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甲状腺と肺高血圧症[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。肺高血圧症の診療を行っておりません。

甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

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肺高血圧症と甲状腺

(図;難病情報センターHPより)

Summary

肺高血圧症では肺血管が狭くなり肺動脈血圧が上昇①低酸素症②肺に血液を送る右心室への過剰負荷で右心不全に。甲状腺機能亢進症/バセドウ病での肺高血圧症は①肺血流量増加→肺動脈内皮細胞障害→肺血管抵抗増大②膠原病(全身性強皮症・SLE・MCTD)・抗リン脂質抗体症候群合併③血液凝固能亢進し肺動静脈血栓塞栓症。原因不明の原発性肺高血圧症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併多い。肺高血圧症治療薬プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)で甲状腺機能亢進症/バセドウ病/無痛性甲状腺炎、びまん性甲状腺腫を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)誘発。

Keywords

肺高血圧症,肺動脈血圧,甲状腺,右心不全,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,プロスタサイクリン,ベラプロスト,エポプロステノール,無痛性甲状腺炎

肺高血圧症とは

肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、様々な原因で肺の血管が狭くなり、肺動脈(心臓から肺に血液を送るための血管)の血圧が異常上昇する病態です。

右心カテーテル検査で肺動脈平均圧が25mmHg以上と定義されます。

(図;難病情報センターHPより)

肺高血圧症 肺血管狭窄

肺高血圧症では、

  1. 肺の血管が狭いため、酸素交換がうまくいかず低酸素症をおこし、(特に動いた時)息苦しくなります(呼吸困難)
     
  2. 肺に血液を送る右の心臓(右心室)に過剰な負荷が掛かり、耐えきれなくなると右心不全(足首・脚のむくみ、頚静脈怒張)になります。

(図;難病情報センターHPより

肺高血圧症の病態

肺高血圧症の心音はII音[大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖音(IIA、IIP)]が亢進。呼吸音に異常を認めない。II音は長期の高血圧でも亢進。

肺高血圧症の検査所見は、

  1. 心電図;右室肥大、右房負荷
  2. 胸部エックス線検査;肺野に異常なし。左第2 弓突出(肺動脈主幹部の拡張)、右心房の拡大
  3. 胸部造影CT;肺血栓塞栓症の有無を調べる
  4. 心エコー検査;推定肺動脈収縮期圧上昇
  5. 右心カテーテル検査;肺動脈平均圧が25mmHg以上
肺高血圧症の心電図

肺高血圧症の心電図;V1でR波増高。V1-3でP波の右房成分増高

肺高血圧症の胸部エックス線写真

肺高血圧症の胸部エックス線写真;左右肺動脈拡張()、右心房の拡大(

甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因で肺高血圧症に・原発性肺高血圧症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併

甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因で肺高血圧症に

甲状腺機能亢進症/バセドウ病で肺高血圧症を合併する機序は、

  1. 甲状腺ホルモンが肺血管系へ直接的に、あるいは交感神経・カテコールアミンを介して間接的に作用して肺血管収縮
  2. 内因性肺血管拡張物質(プロスタサイクリン、一酸化窒素)の代謝分解が増加
  3. 血管収縮物質(セロトニン、エンドセリン1、トロンボキサン)の代謝分解が低下
  4. 肺血流量の増加、それにともなう肺動脈内皮細胞の障害による肺血管抵抗増大
  5. 過剰な甲状腺ホルモンの影響で血液の凝固能が亢進しており(甲状腺と血栓症-深部静脈血栓 )、肺動静脈血栓塞栓症合併(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)
  6. 自己免疫介在性肺血管リモデリング[Heart Vessels. 2015 Sep;30(5):642-6.]
  7. 抗リン脂質抗体症候群 合併(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)
  8. 膠原病の合併(全身性強皮症(SSc)は肺線維化・肺動脈の狭窄・硬化が主体で治療抵抗性・SLEは免疫反応主体で治療反応性・MCTD

が考えられます。[Panminerva Med. 2013 Mar;55(1):93-7.]

甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、元々、高拍出量性右心不全をおこしやすいが、右側胸水まで認めれば、肺高血圧症の合併を疑う必要があります。心エコー検査で右心負荷や肺動脈圧の評価が必須。

抗甲状腺薬内服後に高拍出量性右心不全に加え、肺高血圧症も著明に改善した報告があります[Eur J Intern Med. 2006 Jul;17(4):267-71.]。しかし、甲状腺ホルモンの改善を待ってられない場合、

  1. エンドセリン受容体拮抗薬
  2. PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)
  3. プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)持続静注療法:甲状腺機能亢進症/バセドウ病/無痛性甲状腺炎をおこす事が知られています(下記

甲状腺機能亢進症 バセドウ病に肺高血圧症・右心不全を合併

甲状腺機能亢進症 バセドウ病に肺高血圧症・右心不全を合併し、三尖弁閉鎖不全症(TR)も伴う。[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2018 May 16:2018:18-0012.]

