甲状腺と心臓病(心のう液貯留・高拍出量性心不全・心筋炎)[甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。心臓疾患の診療は行っておりません。
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
Summary
甲状腺機能低下症/橋本病の1/2-1/3に心のう液貯留認めるが、ゆっくりなので心タンポナーデほとんどない。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は心拍出量が多いのに組織の酸素需要を満たせない高拍出量性心不全(右心不全)、やがて心筋細胞が障害され左心不全、両室不全。肺血流量の増加で肺動脈内皮細胞障害による肺高血圧症も。家族性Carney症候群は再発性の心臓粘液腫に多発性内分泌腫瘍、甲状腺腫瘍合併。収縮性心膜炎は甲状腺原発悪性リンパ腫の横隔膜より上の放射線治療後におこり得る。脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)≧100で心不全の疑い。
Keywords
甲状腺,心臓,甲状腺機能低下症,橋本病,心のう液貯留,心タンポナーデ,甲状腺ホルモン,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,心不全,心膜炎,肺高血圧症
- 心筋細胞は甲状腺ホルモン受容体(TR)が多く、甲状腺ホルモンが受容体を介し作用
- 甲状腺ホルモンが直接心筋細胞膜に作用(non-genomic action)
- 甲状腺ホルモンが交感神経の活動性を高める
ため、循環器系は他の臓器より甲状腺ホルモンの影響を受けやすいです。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺の初診の方は、心電図も録らせていただきますので、足首の出る服装でお越しください。
(無視して下さい)甲状腺専門医でも知らなくてよい難し過ぎる話;甲状腺ホルモンが心筋細胞に作用するメカニズム
2. 心筋細胞膜に直接作用(non-genomic action)し、細胞膜上のNa/Ca交換系・K+チャネルの活性を高め、ミトコンドリアのATP輸送を高める
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
- 甲状腺の病気と心臓病(サイロイドハート)
- 甲状腺心(サイロイドハート)検査概論
- 心のう液貯留・心タンポナーデ
- 高拍出量性心不全
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肺高血圧症合併
- 甲状腺と心臓腫瘍
- 甲状腺と心膜疾患
- 甲状腺と心筋症
- 劇症型心筋炎(急性心筋炎)と甲状腺
- 好酸球性心筋炎
- 甲状腺と心臓弁膜症[僧帽弁狭窄症(MS),僧帽弁逸脱症,虚血性僧帽弁閉鎖不全症(MR),大動脈弁狭窄症(AS),大動脈弁閉鎖不全症(AR)]
- 先天性心疾患[心房中隔欠損症(ASD),動脈管開存症(PD),単心室症]
- HFpEF収縮力の保たれた心不全)は生活習慣病
- 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は心不全の指標
- コララン®錠(イバブラジン塩酸塩)慢性心不全で心筋保護作用
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では動脈硬化が進行し、狭心症・心筋梗塞(心血管障害)の危険が高くなります。また、甲状腺ホルモンは直接心臓に作用するため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病、いずれも心臓疾患(サイロイドハート)をおこします。
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では、すでに動脈硬化が進行し狭心症・心筋梗塞が隠れている可能性があります。甲状腺ホルモン剤治療開始で、それが顕在化する危険あり、治療前に心電図(狭心症が疑わしい場合は負荷心電図、24時間ホルター心電図、提携病院の循環器科への紹介)が必要です。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では拡張型心筋症、たこつぼ型心筋症をおこすことがあります。甲状腺クリーゼ、粘液水腫性昏睡では心不全になります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺の初診の方は、心電図も録らせていただきますので、足首の出る服装でお越しください。
マスター運動負荷心電図
