前立腺と甲状腺・副甲状腺(前立腺肥大・前立腺がん)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(第二内科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。前立腺の診療を行っておりません。
Summary
前立腺肥大の治療薬アボルブ®(デュタステリド)はAGA男性型脱毛にも有効。前立腺癌細胞は甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン(T3)受容体を持つため甲状腺機能亢進症は危険因子、甲状腺機能低下症はリスク低下。前立腺癌なくても副甲状腺ホルモン(PTH)でPSA(前立腺特異抗原)上昇。副甲状腺ホルモン(PTH)で前立腺癌が増殖、前立腺癌の骨転移は骨形成性で、血中カルシウムイオンが骨に取り込まれ、代償的に副甲状腺ホルモン(PTH)血中レベル上昇し悪循環。副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrp)は前立腺癌の自己増殖、骨転移に関与。
Keywords
甲状腺,前立腺,前立腺肥大,前立腺癌,副甲状腺,甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症,骨転移,副甲状腺ホルモン,甲状腺ホルモン
前立腺がんの早期は、ほとんど無症状ですが、進行すると
- 尿が出にくい(排尿困難)
- 血尿
などの症状がみられます。また、骨に転移しやすく(造骨性骨転移)、
を引き起こします。
かつて前立腺肥大症の治療薬はα1 遮断薬と抗男性ホルモン薬でしたが、最近では5α還元酵素阻害薬やPDE5(phosphodiesterase 5)阻害薬など新しい作用のものも開発されています。
前立腺肥大は男性ホルモンが原因です。男性ホルモンのテストステロンは5α-還元酵素によって、より強力な男性ホルモンのジヒドロテストステロン(DHT)へ変換されます。5α-還元酵素はアンドロゲン、プロゲステロン、エストロゲン、甲状腺ホルモンの受容体によっても調節されます[Gen Comp Endocrinol. 2020 May 1;290:113400.]。
アボルブ®(デュタステリド)は5α-還元酵素を阻害し前立腺肥大を抑えます。
副作用は、男性ホルモンが弱まるためにおきる、勃起不全や性欲減退、女性化乳房、乳房痛、精子数減少、男性更年期障害などです。
アボルブ®(デュタステリド:Dutasteride)は、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA値に影響を与えます。一般に、PSA値が基準値(4.0 ng/mL)以上の場合、前立腺がんを疑い、前立腺生検を行う必要があります。アボルブ®(デュタステリド)を6カ月投与するとPSA値が約50%減少するため、測定値の2倍が本当の値になります。
男性型脱毛症(AGA)は前立腺がん・前立腺肥大症(BPH)との関連が報告されています(Urol Oncol 2018 Feb;36(2):80.e7-80.e15.)。(男性型脱毛症(AGA))
また、ジヒドロテストステロン(DHT)は、AGA(男性型脱毛症)の原因でもあるため、前立腺肥大症治療薬アボルブ®(デュタステリド)はザガーロカプセル®と言う名前でAGA(男性型脱毛症)の治療にも使用されます。そして、その臨床効果はプロペシアより強力と報告されています。[J Am Acad Dermatol. 2010 Aug;63(2):252-8.]
肺高血圧症治療に用いられるPDE5阻害薬のタダラフィルは、尿道・前立腺の平滑筋細胞でcGMPを分解するホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害して、平滑筋を弛緩させ前立腺肥大症の排尿障害も改善します。
前立腺肥大症の治療に用いるタダラフィルは、肺高血圧症より遥かに少ない量で、ザルティア錠®が商品名です。
また、タダラフィルは、心血管系に保護的に働き、心血管障害を予防する効果が期待されています(Pharmacol Ther. 2015 Mar;147:12-21.)。
甲状腺乳頭癌細胞では、PDE5を発現していて、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)は甲状腺乳頭癌細胞の増殖と遊走(マイグレーション)を抑制します(Endocrine. 2015 Nov;50(2):434-41.)(Nanomaterials (Basel). 2016 May 18;6(5):92.)。勃起不全治療薬シルデナフィルは、狭心症治療薬としての臨床試験中に副作用として見つかったことが発見・研究のきっかけになりました。
前立腺肥大症において、肥大した前立腺が尿道を圧迫し、尿の流れを完全にせき止めると、尿が急に出なくなり、膀胱に溜まって下腹部が張ってきます(急性尿閉)。
前立腺肥大症で急性尿閉をきたす原因とは
- 多量の飲酒
- 排尿障害を起こす薬物(抗コリン剤);市販の風邪薬(かぜ薬)、抗うつ薬、精神安定剤
- 長時間の坐位
などです。バスや電車、飛行機で長距離移動する老人の旅行などで、急性尿閉をおこす例がよくあります。
前立腺疾患と甲状腺機能の関係は、
- 低悪性前立腺癌および前立腺肥大症(BPH)の男性は血中TSHが高い(BJU Int. 2005 Aug;96(3):328-9.)
- 甲状腺機能亢進症は肺癌・前立腺癌の危険因子だが、甲状腺機能低下症は無関係。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009 Feb;18(2):570-4.)
- あくまで喫煙者に限定されるが、甲状腺機能低下症の男性は、前立腺癌のリスクが低下する。(PLoS One. 2012;7(10):e47730.)
- 甲状腺機能亢進症は前立腺肥大症(BPH)と無関係[Medicine (Baltimore). 2018 Sep;97(39):e12459.]
