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甲状腺と頻脈性不整脈[WPW症候群,心室性期外収縮,QT延長症候群,心室頻拍(VT),心室細動(Vf)][橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝病に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編  甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など)   糖尿病編 をクリックください。

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。心臓疾患の治療を行っておりません。

Summary

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の不整脈は心房細動(Af)でなく心房粗動(AF)、発作性上室頻拍(PSVT)もある。WPW症候群で甲状腺機能亢進症/バセドウ病無痛性甲状腺炎による心房細動(Af)おこすとKent束から直接心室へ伝わり(偽性心室頻拍)、致死的心室細動(Vf)へ移行。QT延長症候群はバセドウ病の低カリウム血症・甲状腺機能低下症低体温低カルシウム血症、低Mg血症、副腎皮質機能低下症でおこる。トルサード・ド・ポアンツ型心室頻拍(VT)⇒心室細動(Vf)⇒突然死にいたる。心室細動(Vf)は中年男性、喫煙者におこり易く心肺停止・突然死。

Keywords

甲状腺機能亢進症,バセドウ病,不整脈,心房粗動,発作性上室頻拍,WPW症候群,心室頻拍,心室細動,QT延長症候群,トルサード・ド・ポアンツ型

院長の執筆

ワンポイントアドバイス:見逃されやすい甲状腺疾患2 心血管系の異常---甲状腺機能亢進症編、見逃されやすい甲状腺疾患3 心血管系の異常---甲状腺機能低下症編 (文光堂 メディカルプラクティス)

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甲状腺と心臓

心臓は1日約10万回、規則正しくポンプのように動いて全身に血液を循環させます。甲状腺ホルモンは心臓に直接的・間接的に作用するため、甲状腺機能異常により不具合が生じる可能性があります。

甲状腺ホルモンが心臓に作用する主な機序は、

  1. 心筋細胞は甲状腺ホルモン受容体(TR)が多く、甲状腺ホルモンが受容体を介し心臓を刺激
  2. 甲状腺ホルモンが直接心筋細胞膜に作用し刺激(non genomic action)
  3. 甲状腺ホルモンが交感神経の活動性を高め、間接的に心臓を刺激
  4. 甲状腺ホルモンは腎臓に作用し、体内へナトリウム(塩分)を取り込む(腎尿細管でのNa/K-ATPase活性を高め、ナトリウム再吸収を促進)ため循環血液量が増え、間接的に心臓に負荷を掛ける

そのため、循環器系は他の臓器より甲状腺ホルモンの影響を受けやすいです。

長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺の初診の方は、心電図も録らせていただきますので、足首の出る服装でお越しください。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の頻脈・動悸

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の有名な症状は、頻脈・動悸です。健康な人の脈拍は1分間に60~90ですが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では90以上のこともあります。ただし、高齢では脈拍が増えない場合があります。また、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では心臓血管障害がおこりやすく、動悸の原因であることも多いです。

甲状腺と関係のない慢性心不全は、労作時の動悸が特徴的です。安静時に比べ負荷が掛かり、動悸が起こります。

動悸は、あくまで患者自身の主観であるため、必ずしも頻脈・不整脈とは限らず、徐脈や正常脈の事もあります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも感覚が鈍い人は、普段の80-90程度の脈では何も感じないが、労作時120以上になり、初めて動悸を感じる場合があります。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房粗動(atrial flutter; AF)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の不整脈は心房細動(Af)だけでなく、心房粗動(atrial flutter; AF)のことがあります。心房粗動は、「のこぎり状」の規則的な心房の振れ(粗動波・F波)が250~350回/分で出現し、2:1や4:1の割合で心室へ伝えられます。1:1で全て伝導されると、Adams-Stokes発作⇒心原性ショックになります。直ちにジゴキシンあるいはベラパミル(ワソラン®)投与、電気的除細動後、カテーテル手術になります。下記のアミオダロンは再発予防効果がありますが、甲状腺を含む副作用が多くて、甲状腺の病気がある方には危険過ぎます。

