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潜在性甲状腺機能亢進症を治療すべきか?[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺疾患早見表

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。

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潜在性甲状腺機能亢進症を治療すべきか?

Summary

潜在性甲状腺機能亢進症は血清TSH(甲状腺刺激ホルモン)が正常値以下、血中遊離型甲状腺ホルモン(FT3,FT4)は正常範囲の状態。要するにTSHが少し抑制され、刺激が減るだけで甲状腺ホルモンを正常に保てる軽度の甲状腺機能亢進症。日本人の約2%(50人に1人) に存在し心房細動(Af)・心不全・骨折リスク・非特異的死亡率が上昇。バセドウ病機能性甲状腺結節等が原因。抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の重大な副作用を考えれば、よほどの事が無い限り対症療法が現実的。顕在性甲状腺機能亢進症に移行しないか経過観察は必要。

Keywords

潜在性甲状腺機能亢進症,TSH,心房細動,心不全,骨折,バセドウ病,機能性甲状腺結節.治療,甲状腺ホルモン,死亡率

潜在性甲状腺機能亢進症とは?

潜在性甲状腺機能亢進症

潜在性甲状腺機能亢進症(subclinical hyperthyroidism)は、血清TSH(甲状腺刺激ホルモン)値が正常値以下に抑制されており、血中遊離型甲状腺ホルモン(FT3とFT4)値は正常範囲にある状態です。簡単に言えば、ごく軽度の甲状腺機能亢進症と言えます。

要するにTSH(甲状腺刺激ホルモン)が少し抑制され、やや甲状腺の刺激が減るだけで、甲状腺ホルモン(FT3,FT4)値を正常に保てる軽度の甲状腺機能亢進症です。

無痛性甲状腺炎/亜急性甲状腺炎など破壊による一過性の場合、潜在性甲状腺中毒症という表現の方が適切でしょう。

潜在性甲状腺機能亢進症の頻度

日本における潜在性甲状腺機能亢進症の頻度は、一般人口の0.8~1.4%(約1%)です(実はアメリカでもほぼ同じ)。

TSHの値を0.436 μU/ml未満とすると、日本人の約2.13%が潜在性甲状腺機能亢進症に該当する報告がありますが、実際、そんなに多くありません[Circ J. 2007 Feb;71(2):191-5.]。

潜在性甲状腺機能亢進症の原因

潜在性甲状腺機能亢進症の原因は、

  1. バセドウ病
  2. バセドウ病の抗体が陰性の甲状腺機能亢進症---非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症
  3. バセドウ病の抗体が陰性の甲状腺機能亢進症---甲状腺機能性結節
  4. バセドウ病機能性甲状腺腫甲状腺機能性結節)が合併(マリンレンハート症候群: Marine-Lenhart症候群
  5. 非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症甲状腺機能性結節が混在---マッキューン・オルブライト(McCune-Albright)症候群
  6. 甲状腺機能低下症でチラーヂンSの服薬量が過剰(チラーヂンS減量の必要あり)
    妊娠甲状腺癌の再発予防目的の抑制療法中は減量の必要なし

があります。

無痛性甲状腺炎/亜急性甲状腺炎など破壊性甲状腺炎による一過性の潜在性甲状腺中毒症は除く。

潜在性甲状腺機能亢進症の自覚症状・他覚症状

潜在性甲状腺機能亢進症では

  1. 心房細動(Af)の発症率が有意に高くなる(約2倍)[N Engl J Ned. 1994 ;31, 1249-1252.]
    心不全の発症率が有意に高くなる(約1.5倍だが高齢程高くなる)[N Engl J Ned. 1994 ;31, 1040-1049.]
     
  2. 骨折のリスクが高くなる(J Clin Endocrinol Metab. 1996 Dec;81(12):4278-89.)
     
  3. 非特異的死亡率が上がる(特に心血管死が増える)(Lancet. 2001 Sep 15;358(9285):861-5.)
     
  4. 精神神経状態の悪化[Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 1992;241(6):357-64.]
    うつ症状がおこる[PLoS One. 2018 Aug 14;13(8):e0202258.]
    特に高齢者で、うつ症状がおこる[Neuroendocrinology. 2016;103(3-4):291-9.]
     
  5. 生活の質(クオリティオブライフ、QOL)が低下する[Arch Med Res. 2006 Jan;37(1):133-9.]
など、様々な問題がおこります。

潜在性甲状腺機能亢進症の心臓血管系突然死

潜在性甲状腺機能亢進症での心房細動(Af)、心負荷の増大が突然死に関与する説があります[Med Hypotheses. 2010 Apr;74(4):692-4.]

