高カリウム血症・偽性高カリウム血症[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)、甲状腺専門クリニックです。高カリウム血症・高ナトリウム血症の診療を行っておりません。
甲状腺・内分泌代謝が原因の高カリウム血症は以下くらいのものです。
Summary
高カリウム血症の原因①原発性副腎皮質機能低下症で鉱質(ミネラル)コルチコイド分泌低下(低ナトリウム血症も伴う)②急性副腎不全の9.3%に高カリウム血症(低ナトリウム血症は64.8%)③糖尿病性腎症の慢性腎不全④甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)放射性ヨウ素(I-131)治療前の甲状腺ホルモン剤中止(心不全・腎機能低下による)⑤降圧薬のACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の副作用(腎血流減少、GFR低下による)。駆血帯で長時間強く圧迫、手を開き握る動作の繰り返し、高齢者の脆い血管・赤血球膜、低温、白血球・血小板異常高値で偽性高カリウム血症に。
Keywords
副腎皮質機能低下症,甲状腺分化癌,慢性腎不全,カリウム,偽性高カリウム血症,高カリウム血症,ACE阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,ARB,甲状腺
- 原発性副腎皮質機能低下症の高カリウム血症
- 急性副腎不全の高カリウム血症
- 慢性腎不全の高カリウム血症
- 甲状腺癌全摘出後の放射性ヨウ素(I-131)治療前の甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)中止で高カリウム血症
- 急速なカリウム輸液で不整脈や心停止
- 高カリウム血症の症状
- 高カリウム血症の治療
- 高カリウム血症の予防
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)のI-131 アブレーション治療前の甲状腺ホルモン剤中止による高カリウム血症
- 抗アルドステロン薬のスピロノラクトン(アルダクトンA®)で高カリウム血症
- 降圧薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の副作用で高カリウム血症
- ST合剤(バクタ配合錠)で高カリウム血症
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺中毒症に使用するβ(ベータ)ブロッカー
- カリウム 偽高値(偽性高カリウム血症)
高カリウム血症は血清カリウム濃度が5.5mEq/L以上になる状態です。
副腎自体が障害される原発性副腎皮質機能低下症では、鉱質(ミネラル)コルチコイドの分泌が低下し、高カリウム血症になります。(もちろん低ナトリウム血症も伴います)
急性副腎不全の9.3%に高カリウム血症を認めます(低ナトリウム血症は64.8%)(日本内科学会雑誌 97:708―710,2008.)。
糖尿病性腎症の慢性腎不全では、急速な腎機能の悪化や血清カリウム値の上昇がおこることがあります。高カリウム血症で致命的なのは致死性不整脈です。血清カリウム値が7mEq/L以上になれば、約70%が死亡します。血液検査の時間が掛かる場合には、心電図で判断しますが、
- 血清カリウム値と心電図は必ずしも相関せず医者泣かせ
- 血清カリウム値>6.8 mEq/Lで心電図変化が出るのは約半数に過ぎない(Arch Intern Med. 1998; 158: 917‒24.)