バセドウ病に合併した肺高血圧症 単純CT画像

バセドウ病に合併した肺高血圧症 単純CT画像;肺動脈が異常に太くなっています。

原発性肺高血圧症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病が合併

逆に、原因不明の原発性肺高血圧症においては、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併が多いです。[J Bras Pneumol. 2009 Feb;35(2):179-85.]

原発性肺高血圧症とは、特に原因疾患がないのに肺内細動脈狭窄病変が進行し、肺動脈圧上昇を来す病態です。若年~中年女性に多く、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症年齢と重なります。重症例には肺移植もあり得ます。

肺高血圧症治療薬プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)で甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)、橋本病(慢性甲状腺炎)に

甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)

プロスタサイクリン(PGI2)誘導体[ベラプロスト(ドルナー®、プロサイリン®)、エポプロステノール(フローラン®)]の3%に甲状腺機能亢進症/バセドウ病/無痛性甲状腺炎破壊性甲状腺炎)をおこすため(Endocr J. 2017 Dec 28;64(12):1173-1180.)、避けた方が良いと筆者は考えます。また、

  1. 自己免疫的な機序が関与しない甲状腺中毒症(Endocr Pract. 2009 Mar;15(2):116-21.)
  2. 甲状腺機能異常を伴わない甲状腺腫大(Case Rep Pulmonol. 2020 Jan 23;2020:1617253.)

も起こるとされます。

エポプロステノールで甲状腺腫大

その原因として、甲状腺内動脈のみならず、甲状腺濾胞細胞にもPGI2 受容体が存在し(Horm Metab Res. 1986 Sep;18(9):625-9.)、

PGI2 が

  1. 甲状腺濾胞細胞のPGI2 受容体に結合、アデニレートシクラーゼを活性化→cAMP(cyclic AMP)合成↑→甲状腺ホルモン合成が促進する(Horm Metab Res 1986;18: 625-629.) 
     
  2. バセドウ病の発症に深く関与するT細胞(特にTh17)を活性化し自己免疫反応を誘導する(Prostaglandins Other Lipid Mediat 2011;96: 21-26.)

可能性が考えられます。(第56回 日本甲状腺学会 P2-082 特発性肺動脈性肺高血圧加療中にエポプロステノールによる無痛性甲状腺炎にBasedow 病を併発したと考えられる1 例)(Lung. 2019 Dec;197(6):761-768.)

PGI2 誘発性の甲状腺機能亢進症/バセドウ病

  1. 抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)高容量投与しても甲状腺機能が正常化しない難治性バセドウ病のケースがあります(第61回日本甲状腺学会 O28-3 PGI2製剤使用下の特発性肺動脈高血圧症に合併したバセドウ病 に対してRI治療が著効した1例)
     
  2. 最初は抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)によく反応しても、PGI2 製剤を中止できなければ、治療途中で甲状腺腫(甲状腺の腫れ)が大きくなって再発します。
    ついには巨大甲状腺腫による気道狭窄症を引き起こし、窒息死した報告もあります[J Clin Med. 2023 Oct 4;12(19):6359.]
     
  3. 甲状腺ホルモンの変動により心臓に負担が掛かり、肺高血圧症・右心不全が増悪
     
  4. PGI2 製剤を中止したくても、肺高血圧症が増悪するため止めれない

などの難点があります。

最終的には甲状腺全摘出術するしかありません。国立循環器病研究センターでは、肺高血圧症があるため心肺補助装置待機、スワンガンツカテーテル挿入、経食道心エコー実施のもとで甲状腺全摘出したそうです(第63回 日本甲状腺学会 C3-15 特発性肺高血圧症に対してエポプロステノール使用中にバセドウ病を発症した巨大甲状腺腫の摘出手術の一例)。

コロンビア大学の報告では、エポプロステノール誘発性甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者8人のうち5人が急性心肺代償不全を呈し、緊急甲状腺摘出術を受けた1人だけが生存できたそうです。生命を脅かす心肺代償不全を回避するために、エポプロステノール誘発性甲状腺機能亢進症/バセドウ病が早期あるいは軽症のうちに手術療法(甲状腺全摘出)またはアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療を検討すべきとの結論です。[J Clin Endocrinol Metab. 2012 Jul;97(7):2217-22.]