潜在性甲状腺機能亢進症の鑑別

潜在性甲状腺機能亢進症の鑑別として、

  1. 無痛性甲状腺炎の経過中(FT4↑,FT3↑,TSH↓⇒FT4正常,FT3正常,TSH↓;TSHの変化はFT4,FT3より遅れる)
  2. 中枢性甲状腺機能低下症(ただし、FT3,FT4は正常値下限、特にステロイドやドーパミン投与中の場合)[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2020 Jul 5;2020:20-0059.]

があり、診断に苦慮する事があります。

潜在性甲状腺機能亢進症の治療

潜在性甲状腺機能亢進症の治療適応

米国甲状腺学会のガイドラインでは、

TSHが持続的に0.1μU/ml未満の潜在性甲状腺機能亢進症患者なら

  1. 65歳以上の高齢者
  2. 心疾患
  3. 骨粗しょう症
  4. 甲状腺機能亢進症の症状がある
  5. 閉経後でエストロゲン剤、ビスフォスフォネート製剤を服薬していない

のいずれかを満たせば、治療を推奨する。

0.1≦TSH<0.4 mIU/lの潜在性甲状腺機能亢進症患者では、治療を考慮するとなっています。

(2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis. Thyroid. 2016 Oct;26(10):1343-1421.)います。骨粗鬆症(骨軟化症)・頻脈症/心房細動(Af)に対する対症療法が現実的です。

潜在性甲状腺機能亢進症治療の問題点

潜在性甲状腺機能亢進症治療の問題点として、欧米の潜在性甲状腺機能亢進症の原因は機能性甲状腺結節(autonomously functioning thyroid nodule:AFTN)が多く、バセドウ病の多い日本とは状況が異なるります。米国甲状腺学会のガイドラインをそのまま日本で適応するのは難しいと思われます。

また、バセドウ病治療の第一選択である抗甲状腺薬(甲状腺ホルモン合成を抑える薬、メルカゾール、プロパジール、チウラジール)は、

  1. 無顆粒球症
  2. 劇症肝炎
  3. ANCA関連疾患

を始め重大な副作用が起こり得るため、よほどの事が無い限り、(例え甲状腺専門医であっても)使用をためらいます。骨粗鬆症(骨軟化症)・頻脈症/心房細動(Af)に対する対症療法が現実的です。

潜在性甲状腺機能亢進症の治療効果

潜在性甲状腺機能亢進症を治療(放射性ヨウ素治療または抗甲状腺薬)して、自覚症状、心拍数、心血管パラメータが改善した報告はあります[Eur J Endocrinol. 2001 Oct;145(4):391-6.][J Clin Endocrinol Metab. 2003 Apr;88(4):1672-7.]。しかし、不整脈、心血管罹患率、死亡率が減るかどうかを調べた研究はありません。‎

閉経後バセドウ病女性潜在性甲状腺機能亢進症を治療(放射性ヨウ素治療または抗甲状腺薬)して骨密度が改善した報告はあります[Clin Endocrinol (Oxf). 1998 Mar;48(3):285-90.][J Endocrinol Invest. 2007 Mar;30(3):230-5.]。しかし、骨折のリスクが減るかどうかを調べた研究はありません。‎

潜在性甲状腺機能亢進症の経過観察

潜在性甲状腺機能亢進症は、治療しないにしても、経過観察は必要です。経過観察中に、

  1. 顕在性甲状腺機能亢進症になれば、根本的なバセドウ病の治療が始まります。
     
  2. 甲状腺機能が正常化、あるいは機能低下後正常化し、結局、無痛性甲状腺炎による一過性潜在性甲状腺機能亢進症(正確には一過性潜在性甲状腺中毒症)だった場合は、再発予防の生活指導[ヨウ素(ヨード)制限等]が必要になります(無痛性甲状腺炎の再発予防)。
     
  3. 潜在性甲状腺機能亢進症のままなら、バセドウ病の活動性を低下させる生活指導(禁煙、アレルギーの治療等)が必要になります(バセドウ病の生活上の注意)。

60歳以上の高齢者で0.1≦TSH<0.4 mIU/lの潜在性甲状腺機能亢進症患者が、1年後に顕在性甲状腺機能亢進症へ移行する確率約1%です(約3年半で3%)。‎[Clin Endocrinol (Oxf). 2010 May;72(5):685-8.]

同じく65歳以上の高齢者でTSH<0.1mIU/lの潜在性甲状腺機能亢進症患者が、2年後に顕在性甲状腺機能亢進症へ移行する確率約27%です。‎[Clin Endocrinol (Oxf). 2008 Mar;68(3):491-2.]

筆者の経験ではTS-Ab(TSHレセプター抗体[刺激型]; TSH刺激性レセプター抗体)が>250%の場合(正常値120%未満)、ほとんどが数か月~数年後、顕在性甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行します。

 

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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