血清カリウム値が上昇すると心電図では
- T波が増高しテント状T波
- さらにPRが延長し、やがてP波が消失
- QRSが広くなり心室細動(VF)
と死の転帰をとります。
甲状腺癌全摘出後の放射性ヨウ素(I-131)治療では、I-131 投与の4週間前(2週間前の施設もあり)から甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を中止して甲状腺機能低下症にします。下垂体からのTSH(甲状腺刺激ホルモン)分泌は最大限に上昇(血清TSH濃度≧30 μIU/mLが好ましい)。甲状腺癌が残っていれば、TSHに反応してサイログロブリン産生すると共にI-131を取り込みます。甲状腺機能低下に伴って心不全・うつ症状悪化、腎機能低下(低ナトリウム血症、高カリウム血症)による放射性ヨウ素(I-131)の排泄遅延と被ばく量増加がおこります。甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を再開してもすぐには回復しません。
急速なカリウム輸液は、不整脈や心停止をきたします。末梢静脈路からカリウムを含む維持輸液製剤を投与する際、カリウム濃度を40mEq/L以下に希釈しなければなりません。
高カリウム血症の症状は、軽度では症状に乏しく、中等度では吐き気・しびれ、重度では、
- 筋力低下
- 筋肉痛
- 心室細動→心停止
をおこす危険があります(これらは、低カリウム血症でも同じ症状です)。
緊急を要する高カリウム血症の治療
緊急を要する高カリウム血症の治療は、
- すぐにカルチコール®(8.5%グルコン酸カルシウム)10 mLを2~3分掛けて静注;カリウムを下げる効果はないが、心筋膜を安定化し心室細動(Vf)を予防。1~3分で効果発現、30分効果持続
- その後、GI療法;インスリンとグルコースの同時投与によって血中のカリウムとグルコースを細胞内に移動させる。低血糖を防ぐため高濃度ブドウ糖を使用。
ヒューマリンR(速効型インスリン)10単位+50%ブドウ糖液 50mLで静注。血糖値が250 mg/dL 以上であればブドウ糖不要。30分で効果発現。
※元々、高血糖がある場合インスリン単独
- β刺激薬吸入(メプチン®4 cc吸入)細胞内にカリウムをシフトさせるが、ほとんど効かない。甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させる危険
- 急場をしのいだら透析に
緊急性の高い高カリウム血症でケイキサレート®、カリメート®は禁忌。吸収が遅く、イレウスや腸管壊死の危険性。
緊急を要さない高カリウム血症の治療
緊急を要さない高カリウム血症の治療薬は、
- ポリスチレンスルホン酸カルシウム(カリメート®、アーガメイト®)
- ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート®)
- ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(ロケルマ®);
カリウムを選択的に捕捉し、K+吸着時に水素イオン(H+)とナトリウムイオン(Na+)を放出。
即効性がある。
カルシウムイオン(Ca2+)・マグネシウムイオン(Mg2+)等の2価陽イオン(金属イオン含有製剤)に影響されない。
他剤と違い非ポリマー性のため、腸管内で膨張しにくい
[N Engl J Med. 2015 Jan 15;372(3):222-31.]
薬価が高いのが難点。
で、
- 吸収が遅く、便秘・硬便、ひどい場合、イレウスや腸管壊死の危険性があるため、元々便秘の人、甲状腺機能低下症の人には要注意。
対策として、刺激性下剤でなく、浸透圧下剤が有効。①酸化マグネシウム;腎機能低下では使えない(甲状腺と高マグネシウム血症)、②ラクツロース;肝不全の高アンモニア血症に加え、慢性便秘症も保険適応になりました。 - 甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の吸収障害おこすため、甲状腺機能低下症でチラーヂンS服薬中の人は要注意(薬剤性チラーヂンS吸収障害 )。
高カリウム血症の予防は、カリウムを過剰に含む食物・健康食品・サプリメントの除去です。具体的には、
- クロレラ;約 10 mg/g
- スピルリナ;約 14mg/g
- 昆布(こんぶ);約 80 mg/g、昆布茶(こんぶ茶);約400 mg/100 mL
- ひじき;約 60 mg/g
- バナナ;約 200 mg/本
- スイカ;約 120 mg/100g
- みかん;約 130 mg/100g
と、海藻類・果物が多いです。特に、昆布(こんぶ)・昆布茶(こんぶ茶)・ひじきは、ヨード(ヨウ素)含有量も多く、甲状腺の病気にも悪影響[ヨウ素(ヨード)と甲状腺]。
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)のI-131 アブレーション治療では、甲状腺ホルモン剤を中止するため、甲状腺機能低下にともなって心不全・うつ悪化、腎機能低下(低ナトリウム血症、高カリウム血症)が起こります。
稀ながら重度の高カリウム血症を引き起こす事があります(Endocr Pract. 2015;21:488-494.)