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、甲状腺の初診の方は、心電図も録らせていただき、狭心症・心筋梗塞が疑われる場合、甲状腺ホルモンの補充は他院 循環器内科で精査・治療後になる場合があります。
24時間ホルター心電図
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では洞性頻脈、心房細動、心房粗動、上室性期外収縮、心室性期外収縮など頻脈性不整脈を高率におこします。時として発作性上室性頻拍、心室性頻拍など命の危険を伴う致死性不整脈をおこします。甲状腺機能低下症では、徐脈、QT延長症などの不整脈、動脈硬化の進行による狭心症が知られます。
これらの不整脈は、外来のワンポイントで調べる通常心電図では見つからない事も多いため、循環器内科での24時間ホルター心電図を受けていただきます。[長崎甲状腺クリニック(大阪)では行っておりません]
甲状腺機能低下症では1/2-1/3に心のう(心臓を包む袋)液の貯留を認めます。
心カテーテル検査
(循環器科のある病院でそれなりの理由がないと行わない検査ですが)心カテーテル検査で、両心房心室の拡張期圧上昇が全て同じなら拡張障害がおこっていると考えられます。
吸気時の収縮期血圧低下が10mmHg以上となる現象を奇脈といい、心膜液貯留による心タンポナーデに特徴的ですが,緊張性気胸,呼吸器疾患,心不全,左室肥大,上大静脈閉塞症候群などでもみられます。
一般的に心タンポナーデは、心のう(心臓を包む袋)内に液が溜まり、心臓が膨らまず、心拍動が妨げられる状態です。心臓の拡張障害→大静脈からの静脈が返って来れず、うっ滞する静脈還流障害→心臓から全身に送り出す血液量も減少低酸素状態になります。
- 静脈がうっ滞し、頸静脈怒張
- 低酸素による呼吸困難
- 心拍出量減少に対する代償性の頻脈→動悸
- 吸気により心臓が肺に圧迫され、静脈還流が更に減ると奇脈[吸気時、10mmHg以上の血圧低下]
が起こります。
甲状腺機能低下症では1/2-1/3に、心のう(心臓を包む袋)液の貯留を認めます。甲状腺機能低下症の心のう液貯留は滲出性で、
- 心外膜血管の透過性の増加
- アルブミンによるリンパ排液の減少
が原因です。
甲状腺機能低下症の心のう液貯留は、ゆっくり進行するため、心タンポナーデになる事は、ほとんどありません。
図のように大量の心嚢液貯留しても、
- 呼吸困難、動悸の症状は無く
- 奇脈[吸気時、10mmHg以上の血圧低下]や頸静脈怒張も無い
- 交互脈はある;心臓が浮遊状態となり振子運動をすると、拍動が一拍ごとに強弱を繰り返す
※心収縮力低下による心不全でも起こる
です。(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
もし心タンポナーデをおこしても、甲状腺機能低下症では脈が遅くなるため、通常の心タンポナーデの心拍出量低下に対する代償性の頻脈になりません。
例外的に、心タンポナーデで発見された甲状腺機能低下症の症例も報告されています。東京女子医科大学八千代医療センターの報告では、そこまで高齢でない68 歳女性、TSH 152.81 μIU/mlでかなりの甲状腺機能低下症には違いありません。歩行時の息切れから心タンポナーデ見つかり、心嚢穿刺で1090mlと1L以上の心嚢液が抜けたそうです。(第57回日本甲状腺学会 P1-058 心タンポナーデで発見された甲状腺機能低下症の一例)
心嚢液貯留の鑑別
心嚢液貯留の鑑別として
- 甲状腺機能低下症
- 結核性心嚢炎;血性心嚢液(結核と甲状腺)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)心膜炎(全身性エリテマトーデス(SLE)と甲状腺機能亢進症/バセドウ病)
- 尿毒症性心嚢液の貯留;①ネフローゼ症候群の低蛋白血症によるもの、②腎不全で尿毒素の蓄積が原因
- 原発性・転移性心膜腫瘍
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心不全は、心拍出量が多いのに、組織の酸素需要を満たせる血流量を心臓が供給できない高拍出量性心不全。 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併する鉄欠乏性貧血、脚気心(ビタミンB1欠乏で末梢血管平滑筋が弛緩し血管抵抗が低下)、甲状腺癌肺転移の動静脈瘻、甲状腺クリーゼで敗血症をともなうと、さらに高拍出量性心不全は悪化。
右心不全
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心不全は、右心不全が前景になり
- 循環血液量の増加で右心室は容量負荷・圧負荷を受けます。
- 三尖弁輪が拡大し、三尖弁が閉じなくなり、血液の逆流が起こり[三尖弁閉鎖不全症(TR)]、肝腫大や下肢浮腫が生じます。
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
