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メルカゾール,プロパジール,チウラジールとMPO-ANCA関連血管炎[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

プロパジール関節痛

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会年次集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

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日本で最も多い全身性血管炎は、MPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)=MPO-ANCA関連血管炎です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)ではMPO-ANCA関連血管炎自体の診療を行っておりません。

Summary

MPO-ANCA関連血管炎は甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬、抗甲状腺薬MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)長期服薬の副作用。PTUで起こりやすい。38-39℃台の間欠的な発熱・関節炎・筋肉痛・結節性紅斑・多発性単神経炎・ブドウ膜炎/強膜炎ANCA関連腎炎・肺腎症候群・間質性肺炎をおこす。診断はMPO-ANCA, PR3-ANCAいずれか陽性、皮膚生検で血管炎を証明。治療は抗甲状腺薬中止(別の種類も使用不能)、アイソトープ治療・甲状腺全摘出、ステロイド投与。C3値が低い程、年齢が高い程、予後悪い。

Keywords

MPO-ANCA関連血管炎,メルカゾール,プロパジール,チウラジール,副作用,関節炎,ANCA,ANCA関連腎炎,PR3-ANCA,甲状腺

ANCAとは

Antineutrophil Cytoplasmic Antibody (ANCA)=抗好中球細胞質抗体

MPO-ANCA(抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体);好中球アズール顆粒中のミエロペルオキシダーゼに対する抗体
=p-ANCA(perinuclear-ANCA);アルコール固定後にp-ANCA対応抗原は核周辺に移動するためです(p-ANCAの染色パターンは人工産物です)

PR3-ANCA(抗好中球細胞質プロテイナーゼ-3抗体);好中球アズール顆粒中のプロテイナーゼ-3に対する抗体
=C-ANCA(cytoplasmic-ANCA);細胞質がびまん性顆粒状に染まる

p-ANCAとC-ANCA

MPO-ANCA関連血管炎とは

抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用

甲状腺機能亢進症/バセドウ病の治療薬、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を一年以上服薬した後におきる稀な副作用に、抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(ANCA=MPO-ANCA + P-ANCA)関連血管炎があります。

MPO-ANCAは、PTU(プロピルチオウラシル;プロパジール、チウラジール)療法を受けているバセドウ病患者の20.4-25%、メルカゾール投与患者の3.4%で陽性になるとされます[Mod Rheumatol. 2003 Dec;13(4):305-12.][Endocr J. 2002 Jun;49(3):329-34.]。

上條甲状腺クリニックの統計によるMPO-ANCA陽性率は、メルカゾール投与群1154例中7例(0.61%)に対し、プロパジール・チウラジール投与群454例中75例(16.52%)で、明らかにプロパジール・チウラジール投与群において高くなります(「上條甲状腺クリニックの甲状腺疾患Q&A」より)。

例え抗甲状腺薬を服薬中にMPO-ANCAが陽性になっても、ほとんどの場合、無症状でMPO-ANCA関連血管炎を起こしません。4~6.5%がMPO-ANCA関連血管炎を発症。[Nat Rev Nephrol. 2012 Jun 5;8(8):476-83.]

2007年までに中外製薬へ報告されたMPO-ANCA関連血管炎は、メルカゾール(MMI) 23例、プロパジール/チウラジール(PTU) 68例、どちらか不明の1例です。年齢は中央値46歳(10-81歳)。[J Clin Endocrinol Metab. 2009 Aug;94(8):2806-11.]