心房粗動(atrial flutter; AF)

院長の執筆

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WPW症候群(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群)

WPW症候群(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群)は、本来存在しない心房-心室直結の副伝導路(Kent束)を持つ先天異常で、心電図上の特徴的なδ波で容易に診断できます。

WPW症候群は300人に1人認められ、無症状の事が多いですが、半数は頻脈性不整脈をおこし突然死の危険が生じます。

左脚ブロックパターンは、副伝導路(Kent束)が右房-右室間に存在するB型WPW症候群

B型WPW症候群

心房細動(Af)合併

WPW症候群(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群)は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病にも無痛性甲状腺炎にも同割合で合併していると考えられます。心房細動(Af)をおこすと、Kent束を通り電気刺激が直接心室へ伝わるため(偽性心室頻拍)、致死的な心室細動(Vf)へ移行する危険があります。[Clin Exp Nephrol. 2004 Mar;8(1):71-4.]

すぐにプロカインアミド投与か、直流電気的除細動を行う。(第55回 日本甲状腺学会 P1-08-07 心室細動にて搬入された無痛性甲状腺炎を併発したWolff-Parkinson-White 症候群の一例)

心房細動(Af)合併WPW症候群

ベータブロッカー(甲状腺ホルモン値が高いと使いたくなるのですが禁)、Ca拮抗薬、ジギタリスは正常な房室伝導を抑制し、逆に心室細動(Vf)をおこしやすくするため禁。

Kent束が隠れている房細動(Af)/心房粗動(AF)に、それらの薬を使うと偽性心室頻拍になります。

甲状腺ホルモン値を早急に正常化させる必要があるので、ヨウ化カリウム(KI)、副腎皮質ステロイド投与が必要(少なくともカテーテルアブレーションでKent束を切断し、心電図でδ 波の消失が確認されるまで)

房室回帰性リエントリー(房室回帰性頻拍;AVRT)

房室回帰性リエントリー(房室回帰性頻拍;AVRT、:atrioventricular reciprocating tachycardia、旋回路形成)は、副伝導路を逆行するリエントリーによる頻拍です。

P波はQRSの後ろにあります(矢印)。

WPW症候群 房室回帰性リエントリー
WPW症候群 房室リエントリー

リエントリーが

  1. 正常房室伝導路が順行、副伝導路が逆行なら正常幅QRS、⊿波は消失
  2. 副伝導路が順行、正常房室伝導路が逆行なら心室頻拍(VT)に似た幅の広いQRS、⊿波は消失しない
    ※心房細動(Af)との鑑別はR-R間隔が不規則かどうか

P波はQRSの後ろにあります(赤丸)。

B型WPW症候群 発作性の上室性頻拍

発作時の治療は、

  1. Naチャネル遮断薬が第一選択;副伝導路の不応期を延長する
  2. 軽症ではATP(アデホスL コーワ注®)の急速静注やカルシウム拮抗薬ベラパミル(ワソラン®)の静脈注射
  3. 重症心不全・心原性ショックではカルディオバージョン

WPW症候群を伴い房室回帰性リエントリー(房室回帰性頻拍;AVRT)を呈した甲状腺クリーゼ  の報告があります(BMJ Case Rep. 2015 Dec 15;2015:bcr2015212569.)

WPW症候群を有する甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)の手術前の麻酔薬、パンクロニウム投与で発作性上頭関節頻脈を起こした報告があります。パンクロニウムは、ムスカリン受容体相互作用、交感神経末端のカテコールアミン再取り込み阻害によって脈拍数、血圧、心拍出量の増加を引き起こすためです。(‎Hippokratia. 2009 Apr;13(2):116-8.)