左心不全から両室不全
右心不全に引き続き、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が
- 活動性高く、長期にわたる場合:心筋細胞のミオシンの変化やミトコンドリアの酸化機能障害
- 元々、有意な心疾患がある場合
左心室の収縮/拡張障害を起こし、左室の拡張末期圧も上昇、肺うっ血をともなう左室不全になります。
両室不全が限界を超えると、心原性ショック起こし死に至ります。
心筋虚血
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では
- 甲状腺ホルモンの直接的、交感神経を介する間接的刺激により、心筋細胞の酸素需要が高まり、相対的な心筋虚血状態にあります。
- 冠動脈は収縮期に心筋で圧迫され、拡張期に圧迫解除され冠血流は増加します。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の頻拍により拡張期の時間が短くなり心筋虚血が生じやすくなります。頻拍性の心房細動起こすと、冠血流減少はさらに悪化。
心筋虚血で左心室の障害も加速されます。
肺高血圧症は肺血管が狭くなり肺動脈血圧が上昇①低酸素症②肺に血液を送る右心室に過剰負荷で右心不全。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肺高血圧症は①肺血流量増加→肺動脈内皮細胞障害→肺血管抵抗増大②膠原病合併(全身性強皮症・SLE・MCTD)③血液凝固能亢進し肺動静脈血栓塞栓症合併。また原因不明の原発性肺高血圧症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病合併多い。肺高血圧症治療薬プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)で甲状腺機能亢進症/バセドウ病/無痛性甲状腺炎、びまん性甲状腺腫を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)誘発。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の肺高血圧症合併は,
- 肺血流量の増加、それにともなう肺動脈内皮細胞の障害による肺血管抵抗増大
- 過剰な甲状腺ホルモンの影響で血液の凝固能が亢進しており(甲状腺と血栓症-深部静脈血栓 )、肺動静脈血栓塞栓症合併(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)
- 抗リン脂質抗体症候群 合併(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)
- 膠原病の合併(全身性強皮症(SSc)は肺線維化・肺動脈の狭窄・硬化が主体で治療抵抗性・SLEは免疫反応主体で治療反応性・MCTD)
が考えられます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、元々、高拍出量性右心不全をおこしやすいが、右側胸水まで認めれば、肺高血圧症合併を疑う必要があります。心エコー検査で右心負荷や肺動脈圧の評価が必須。
抗甲状腺薬内服後に高拍出量性右心不全に加え、肺高血圧症も著明に改善した報告もありますが、甲状腺ホルモンの改善を待ってられない場合、
- エンドセリン受容体拮抗薬
- PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)
- プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)持続静注療法:甲状腺機能亢進症/バセドウ病/無痛性甲状腺炎おこす事が知られています(下記)
逆に、原因不明の原発性肺高血圧症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病の合併が多いです。
その原因は、甲状腺内動脈のみならず、甲状腺濾胞細胞にもPGI2受容体が存在し(Horm Metab Res. 1986 Sep;18(9):625-9.)、
PGI2が
- 甲状腺濾胞細胞のPGI2受容体に結合、アデニレートシクラーゼを活性化→cAMP(cyclic AMP)合成→甲状腺ホルモン合成が促進する(Horm Metab Res 1986;18: 625-629.)
- T細胞(特にTh17)を活性化し自己免疫反応を誘導する(Prostaglandins Other Lipid Mediat 2011;96: 21-26.)
可能性が考えられます。(第56回日本甲状腺学会 P2-082 特発性肺動脈性肺高血圧加療中にエポプロステノールによる無痛性甲状腺炎にBasedow 病を併発したと考えられる1 例)(Lung. 2019 Dec;197(6):761-768.)
