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低ナトリウム血症をおこすSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)

低ナトリウム血症 鑑別

甲状腺専門内分泌代謝長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

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  1. SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)[低浸透圧性低Na 血症](細胞外液量ほぼ正常:やや増加)(本ページ)
  2. その他の低ナトリウム血症
  3. 細かい事は抜きで、高齢者の低ナトリウム血症

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の診療を行っておりません。

Summary

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)は、体内に水を貯めて尿量を減らす抗利尿ホルモン(バソプレッシン, ADH)が抑制を受けずに分泌され続ける状態。原因は抗利尿ホルモンを作る内分泌腫瘍(小細胞肺癌など)、薬剤性。低ナトリウム性低浸透圧血症・低尿酸血症でもADHが測定でき、中枢性塩類喪失症候群(CSW)と非常に似た検査所見で鑑別困難。治療は1日800ml以下の水制限と10g以上の食塩摂取。トルバプタン(サムスカ®)は抗利尿ホルモンに拮抗し、水の再吸収だけを阻害するため、低ナトリウム性心不全、肝性浮腫、SIADHに有効。

Keywords

SIADH,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群,抗利尿ホルモン,バソプレッシン,ADH,低ナトリウム性低浸透圧血症,低尿酸血症,中枢性塩類喪失症候群,水制限,トルバプタン,サムスカ

低ナトリウム血症とは

低ナトリウム血症症状

血清Na(採血でわかるナトリウム)濃度は135~150 mEq/Lの範囲に厳格に調節されていて,血清ナトリウム濃度<135mEq/Lになれば低Na血症です。

血清ナトリウムが

  1. 130mEq/l以下になると軽度の虚脱感や疲労感、認知症様症状が出現
  2. 120mEq/l以下では脳浮腫(脳がむくむ)から精神錯乱、頭痛、悪心、食思不振おこし
  3. 110mEq/l以下で脳浮腫がさらに悪化、痙攣、昏睡状態になり脳ヘルニア(脳圧が異常亢進すると、脳組織が隣接腔へ嵌入)で死亡します。

正常値:尿中Na量は4~8g/日、170mEq/日、尿中Na濃度118mEq/L

血漿浸透圧(血管内に水分をとどめる圧)は、下の近似式の如く。ほとんどが血中Naイオンにより決まります。

血漿浸透圧(mmOsm/L)=2×血中Naイオン+血中Glu(グルコース=糖)/18+血中BUN(尿素窒素)/2.8

尿浸透圧(mmOsm/L)=2×(尿中Naイオン+尿中Kイオン)+尿中BUN(尿素窒素)/2.8
=尿比重下2桁 x35

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)[低浸透圧性低Na 血症](細胞外液量ほぼ正常:やや増加)

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群:syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)とは、体内に水を貯めて尿量を減らす抗利尿ホルモン(バソプレッシン, ADH)が、抑制される事無く分泌され続ける状態。

[必ずしも抗利尿ホルモン(バソプレッシン, ADH)が正常値を超えるとは限らず、低ナトリウム性低浸透圧(低尿酸)血症なのに、本来、抑制されるべき抗利尿ホルモン(バソプレッシン, ADH)が普通に分泌される状態(採血でADHが測定できてしまう状態)]

血管内の水分過剰で、血中Na濃度が薄められ低ナトリウム性低浸透圧(低尿酸)血症、尿は高ナトリウム性高浸透圧尿(尿Na>20mEq/l)になります。Na喪失しないので脱水・浮腫はありません。

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の原因

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の原因として

  1. 抗利尿ホルモンを合成・分泌する視床下部/下垂体の異常(抗利尿ホルモンを調節する浸透圧受容体が視床下部に存在)
    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)[Am J Case Rep. 2021 Mar 24;22:e930135.]
    下垂体卒中[BMJ Case Rep. 2021 Feb 9;14(2):e236787.]
      
  2. 抗利尿ホルモンを作る内分泌腫瘍(小細胞肺癌膵癌、十二指腸癌、悪性リンパ腫前立腺癌胸腺腫、肺腺癌など);最も多い原因
    甲状腺転移SIADHで見つかった肺腺癌の報告[Endocrinol Diabetes Nutr (Engl Ed). 2023 Feb 23:S2530-0180(23)00020-3.]
    非小細胞肺癌切除術後にSIADHを発症[Asian Cardiovasc Thorac Ann. 2015 Jun;23(5):579-81.]
      
