アルコールと甲状腺・ホルモンの異常[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。アルコール依存症、慢性アルコール中毒、急性アルコール中毒の診療を行っておりません。
Summary
適量のアルコール摂取は、甲状腺の腫大と結節形成を抑え、すべてのタイプの甲状腺癌の発症リスクを減らす。過度のアルコール摂取(アルコール依存症、慢性アルコール中毒、急性アルコール中毒)は①視床下部-下垂体-甲状腺(HPT)軸を障害し中枢性甲状腺機能低下症;2型脱ヨード酵素の活性低下、断酒によって回復可能②甲状腺への直接毒性作用で甲状腺の線維化が促進③低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス) 。視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸を障害し中枢性性低ゴナドトロピン性腺機能低下症(不妊・生理不順・流産・早期閉経)。飲酒量低減薬はナルメフェン(セリンクロ)。
Keywords
アルコール,適量,甲状腺,甲状腺癌,アルコール依存症,慢性アルコール中毒,急性アルコール中毒,甲状腺機能低下症,ナルメフェン,セリンクロ
- 甲状腺癌の発症リスクを減らします。大規模なNIH-AARP Diet and Health Studyをはじめ、複数の論文で、特に男性の適度なアルコール摂取は、すべてのタイプの甲状腺癌の発症リスクを有意に減少させています。甲状腺乳頭癌の相対リスク= 0.58、甲状腺濾胞癌の相対的リスク= 0.86に低下します。(Br J Cancer. 2009 Nov 3; 101(9):1630-4.)
※NIH=National Institutes of Health (アメリカ国立衛生研究所)米連邦厚生省DHHS管轄の世界有数の医学・生物学の研究機関。専門別の27の研究所やセンターなどから成り、所在地はメリーランド州ベセスダ。
- 甲状腺の腫大と結節形成を抑えます(Clin Endocrinol (Oxf). 2001 Jul; 55(1):41-6.)
- 2型糖尿病の発症リスクを下げます(Diabetes Care. 2005 Mar; 28(3):719-25.)。膵臓β細胞のインスリン分泌に影響を与えることなく、末梢のインスリン感受性を改善(Diabetes Care. 2004 Jun; 27(6):1369-74.)
- 白色脂肪組織で産生され、抗糖尿病・抗炎症・抗動脈硬化作用を有するアディポネクチン(APN)が増加(Diabetes Care. 2004 Jan; 27(1):184-9.)
アルコール過剰摂取に伴う精神および行動の障害は、アルコール関連障害と呼ばれ、
- アルコール依存症、慢性アルコール中毒
- 急性アルコール中毒
が健康を害するのもお馴染みです。過量のアルコールは、体内のほぼすべての臓器や組織に浸透し、組織損傷および臓器不全をもたらします。過量のアルコールはホルモン系(内分泌系)に異常をもたらします。
アルコール依存症、慢性アルコール中毒では
- 視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸→急性アルコール中毒では活性化、慢性アルコール中毒では活性低下[中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症](Eur J Neurosci. 2008 Oct; 28(8):1641-53.)。
- 視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸→不妊・生理不順-中枢性性低ゴナドトロピン性腺機能低下症(男性不妊も)、妊娠中の流産リスクの増加、早期閉経に。(J Pharmacol Exp Ther. 1988 May; 245(2):407-12.)(Fertil Steril. 2005 Oct; 84(4):919-24.)
- ①視床下部-下垂体-甲状腺(HPT)軸→中枢性甲状腺機能低下症(総論)(Aust N Z J Psychiatry. 1992 Dec; 26(4):577-85.)。2型脱ヨード酵素の活性低下の可能性(Neurosci Lett. 1997 May 9; 227(1):25-8.)。断酒によって回復可能です(Alcohol Alcohol. 1995 Sep; 30(5):661-7.)。
②甲状腺への直接毒性作用があり、甲状腺の線維化が促進(Metabolism. 1988 Mar; 37(3):229-33.)
③低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)
- 視床下部-成長ホルモン/インスリン様成長因子-1(GH/IGF-1)軸→成人成長ホルモン分泌不全症(Alcohol Alcohol Suppl . 1987;1:557-9.)
- 視床下部-下垂体後葉(HPP)軸→高プロラクチン血症(Psychoneuroendocrinology. 1991; 16(5):441-6.)(Arukoru Kenkyuto Yakubutsu Ison. 1991 Feb; 26(1):49-59.)
- 胃・腸・膵臓など消化器ホルモン系;膵性糖尿病;膵β細胞のインスリン分泌が低下(Mt Sinai J Med. 1993 Sep; 60(4):317-20.)
- 脂肪組織から分泌されるアディポカイン
①レプチンは増加、減少、不変と相反する報告がある
②白色脂肪組織で産生され、抗糖尿病・抗炎症・抗動脈硬化作用を有するアディポネクチン(APN)が減少。アディポネクチンの減少が、アルコール性肝臓障害を促進させる(J Clin Invest. 2003 Jul; 112(1):91-100.)
すべてが障害され、ホルモン欠乏症状、免疫機能低下、精神神経症状、行動障害など様々な異常を引き起こします。
また、
- アルコール誘発性の炎症反応も起こり、中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症によるグルココルチコイドのため増悪します。
- アルコール性肝炎
- 急性膵炎・慢性膵炎だけでなく、タバコや肥満などとの組み合わせで膵臓癌発症の危険因子(Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2012 Sep; 15(5):457-67.)
(以下の図、Alcohol Res. 2017;38(2):255-276.)