WPW症候群を伴い房室回帰性リエントリー(房室回帰性頻拍;AVRT)を呈した甲状腺クリーゼ

発作性上室頻拍(PSVT)

発作性上室頻拍(PSVT)

発作性上室頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVT)は基礎心疾患を伴っていないことが多いが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能亢進症に伴う拡張型心筋症では発作性上室頻拍がおこることがあります。

発作性上室頻拍(PSVT)患者の約7%に甲状腺機能亢進症、約14%に甲状腺機能低下症を認めた報告があります[Kardiologiia. 1989 Jan;29(1):71-4.]。

甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)により発作性上室頻拍(PSVT)を繰り返した報告があります。[G Ital Cardiol. 1984 May;14(5):337-40.]

発作性上室頻拍(PSVT)は、心拍数が1分間に160~220回になる頻脈性・致死性不整脈で、

  1. 突然の激しい動悸と共に、心臓が空打ちし心不全[脳虚血による失神・めまい(メニエールの「回る感じで」なく、「引きずり込まれる」「突然、目の前が暗くなる(眼前暗黒感)・白くなる」ような症状)]
  2. 心筋に過剰な電気信号を送り続け、狭心症を誘発する

危険な不整脈です。

発作性上室頻拍(PSVT)の心電図は、QRS 幅の狭い規則正しい頻拍で、QRS波の終末部に逆行性P波()とP'波()を認めます。

発作性上室頻拍(PSVT)発作時は、

  1. Valsalva手技;息をこらえさせ胸腔内圧を上げると迷走神経が刺激される
  2. 頸動脈洞マッサージ;洞結節・房室結節の迷走神経心臓枝を刺激し、心拍数を低下させる。脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往がある場合、頸動脈に血管雑音がある場合、両側頸動脈狭窄がある場合は行えない。高齢者では避けたほうがよい。
  3. 第一にATP(アデノシン三リン酸)静注、Ca拮抗薬(ベラパミル)静注;洞結節・房室結節を抑制(拡張型心筋症などの基礎心疾患合併例で心機能低下があると使い難い)
  4. ATP(アデノシン三リン酸)静注、Ca拮抗薬(ベラパミル)静注が無効のときにジソピラミド(Na チャネル遮断薬)が有効
  5. 血圧が80以下に低下・心不全・狭心症の場合、電気的除細動・高頻度ペーシングを行います
  6. 根治治療は高周波カテーテルアブレーション

甲状腺機能正常化した後も心室性期外収縮

甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能正常化した後も心室性期外収縮おこる場合

  1. 症状のみ強い場合:Ib群抗不整脈薬メキシレチン(心抑制なし、糖尿病性感覚神経障害にも有効)
  2. 運動/感情で症状増悪:Ⅱ群ベータブロッカー
  3. 心筋梗塞/心不全がある場合:心室性期外収縮は心室頻拍(VT)/心室細動(Vf)の引き金になるので、
    ①心機能保たれている場合、心不全の予後を改善、狭心症薬で唯一、狭心症発作予防と心筋梗塞発症抑制があるⅡ群ベータブロッカー
    ②心機能低下している場合、心収縮抑制なく不整脈を強力に抑えるⅢ群アミオダロン(あまりの甲状腺機能障害のため甲状腺専門医としては使って欲しくない)

二次性(後天性)QT延長症候群

トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes)型の心室頻拍(VT)
二次性(後天性)QT延長症候群の心電図

二次性(後天性)QT延長症候群の心電図。

トルサード・ド・ポワンツ(torsades de pointes)の心電図

トルサード・ド・ポワンツ(torsades de pointes)の心電図。フランス語で「棘波のネジレ」を意味します。

QT延長症候群は、心電図上、QT間隔が延長し、トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes)型の心室頻拍(VT)⇒心室細動(Vf)⇒突然死にいたる重篤不整脈。

QT間隔がRR間隔の半分以上あれば、目測でQT延長と分かります。

トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes)型の心室頻拍(VT)によるAdams-Stokes 発作は、