エポプロステノールにエンドセリン受容体拮抗薬(ERA)を併用すると甲状腺機能亢進症/バセドウ病/無痛性甲状腺炎破壊性甲状腺炎)の発症率が下がるとされます。[Endocr J. 2017 Dec 28;64(12):1173-1180.]

びまん性甲状腺腫を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)も誘発

プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)は、びまん性甲状腺腫を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)を誘発する場合もあります。(Lung. 2019 Dec;197(6):761-768.)

肺高血圧症(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)のCT所見

肺高血圧症(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)のCT所見は、

  1. 肺動脈拡大・右心系の拡張
  2. 斑状のすりガラス影(モザイクパターン)、高吸収域では末梢血管影が目立つ
慢性血栓塞栓性肺高血圧症 CT画像

慢性血栓塞栓性肺高血圧症 CT画像(radiopaediaより)

慢性血栓塞栓性肺高血圧症 CT画像

慢性血栓塞栓性肺高血圧症 CT画像(radiopaediaより)

肺高血圧症があると心臓移植・人工心臓の適応外に

肺高血圧症があると

  1. 心臓移植の除外条件(肺血管抵抗が、血管拡張薬を使用しても6 Wood単位以上)
  2. 人工心臓(重症肺高血圧症による右心不全で退院困難)

の適応外になります。

肺高血圧症のカテーテル治療

甲状腺が原因の場合に限らず、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の治療で、カテーテルによる経皮的肺動脈形成術 (経皮的肺動脈バルーン拡張術)があります。カテーテル先端で、血栓に穴を開け、閉塞部を貫通させたところを、バルーン(風船)を膨らませて更に広げる治療です。

新生児遷延性肺高血圧症

‎新生児遷延性肺高血圧症は、肺呼吸に切り替わる出生後も、肺に血液を送る動脈(肺動脈)が広がらず狭い(収縮した)ままの状態で、肺に十分な血液を送れないため、低酸素症に陥る病態です。

心エコーでは、総肺静脈還流異常と鑑別が付き難いので注意を要します。総肺静脈還流異常では肝静脈血流が異常増加し、NO投与に反応悪いのが特徴です。総肺静脈還流異常では新生児手術の適応になります。

新生児遷延性肺高血圧は、アミノ酸(高フェニルアラニン血症、低チロシン血症)、カルニチン、甲状腺ホルモン異常に関連します。具体的な甲状腺ホルモン異常は、成人の肺高血圧症と同じく、TSH低値です。(Pediatr Res. 2018 Aug;84(2):272-278.)

新生児遷延性肺高血圧症

コントロール不良の甲状腺機能亢進症/バセドウ病母体から生まれた新生児バセドウ病の児で、巨大甲状腺腫による気道狭窄と新生児遷延性肺高血圧を来した報告があります(Clin Pediatr Endocrinol. 2018;27(3):171-178.)。

同様に、新生児バセドウ病に新生児仮死、新生児遷延性肺高血圧を伴う報告は複数あります(BMJ Case Rep. 2012 May 30;2012:bcr0220125939.)(Adv Neonatal Care. 2003 Dec;3(6):272-82; quiz 283-5.)。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病で新生児遷延性肺高血圧がおこる正確なメカニズムは不明な点が多いですが、過剰な甲状腺ホルモンが

  1. 高心拍出量による血管内皮障害→肺動脈肥厚
  2. 代謝亢進で低酸素症
  3. 肺血管成熟阻害
  4. 内因性肺血管拡張因子(NO)の産生低下;サイログロブリンによるNOシンターゼインヒビターの産生増加
  5. ‎肺動脈収縮因子(セロトニン、エンドセリン-1、トロンボキサン)‎排泄低下(Pediatrics. 2005 Jan; 115(1):e105-8.)(Am J Med Sci. 2011 Dec; 342(6):507-12.)
  6. 血管平滑筋反応性低下
  7. 肺サーファクタント産生低下;サイログロブリンによるthyroid transcription factor-1の発現低下

を引き起こす可能性があります(Pediatrics. 2005 Jan;115(1):e105-8.)(BMJ Case Rep. 2012 May 30;2012:bcr0220125939.)。

写真;新生児バセドウ病、巨大甲状腺腫による気道狭窄と新生児遷延性肺高血圧(BMJ Case Rep. 2012 May 30;2012:bcr0220125939.)

新生児バセドウ病、巨大甲状腺腫による気道狭窄と新生児遷延性肺高血圧

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市,浪速区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


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