PGI2誘発性の甲状腺機能亢進症/バセドウ病は
- 抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール)高容量投与しても甲状腺機能が正常化しない難治性バセドウ病の事があります。(第61回日本甲状腺学会 O28-3 PGI2製剤使用下の特発性肺動脈高血圧症に合併したバセドウ病 に対してRI治療が著効した1例)
- 最初は抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール)によく反応しても、PGI2製剤を中止できなければ、治療途中で甲状腺腫(甲状腺の腫れ)が大きくなり、再発します。
- 甲状腺ホルモンの変動により心臓に負担が掛かり、肺高血圧症・右心不全が増悪
- 以上より、PGI2製剤を中止したくても、肺高血圧症が増悪するため止めれない
などの難点があります。
最終的には甲状腺全摘出術するしかありません。国立循環器病研究センターでは、肺高血圧症があるため心肺補助装置待機、スワンガンツカテーテル挿入、経食道心エコー実施のもとで甲状腺全摘出したそうです(第63回 日本甲状腺学会 C3-15 特発性肺高血圧症に対してエポプロステノール使用中にバセドウ病を発症した巨大甲状腺腫の摘出手術の一例)。
プロスタサイクリン(PGI2)誘導体(ベラプロスト、エポプロステノール)は、びまん性甲状腺腫を伴う橋本病(慢性甲状腺炎)を誘発する場合もあります。(Lung. 2019 Dec;197(6):761-768.)
肺高血圧症(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)のCT所見
肺高血圧症(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)のCT所見は、
- 肺動脈拡大・右心系の拡張
- 斑状のすりガラス影(モザイクパターン)、高吸収域では末梢血管影が目立つ
肺高血圧症のカテーテル治療
甲状腺が原因の場合に限らず、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症の治療で、カテーテルによる経皮的肺動脈形成術 (経皮的肺動脈バルーン拡張術)があります。カテーテル先端で、血栓に穴を開け、閉塞部を貫通させたところを、バルーン(風船)を膨らませて更に広げる治療です。
原発性心臓腫瘍は、転移性心臓腫瘍より多いです。原発性心臓腫瘍の75%は良性、50%(良性)粘液腫です。
原発性悪性心臓腫瘍は、未治療だと余命は平均1カ月です。緊急手術の適応になります。
心臓粘液腫

原発性心臓腫瘍の50%を占める心臓粘液腫。非遺伝性のものは中年女性に多く、75%が左心房に生じます。
- 心臓粘液腫が産生する炎症物質による発熱
- 血流遮断による失神・突然死
- 粘液腫の破片・表面血栓による脳梗塞や肺梗塞
の危険性があります。
家族性のCarney症候群は再発性の心臓粘液腫に他臓器の粘液腫、多発性内分泌腫瘍、甲状腺腫瘍を伴います(Carney(カーニー)症候群)。
心臓横紋筋腫

結節性硬化症(プリングル病)は全身に過誤腫とよばれる良性腫瘍ができます。心臓に横紋筋腫・リンパ脈管筋腫症(LAM)・腎血管筋脂肪腫・甲状腺結節(20.4%)、甲状腺乳頭癌(約1%)を認めます。
心臓原発悪性リンパ腫
甲状腺癌による転移性心臓腫瘍
転移性心臓腫瘍は、悪性腫瘍剖検例の4.7~15.0%と意外と多いです。原発巣は肺癌、乳癌、血液癌、悪性黒色腫が多く、甲状腺癌による転移性心臓腫瘍は少ないです。(J Clin Pathol 60:27-34, 2007)
甲状腺癌による転移性心臓腫瘍は、甲状腺未分化癌が最も多く、次いで甲状腺濾胞癌です。
転移部位は右心室が多く、左心室転移は少ないです。リンパ行性転移、血行性転移いずれも大静脈から右心室内に至る経路が考えられます。左心系に転移する場合、
- 肺転移巣から肺静脈を通り
- あるいは右心室から肺動脈→肺静脈を通り
左心系の心内膜に接着・増殖する可能性が考えられます。 (Jpn. J. Clin. Oncol 18:195-201, 1998)

甲状腺乳頭癌型低分化癌の心臓転移(J Cancer Res Ther. 2013 Jul-Sep;9(3):490-2.)