  1. 胸部の違和感が出現し、その直後に目の前が真っ暗になる
  2. 繰り返す意識消失
  3. 突然死の危険

二次性(後天性)QT延長症候群の原因として、最も多いのが薬剤性、次に電解質異常(低カリウム(K)血症低カルシウム(Ca)血症低マグネシウム(Mg)血症)。

  1. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病低カリウム血症低マグネシウム血症冠攣縮性狭心症
  2. 甲状腺機能低下症低体温
  3. 副甲状腺機能低下症による低カルシウム血症低マグネシウム血症
  4. 副腎皮質機能低下症の70%
  5. 心筋障害:心筋梗塞、心筋虚血(冠攣縮性狭心症も)、心筋炎、僧帽弁逸脱症
  6. 徐脈性不整脈:房室ブロック、洞不全症候群
  7. 薬剤性(最も多い)
    抗不整脈薬Ⅰ群薬:プロカインアミド、ジソピラミド、Ⅲ群薬:アミオダロン、ソタロール、ニフェカラント、Ⅳ群薬(Ca拮抗薬):ペプリジル(Ca・Na・Kマルチチャンネルブロッカー)
    三環系抗うつ薬・四障害、脳手術後
  8. 一部の患者では先天性QT延長症候群と同じく心筋イオンチャンネルの遺伝子異常が関与

甲状腺機能亢進症のQT延長症のほとんどは、甲状腺機能亢進による低カリウム血症が原因です。しかし、低カリウム血症を伴わず、甲状腺ホルモン過剰そのものが原因のQT延長症も報告されています (J Endocrinol. 2008;198(1): 253-260)(Korean J Pediatr. 2015;58(7):263-266)。

筆者の推測ですが、

  1. 甲状腺ホルモンは種々のイオンチャンネルに作用します。Na+/K+ -ATPaseなどのKチャネルを活性化、Na+/Ca2+ 交換チャネルを抑制する等の作用(N Engl J Med. 2001;344 (7):501-509)により、心筋細胞の再分極が抑制された。
  2. 細胞外カリウムは低下しなくても、細胞内カリウムが低下する(これもイオンチャンネルの異常を考えれば説明できるかも)
  3. 低マグネシウム血症冠攣縮性狭心症を見逃している

などの可能性が考えられます。

二次性(後天性)QT延長症候群→トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes)型の心室頻拍(VT)の治療は

  1. 原因疾患の治療、原因薬剤の中止
  2. 硫酸マグネシウム静注;これを投与しなければ電気的除細動の効果は薄い
  3. 徐脈予防に100/分でのペーシング
  4. イソプロテレノール点滴静注
  5. カリウム投与
  6. リドカイン投与

甲状腺による二次性(後天性)QT延長症候群と鑑別、先天性QT延長症候群

甲状腺による二次性(後天性)QT延長症候群と鑑別を要する先天性QT延長症候群。

先天性QT延長症候群は

  1. 女性に多く
  2. 常染色体優性遺伝だが、浸透率は約60%
  3. 血縁者に不整脈が多く、ペースメーカーを入れている者もいる。
  4. 50-75%にK+、Na+、Ca2+イオンチャネル関連遺伝子の変異を認め、遺伝子型に基づく精密医療が実践されています。
  5. 1型は運動、特に水泳中
    2型は、安静時、ストレス時、目覚まし時計などの突然の音
    3型は、安静時、睡眠時、覚醒する際
    に失神発作
  6. 治療は植え込み型除細動器(ICD)。不整脈治療薬アミオダロン(アンカロン®)併用して、アミオダロン誘発性甲状腺中毒症に悩まされる可能性があります(不整脈治療薬 アミオダロン(アンカロン®)が引きおこす甲状腺機能異常

特に危険な致死性心室頻拍(VT)

