バセドウ病/甲状腺機能亢進症の手術療法(甲状腺全摘出)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
バセドウ病の甲状腺全摘術後 超音波(エコー)画像です。左右の切れ端と、甲状腺を剥がした跡の甲状腺床がわずかに残るのみです。
バセドウ病で長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方への注意
バセドウ病の治療開始(再開)後、頻回の副作用チェックが必要なため①大阪市と隣接市の方に限定②来院できず薬を自己中断する方、副作用時の対応を理解できない方は診れません。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、内科系の甲状腺専門クリニックです。甲状腺の手術は行っておりません。
Summary
バセドウ病/甲状腺機能亢進症の手術療法(甲状腺全摘出)適応は①再発繰り返す不安定型②難治性T3優位型③抗甲状腺薬が副作用で使えない④アイソトープ(放射性ヨウ素)治療困難⑤早期に妊娠希望。利点は①抗甲状腺薬の副作用から解放②2度と再発しない③速やかに永続的甲状腺機能低下症になりアイソトープ治療のように甲状腺クリーゼ、バセドウ病眼症の悪化の可能性低く、治療後1年間の甲状腺ホルモン乱高下ない。欠点は一生、甲状腺ホルモン薬(チラーヂン)必要、副甲状腺機能低下症、反回神経麻痺など。中途半端な甲状腺亜全摘出術/準全摘術(超亜全摘術)時代遅れ。
Keywords
バセドウ病,甲状腺機能亢進症,手術療法,甲状腺全摘出,適応,利点,欠点,甲状腺機能低下症,甲状腺ホルモン,アイソトープ
4腺ある副甲状腺の1腺を温存するため、約1g以下の甲状腺組織を残すものを超亜全摘といいます。しかし、3腺が無くなれば、どの道ビタミンD製剤が必要になり、かつ甲状腺癌の発生母体を残し、癒着で再手術は極めて困難なため、全摘出でよいと筆者は考えています。
日本で手術療法(甲状腺全摘出)は、
- 抗甲状腺薬を大量に投与しても、甲状腺ホルモンが下がり切らない。例えば、メルカゾール8錠以上/日、プロパジール(あるいはチウラジール)10錠以上/日。
- 抗甲状腺薬で再発繰り返す人(特に①抗甲状腺薬を減量していないのに再発する、あるいは僅かに減量しただけで再発する不安定型バセドウ病、②FT4正常もしくは正常付近なのにFT3のみ極めて高い難治性T3優位型バセドウ病)
- 抗甲状腺薬が副作用のため使えない人
- 1-3に加え、腫瘍がある場合
- 1-3に加え、アイソトープ後に甲状腺クリーゼ、バセドウ病眼症の悪化がおこる危険性ある場合
- 甲状腺クリーゼ を起こした
- 甲状腺眼症:バセドウ病眼症がある
- 妊娠希望でTSH受容体抗体(TRAb)を早期に低下させたい場合[隈病院の統計ではTRAbの半減期(半分の値になる期間)122日](妊娠希望バセドウ病女性の新たな選択肢:手術療法)
- 巨大甲状腺腫で気道狭窄(ストライダー(上気道・中枢気道狭窄による喘鳴))
- 「バセドウ病治療ガイドライン2011」では「抗甲状腺薬を1.5-2年続けても中止できる見込みのない場合、治療方法の変更を患者に情報提供する」とあります。これは、甲状腺全摘出を勧めると言う意味ではありません。1.5-2年はあまりに速すぎると思います。筆者の経験上、たかが1.5-2年で抗甲状腺薬を中止できる人など10%未満です。その一方で、禁煙したり、定年退職してストレスから解放されたりし、10年以上して抗甲状腺薬を中止し、再発もしない方が数多くおられます。
が主な適応です。
手術療法(甲状腺全摘出)の利点は
手術療法(甲状腺全摘出術)欠点は
4腺ある副甲状腺は可能な限り残す努力はしますが、周囲の甲状腺組織も同時に残るため、副甲状腺だけを温存するのは困難です。例え副甲状腺自体を残せても、副甲状腺を栄養する血管を摘出せざる得ないので、4腺残るのは稀です。副甲状腺は血中カルシウム濃度を上昇させる副甲状腺ホルモン産生する臓器なので、無くなれば低カルシウム血症になります(甲状腺摘出後副甲状腺機能低下症)。副甲状腺ホルモン自体を補充する事は出来ないので、ビタミンD剤と、不十分ならカルシウム製剤を投与します。
副甲状腺の温存は、手術中、肉眼的に副甲状腺を見つけ、栄養血管もろ共、可能な限り残します。近年、副甲状腺を温存する新たな方法が開発されています。
- 副甲状腺の内因性蛍光を利用
- ICGを静注
- メチレンブルーを静注(Langenbecks Arch Surg. 2018 Feb;403(1):111-118.)
