーゼをおこすことがあり、慎重投与になっています。よって
- 甲状腺ホルモンが正常化していない、あるいは正常化して間がなく、不整脈・タコつぼ型心筋症おこす危険のある甲状腺機能亢進症/バセドウ病
- 甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病で、動脈硬化が進行し、狭心症/心筋梗塞の発症の危険がある場合
- 副腎腫瘍でノルアドレナリン・アドレナリンを産生する褐色細胞腫
に使用すべきではありません。
また、デュロキセチン(サインバルタ®)は悪心・嘔吐を来すこともあります。
プレガバリン(リリカカプセル®)・ミロガバリン(タリージェ®)は電位依存性カルシウムチャネルのα2δリガンドで、神経細胞内へのカルシウム流入をブロックし、グルタミン酸など神経伝達物質の放出を妨げます。
プレガバリン(リリカカプセル®)も有痛性糖尿病性神経障害、三叉神経痛、線維筋痛症に適応があります。日本ペインクリニック学会のガイドラインでも神経障害性疼痛の第一推奨薬の一つです。ミロガバリン(タリージェ®)は、末梢性神経障害性疼痛のみ。
副作用として
- めまい、ふらつき、傾眠(眠い)、意識消失で自動車事故、転倒し骨折した報告があります。糖尿病性自律神経障害による起立性低血圧、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病でもめまいおこし得る(めまい・ふらつきと甲状腺)ため注意が必要。
- 同時に、低血糖おこす可能性もあり、 低血糖おこしやすい糖尿病、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも低血糖おこし得る(甲状腺でも低血糖)ため注意が必要。
時代遅れも甚だしいの三環系抗うつ薬、アミトリプチリン(トリプタノール®)、ノルトリプチリン(ノリトレン®)、イミプラミン(トフラニール®)は、日本ペインクリニック学会のガイドラインでも神経障害性疼痛の第一推奨薬になっているから驚きです。
疼痛性神経障害に対して、他国では最も一般的に使用され、有効率も高いですが、抗コリン作用などの副作用のため日本では廃れてしまった薬です。、副交感神経をブロックし、相対的に交感神経を優位にするため、甲状腺ホルモンの作用を増強させ、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させます。また、長期間の活動性ある甲状腺眼症(バセドウ眼症)に使用すると緑内障発作の危険があります。(Ophthalmology. 1997 Jun;104(6):914-7.)
その他
- 不整脈治療薬メキシレチン(メキシチール®)は海外では無効とされ、国内でも慢性障害性疼痛に無効とされます。
- 抗うつ薬フルボキサミン(商品名. デプロメール、ルボックス)は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)ですが、甲状腺機能低下症、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)、高プロラクチン血症の副作用あり、三環系抗うつ薬より効果劣る
- ミルナシプラン(トレドミン®)はセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)で、神経障害性疼痛に保険適応ないが、日本ペインクリニック学会のガイドラインでは第一推奨薬無効時の選択肢の一つです。
糖尿病性舞踏病は、糖尿病性神経障害の一つで、高齢者に突然発症する舞踏運動/バリズムです。被殻:大脳基底核にMRI T1強調画像で高信号になり、血糖コントロールにともない改善します。大脳基底核の虚血・点状出血・代謝異常が考えられます。
舞踏病は甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも発症する事があります。(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアテトーゼ不随意運動)
多発性硬化症(MS)の亜型である視神経脊髄炎(NMO)は、抗アクアポリン4(AQP-4)抗体により神経線維の髄鞘が壊れる脱髄疾患です。膵ベータ細胞を自己免疫で破壊する1型糖尿病との合併は健康人より多いとされます。神経症状の重複が紛らわしくなります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。