収縮性心膜炎は甲状腺原発悪性リンパ腫の横隔膜より上の放射線治療(放射線外照射)後に。急性心膜炎は、原因不明の特発性が最多だが甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症も原因に。甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病で心外膜脂肪は動脈硬化の指標。潜在性甲状腺機能低下症の心外膜脂肪組織厚は甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]治療で改善。腹膜透析(PD)患者の血清FT3(甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン)値の低さは、心外膜脂肪組織厚に。甲状腺機能亢進症でも冠状動脈内膜中膜肥厚度(CIMT)と心外膜脂肪厚が高い。
収縮性心膜炎は甲状腺原発悪性リンパ腫の横隔膜より上の放射線治療(放射線外照射)後におこり得ます。心臓を包む心膜が放射線で炎症をおこし、ガチガチに線維化・石灰化するため、心臓は膨らまなくなり、心不全に至ります。拡張期に心膜叩打音(knock sound)が聞こえます。
放射線治療後には収縮性心膜炎だけでなく、心筋障害・弁膜障害もおこりえます。
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病と心外膜脂肪
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病において心外膜脂肪は動脈硬化を反映します。
- 心外膜脂肪組織(epicardial fat)の厚さは、甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症の橋本病患者における早期の動脈硬化の指標になる。{Clin Endocrinol (Oxf). 2013 Oct;79(4):571-6.)
- 潜在性甲状腺機能低下症の心外膜脂肪組織(epicardial fat)の厚さは、甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]で治療すれば改善されます。6.3 ± 1.7 mm → 5.1 ± 1.4 mm, p<0.001).
治療後の心外膜脂肪組織(epicardial fat)の厚さの減少は、甲状腺機能の改善度(TSH値の減少)と有意に相関します。(Kardiol Pol. 2016;74(12):1492-1498.) - 透析患者の主な死亡原因は心血管疾患です。腹膜透析(PD)患者の血清FT3(甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン)値の低さは、心外膜脂肪組織(epicardial fat)の厚さに相関します。(J Atheroscler Thromb. 2014;21(10):1066-74.)
甲状腺機能亢進症と心外膜脂肪
甲状腺機能亢進症でも、冠状動脈内膜中膜肥厚度(CIMT)と心外膜脂肪厚(EFT)が高い。(Wien Klin Wochenschr. 2014 Aug;126(15-16):485-90.)(Biomarkers. 2018 Dec;23(8):742-747.)
果たして、甲状腺機能亢進症での心外膜脂肪厚(EFT)の増大が何を意味するのか筆者には不明です。
甲状腺癌と心外膜脂肪
甲状腺髄様癌の気管・食道浸潤部を切除し、 胸腺(Thymus)-pericardial fat pad(心臓周囲脂肪)を有茎とした心膜パッチグラフトによる再建を行った報告があります。(第11回 日本呼吸器外科学会雑誌 1994; 8(3): 327)
風邪/亜急性甲状腺の原因でヒト心筋に親和性の高いB群コクサッキーウイルスなどが劇症型心筋炎(急性心筋炎)おこす。最初は風邪症状(発熱、喉の痛み、咳)→腹部症状(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢)の急性胃腸炎様症状→1-2日で急に全身倦怠感、手足の冷感、不整脈、失神、呼吸困難など急性心不全、急性心膜炎も合併し胸痛、心膜液貯留。治療はICUに入院し甲状腺クリーゼの急性循環不全、心源性ショックなどで使用される経皮的心肺補助法 (CPS)。この間、出血や感染症など合併症起こし易い。好酸球性は特発性が最多で、好酸球が心筋浸潤し心筋障害。
劇症型心筋炎(急性心筋炎)とは
急性心膜炎も合併し、前胸部不快感、胸痛、心膜液の貯留もあり得ます。呼吸困難おこった時点で心電図を撮ると、あたかも心筋梗塞のような広範囲のST上昇が見られます。房室ブロックや脚ブロックを伴う事も。(US Cardiology Review 2018;12(1)13–6.)。
例え、急性胃腸炎を疑っていても、必ず心電図を撮った方が良いでしょう。
心肺停止で倒れる時は、胸を抑えて前屈みで倒れる事があるので、診断の参考になります。
軽い急性心筋炎
劇症型心筋炎(急性心筋炎)の治療
劇症型心筋炎(急性心筋炎)の治療はICUに入院して
