APS(多腺性自己免疫症候群)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
APS(多腺性自己免疫症候群)は複数の自己免疫病を併発する病態。APS2型は橋本病またはバセドウ病に自己免疫性の副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併(シュミット症候群)。さらに1型糖尿病が加わるとカーペンター症候群に。APS1型はアジソン病、副甲状腺機能低下症と慢性粘膜皮膚カンジダ症(CMCC)の合併で自己免疫調節因子の遺伝子(AIRE)変異。APS3A型は1型糖尿病と甲状腺、APS3B型は甲状腺と自己免疫性胃炎(悪性貧血)、APS3C型は、甲状腺に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)または特発性/免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併。
Keywords
APS,多腺性自己免疫症候群,橋本病,バセドウ病,副腎,アジソン病,1型糖尿病,副甲状腺機能低下症,慢性粘膜皮膚カンジダ症,甲状腺
甲状腺と副腎(シュミット症候群)
多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndrome: APS)は、複数の自己免疫病を併発する病態です。APS2型では橋本病(またはバセドウ病)に自己免疫性の副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併します(シュミット症候群)。
副腎皮質ホルモン欠乏から全身倦怠感・筋力低下・体重減少・脱毛、低血圧・低血糖症・徐脈・低ナトリウム血症・高CO2血症をおこします(甲状腺ホルモン異常とほぼ重複)。ナトリウムが130mEq/l以下になると軽度の虚脱感や疲労感が出現、120mEq/l以下では精神錯乱、頭痛、悪心、食思不振起こし、110mEq/l以下で痙攣、昏睡状態になります。
- 甲状腺機能低下症に副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併すると、全身倦怠感・脱毛、低血圧・低血糖症・徐脈・低ナトリウム血症・高CO2血症がさらに進みます。治療は必ず副腎皮質ホルモンを補充した後に、甲状腺ホルモンを補充しなければなりません。先に甲状腺ホルモンを補充すると、副腎皮質ホルモンの代謝分解が進み、ますます副腎皮質機能低下症が悪化し急性副腎不全/副腎クリーゼに至ります。[Curr Drug Saf. 2021;16(1):101-106.][Ned Tijdschr Geneeskd. 1998 Aug 8;142(32):1826-9.]
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併すると、全身倦怠感・筋力低下・体重減少・脱毛・高カルシウム血症がさらに進みます。過剰な甲状腺ホルモンが副腎皮質ホルモンを代謝分解し、副腎皮質機能低下症が悪化し急性副腎不全/副腎クリーゼに至ります。その際、補充するコートリル(副腎皮質ホルモン剤)は、甲状腺ホルモン値(FT3,FT4)の高さにもよりますが、通常量より増量せねばなりません(20mg/日以上)。
- 副腎皮質ホルモンはステロイドホルモンであり、本来、橋本病・バセドウ病・無痛性甲状腺炎などの自己免疫を抑えています。それが不足すると、橋本病・バセドウ病・無痛性甲状腺炎などが顕在化します。
甲状腺と副腎と1型糖尿病(カーペンター症候群)
APS2型ではバセドウ病/橋本病、副腎皮質機能低下症(アジソン病)に1型糖尿病が合併しカーペンター症候群と言います。
多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndrome: APS)1型は、バセドウ病/橋本病の自己免疫性甲状腺炎と同じく、自己免疫による副甲状腺・副腎の破壊
による、
- 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
- 副甲状腺機能低下症
- 慢性粘膜皮膚カンジダ症(CMCC)
を特徴とし、自己免疫調節因子のautoimmune regulator遺伝子(AIRE)の変異が原因(N Engl J Med. 1990 Jun 28;322(26):1836-41.)。
カルシウム感知受容体(CASR)に対する自己免疫の報告もあります(J Clin Endocrinol Metab. 2017 Jan 1;102(1):167-175.)。
慢性粘膜皮膚カンジダ症
慢性粘膜皮膚カンジダ症(chronic mucocutaneous candidasis:CMCC)は、小児期から繰り返す粘膜・皮膚のカンジダ感染症です。成人女性の再発性のカンジダ食道炎・口内炎で診断される例もあります。(内因性真菌性眼内炎(カンジダ)・慢性粘膜皮膚カンジダ症)
多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndrome: APS)3型では、膵β細胞(インスリンを作る細胞)を壊す自己抗体の抗GAD抗体/ICA(抗ランゲルハンス島抗体)[抗IA-2抗体]を持ち、インスリンが出なくなる糖尿病(1型糖尿病)とバセドウ病(または橋本病)が併発します。
バセドウ病の場合は糖尿病性ケトアシドーシスをおこす可能性があります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と糖尿病性ケトアシドーシス)。
ただし抗GAD抗体/ICA(抗ランゲルハンス島抗体)[抗IA-2抗体]を持っていても1型糖尿病発症するとは限りません(膵島関連自己抗体)。
1型糖尿病は膵β細胞の破壊によりインスリン分泌が低下する糖尿病で、自己免疫が関与するとされます。発症様式から、
- 急性発症1型糖尿病(ADM)
- 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)
- 劇症1型糖尿病
に分類されます。
APS3型では緩徐進行1 型糖尿病(SPIDDM)が多いです。
1型糖尿病側から見た自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)合併率
1型糖尿病側から見た自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)合併率は、
- 1型糖尿病全体の自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)合併率は2-8.8%で2型糖尿病の0.8% と比較し有意に高く
- 緩徐進行1 型糖尿病(SPIDDM)の自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)合併率は18.6%
- 急性発症1 型糖尿病(ADM)の自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)合併率は3.9%
とされます。(糖尿病52(11):887-893,2009)
1型糖尿病と自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)のどちらが先行発症するか?
