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巨赤芽球性貧血、悪性貧血と甲状腺・副腎・糖尿病[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

巨赤球性貧血

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。貧血自体の治療を行っておりません。

Summary

甲状腺機能低下症では葉酸またはビタミンB12の吸収障害・利用障害に基づく大球性貧血(巨赤芽球性貧血、葉酸欠乏性貧血)。甲状腺機能亢進症/バセドウ病では葉酸の需要増大による葉酸欠乏性貧血。悪性貧血は自己免疫による慢性萎縮性胃炎で抗内因子抗体/抗壁細胞抗体陽性。APS(多腺性自己免疫症候群)3B型は悪性貧血に甲状腺機能亢進症/バセドウ病橋本病(慢性甲状腺炎)が合併。副腎皮質機能低下症(アジソン病)1型糖尿病にも合併。胃がん・ガストリン産生細胞の過形成から胃神経内分泌腫瘍(胃カルチノイド)が発生。

Keywords

甲状腺,甲状腺機能低下症,葉酸,ビタミンB12,巨赤芽球性貧血,葉酸欠乏性貧血,悪性貧血,バセドウ病,橋本病,甲状腺機能亢進症

巨赤芽球性貧血、悪性貧血と甲状腺・副腎・糖尿病

巨赤芽球性貧血とは

巨赤芽球性貧血の原因は

  1. ビタミンB12欠乏[甲状腺機能亢進症/バセドウ病悪性貧血胃全摘出術後広節裂頭条虫(サナダ虫)長期アルコール多飲(アルコール依存症)]
  2. 葉酸(ようさん)欠乏
  3. 葉酸またはビタミンB12の吸収障害・利用障害(甲状腺機能低下症

があります。

コバルトを含むビタミンB12(コバラミン)は、回腸末端で吸収されます。ただし、それには胃壁細胞で作られる内因子(intrinsic factor、糖蛋白質の一種)が必要で、内因子がなければビタミンB12は吸収されません。

巨赤芽球性貧血

悪性貧血

巨赤芽球性貧血の中でも、悪性貧血は自己免疫による慢性萎縮性胃炎(自己免疫性胃炎、A型胃炎)が原因です。抗内因子抗体(60%)/抗壁細胞抗体(90%)が胃壁細胞を障害し、

  1. 胃酸分泌障害から萎縮性胃炎を起こします(下記)
  2. 回腸末端でのビタミンB12の吸収に必要な内因子の合成・分泌障害がおこります

抗壁細胞抗体は感度90%だが、特異度は50%程度。内因子抗体は感度約50%だが、特異度は90%。(World J Gastroenterol. 2009 Nov 7;15(41):5121-8.) 

悪性貧血は、他の自己免疫疾患[甲状腺機能亢進症/バセドウ病橋本病(慢性甲状腺炎)副腎皮質機能低下症(アジソン病)1型糖尿病]に合併します。悪性貧血に合併する甲状腺疾患の男女比は、不思議なことに1:1です。[J Endocrinol Invest. 1995 Feb;18(2):91-7.]

甲状腺機能亢進症/バセドウ病橋本病(慢性甲状腺炎)合併するとAPS(多腺性自己免疫症候群)3B型

悪性貧血の治療は、経口のビタミンB12投与が無効なので、ビタミンB12筋肉注射です。胃酸分泌低下により鉄吸収も低下しているので、鉄剤の経口投与も併用し、効果不十分なら鉄剤の静脈注射。

悪性貧血は治療せず放置すると2-3年で死亡。

A型胃炎(自己免疫性胃炎)

悪性貧血の原因となる自己免疫性胃炎(A型胃炎)では、

  1. 胃体部・胃底部を中心とした胃底腺領域に著明な粘膜萎縮が起こりますが、前庭部はあまり変化なし[H. pylori(ピロリ菌)感染によるB型胃炎は幽門前庭部を中心とする萎縮性変化]。
     
