十二指腸/小腸と甲状腺 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会学術集会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
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Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では腸管運動が活発過ぎて吐き気・下痢に。嘔吐すると甲状腺クリーゼの可能性。下痢で抗甲状腺薬メルカゾール吸収障害。腸閉塞(イレウス)でメルカゾール静脈投与する事も。内臓脂肪が分解され上腸間膜動脈症候群に。甲状腺機能低下症/橋本病は便秘、動脈硬化が進行し上腸間膜動脈閉塞症に。小麦・大麦・ライ麦のグルテンに免疫反応がおこるセリアック病合併も。クローン病に抗TNFα 抗体などで亜急性甲状腺炎をおこす事も。小腸腫瘍の70%は悪性で腺癌、悪性リンパ腫など。
Keywords
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,下痢,メルカゾール,上腸間膜動脈症候群,甲状腺機能低下症,橋本病,便秘,上腸間膜動脈閉塞症,セリアック病
十二指腸潰瘍
甲状腺機能亢進症/バセドウ病と消化管潰瘍(胃十二指腸潰瘍) を御覧ください。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で上腸間膜動脈症候群(ウィルキー症候群:Wilkie 症候群)をおこした症例が報告されています(The journal of the Japan Surgical Association 65, 2055-58, 2004)(Medicine (Baltimore). 2020 Nov 13;99(46):e22664.)。
上腸間膜動脈症候群とは、大動脈と上腸間膜動脈に十二指腸水平部が挟まれて通過障害をおこした状態です。嘔吐や腹部膨満感などの腸閉塞症状をおこします。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、代謝が亢進して内臓脂肪が分解され、大動脈と上腸間膜動脈の隙間が狭くなるのが原因と考えられています。
病気でなくても、ダイエット目的で甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン)過剰服用し、上腸間膜動脈症候群(ウィルキー症候群:Wilkie 症候群)をおこした報告もあります(Rev Gastroenterol Peru. 2020 Jul-Sep;40(3):274-277.)。
甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では動脈硬化が進行し、狭心症/心筋梗塞の発症率が上がります。全身の動脈硬化の進行は、上腸間膜動脈閉塞症(Acute superior mesenteric artery occlusion:SMAO)に至る可能性があります。
高齢男性で虚血性心疾患(狭心症/心筋梗塞)があり、突然、強烈な腹痛が出現したら、まず上腸間膜動脈閉塞症を疑います。
また、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併する心房細動(Af)による血栓塞栓症としても発症します。
急性発症で腸壊死と腹膜炎により腹壁に筋性防御(デファンス)、ショックバイタルを認めたら、上腸間膜動脈閉塞症を疑います。
(World J Gastroenterol. 2019 Feb 21;25(7):848-858.)(Medicine (Baltimore). 2019 Feb;98(6):e14446.)
確定診断は造影CT検査による上腸間膜動脈の血栓・閉塞の確認です。同時に、麻痺性イレウス、腹水貯留も認めます。
腸管壊死によりLD・CKは上昇。腸管壊死による蛋白漏出で低蛋白血症・低アルブミン血症・血管内脱水。DICによる血小板減少・Dダイマー上昇。
治療は
- 腸管壊死前なら血管造影時に血栓溶解薬を投与。改善なければフォガティーカテーテルで血栓除去。
- 腸管壊死が疑われたら直ちに緊急開腹手術。上腸間膜動脈バイパス、壊死した腸切除。
発症後6時間を超えると、致死率は70-80%で救命困難。
(World J Gastroenterol. 2019 Feb 21;25(7):848-858.)(Medicine (Baltimore). 2019 Feb;98(6):e14446.)