PTU(プロパジール、チウラジール)服用中の抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎および血管炎の発症率は、MMI(メルカゾール)の約40倍とされます[J Clin Endocrinol Metab. 2009 Aug;94(8):2806-11.]。

抗甲状腺薬服用量と発症頻度の相関はなく、症状の重篤度と血清MPO-ANCA値は相関しません [J Clin Endocrinol Metab. 2009 Aug;94(8):2806-11.]。ただ、筆者の経験では、PTU(プロパジール、チウラジール)を一日4-9錠の高容量服用する方に多い印象です。

MPO-ANCA関連血管炎は、服薬後10年以上してもおこり、発症の数年前よりANCA陽性になります。

しかし、服薬後、数日-数か月でおきた症例も報告されています。
(第57回 日本甲状腺学会 P1-032 メチマゾール(MMI)治療中に高熱、腹痛、紫斑を伴う血管炎が出現したバセドウ病の1 例)
妊娠希望にてメルカゾールからプロパジール or チウラジールに切替えて8日目に発症[Endocr J. 2013;60(3):383-8.]
(第53回 日本甲状腺学会 P165 プロピルチオウラシルからメチマゾールへ変更後にMPO-ANCAの上昇を来したバセドウ病の一 例)

抗甲状腺薬(プロピルチオウラシル)中止後、甲状腺亜全摘術後にも起こる?

抗甲状腺薬(プロピルチオウラシル)を中止して、甲状腺亜全摘術後にもMPO-ANCA関連血管炎が起こる可能性はあるため要注意。

山梨大学の報告では、プロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジールいずれかは不明)を6年間服薬後に寛解して中止。3年後、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が再発、PTU(プロピルチオウラシル) 150 mg(3錠)/日を再開するも、無顆粒球症のため1ヶ月後に中止。中止1週後にMPO-ANCA関連血管炎をおこすが、症状は自然軽快。甲状腺亜全摘術後3日目に再度、MPO-ANCA関連血管炎(肺胞出血、右乳突蜂巣炎も伴い軽症ではない)がおこり、高用量ステロイド・アザチオプリン内服で改善したそうです。(第60回 日本甲状腺学会P1-4-3 MMI開始後6年後に顆粒球減少症を発症、MMI中止後再度顆粒 球減少を示した1症例)

筆者の考えでは、PTU(プロピルチオウラシル) 再開1ヶ月後までにMPO-ANCA関連血管炎の引き金は引かれてしまっていたが、同剤中止したため軽症で済んだ。そして、甲状腺亜全摘術のストレスで、沈静化しかけたMPO-ANCA関連血管炎が再燃した。

PTU(プロピルチオウラシル)再開時にMPO-ANCA関連血管炎をおこすケースは他にも報告があります[Neth J Med. 2003 Sep;61(9):296-9.]

自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病)とANCA関連血管炎の合併

ANCA関連血管炎は、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用だけではありません。抗甲状腺薬を服薬していない自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病橋本病)との合併もあり得ます。ANCA関連血管炎女性の40%はバセドウ病橋本病を合併しています。ANCA関連血管炎男性での合併は少ないです。(Nephrol Dial Transplant. 2007 Dec;22(12):3508-15.)

理由として共通抗原の存在が考えられ、自己免疫疾患に関与するPTPN22 620W遺伝子多型が有力です(Expert Rev Mol Med. 2005 Oct 17; 7(23):1-15.)。

MPO-ANCA関連糸球体腎炎に対するプレドニゾロン投与量を減らしたことによって、再発と同時に甲状腺機能亢進症/バセドウ病が顕在化した報告があります。ステロイド(プレドニゾロン)がMPO-ANCA関連糸球体腎炎と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の両方を抑えていたのでしょう。[Mod Rheumatol. 2005;15(4):294-6.]

MPO-ANCA関連血管炎の症状

MPO-ANCA関連血管炎の症状

MPO-ANCA関連血管炎の症状

ANCAが陽性化したバセドウ病患者のごく一部がANCA関連疾患として発症(ほとんどの人は無症状)。プロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジール)投与患者に限定すれば単一病変は約44%、腎病変は75%で最も多い。次いで呼吸器、関節、皮膚病変の順に多いです。(Thyroid. 2017 Dec;27(12):1469-1474.)