  2. 腸上皮化生と一部で胃癌が発生[胃癌のリスクファクター(危険因子)]。
    胃癌のリスクファクター(危険因子)であり、胃がん(1~3%)・胃神経内分泌腫瘍(胃カルチノイド)発生の危険があります。胃神経内分泌腫瘍(胃カルチノイド)は、ガストリン産生細胞の過形成による高ガストリン血症が原因と考えられています。
      
  3. 胃酸分泌障害から
    甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の吸収障害
    ②鉄吸収障害で鉄欠乏性貧血
    ③幽門前庭部のG細胞からガストリン分泌が増加→高ガストリン血症により腸クロム親和性細胞様(enterochromaffin-like:ECL)細胞が刺激される→過形成をおこし神経内分泌腫瘍が発生[消化器内分泌細胞性腫瘍(消化器神経内分泌腫瘍)]。
       
  4. ビタミンB12の腸管吸収に必要な内因子の分泌障害がおこります(巨赤芽球性貧血、血小板減少→悪性貧血)。

巨赤芽球性貧血の症状

ビタミンB12は特にDNA 合成に関与しており、欠乏すると、

  1. 細胞回転が速い消化管上皮細胞に影響が出やすい。胸やけ、食欲不振、下痢、便秘など。
     
  2. 舌は乳頭萎縮と発赤:Hunter舌炎(ハンター舌炎)
     
  3. 末梢神経障害(治療時期が遅いと回復しない、葉酸単独補充で悪化)
      
  4. 脊髄の亜急性連合性脊髄変性症:脊髄の後索と側索の退行性変化(下記)
  5. 脳神経障害/認知症、精神障害(うつ);若年性アルツハイマー病と間違われる。ビタミンB1欠乏症(ウェルニッケ・コルサコフ症候群)ニコチン酸(ナイアシン、ビタミンB3)欠乏症[ペラグラ]でも同様。
  6. 自律神経障害
      
  7. 若年者で白髪;年齢に不相応な白髪
      
  8. 不妊
      
  9. 老年者で骨粗鬆症・誤嚥性肺炎

ビタミンB12を不活性化する笑気ガスを使用した麻酔で一気に症状が進行します[J Addict Med. 2017 May/Jun;11(3):235-236.]。プロトンポンプ阻害剤、メトフォルミン投与でも同じ(StatPearls [Internet].)。

亜鉛欠乏症の症状に非常によく似ています。(甲状腺と似ている合併している亜鉛欠乏症、甲状腺でむずむず脚症候群

亜急性連合性脊髄変性症(subacute combined degeneration of the spinal cord)

亜急性連合性脊髄変性症 MRI画像
亜急性連合性脊髄変性症 MRI画像

ビタミンB12は神経細胞を囲むミエリン合成と維持に重要です。

ビタミンB12欠乏により、脊髄の後索と側索が同時に変性します[亜急性連合性脊髄変性症(subacute combined degeneration of the spinal cord)]。

亜急性連合性脊髄変性症 頸椎MRI T2強調像

亜急性連合性脊髄変性症 頸椎MRI T2強調像

MRIにて脊髄縦方向(C2-5)に伸びる高信号、横断面で脊髄後索に一致する高信号。(2009年放射線科診断専門医試験問題11番)

亜急性連合性脊髄変性症は、

  1. 両足から下腿のしびれが特徴。悪化すると上肢に及ぶ。
  2. 下肢の位置覚および深部感覚が障害され
    ①歩行時のふらつき
    ②特に階段を降りるときに足元を確認しないとよろける(視覚代償)
    ③洗顔時にふらついて洗面台に頭をぶつける、暗い所でふらつく(視覚代償が無い場合の後索障害)
    ④片足立ちがしにくい(側索障害)