セリアック病と橋本病
セリアック病は、小麦・大麦・ライ麦などに含まれるグルテンという蛋白質に免疫反応が起きて、小腸粘膜が損傷する病態。下痢、消化吸収不良になります。信州大学の報告では、約700名余の日本人を調べた結果、約1%がセリアック病の疑いがあるとのことです(アレルギー2006, 55(8-9) 1116.)。
橋本病(慢性甲状腺炎)とセリアック病の共通する免疫機序は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4 (cytotoxic T-lymphocyte antigen 4:CTLA-4)を介するものです(Genet Test Mol Biomarkers. 2014 Jan;18(1):8-11.)。
オランダの報告では、橋本病(慢性甲状腺炎)患者の4.8%がセリアック病で、セリアック病患者の12%に橋本病を認めたとされます(Endocr Connect. 2017;6:R52-8.)。日本では、どう考えても橋本病(慢性甲状腺炎)患者の約5%がセリアック病とは考えられません。
橋本病患者におけるセリアック病の自己免疫抗体の保有率
セリアック病と診断されていない橋本病(慢性甲状腺炎)患者におけるセリアック病の自己免疫抗体の保有率は、
- IgG抗組織トランスグルタミナーゼ抗体(抗tTG抗体:transglutaminase antibodies)15%(健常人コントロール群7%;P<0.05)
- IgA抗組織トランスグルタミナーゼ抗体(抗tTG抗体)22.5%(健常人コントロール群17%;;P>0.05)
- IgA抗グリアジン抗体15%(健常人コントロール群12%;P<0.05)
と、2.以外は有意に高い(Acta Endocrinol (Buchar). 2017 Apr-Jun;13(2):174-179.)。
さらに、これらセリアック病の自己免疫抗体は、橋本病(慢性甲状腺炎)を進行させます(Indian J Med Res. 2013 Jan; 137(1):82-6.)。
グルテンフリー食で橋本病(慢性甲状腺炎)抗体が減少
セリアック病ではない橋本病(慢性甲状腺炎)女性にグルテンフリー食を6ヶ月間続けると、橋本病(慢性甲状腺炎)抗体、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体:TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体:TPOAb)が減少した研究報告があります(Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2019 Jul;127(7):417-422.)。
好酸球性胃腸炎は好酸球性食道炎と同じ食物アレルギーが原因だが、有病率は低い。男女差なく、全ての年齢で広く分布。小腸病変が最も多く腹痛と下痢症状。80%で末梢血に好酸球増加を認めます。甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させる可能性が推察されますが、エビデンスはありません(甲状腺とアレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎・アナフィラキシー )。
以前、日本人には少なく、欧米人に多いとされていた炎症性腸疾患(クローン病と潰瘍性大腸炎)。実は日本人にも多く、潰瘍性大腸炎は22万人以上、クローン病は7万人以上の患者がいます。
潰瘍性大腸炎は大腸の炎症、クローン病は小腸と大腸の炎症です。
いずれも10-30歳代の若年者が多く、甲状腺の病気に合併した場合は、症状が増悪したりマスクされたりします。
クローン病と甲状腺
いまだ原因も甲状腺との関係も不明のクローン病。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、橋本病とクローン病の合併報告は少ないですが複数あります[Cases J. 2009 Aug 25;2:8541.][Intern Med. 2005 Apr;44(4):303-6.][Biomed Res Int. 2016;2016:5187061.]。
クローン病に甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)を合併する場合があります。クローン病の活動性・再燃と甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)の間に関連はないとされます。[Endocr J. 1999 Feb;46(1):179-82.][Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2015;2015:140117.]
しかも、どういう訳かクローン病に甲状腺アミロイドーシス(アミロイド甲状腺腫)を合併した場合抗TNFα 抗体(下記)投与後、亜急性甲状腺炎が誘発された報告があります。[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2015;2015:140117.][J Clin Endocrinol Metab. 1988 Jul;67(1):41-5.]
クローン病は甲状腺癌のリスクファクター(オッズ比= 2.3 [1.06-5.1]、P = 0.034)との報告があります[Inflamm Bowel Dis. 2016 Dec;22(12):2902-2906.]
クローン病とは
クローン病は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する全層性炎症で、小腸や大腸の縦走潰瘍、敷石像やアフタが分節性に生じ、狭窄します。痔(痔瘻)、肛門周囲膿瘍など肛門病変も高頻度。
エレンタールは成分栄養剤の中で最も脂肪が少なく、アミノ酸まで分解されているため、クローン病の栄養補給に最適。
クローン病の初期治療は、小腸病変が経口での副腎皮質ホルモン剤であるのを除けば、潰瘍性大腸炎と同じ。最近は関節リウマチ治療薬のTNFアルファ阻害薬[抗TNF-αモノクローナル抗体のインフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)]が使用されます。自己免疫性甲状腺疾患(特にバセドウ病)を合併していると、抗TNFα受容体拮抗薬で同時に良くなります。[Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Sep 15;11:558897.]