  1. 38-39℃台の間欠的な発熱(数日/月2~3 回)、関節炎・筋肉痛・再発性多発軟骨炎
    抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の他の副作用と鑑別
  2. 体重減少
     
  3. 硬く痛い腫れ(結節性紅斑)・局所の循環障害による網目状紅斑(網状皮斑)・紫斑を伴う下腿浮腫
     
  4. 多発性単神経炎:皮膚の局所的痛み・単肢のしびれ・スリッパが脱げやすい、転びやすいなど神経因性筋力低下
     
  5. ANCA関連腎炎
  6. 肺腎症候群肺胞出血も)、間質性肺炎
     
  7. 腹痛、下痢、下血(胃腸血管に炎症)
     
  8. 心血管障害で心筋梗塞、うっ血性心不全
     
  9. 眼症状(ブドウ膜炎、強膜炎);眼が充血します(甲状腺眼症:バセドウ病眼症と鑑別)。
  10. 舌潰瘍
     
  11. ANCA関連巨大脾腫(左季肋部痛・PTU中止で軽快)
  12. 多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)のような肺の多発結節
  13. pseudo SLE(偽性SLE)
  14. ANCA関連脳血管炎

ANCA関連血管炎の症状

ANCA関連血管炎の症状(バーチャル臨床甲状腺カレッジより)[J Clin Endocrinol Metab. 2009 Aug;94(8):2806-11.]

ANCA関連血管炎 血尿

ANCA関連血管炎 血尿、関節痛

ANCA関連血管炎 関節痛

ANCA関連関節痛

MPO-ANCA関連血管炎の関節痛の鑑別として、抗甲状腺薬投与後1-2%におこる関節痛があります。膠原病の抗核抗体(ANA)が陽性化する事もあり、関節痛おこれば、抗核抗体(ANA)とANCA両方を測定します。

ANCA関連腎炎

MPO-ANCA関連腎炎

  1. ANCA 関連血管炎の約78%(45例中35例)に認められ、うち34例が尿潜血または尿蛋白を契機に発見されたとの報告(日本皮膚科学会雑誌Vol. 112 (2002) No. 9 p. 1229-1240)。初期症状として尿潜血・尿蛋白は重要で、それらが陽性であれば、速やかにMPO-ANCA・PR3-ANCAを測定すべきです。尿潜血・尿蛋白の段階で、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止すればANCA関連腎炎を回避できる可能性が高い。(第60回 日本甲状腺学会 P1-4-7 尿検査により早期に診断しえたPTUによるMPO-ANCA関連血 管炎の4例)
     
  2. 重症の腎炎(発熱、体重減少、蛋白尿/血尿など):急速進行性腎炎、巣状壊死性腎炎、顕微鏡的多発動脈炎の腎限局型(特発性壊死性半月体形成性腎炎)は、一度おこると致死的になる事があり、沈静化させるのが大変です。
    (※これら腎炎は、中小動脈炎で顕微鏡的多発動脈炎(PN)、アレルギー性肉芽種性血管炎のことも。)
    高用量のプレドニゾロンとシクロホスファミドでの治療が必要になります。[Nihon Jinzo Gakkai Shi. 1997 Mar;39(2):167-71.][Mod Rheumatol. 2003 Jun;13(2):173-6.]
    MPO-ANCA関連腎炎が起こると、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)は全て使用不能になる根拠の1つ。
     
  3. 肺に病変が及ぶと、①肺胞出血と腎炎の肺腎症候群[J Clin Rheumatol. 2009 Oct;15(7):341-4.]、②間質性肺炎の合併(稀)[Intern Med. 2003 Oct;42(10):1026-30.]
ANCA関連腎炎

ANCA関連腎炎の腎生検 PAS染色;半月体を形成する急速進行性糸球体腎炎(PGN)

ANCA関連腎炎の腎生検

ANCA関連腎炎の腎生検 PAS染色;全周性の半月体を形成する急速進行性糸球体腎炎(PGN)