診察所見は

  1. 立位で体幹の動揺があり閉眼時に増強(Romberg 徴候陽性)
  2. 膝蓋腱反射の亢進、アキレス腱反射の低下

巨赤芽球性貧血の診断

巨赤芽球性貧血の診断は、

  1. 大球性貧血を中心とする汎血球減少症[無効造血を反映して楕円赤血球・変形赤血球・赤血球大小不同・ハウエル-ジョリー小体(核の残留断片)]
  2. 無効造血を反映してLDH高値 、間接ビリルビン高値、網状赤血球正常値(0.2~2.0%)
  3. 末梢血好中球過分葉
  4. 血小板減少症・変形血小板
  5. 血清ビタミンB12低値
  6. 骨髄では未熟巨赤芽球過形(核DNA合成障害により核は未熟と細胞質は正常)・顆粒球系も後骨髄球・桿状核球の巨大化、好中球/分葉核球過分葉
  7. 血中ガストリン高値(しかし、胃酸は出ない)
  8. 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で、A型胃炎(自己免疫性胃炎)の逆萎縮の像
    ①胃体部胃底腺の萎縮性変化を認めます。
    ②前庭部には萎縮性変化なし
    ヘリコバクターピロリ胃炎(B型胃炎)では萎縮は前庭部から胃体上部に広がる
巨赤芽球性貧血 末梢血液像

巨赤芽球性貧血の末梢血液像は未熟な赤血球と好中球過分葉

骨髄異形成症候群(MDS)・赤白血病による巨赤芽球性貧血との鑑別

骨髄異形成症候群(MDS)・赤白血病による巨赤芽球性貧血は好中球ALP高値・血清ビタミンB12は正常~高値、LDH高値になるのは意外と稀で、白血球分画にも異常ないので鑑別できます。

甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症に合併する巨赤芽球性貧血の診断

甲状腺機能亢進症/バセドウ病甲状腺機能低下症に合併する巨赤芽球性貧血は、様々な貧血の混在により、大球性・正球性・小球性貧血いずれのパターンにもなり、見逃されることがあります。

甲状腺機能低下症に合併する貧血 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併する貧血

胃全摘出術後ビタミンB12欠乏性貧血

胃全摘出術後ビタミンB12欠乏性貧血(大球性貧血)は、胃切除後5年以上でおこり、鉄欠乏性貧血(小球性貧血)を伴います。鉄の吸収は胃酸による食物の可溶化と還元作用が関与するため、胃全摘出術後に鉄の吸収が悪くなります。

ビタミンB12欠乏性貧血と鉄欠乏性貧血のどちらが優位かにより、大球性・正球性・小球性貧血いずれのパターンもあります。

巨赤芽球性貧血の治療

巨赤芽球性貧血の治療は、

  1. 内因子に問題が無く、ビタミンB12の摂取不足だけなら経口ビタミンB12製剤投与
  2. 内因子の問題なら、経口のビタミンB12投与は無効なので、ビタミンB12筋肉注射を行います。

葉酸欠乏性貧血

葉酸はビタミンBの仲間で、ビタミンB12と同じく造血に不可欠です。葉酸欠乏は、巨赤芽球性貧血という大球性貧血(大きな赤血球だが数は少ない)をおこします。

ふつうの食事で、葉酸が不足することはありませんが、

  1. 吸収障害:甲状腺機能低下症、胃腸手術後、激しい慢性下痢
  2. 摂取不足:長期アルコール多飲(アルコール依存症)
  3. 利用障害:甲状腺機能低下症、肝臓病、長期アルコール多飲(アルコール依存症)アルコールの骨髄毒性と葉酸の腸肝循環障害
  4. 薬剤性:結腸がん, 直腸がんで5-FU投与時、関節リウマチMTX(メトトレキサート:リウマトレックス®、メトレート®)投与時
  5. 需要増大:甲状腺機能亢進症悪性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫)、溶血性貧血、関節リウマチ

で不足します。[Am J Med Sci. 2008 Jul;336(1):50-2.][Dtsch Med Wochenschr. 1978 Jun 2;103(22):936-9.]

葉酸欠乏ではアミノ酸の一種ホモシステインの血中濃度が上昇し、血液凝固因子や血管内皮細胞が影響を受け、動脈硬化のリスクが高くなります。 

葉酸が欠乏すると新陳代謝が活発な口腔内や皮膚、粘膜などに炎症や肌荒れが現れます。 

その他、大球性貧血をきたす疾患

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)は

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,東大阪市,天王寺区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

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