- 甲状腺クリーゼの急性循環不全、心源性ショックなどで使用される経皮的心肺補助法 (percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)。この間、出血や感染症などの合併症を起こし易いため厳重な管理が必要(写真看護roo)
PCPSは数日から数週間が限界。
- 数日から数週間の間に、心臓の機能が回復し、PCPSを離脱できなければ体外補助人工心臓に切り替えねばなりません(かなり大掛かりな手術、現実的に相当困難)
- 最終的には心臓移植(それおかしいで!?心臓移植の基準)
ステロイド剤減量中に劇症型心筋炎と無痛性甲状腺炎発症した症例
ラモトリギン(商品名ラミクタール)は、抗てんかん薬かつ双極性障害にも有効だが、用量が多いとスティーブンス・ジョンソン症候群など重篤な皮膚の副作用がある[抗てんかん薬、双極性障害治療薬「ラミクタール錠」投与患者における重篤な皮膚障害に関する注意喚起について”. 厚生労働省 (2015年2月4日). ]。
ラモトリギン(商品名ラミクタール)投与で薬剤性過敏症症候群発症し、ステロイド剤減量中に劇症型心筋炎と無痛性甲状腺炎発症した6歳の女児例が報告されています[脳と発達(2013) 45 巻 3 号 p. 243-244]。

好酸球性心筋炎の原因は、
- 特発性
- アレルギー性
- 薬剤アレルギー;抗生剤・強心剤・利尿薬・非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)(Hum Pathol 1981;12:900-907)(Arch Pathol Lab Med 1991;115: 764-769)
- 寄生虫感染
などで、特発性が最多(約50%)です。好酸球が心筋に浸潤し、その細胞毒性物質により心筋が障害されるとされます。 (Circ J 2004;68 (Suppl Ⅰ):244(abstr) )
未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併した好酸球性心筋炎が報告されています。頻脈性心房細動に加え、Ⅱ,Ⅲ,aVF,V4−6でST上昇の急性心筋心膜炎所見。(心臓 2014; 46(12):1061-1066)
現在の心不全患者の半数を占めるHFpEF(heart failure with preserved ejection fraction:収縮力の保たれた心不全)は、左室駆出率(LVEF)≧50%です。
HFpEF(収縮力の保たれた心不全)の原因は確定されていませんが、
- 高齢
- 女性(甲状腺の病気と同じ)
- 高血圧の既往
- 慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)
- 心房細動(Af)(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の後遺症として残存)
- 糖尿病(甲状腺の病気と合併多い)
- 肥満
など生活習慣病に関連します。(Int Heart J 56 : 137―143, 2015. )
肺水腫、呼吸困難に進展する3週以上前に既に肺動脈圧上昇が生じます(Lancet 377 : 658―666, 2011.)。
HFpEF(収縮力の保たれた心不全)の治療は
- HFrEF(収縮力の低下した心不全;左室駆出率<40%)と同じ薬物治療[β遮断薬・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)]では予後改善効果ない
α遮断薬はどちらでも無効 - 肺うっ血の症状緩和に利尿薬が推奨されるだけ
- 生活習慣病の治療で予後改善
HFpEF(収縮力の保たれた心不全)の予後は、HFrEF(収縮力の低下した心不全)と同程度に悪いとされます。
血漿BNP値は、
- 慢性腎不全(細胞外液量増加)
- 肝硬変(細胞外液量増加)
- 甲状腺機能亢進症(循環血液量が増加するため?)
- 加齢
- 肥満
など心臓病以外でも上昇する事があります。
コララン®錠(イバブラジン塩酸塩)は、
洞結節のHCN(過分極活性化環状ヌクレオチド依存性)チャネルを阻害→過分極活性化陽イオン電流を抑え、心拍数を減少させる薬です。
β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けていても、洞調律で安静時心拍数が75 回/分以上ある左室駆出率<35%のHFrEF(収縮力の低下した心不全)において、コララン®錠(イバブラジン塩酸塩)は心拍数を下げ、長期予後を改善します。
また、β遮断薬が使用できない患者にも投与できます。
糖尿病、高尿酸血症の副作用が報告されています。
ラットを使った動物実験ですが、イバブラジンによる選択的な心拍数の低下は、甲状腺ホルモンによる心筋の変質(リモデリング)を減少させ、線維化と肥大なしに心筋細胞内カルシウムイオンを制御します。(Heart Vessels. 2013 Jul;28(4):524-35.)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病は高拍出量性心不全が多いので、コララン®錠(イバブラジン塩酸塩)の使用機会は少ないかもしれません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市,浪速区も近く。