肺胞出血

38度の発熱・咳嗽など感冒様症状が持続、通常の風邪治療では治らない。ここらで、普通肺CTを撮影し、両肺に浸潤影を認めれば呼吸器内科に紹介となります。

肺CTを撮影せず、漫然と数か月経過観ると、血痰も出現し、肺胞出血に気付きます。

MPO-ANCA関連血管炎 肺病変

PTU(プロパジール、チウラジール)服用中に感冒症状を認め、通常の風邪治療では治らない場合、

  1. 肺CTを撮影
  2. 肺胞出血を疑う
  1. 肺腎症候群としてANCA関連腎炎を伴う場合
  2. 肺胞出血単独の場合

の2通りがあります。

うっ血性心不全

ANCA関連血管炎の心血管病変は13%にみられ、重篤な呼吸不全おこし生命予後悪いとされます。

ANCA関連うっ血性心不全の特徴は

  1. 胸部X線で心拡大[心胸郭比(CTR)>50%]あるも典型的な蝶形陰影を認めない
  2. 頻脈(心拍数>100)
  3. 炎症反応(CRP>0.3 mg/dL)
  4. 貧血(Hb<12.0 g/dL);心不全を悪化
  5. 尿蛋白陽性/尿潜血陽性;ANCA関連腎炎の合併

との報告もあります。(Chin Med (J Engl)2017;130(8):899-905)(心臓 Vol . 50 No . 3(2018)280-286)

ANCA関連巨大脾腫

JA 静岡厚生連 遠州病院の報告では、プロパジールを6錠/日で6年服用した後にANCA関連巨大脾腫を発症。左上腹部痛(左季肋部から心窩部に痛み)、CRP陽性、sIL-2R、P-ANCA(MPO-ANCA)、C-ANCA(PR3-ANCA)高値、14.2x11.6x7.5cmの巨大脾腫を認める。プロパジール中止後3日で腹痛消失、脾腫軽減したそうです。sIL-2R、P-ANCA(MPO-ANCA)、C-ANCA(PR3-ANCA)は10ヶ月後に減少。(第57回 日本甲状腺学会 P1-095 バセドウ病治療中に出現した巨大脾腫がプロパジール中止で改善した1 例)

ANCA関連血管炎患者の脾臓病変は、過小評価されています。脾腫だけでなく脾臓梗塞で脾臓摘出術になる場合もある。[Clin Rheumatol. 2020 Jun;39(6):1929-1934.]

※ANCA関連血管炎とは無関係なプロピルチオウラシル(PTU)自体の副作用で、肝炎、胆汁うっ滞性黄疸、脾腫もあります[Turk J Pediatr. 2006 Apr-Jun;48(2):162-5.]。

多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)のような肺の多発結節

非常に稀ですが、プロパジール(PTU)内服中に、多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)のような肺の多発結節を生じた例が報告されています。しかし,肺多発結節影以外に上気道、腎症状等のWegener肉芽腫症の所見なく、診断基準も満たさなかったそうです(日呼吸会誌 2009,47(2)98-103)。

プロパジール(PTU)内服中に、多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)を発症した例も報告されています(Semin Arthritis Rheum. 1998 Oct;28(2):124-9.)。

pseudo SLE(偽性SLE)

pseudo SLE(偽性SLE)/薬剤性ループス(薬剤誘発性ループス)は、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用の1つで、SLE(全身性エリテマトーデス)に似た症状です。pseudo SLE(偽性SLE)ではMPO-ANCAが陽性になり、抗ds-DNA抗体は原則陰性。[Scand J Rheumatol. 2002;31(1):46-9.]

  1. 関節痛、筋肉痛
  2. 口腔内潰瘍
  3. 皮膚発疹
  4. 薬剤性ループス漿膜炎(薬剤誘発性ループス漿膜炎)で胸水(第66回 日本甲状腺学会 P16-1 プロピルチオウラシル長期内服による薬剤性ループス漿膜炎と無痛性甲状腺炎を合併したバセドウ病の一例)

などです。[Arch Dermatol Res. 2009 Jan;301(1):99-105.][J Dtsch Dermatol Ges. 2012 Dec;10(12):889-97.]