  3. 気管支喘息・肺気腫肺炎・肺結核・肺癌・細気管支炎などで胸腔内圧が変化し抗利尿ホルモン分泌を誘発(抗利尿ホルモンを調節する圧受容体が肺に存在)
     
  4. 薬剤により腎臓の抗利尿ホルモン感受性が上昇してSIADHをおこす
    抗うつ剤・向精神薬
    炭酸リチウム剤(リーマス®):双極性障害の治療薬。甲状腺クリーゼの治療、I-131 アイソトープ治療までの、つなぎの薬としても使用。薬剤性甲状腺機能低下症無痛性甲状腺炎薬剤性副甲状腺機能亢進症も起こします。(炭酸リチウム(商品名リーマス)と甲状腺
    ロキソニンなどの痛み止め
    ドセタキセル(タキソテール®:甲状腺未分化癌、転移・再発乳がんや進行肺がんの治療薬);溶解液にアルコールを含み、アルコールの利尿作用で少し緩和される可能性
    ビンクリスチン、シクロホスファミド:甲状腺悪性リンパ腫の治療で誘発[Gan To Kagaku Ryoho. 1998 Apr;25(5):757-60.]
    エルカトニン注射薬:骨粗鬆症・高カルシウム血症治療薬。
    アミオダロン製剤:抗不整脈薬。薬剤性甲状腺機能低下症アミオダロン誘発性甲状腺炎不整脈治療薬 アミオダロン(アンカロン®)が引きおこす甲状腺機能異常
    クロフィブレート
     
  5. 脊椎手術後[Neurosurg Focus. 2004 Apr 15;16(4):E10.]
    巨大甲状腺腫に対する甲状腺全摘術後(第66回 日本甲状腺学会 P29-5 甲状腺全摘後に急速に進行する症候性低Na血症を呈した1例)

があります。

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の検査所見

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の検査所見は、

  1. 血液が薄められ低ナトリウム性低浸透圧血症・低尿酸血症(5mg/dl以下が多い)[老年期鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症(MRHE)との鑑別点になる事が多い]
     
  2. 抗利尿ホルモン(ADH)測定:血漿浸透圧が低下してもADH分泌量が減少しない(正常もしくは高値)
     
  3. 尿浸透圧は比較的高い、尿中ナトリウム排泄量が多いため尿量は保たれる(尿浸透圧300mOsm/kg・尿中ナトリウ20mEq/l以上)[中枢性塩類喪失症候群(CSW)との鑑別]
     
  4. 血漿レニン活性は抑えられ5ng/ml/h以下
     
  5. 副腎皮質機能正常:早朝空腹時の血清コルチゾールは6 μg/dl以上

中枢性塩類喪失症候群(CSW)との鑑別

中枢性塩類喪失症候群(CSW)と非常に似通った検査所見のため鑑別は困難です。中枢性塩類喪失症候群は、尿ナトリウムが異常高値(40mEq/l以上)になる点が異なります。治療方法は全く異なり、中枢性塩類喪失症候群SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)と間違えて、水制限したら大変な事になります。10g以上の食塩摂取は共通。

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の治療

SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の治療は、

「1日800ml以下の水制限と10g以上の食塩摂取」

です。急激に血清Na値が上昇するため、1日数回血清Na値を測定します。

バソプレシンV2受容体拮抗薬

 トルバプタン(サムスカ®)

トルバプタン(サムスカ®)は抗利尿ホルモンに拮抗し、髄質集合管で水チャネル拮抗薬のように水の再吸収だけを阻害します。

トルバプタン(サムスカ®)の適応は

  1. 低ナトリウム性心不全(ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な場合)→再入院を繰り返すことが少なくなる
  2. 肝性浮腫(肝硬変における体液貯留、ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な場合)
  3. 腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速い常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制
  4. SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)

副作用として

  1. 急激な血清ナトリウム濃度の上昇で、橋中心髄鞘崩壊症(一日の血清Na上昇を10mEq以下にする)
  2. 循環血液量の減少により高カリウム血症
  3. 肝機能障害(5%以上)

ただし、トルバプタン(サムスカ®)は、

  1. 一時的な効果のみで、心不全の再入院は減らしますが
  2. 心不全の長期予後を改善せず、心不全関連合併症の抑制効果はありません
    (JAMA. 2007; 297: 1319-31.)
  3. 薬価が高過ぎる。一般的な使用量で、心不全は一日約1600円、肝性浮腫は一日約1000円、常染色体優性多発性のう胞腎は最低量で一日約5000円、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)は一日約1000円~5000円。後発品(ジェネリック)は、その半額。
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)に保険適応

    常染色体優性遺伝の多発性嚢胞腎(ADPKD)は、最も一般的な遺伝性腎臓病です。両側に多数の嚢胞を形成する遺伝病です。責任遺伝子[コードする蛋白]は、PHD1[Polycystin 1(ポリチスチン1)]、PKD2[Polycystin 2(ポリチスチン2)]です。繊毛媒介性シグナル伝達活性の欠損が嚢胞形成につながるとされます。[Lancet. 2019 Mar 2;393(10174):919-935.][J Am Soc Nephrol. 2007 May;18(5):1381-8.]