クローン病での小腸カプセル内視鏡はほぼ禁忌です。小腸病変は狭窄を来しているため、小腸カプセル内視鏡が詰まって腸閉塞になります。
メサラジン製剤のペンタサ®は小腸から大腸にかけて広く薬が分布する徐放製剤で、クローン病だけでなく潰瘍性大腸炎にも適応があります。
クローン病の腸管外病変
腹部症状を欠き、腸管外病変
- 発熱
- 痔(痔瘻)、肛門周囲膿瘍など肛門病変の合併が多く、肛門病変から発見されることも多い。
- 口腔内アフタ(ベーチェット病と鑑別)
- 強直性脊椎炎
- 皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症など)
- 虹彩炎(ベーチェット病と鑑別)
が主体のクローン病は診断は難しい。
クローン病は甲状腺癌のリスクファクター(オッズ比= 2.3 [1.06-5.1]、P = 0.034)との報告があります[Inflamm Bowel Dis. 2016 Dec;22(12):2902-2906.]
抗TNFα受容体拮抗薬[インフリキシマブ(レミケード®)]が亜急性甲状腺炎を誘発
クローン病に対して、関節リウマチ治療の生物学的製剤である抗TNFα受容体拮抗薬[インフリキシマブ(レミケード®)]投与開始後に発症した亜急性甲状腺炎が報告されています。2 回目のインフリキシマブ(レミケード®)投与後4日に、頚部の腫脹、圧痛、37℃台の発熱がおこり、亜急性甲状腺炎だったそうです。もちろんインフリキシマブ(レミケード®)は中止し、副腎皮質ステロイド剤(プレドニゾロン)を投与し(当然クローン病自体も改善したでしょうね)、亜急性甲状腺炎は寛解したそうです。
さらに今度は、アダリムマブ(ヒュミラ®)注射に変更し1カ月後、亜急性甲状腺炎が再燃、再度プレドニゾロン投与後寛解したそうです。(第56回日本甲状腺学会 P2-077 クローン病に対する抗TNFα 抗体療法開始後に発症した亜急性甲状腺炎の一例)[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2015;2015:140117.]
他にも関節リウマチの話ですが、抗TNF製剤エタネルセプト(エンブレル®)使用後に亜急性甲状腺炎を発症した報告もあります。
理由は全く不明です。持論ですが、TNFα 阻害は正常免疫もブロックするためウイルス感染が起こりやすくなり、かつ感染後にサイトカインバランスが崩れて亜急性甲状腺炎の免疫機序が誘発されると考えています。
レストレスレッグス症候群(RLS)
クローン病(CD)患者の17.6%、潰瘍性大腸炎患者の21.7%にレストレスレッグス症候群(RLS)を認めたとの報告があります(Dig Dis Sci. 2017 Mar;62(3):761-767.)。(甲状腺・糖尿病でむずむず脚症候群 )
原因は不明ですが、筆者は、亜鉛など微量元素の吸収障害、炎症性サイトカインの影響を考えます。
腸管ベーチェット病でも抗TNFα 抗体が使用されます。腸管ベーチェット病ではI-131(放射性ヨード)の甲状腺集積増加、尿中排泄率減少からヨード(ヨウ素)欠乏の可能性が報告されています。
経腸栄養とは
経腸栄養食でヨウ素(ヨード)欠乏性甲状腺機能低下症
日本は国際的にも稀なヨウ素(ヨード)過剰摂取国です。日本で普通に食事をしてヨウ素(ヨード)欠乏になる事は100%ありません。
しかし、経腸栄養剤中のヨウ素(ヨード)含有量は意外にも少ない、
しかも、ラコール®(大塚製薬)、エンシュア・リキッド®(アボットジャパン)、ツインライン®(大塚製薬)には全くヨウ素(ヨード)含まれていないため、経腸栄養剤のみで生活している人はヨウ素(ヨード)欠乏により甲状腺機能低下症起こす危険性があります。
報告では、経腸栄養剤のみにして8~11ヶ月後に、甲状腺腫大、甲状腺機能低下症が見つかっています。
対処法は
- ヨード剤補充
- 甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン、チラーヂン)補充
- 経腸栄養剤を育児用粉乳に変更する
などです。予防として、ヨード摂取推奨量に相当するヨード補充。(脳と発達 23:208-210,1991.)(成長科学協会研究年報 26:211-217,2003.)(第41回日本小児内分泌学会学術集会プログラム・抄録集 p.162, 2007.)
胃カメラ・大腸カメラは、かわさき消化器内科クリニック(大阪市平野区瓜破)にお願いしています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)は
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