当然ながら、本当のSLE(全身性エリテマトーデス)が誘発された可能性もあり、鑑別を要します。

本当のSLE(全身性エリテマトーデス)と異なり、男女均等で、腎障害や中枢神経症状はなし。

MPO-ANCA関連血管炎の診断

MPO-ANCA関連血管炎の診断は、

  1. 血中のMPO-ANCA, PR3-ANCA測定
  2. 皮膚生検など、病変がある臓器の生検で血管炎を証明

血中のMPO-ANCA, PR3-ANCA測定

MPO-ANCA関連血管炎では、MPO-ANCA(100%), PR3-ANCAいずれか、あるいは両方陽性(約8%)になります(J Nephrol. 2014 Apr;27(2):159-64.)。

MPO-ANCA陰性でPR3-ANCAのみ陽性になる事もあるので要注意(第57回 日本甲状腺学会 P2-031 PTU 投与との関連が疑われたPR3-ANCA 陽性バセドウ病の1 例)。

日本における保険診療の恐るべき事実

日本の保険診療では、「抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)は、ELISA法又はCLEIA法により、急速進行性糸球体腎炎の診断又は経過観察のために測定した場合に算定する。」と明記されています。

つまり、「MPO-ANCA関連血管炎」でMPO-ANCAを測定する事が許されない狂った制度なのです。ちなみに、PR3-ANCAは「ウェゲナー肉芽腫症疑い」の病名を付けても査定、減点されます(保険診療は認められない)。

馬鹿馬鹿しくてやってられません。

MPO-ANCA関連血管炎の鑑別診断

MPO-ANCA関連血管炎の鑑別診断として、

  1. 関節痛;抗甲状腺薬の副作用。膠原病の抗核抗体(ANA)が陽性化する事もあります
  2. 膠原病の合併
  3. 関節リウマチの合併
  4. RS3PE症候群の合併
  5. HTLV-1関連関節症(HAAP)の合併
  6. 乾癬性関節炎の合併
  7. 成人スティル病の合併
  8. ベーチェット病の関節炎の合併
  9. 糖尿病の関節障害・手が固まるの合併

MPO-ANCA関連血管炎が起こったら

MPO-ANCA関連血管炎が起こったら、

  1. 速やかに抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止
  2. 別の種類の抗甲状腺剤も使用不能になります。
  3. アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療手術療法(甲状腺全摘出)するしかありません。

抗甲状腺薬を中止すれば、ANCA陽性血管炎症状は沈静化する事が多いです。MPO-ANCAは、しばらく陽性が続きます。

しかし、沈静化しない場合も多々報告されており、該当する科で、ステロイドを主とする投薬が必要になります。

抗甲状腺薬の種類を切り替えたら?

抗甲状腺薬の種類を切り替えたら、どうなるでしょうか?

報告では、

  1. PTU(プロパジール、チウラジール)で生じたANCA関連関節痛に対して、MMI(メルカゾール)へ変更すると一時的に関節痛は軽快するも、再度、ANCA関連関節炎が増悪 (第53回 日本甲状腺学会 P165 プロピルチオウラシルからメチマゾールへ変更後にMPO-ANCAの上昇を来したバセドウ病の一 例)
     
  2. PTU(プロパジール、チウラジール)で生じたANCA関連血管炎(39度の発熱、関節痛、紅斑)に対して、MMI(メルカゾール)へ変更後、一時的に軽快するも、2か月後に同じ症状が出現。甲状腺全摘術施行後1年以上経過し、関節痛は消失するも時々微熱が生じ、MPO-ANCA高値が持続している (第60回 日本甲状腺学会P1-4-6 バセドウ病の治療中にANCA関連血管炎を発症した2症例)

やはり、MPO-ANCA関連血管炎が起こったら、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)は全て使用不能になります。[Thyroid. 2015 Dec;25(12):1273-81.]