    1. 腎実質性高血圧がしばしば初発症状
    2. 慢性腎不全(70歳までに約50%が透析、維持透析患者全体の3-4%を占める)
    3. 嚢胞感染・尿路結石
    4. 脳動脈瘤の合併が多く(10%)、MRI(MRアンギオ)のスクリーニング検査が必要
    5. 僧帽弁/大動脈弁閉鎖不全を合併
    6. 特に女性の場合、肝臓(70%)、膵臓(16.7%)、脾臓(6.7%)、卵巣、甲状腺(6.7%)にも嚢胞が生じる全身性障害。なぜか、鼠径ヘルニア(3.3%)、結腸憩室(3.3%)[Yonsei Med J. 1997 Apr;38(2):111-6.]

多発性嚢胞腎 超音波エコー画像

多発性嚢胞腎(ADPKD) 超音波エコー画像

多発性嚢胞腎 CT画像

多発性嚢胞腎(ADPKD) CT画像

多発性嚢胞腎(ADPKD)と甲状腺

腎結石症および多発性嚢胞腎(ADPKD)を持つ患者で、腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌(Primary thyroid-like follicular carcinoma of the kidney)が発生した報告があります[Diagn Pathol. 2013 Jul 2;8:108.]

多発性嚢胞腎(ADPKD)は、放射性ヨウ素シンチグラフィー(I-123 シンチグラフィー、I-131 シンチグラフィー)で偽陽性になります。[Medicine (Baltimore). 2017 Oct;96(43):e8348.]

多発性嚢胞腎(ADPKD)の6.7%に甲状腺のう胞(甲状腺嚢胞)が生じる[Yonsei Med J. 1997 Apr;38(2):111-6.]

繊毛は甲状腺濾胞細胞にも存在し、その機能喪失は甲状腺癌の発生に関与するとの説があります[Oncogene. 2018 Aug;37(32):4455-4474.]。しかし、同じく繊毛の機能喪失が原因の多発性嚢胞腎(ADPKD)では、病初期において甲状腺癌を含む甲状腺病変の増加を認めません。[BMC Nephrol. 2022 Mar 3;23(1):85.]

腎臓の甲状腺様濾胞癌

腎臓の甲状腺様濾胞癌の細胞診[Diagn Pathol. 2013 Jul 2;8:108.]

多発性嚢胞腎(ADPKD)は、放射性ヨウ素シンチグラフィーで偽陽性

多発性嚢胞腎(ADPKD)は、放射性ヨウ素シンチグラフィーで偽陽性。(甲状腺乳頭癌)(甲状腺乳頭癌の肝転移)(多発性嚢胞腎)[Medicine (Baltimore). 2017 Oct;96(43):e8348.]

多発性嚢胞腎(ADPKD)に合併した甲状腺のう胞

多発性嚢胞腎(ADPKD)に合併した甲状腺のう胞[NDT Plus. 2008 Aug;1(4):266-7.]

多発性嚢胞腎(ADPKD)に合併した甲状腺のう胞

多発性嚢胞腎(ADPKD)に合併した甲状腺のう胞[NDT Plus. 2008 Aug;1(4):266-7.]

多発性嚢胞腎(ADPKD) 超音波エコー画像

多発性嚢胞腎(ADPKD) 超音波エコー画像

これまで治療薬のなかった常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)に対して、トルバプタン(サムスカ®)を使用できるようになりました。

常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)では、腎臓の細胞内のカルシウム濃度が低下→cAMP 活性上昇→細胞増殖・のう胞内への液貯留→腎嚢胞が増大→腎機能低下が起こります。抗利尿ホルモンは、本来の抗利尿作用とは別に、cAMP活性を高めることで多発性嚢胞腎(ADPKD)の進展を促進します。

よって、抗利尿ホルモンの作用をブロックすれば、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の進行速度を抑える事ができます[Clin Exp Nephrol. 16(4): 622- 628, 2012.]。

しかしながら、問題もあります。常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)に対するトルバプタン(サムスカ®)投与量は120mg(30mgx4錠)で、心不全の15mg、肝硬変の7.5mgと比べ異常に多い量で、重篤な肝機能障害を起こす危険性が増えます。

モザバプタン(フィズリン錠®)

異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍によるSIADHにのみモザバプタン(フィズリン錠®)が投与可能でした。異所性抗利尿ホルモン産生腫瘍以外のSIADHにも効くはずですが、モザバプタン(フィズリン錠®)自体が製造中止になりました。

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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区,浪速区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

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