アルコール自体は甲状腺機能亢進症/バセドウ病の活動性、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の効き具合に直接影響しません。
しかし、治療開始して間もなくは、様々な肝障害の可能性があるため、甲状腺ホルモンが正常化するまで、アルコールの摂取は制限した方がよいでしょう(普段通りの常識的な量は問題なし)。(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と肝障害)
また、高齢者の飲酒と心房細動(Af)発症リスクとは関係があるとされます。アルコールによる左心房への直接毒性と、肥満、閉塞性睡眠時無呼吸、および高血圧・左室機能障害(アルコール心筋症)の間接的な影響が考えられます[J Am Coll Cardiol. 2016 Dec 13;68(23):2567-2576.]
一方、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の最も有名な不整脈は心房細動(Af)です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)合併率は5~15%と、一般人口の有病率0.4~1% に比べ約10倍高く、しかも年齢とともに上昇し70歳以上の約10%になります。また男性に多いです。[Circ J. 2012;76(11):2546-51.][甲状腺と心房細動(Af)]
よって、特に高齢バセドウ病男性の飲酒は注意すべきでしょう。
[図;Circ J. 2012;76(11):2546-51.より改変]
アルコール依存症の治療は困難です。その理由は、
- 飲酒への渇望が消えない
- アルコール耐性が生じ飲酒量が増えていく
- 離脱症状がある[アルコール離脱症(振戦せん妄)]
などで、飲酒による健康障害が生じても飲酒をやめられない人が多いのです。
飲酒量低減薬 ナルメフェン(セリンクロ錠®)は、アルコール依存症治療薬として保険適応があります。しかし、あくまで低減薬なので、大量飲酒する方が断酒できるまで改善する事は極めてまれです。
そもそもアルコール依存症は、原因となる社会環境、家庭環境、本人の性格・精神面の問題なので、飲酒量低減薬で治るものではありません。
しかも、 ナルメフェンは脳内のオピオイド受容体に作用し、飲酒しなくても、ある程度飲酒しているのと同じくらい神経が安定する薬なので、服薬を止めれば再びアルコールに依存するのは眼に見えています。
ナルメフェン(セリンクロ錠®)のラットにおける
- 毒性試験で甲状腺の絶対及び相対重量の増加
- がん原性試験で
①甲状腺傍濾胞細胞腺腫(意味不明な名称だが?)の増加
②甲状腺傍濾胞細胞癌(なんか分からんがヤバそうだな?)の発生③甲状腺濾胞細胞腺腫の発生④甲状腺濾胞細胞癌の発生(これはヤバいな)⑤副甲状腺腺腫
がみられました。
断酒後1~3 日で
- 手指と上肢に粗大な振戦(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の姿勢時振戦のよう)
アルコール性肝硬変を合併している場合が多く、肝性脳症の羽ばたき振戦(flapping tremor)との鑑別要 - 発汗、頻脈、嘔吐(自律神経症状)(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の様)
その後に
- 落ち着きなく不穏状態[甲状腺機能亢進症/バセドウ病の精神異常(バセドウ精神病)の様]
アルコール性肝硬変を合併している場合が多く、肝性脳症との鑑別が必要
ウェルニッケ・コルサコフ症候群を合併している可能性があり、ビタミンB 群投与が必要
- 夜間不眠(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の睡眠相後退症候群の様)
- 幻覚;最も早期に始まる。幻視が多く、「動物が壁を這っている」など小動物幻視。幻聴、幻嗅は少ない。)(甲状腺クリーゼの中枢神経症状や、レビー小体型認知症の様)
アルコール性肝硬変を合併している場合が多く、肝性脳症との鑑別が必要
ウェルニッケ・コルサコフ症候群を合併している可能性があり、ビタミンB 群投与が必要
- 夜間せん妄、徘徊(はいかい)(アルツハイマー型認知症の様)
- けいれん発作
ウェルニッケ・コルサコフ症候群を合併している可能性があり、ビタミンB 群投与が必要。
など生命予後を左右する重篤(重症)な合併症に至ります。
アルコール離脱症(振戦せん妄)は、治療が行われない場合の死亡率が20% とされ、特にその予防が重要。予防薬はベンゾジアゼピン系薬剤のジアゼパムなど。ベンゾジアゼピン系精神安定剤の脳内作用部位はアルコールのそれと似ているため。発症すれば抗精神病薬。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防対策で「外飲み」は減少しましたが、
- リモートワーク(テレワーク)の普及で在宅時間の延長
- 経済不安・他人との接触が減る事による孤独感の高まり
から「宅飲み」での飲酒量が増えています。アルコール依存症につながる可能性もあります。適度なアルコール摂取は、免疫系にも甲状腺・ホルモン系にも良い影響がありますが、過度のアルコール摂取は、免疫系にも甲状腺・ホルモン系にも悪影響を及ぼします。飲酒量は程ほどにしましょう(1日の適度な飲酒量はアルコール性肝炎をご覧ください)。
そして、酔うと手洗いなどの感染対策が不十分になります。
アルコールアレルギーの症状自体は、本当のアレルギー反応とほぼ同じで
- 皮膚のかゆみ・蕁麻疹
- 鼻づまり
- 喉(のど)の閉塞感(詰まった感じ);甲状腺の病気と勘違い[喉(のど)の違和感、喉(のど)に引っかかる感じ[嚥下(えんげ)時の違和感]、嚥下障害。甲状腺それとも?]
- 息苦しい(呼吸困難)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区にも近い。