MPO-ANCA関連血管炎の治療

MPO-ANCA関連血管炎の治療。速やかに抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止し、アイソトープ(放射性ヨウ素:I-131)治療手術療法(甲状腺全摘出)を行っても、MPO-ANCA関連血管炎が改善しない、再燃する場合、高用量ステロイド、免疫抑制剤(アザチオプリンなど併用)投与します(施設により細かい違いはあります)。

  1. 初発・再発問わず活動性が高い
  2. 高用量ステロイド、免疫抑制剤で十分な効果が得られない

場合、リツキシマブ(リツキサン®)が保険適応

血漿交換はMPO-ANCA関連血管炎、特にANCA関連腎炎の予後、死亡率を改善させないとされます(N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):622-631.)。

MPO-ANCA関連血管炎の予後

抗甲状腺薬を中止すればANCA陽性血管炎症状は、ほとんどの方で消失し、再発は非常に希です。ANCA陽性血管炎症状が消失しても、しばらくANCA陽性が続きます。中には、ANCAの高値が長期間続くケースがあります。

しかしながら、2007年までに中外製薬に報告されたMPO-ANCA関連血管炎、メルカゾール(MMI)23例、プロパジール/チウラジール(PTU) 68例、どちらか不明の1例の内、死亡例はMMI、PTU1例ずつ、いずれも肺腎症候群をおこしています。[J Clin Endocrinol Metab. 2009 Aug;94(8):2806-11.]

MPO-ANCA関連血管炎診断時のC3(補体第3成分)値が低い程、年齢が高い程、予後が悪くなります。(Int J Rheum Dis .2019 May;22(5):789-796.)

MPO-ANCA関連血管炎の予防

MPO-ANCA関連血管炎の予測は困難です。関節痛や血尿が出たら、一端、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止して主治医を受診するよう事前に指示しておく必要があります。

MPO-ANCA関連血管炎はMPO-ANCA出現後数年して発症するため、事前にMPO-ANCAを測定すれば、MPO-ANCA関連血管炎を回避できるかもしれませんが、保険適応ありません。また、保険点数も高いので、レセプト審査で減点されれば医療機関の赤字になります。

MPO-ANCA測定  ※保険適応外ですので4000円(税抜き)掛かってしまいます。

MPO-ANCAが陽性になるその他の病気

MPO-ANCAは

  1. 関節リウマチ
  2. 全身性エリテマトーデス(SLE)など膠原病
  3. クローン病潰瘍性大腸炎(UC)など炎症性腸疾患
  4. 感染症(HIV、肝炎)
  5. 肺癌、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍
  6. 薬剤性:
    アロプリノール(痛風治療薬、尿酸を下げる薬)
    フェニトイン(てんかん薬)
    サラゾスルファピリジン(サラゾピリンとしてクローン病潰瘍性大腸炎(UC)アザルフィジンEN錠®として関節リウマチに使用)
    ペニシラミン(抗リウマチ薬;現在ほとんど使われない)、ヒドララジン(血管拡張薬;現在ほとんど使われない)、プロカインアミド(抗不整脈薬;現在ほとんど使われない)、シメチジン(H2ブロッカー;現在ほとんど使われない)、ミノサイクリン・セフォタキシム(抗生剤;現在も使われるが、長期には使用しない)
  7. 維持透析

で低頻度に認められます。

  1. 多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)

で高頻度に認められます。甲状腺機能亢進症/バセドウ病に、これらを合併していると、MPO-ANCAが陽性になった場合の原因を絞りにくくなります。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,生野区,東大阪市,浪速区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

アクセス

  • 近鉄「針中野駅」 徒歩2分
  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
    徒歩10分
  • 阪神高速14号松原線 「駒川IC」から720m

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