心室頻拍(VT;ventricular tachycardia)の中でも

  1. 多形性心室頻拍
  2. 器質的心疾患[甲状腺心臓(サイロイドハート)]に伴う持続性単形性心室頻拍
  3. R-R間隔の短い非持続性心室頻拍

は心室細動(Vf)⇒心肺停止に移行し危険です。救急搬送して直ちに治療が必要。意識の無い無脈性心室頻拍(VT)は、AEDを用いて心肺蘇生(甲状腺が原因で心肺蘇生・AED(電気ショック))。

失神を伴う器質的心疾患による持続性心室頻拍は、植込み型除細動器の適応。甲状腺疾患が原因の持続性心室頻拍で、甲状腺機能の正常化と共に洞調律に戻れば必要ありませんが、現実には戻らない場合が多いでしょう。

植込み型除細動器は、自動的に心室頻拍(VT)・心室細動(Vf)を検知して電気ショックをかける医療器械です。電気ショックはかなりの痛みを伴うので、患者の意識が消えていないのに頻回作動すると拷問に近い状態になります。非常に難しい問題です。

多形性心室頻拍(VT)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う特発性心室頻拍(VT)

甲状腺クリーゼ患者の約6%は心不全症状を有し、その3分の1が拡張型心筋症(DCM)に至ります。そして、致死性不整脈として心室頻拍(VT)に至る場合があります。(Cureus. 2019 Jul 4;11(7):e5079. doi: 10.7759/cureus.5079.)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病が不整脈源性右室心筋症(ARVC)を増悪させ心室頻拍(VT)

不整脈源性右室心筋症(ARVC)は若年者における突然死の原因で、発症頻度は5000人に1人、30歳前後の発症が多いとされます。主にはデスモソーム蛋白plakophilin-2(PKP-2:プラコフィリン2)遺伝子変異により発症し、右室心筋の変性・脂肪浸潤・線維化から、右心不全・不整脈に至ります。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病により、不整脈源性右室心筋症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy:ARVC)が増悪し、心室頻拍(VT)に至る可能性があります。

報告例は48歳男性の不整脈原性右心室心筋症(ARVC)患者。心房細動(Af)発作を伴う急性両側性心不全で入院後、抗不整脈薬抵抗性の持続性心室頻拍(VT)が頻発し、電気的除細動を要した。ここで初めて、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が原因の甲状腺クリーゼ と診断され、治療後に致死性不整脈は再発せず、両心室性心不全も改善。

[Case Rep Endocrinol. 2022 Jun 23:2022:6078148.](第62回 日本甲状腺学会 P45-3 バセドウ病加療中に致死性心室性不整脈を発症した若年成人2症例)

また、アミオダロンで治療されてアミオダロン誘発性甲状腺中毒症2型(破壊性甲状腺炎型)を発症した不整脈原性右心室心筋症(ARVC)患者の報告もあります[Jpn Circ J. 1997 Apr;61(4):361-6.]。

不整脈原性右心室心筋症

不整脈原性右心室心筋症(ARVC)(CIDG HPより改変)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の低カリウム性周期性四肢麻痺から心室頻拍(VT)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病低カリウム性周期性四肢麻痺から心室頻拍(VT)をおこした報告があります。(Clin Med Insights Case Rep. 2016 Jan 28;9:5-9.)

最も危険な心室細動(Vf)

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う特発性心室細動(Vf)

心房細動(Af)・心室細動(Vf)

心室細動(Ventricular fibrillation, Vf)とは、多数の無秩序な電気刺激により心室が無秩序(バラバラ)に収縮し、有効な心収縮が行えず、全身に血液を送れない状態。

心室細動(Vf)を起こした人は脳血流を維持できず、数秒のうちに意識を失い、心肺蘇生をしなければ死に至ります(1分ごとに10%の割合で死亡率が高くなる)。

心室細動(Vf)

最も危険な不整脈、心室細動(Vf)は自然に正常脈(洞調律)に戻るものではなく、直ちに治療しなければ心肺停止に移行し、突然死に至ります。そのはっきりとした原因の一つに、甲状腺機能亢進症/バセドウ病があります。