し、近赤外光蛍光検出システム(赤外観察カメラシステム)で見つける方法で、機械はpde-neo(浜松ホトニクス社、PINPOINT+SPY-PH(I Novadaq社)などを使用します。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、甲状腺ホルモンが不安定な状態では、甲状腺内の血流が異常増加している事が多く、手術での出血の危険が高くなります。甲状腺ホルモンが正常化してから、手術に踏み切るのがベストなのですが、少なくともFT3 <5 pg/mlが目標とされます。抗甲状腺薬のMMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)による副作用で手術になる場合も多く、以下の薬剤を術前に使用します。
- ヨウ化カリウム(KI):甲状腺内の血流を低下させる作用は強いですが、エスケープ現象をおこし効かなくなるため、2-3週間が限度です。
また、抗甲状腺薬の副作用で、すでに2カ月以上投与されエスケープ現象をおこしている場合、1週間休薬すればエスケープ現象を離脱したとの報告があります。(第59回 日本甲状腺学会 P1-5-3 術前甲状腺機能コントロールの難しかったバセドウ病の一例)
- 副腎皮質ステロイド剤
FT3 <5 pg/mlを達成できない場合
FT3 <5 pg/mlを達成できない場合、手術を延期するか?あるいは術中のリスク(麻酔が効きにくい、循環動態が不安定)・術後甲状腺クリーゼのリスクを覚悟して手術に踏み切るか?もはや術者と麻酔医の判断次第です。明確なマニュアルは存在しません。
甲状腺全摘出後、もはや甲状腺ホルモンを作る事は出来ないため、甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)]の補充が必要になります。具体的な補充量の調節は、甲状腺全摘出後(甲状腺がん、バセドウ病) を御覧ください。
甲状腺摘出後の短期的な低カルシウム血症[ハングリーボーン症候群(Hungry bone syndrome)]
手術前の甲状腺機能亢進症/バセドウ病では骨分解が亢進し、骨から多量のカルシウムが溶け出しています。甲状腺切除後、急激に甲状腺ホルモンが低下し骨分解が止まると、今度は逆に骨形成が亢進し、血液中のカルシウムを骨に取り返すため、カルシウム濃度が低下し低カルシウム血症をおこします[ハングリーボーン症候群(Hungry bone syndrome)]。
予防のため、
- 手術当日と翌日にグルコン酸カルシウム20ml/日を点滴静注(テタニーなどの低カルシウム発作続くなら増量・延長)(施設により異なります)
- 手術翌日より、乳酸カルシウム3g/日もしくはアスパラCa 6錠、ワンアルファ0.5-2μg投与(施設により異なります)。
永続的な副甲状腺摘出後の副甲状腺機能低下症
甲状腺摘出時、4腺ある副甲状腺は可能な限り残す努力はしますが、周囲の甲状腺組織も同時に残るため、副甲状腺だけを温存するのは困難です。例え副甲状腺自体を残せても、副甲状腺を栄養する血管を摘出せざる得ないので、4腺残るのは稀です。副甲状腺は血中カルシウム濃度を上昇させる副甲状腺ホルモン産生する臓器なので、無くなれば低カルシウム血症になります。
副甲状腺ホルモン自体を補充する事は出来ないので、ビタミンD剤と、不十分ならカルシウム製剤を投与します。
バセドウ病の甲状腺が大き過ぎて、高度の気道狭窄のため麻酔下挿管ができない事があります。浜松医科大学の報告では、造影CT/3D 再構成で気管全長のうち40mmが甲状腺(470g)に圧迫されて扁平化し、最狭部位は幅6mm。更に咽頭が張り出し喉頭鏡では声門を観察できなかったそうです。覚醒・坐位にて経鼻内視鏡ガイド下挿管を行い手術可能になったとの事です。
この症例の病理所見は、バセドウ病と橋本病(慢性甲状腺炎)の組織が、それぞれ独立して島状に分布する特異な形態だったそうです。(第57回 日本甲状腺学会 P2-028 巨大甲状腺腫のため手術に難渋し、特異な術後組織所見を呈したバセドウ病の1 例)
(さらに詳しくは、気道狭窄を伴う甲状腺手術の気道確保)
中途半端に甲状腺を切除する甲状腺亜全摘出術は、現在、ほとんど行われません。昔は甲状腺亜全摘出術、特に、甲状腺片葉は全摘し、対側片葉は亜全摘するDunhill法が主流でした。
厳密に言えば、甲状腺を約2/3以上切除するのが甲状腺亜全摘出術です。しかし、昔、手術で甲状腺切除したはずなのに甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発した方の甲状腺超音波(エコー)検査を行うと、左右とも甲状腺が残っていて「一体どこ切ったん?手術した意味ないやん」と言うケースが多々あります。
残した甲状腺に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発した場合、甲状腺癌が発生した場合(バセドウ病と腫瘍・癌)の甲状腺再手術は、術後癒着と瘢痕化のため困難を極めます。
- 癒着と増殖した肉芽組織で患部が分からない
- 丁寧に剥がしても出血するため止血に時間を取られ、甲状腺に辿り着くのに時間を要します
- 無理に剥がすと重要な血管や神経を損傷します。
甲状腺準全摘術(超亜全摘術)は、甲状腺亜全摘出術の反省を踏まえ、ホンのわずか(1g以下)な甲状腺を残すのみです。副甲状腺を温存するのが目的ですが、どうせ4腺ある副甲状腺の内、1腺だけ残しても、術後のビタミンD剤投与は避けられないので、意味ない様に思います。
さらに、ホンのわずかな甲状腺は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発しないものの、何の役にも立たず、甲状腺癌発生のリスクだけが残ります。
いっそ、副甲状腺は摘出後、前腕などの皮下に埋め込み、甲状腺全摘術した方が良いのです。最近では、甲状腺を全摘出しても、副甲状腺だけを栄養血管が付いた状態で残せる場合もあります(甲状腺摘出後副甲状腺機能低下症)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。