心不全治療に抗アルドステロン薬 スピロノラクトン(アルダクトンA®)を使用するようになってから、高カリウム血症が原因の入院、死亡が増えました(N Engl J Med. 2004; 351: 543‒51.)。性ホルモン受容体にも作用するため女性化乳房などの抗アンドロゲン作用を有します。
抗アルドステロン薬のエプレレノン(セララ®)は、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者に投与すると、高カリウム血症をおこすが危険があるため禁忌。
エサキセレノン(ミネブロ®)は、
- 選択的ミネラルコルチコイド受容体ブロッカーで、中等度腎機能障害、アルブミン尿を有する2型糖尿病患者での安全性が確認されている
- ステロイド骨格を持たないため、添付文書に女性化乳房の副作用は記載されていない
フィネレノ(ケレンディア®)もステロイド骨格を持たない選択的ミネラルコルチコイド受容体ブロッカーで、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)に保険適応があります。原則、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE)又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)に併用投与するため、eGFR低下と高カリウム血症には特に注意が必要。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺中毒症における高血圧(甲状腺と降圧薬)、動脈硬化の予防、心肥大・心不全の改善、原発性アルドステロン症・高アルドステロン性高血圧の治療、誤嚥の予防(ACE阻害薬のみ)に使用される降圧薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の副作用で高カリウム血症おこす事があります。GFRの低下した患者に投与すると、腎血流が減少し、さらにGFRが低下→高カリウム血症をおこします。
ラジレス®(アリスキレンフマル酸塩)は、直接的レニン阻害剤で、高カリウム血症おこす可能性があります。糖尿病合併高血圧症で、ラジレス®(アリスキレンフマル酸塩)とACE阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の併用は原則禁忌です。
抗利尿ホルモンに拮抗するバソプレシンV2-受容体拮抗薬のトルバプタン(サムスカ®)で、高カリウム血症・高ナトリウム血症をおこします。
亜急性甲状腺炎の治療で高容量の副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を用いる場合[プレドニゾロン(PSL)20mg以上/日の投与を1カ月以上続ける時など]、ニューモシスチス肺炎の予防にST合剤(バクタ配合錠)を併用します。ST合剤(バクタ配合錠)でも高カリウム血症を起こす危険があります。
ST合剤はスルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤で、トリメトプリムはアミロライド、トリアムテレンなどカリウム保持性利尿薬の構造に似ています。これらの薬剤は遠位尿細管と皮質集合管のアミロライド感受性上皮型ナトリウムチャネルを競合阻害し、ナトリウム再吸収とカリウム排泄を妨げます。 (N Engl J Med 1993;328:703-706.)
よって低ナトリウム血症を伴う事もあります。
体内カリウムの98%は細胞内にあって、血液など細胞外液中には2%しか存在しません。血液中では98%が赤血球内に存在します。よって、採血や検体保存の際に赤血球内のカリウムが放出されてしまうと、偽性高カリウム血症になります。
例えば、
- 駆血帯で長時間強く圧迫して採血すると、圧迫により細胞内からカリウムが血液中へ流出
駆血時、手を開いて握る動作を繰り返すと筋肉細胞からカリウム流出
- 高齢者では血管が細く・もろいため採血し難かったり、赤血球膜がもろかったりして、採血の過程で溶血すると赤血球内のカリウムが放出
- 低温下では、赤血球が壊れやすくなります。溶血すると赤血球内のカリウムが放出
- 末梢血白血球数・血小板数が異常高値だと、採血後に血液が凝固する際に白血球・血小板からカリウムが放出。血小板数が60万/μL 以上で起こり易い。(Crit Rev Clin Lab Sci. 2015;52(2):45-55.)
偽性高カリウム血症になります。
上記3. 4.の場合、ヘパリンリチウムを抗凝固剤として採血(ヘパリン採血)し、血漿カリウムを再測定すれば正常になります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区,生野区,天王寺区も近く。