報告では、

  1. 40歳代の男性が多い
  2. 喫煙者(20-40本/日)(Thyroid. 2011 Sep;21(9):1021-5.)
  3. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病以外、心室細動(Vf)をおこす器質的疾患(冠動脈疾患、心筋症、心サルコイドーシス、ブルガダ症候群など)無し
  4. 甲状腺ホルモン値は、FT3 3.09-12.73 pg/mlと様々
  5. 心室細動(Vf)による心肺停止後、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が見つかる
  6. 報告された3例の内、一人死亡、一人低酸素脳症の後遺症(埋め込み型除細動器で再発防止)、一人無事救命(埋め込み型除細動器で再発防止)で、運が良ければ救命できる事もあります
    (第53回 日本甲状腺学会 O-4-2 バセドウ病に特発性心室細動の合併を認めた3症例)
    救命できた患者は、甲状腺機能が正常化した後、心室細動(Vf)の再発はなかった(Thyroid. 2011 Sep;21(9):1021-5.)

心室細動(Vf)も心室頻拍(VT)同様、甲状腺クリーゼの致死的不整脈として発症した報告があります。(Eur Thyroid J. 2015 Sep;4(3):207-12.)(J Interv Card Electrophysiol. 2010 Nov;29(2):93-6.)

心室細動(Vf)、無脈性心室頻拍(VT)はAEDによる電気ショックの絶対適応です[甲状腺が原因で心肺蘇生・AED(自動体外式除細動器:Automated External Defibrillator)による電気ショック]。

通常、心室細動(Vf)の既往があれば植込み型除細動器の適応となります。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う重篤な低カリウム血症、冠攣縮性狭心症による心室細動(Vf)

甲状腺機能亢進症 バセドウ病に伴う冠攣縮性狭心症による心室細動(Vf) 最初からJ波を有する心電図

甲状腺機能亢進症/バセドウ病における心室細動(Vf)の大部分は、、重篤な低カリウム血症による二次性QT延長症候群から生じます(Arch Intern Med. 1982 Jul;142(7):1362-4.)。

他にも、低マグネシウム血症冠攣縮性狭心症から生じる二次性QT延長症候群や早期再分極の場合もあります。冠攣縮性狭心症により心室細動(Vf)が発症するのは甲状腺機能亢進症/バセドウ病に限った事ではありません(Kardiol Pol. 1983;26(1):71-7.)[N Engl J Med. 1992 May 28;326(22):1451-5.]。

また、最初からJ波などの早期再分極があれば、冠攣縮性狭心症による心室細動(Vf)を起こし易いです[Int J Cardiol. 2015 Oct 1;196:7-13.]。

[最初からJ波を有する心電図;Intern Med. 2018 Dec 1;57(23):3389-3392.]

甲状腺機能亢進症 バセドウ病に伴う冠攣縮性狭心症による心室細動(Vf) アセチルコリン負荷試験

ベータブロッカー(プロプラノロール、ビソプロロール、ラベタロール)投与により冠状動脈のβ2受容体がブロックされれば、血管平滑筋の弛緩が妨げられ、冠攣縮性狭心症に至る可能性があります。

横浜南共済病院の報告では、Ca拮抗薬の服用に加えて、心室細動(Vf)の二次予防のため埋め込み型除細動器の挿入を行ったそうです。[Intern Med. 2018 Dec 1;57(23):3389-3392.]

(第64回 日本甲状腺学会 12-1 バセドウ病の治療開始早期に心室細動を呈し、異型狭心症とQT延長症候群の併存を認めた1例)(第64回 日本甲状腺学会 12-2 冠攣縮性狭心症により高度房室ブロック、心室細動に至ったバセドウ病の1例)

不整脈治療薬 アミオダロン(アンカロン®)が引きおこす甲状腺機能異常

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

アクセス

  • 近鉄「針中野駅」 徒歩2分
  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
    徒歩10分
  • 阪神高速14号松原線 「駒川IC」から720m

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