- 甲状腺機能低下症とTSH値の高さは前立腺肥大症(BPH)と前立腺炎のリスクファクター[Front Endocrinol (Lausanne). 2023 Apr 17;14:1163586.]
1.の理由は不明だが、2.3. を説明する理由として前立腺癌細胞は、甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン(T3)受容体を持ち、甲状腺ホルモンにより増殖します(J Androl. 2005 May-Jun; 26(3):422-8.)
前立腺癌治療薬のGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)誘導体[GnRHアゴニスト]で破壊性甲状腺中毒症型(薬剤性無痛性甲状腺炎)、甲状腺機能低下症、粘液水腫性昏睡、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が誘発、悪化、再発します。(前立腺がん、乳癌、子宮内膜症、子宮筋腫の治療で薬剤性甲状腺中毒症)s
PSA(前立腺特異抗原)と甲状腺
PSA(前立腺特異抗原)測定は、前立腺癌のスクリーニング検査として有用です。甲状腺組織でPSAのRNAが発現していますが、それ以上の事はわかっていません。(Clin Chim Acta. 2000 Oct;300(1-2):171-80.)
PSA(前立腺特異抗原)測定は、前立腺癌のスクリーニング検査として有用です。前立腺癌が無くても副甲状腺ホルモン(PTH)の影響でPSA上昇する場合があります。血液中の副甲状腺ホルモン(PTH)値と血清カルシウム(Ca)濃度が高いほど、PSA値が高くなります。
副甲状腺ホルモン(PTH)が正常範囲高値の男性は、正常範囲低値の男性より、PSA値が43%高くなります。
正常な前立腺細胞も副甲状腺ホルモン(PTH)の刺激で増殖する、増殖しないまでも細胞機能が活性化される可能性があります。(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009 Nov;18(11):2869-73.)
副甲状腺ホルモン(PTH)が前立腺癌細胞の増殖を促進させます(Prostate. 1997 Feb 15;30(3):183-7.)。
前立腺癌の骨転移は骨形成性で、血中のカルシウムイオンが骨に取り込まれるため、代償的に副甲状腺ホルモン(PTH)の血中レベルは上昇します(2次性副甲状腺機能亢進症)(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2008 Mar;17(3):478-83.)。一方、副甲状腺ホルモン(PTH)が前立腺癌細胞の増殖を促進させ、悪循環(負のスパイラル)になります。
副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrp)は、腫瘍随伴体液性高カルシウム血症(HHM)・局所性骨溶解性高カルシウム血症の原因であり、かつ乳癌・前立腺癌の自己増殖、骨転移に関与する調節タンパク質でもあります。(J Pathol. 1997;183:212–217.)(Br Med J. 1991;303:1506–1509.)(Cancer Res. 1991;51:3059–3061.)
前立腺がんは、男性ホルモンに刺激され増殖します。転移・浸潤している進行性前立腺がんには、男性ホルモンを除去する去勢術、
- GnRHアゴニスト/アンタゴニスト注射薬
- 外科的精巣摘除術(睾丸切除)
が行われます。しかし、完全に男性ホルモンを除去できないため、従来は男性ホルモン受容体をブロックする薬(抗アンドロゲン薬)フルタミド(オダイン®)、ビカルタミド(カソデックス®)、エンザルタミド(イクスタンジ®)、アパルタミド(アーリーダ®)を併用していました。最近、男性ホルモン合成阻害薬が開発されました。
前立腺がん治療薬のアビラテロン(ザイティガ®)は、精巣/副腎/前立腺がん組織内の男性ホルモン合成酵素[CYP17(cytochrome P450 17α-hydroxylase/17,20-lyase)]を強力に阻害します。それにより、骨転移や他臓器転移のあるハイリスクな
- 去勢抵抗性前立腺がん(抗アンドロゲン薬に反応しない前立腺癌)
- 未治療の前立腺がん
に治療効果があります。
しかし、強力過ぎて他のホルモン合成も阻害するため、副腎皮質機能低下症、副腎クリーゼ(急性副腎不全)を防ぐのにプレドニゾロンとの併用が必要。具体的には、
アビラテロン(ザイティガ®)1,000 mgを1日1回 空腹時+プレドニゾロン 5mgを1日2回 食後に服用
アビラテロン(ザイティガ®)の副作用は、併用するプレドニゾロンの副作用(医原性クッシング症候群)もプラスされ、
- 高血圧、めまい、ほてり
- 心不全、不整脈
- 胃腸障害(吐き気、便秘、下痢)
- 低カリウム血症、横紋筋融解症
- 高脂血症
- 肝障害
- 血小板減少
アビラテロン(ザイティガ®)と甲状腺
アビラテロン(ザイティガ®)で治療効果のあった前立腺癌患者では、76.1%が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の有意な増加を認めました。一方、治療効果がなかった前立腺癌患者では血清TSH値に変化がありませんでした。
TSH増加で治療効果が予測できる可能性があります。(Anticancer Res. 2014 Jan;34(1):307-11.)
大細胞型神経内分泌癌(LCNEC:Large-cell neuroendocrine carcinoma)は、まれな神経内分泌性前立腺悪性腫瘍です。通常、アンドロゲン除去療法(男性ホルモン除去)後に発生するケースがほとんど。甲状腺や副腎など、体のどこにでも転移する可能性があって、甲状腺低分化癌として手術された後に見つかる場合もあります。[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2022 Dec 1:2022:22-0301.]
大細胞型神経内分泌癌 甲状腺転移 細胞診所見[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2022 Dec 1:2022:22-0301.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。