妊娠糖尿病と糖尿病女性の妊娠 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 動脈硬化 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。
糖尿病:専門の検査治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門・内分泌代謝・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
Summary
妊娠糖尿病と糖尿病女性妊娠は異なる。妊娠糖尿病は妊娠中にはじめて発見・発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常で、胎盤ホルモンの影響で血糖値が上がる病態。周産期合併症リスクが高くなるので厳格なコントロール必要。糖尿病女性妊娠は正常妊娠と比べて母児ともに合併症発症のリスクが高くなるため、妊娠前からの血糖コントロールと計画妊娠が必要。糖尿病女性妊娠の母体トラブルは、網膜症・腎症の悪化、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、羊水過多症、膀胱炎・腎盂炎、流早産・死産など。胎児・新生児トラブルは、先天奇形、巨大児、低出生体重児、新生児低血糖・呼吸障害。
Keywords
妊娠糖尿病,糖尿病,妊娠,胎盤ホルモン,血糖値,妊娠高血圧症候群,妊娠中毒症,羊水過多症,流早産,胎児,巨大児,低出生体重児,甲状腺
甲状腺と糖尿病
1型、2型糖尿病を問わず甲状腺疾患の合併が多いとされます[BMC Med. 2016 Sep 30; 14(1):150.][Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Jul;75(1):1-9.]。詳しくは 甲状腺と糖尿病 を御覧下さい。
妊娠前は、甲状腺疾患の有無を検査する必要があります。
妊娠糖尿病と糖尿病女性妊娠の治療は、婦人科と糖尿病内科の両方が同施設にあるところが好ましいです。
妊娠糖尿病と糖尿病女性妊娠は異なる病態です。
妊婦の8人に1人は妊娠糖尿病(GDM)を発症します。妊娠糖尿病は通常の糖尿病とは異なります。妊娠糖尿病は、「妊娠中にはじめて発見または発症した、かつ糖尿病に至っていない糖代謝異常」と定義されます。
妊娠中は
- 胎盤ホルモンの影響でインスリン抵抗性が生じる
- 母体膵β細胞のインスリン分泌が、それに追いつかない
ため、血糖値が上がりやすくなります。
妊娠糖尿病のスクリーニングは、
- 妊娠初期の随時血糖
- 妊娠中期(24~28 週)の随時血糖もしくは50 g ブドウ糖負荷試験(140 mg/dL 以上が陽性)
で行います。
妊娠糖尿病の診断基準:糖負荷試験75gOGTTにおいて次の1点以上を満たす
空腹時血糖値 ≧92 mg/dL
1時間値 ≧180 mg/dL
2時間値 ≧153 mg/dL
と、通常の糖尿病より厳しい基準です。すなはち、妊娠糖尿病は通常の糖尿病診断基準を満たさないのです(糖尿病に至っていない糖代謝異常なので当然だが)。
例え、糖尿病に至っていない糖代謝異常でも周産期合併症のリスクは高くなるので、厳格なコントロールが必要です。妊娠糖尿病の管理基準は、
- 早朝空腹時血糖値 <95 mg/dL
- 食後1時間値 <140 mg/dL
- 食後2時間値 <120 mg/dL
ただし、重症低血糖や無自覚性低血糖がある場合、この限りではありません。
血糖自己測定(SMBG:self-monitoring of blood glucose)は
- 妊娠糖尿病の診断基準を1点満たす+妊娠前BMI が25 以上
- 妊娠糖尿病の診断基準を2点以上満たす
場合に保険適用。
妊娠糖尿病の治療は
- 食事療法;糖尿病に準じた食事療法
- 運動療法;妊娠中は十分な運動ができないため、食事療法が中心となります
- インスリン投与;食事療法で管理基準に届かない場合
妊娠糖尿病のリスクと甲状腺自己抗体[主に抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]の間には、有意だが、それ程強くない関連があります。(Fertil Steril. 2015 Sep;104(3):665-71.e3.)
特に、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は、不妊治療で妊娠した女性における妊娠糖尿病の独立した危険因子です。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性でかつTSH高値 or FT4低値なら、更にリスクが高まります。(Diabetes Res Clin Pract. 2021 Jan;171:108590.)
妊娠糖尿病はたとえ低リスク群であっても、将来の糖尿病発症リスクは高く、産後の食事・運動療法が糖尿病発症回避に重要です。
糖尿病女性の妊娠は、正常妊娠と比べて母児ともに合併症発症のリスクが高くなるため、妊娠前からの血糖コントロールと計画妊娠が必要です。
ころころ変わるガイドラインの2019年版では、妊娠前のHbA1c 6.5%未満が推奨されます(Diabetes Care. 2019 Jan;42(Suppl 1):S165-S172.)
妊娠により糖尿病性腎症、網膜症が増悪しますが、微量アルブミン尿(早期腎症)、初期の単純性網膜症だけなら妊娠を避けなくても良い。
妊娠中における明らかな糖尿病の診断基準は、以下のいずれかを満たす場合で、
- 空腹時血糖値≧126 mg/dL
- HbA1c 値≧6.5%
*随時血糖値≧200 mg/dL あるいは75g OGTT で2 時間値≧200 mg/dL の場合は、妊娠中における明らかな糖尿病の存在を念頭に置き、①または②の基準を満たすかどうか確認する。
糖尿病合併妊娠の診断基準は、
- 妊娠前にすでに診断されている糖尿病
- 確実な糖尿病網膜症があるもの
母体トラブル
母体のトラブルは、網膜症・腎症の悪化、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、羊水過多症、膀胱炎・腎盂炎、流早産・死産です。
胎児・新生児トラブル
胎児・新生児のトラブルは、糖尿病母体の児(IDM:infant of diabetic mother)症候群と呼ばれる様々な合併症が発症します。先天奇形、巨大児、肩甲難産、分娩損傷、腕神経叢麻痺、低出生体重児、呼吸障害・呼吸窮迫症候群、多血症、高ビリルビン血症、低カルシウム血症、けいれん、脳障害、適応不全、新生児低血糖です。
胎盤の糖輸送担体(Glut)による糖輸送で、母体の高血糖がそのまま胎児高血糖になります。すると、
- 胎児膵臓からインスリンの過剰分泌が起き、その成長因子作用で、胎児の過剰体重・巨大児
- 浸透圧利尿による羊水過多症
が発生します。
巨大児とは在胎週数に関連なく出生体重が4000 g 以上の児です。巨大児は肩甲難産、分娩時骨折、腕神経叢麻痺など周産期合併症が危惧されるため、帝王切開になる頻度も高い。巨大児の最も多い原因は糖尿病で、肥満や妊娠中の異常体重増加などもある。
糖尿病合併妊娠の治療目標
糖尿病妊婦における妊娠中の血糖コントロール目標は
- 早朝空腹時血糖値 <95 mg/dL
- 食後1時間値 <140 mg/dL
- 食後2時間値 <120 mg/dL
- HbA1c:5.8%未満
- グリコアルブミン:15.8%未満
です。
糖尿病関連では毎度のことながら、どうせ何年かしたら、基準が変わります。そのたびに、基準を満たす方、満たさない方が現れ混乱が生じます。診断基準・治療基準を作っている方々は、「真実は一つしかない」という万物の摂理を御存知ないのでしょうか?
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。