報告では、1型糖尿病14名中13名、自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病または橋本病)が先行発症するとされます(糖尿病52(11):887-893,2009)。バセドウ病が先行する場合、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)が多いです。
実際には、
- どちらか一方が見つかり、精査すると両方発見される(同時期の発症と言うより、同時期に見つかる)パターンや
- 特に橋本病で潜在性甲状腺機能低下症や甲状腺機能正常の場合、症状乏しく、いつ発症したか定かではないため、1型糖尿病の後に見つかる事が多々あります。(第60回 日本甲状腺学会 O8-3 多腺性自己免疫症候群(APS)3型の6例の発症様式と考察)
APS3型での1型糖尿病と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の特徴
APS3型での1型糖尿病と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の特徴についての報告があります。
兵庫県立加古川医療センターによると、1型糖尿病85例中、女性は46%、甲状腺自己抗体陽性例が20%、バセドウ病合併(APS3型)は7%(全例女性)で、
- 抗GAD抗体価は、1型糖尿病全体では平均287U/mlに対し、バセドウ病合併群(APS3型)では平均702U/ml(2.4~2000)と高い傾向
- APS3型のバセドウ病の特徴は6例中1例を除きTRAbは 10U/ml以下の低力価、甲状腺腫大は軽度で、治療抵抗性の症例はなく、軽症が多い
そうです。(第60回 日本甲状腺学会 P1-3-7 当院における1型糖尿病に合併したバセドウ病の臨床的特徴)
APS3A型では体重減少著明
1型糖尿病合併バセドウ病では、糖尿病性ケトアシドーシスまで行かなくても、その前段階の糖尿病性ケトーシス起こし易いです。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の体重減少に、同じく体重減少(異化亢進)生じる糖尿病性ケトーシスが加わると、急速な体重減少がおこります。
また、うまく治療され甲状腺機能亢進症も血糖コントロールも改善すれば、急激に体重増加します。
(第56回 日本甲状腺学会 P2-009 1 型糖尿病合併バセドウ病にインスリン、MMI 投与にて治療開始後、7ヶ月で27.6 kg の体重増加を来たした1 例)
APS3A型では血糖上昇たいした事ないのに糖尿病ケトアシドーシスおこす
1型糖尿病合併バセドウ病では、血糖上昇たいした事ないのに糖尿病性ケトアシドーシスおこす可能性があります。これは、1型糖尿病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病ともに異化亢進おこるため、その相乗効果で糖尿病性ケトアシドーシスになると考えられます。報告では症例①血糖値 243 mg/dl、HbA1c 12.6%、症例②血糖値 281mg/dl、 HbA1c 6.2% でした。〔糖尿病54(12):916~921,2011〕
APS3A型ではHbA1C上昇たいした事ないのに糖尿病ケトアシドーシスおこす
1型糖尿病合併甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、相乗効果で血糖上昇が急激に起きるため、HbA1Cが大して高くないのに糖尿病性ケトアシドーシスに至り、あたかも劇症1型糖尿病の様になります。しかし、インスリン分泌能が完全に廃絶しておらず、抗GAD抗体など膵島関連自己抗体が陽性になるため、劇症1型糖尿病でない事が分かります。(第60回 日本甲状腺学会 P1-1-8 バセドウ病を伴う自己免疫性1型糖尿病が劇症1型糖尿病様に発 症し、急性壊死性食道炎を合併した1例)
APS(多腺性自己免疫症候群)3B型は、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)に自己免疫性胃炎(A型胃炎)を合併する複合性自己免疫病です[Nihon Naika Gakkai Zasshi. 2016 Jan 10;105(1):81-5.]。
胃酸を分泌する胃壁細胞に対する抗内因子抗体(60%)/抗壁細胞抗体(90%)により、
- 胃体部を中心とした胃底腺領域に萎縮性変化が起こりますが、前庭部は変化なし(H. pylori感染によるB型胃炎は幽門前庭部を中心とする萎縮性変化)。腸上皮化生と一部で胃癌が発生。
- 胃酸分泌障害から①甲状腺ホルモン剤;チラーヂンS錠の吸収障害、②鉄吸収障害で鉄欠乏性貧血、③幽門前庭部のG細胞からガストリン分泌が増加、高ガストリン血症により腸クロム親和性細胞様(enterochromaffin-like:ECL)細胞が刺激され、過形成し神経内分泌腫瘍が発生(消化器内分泌細胞性腫瘍(消化器神経内分泌腫瘍))。
- ビタミンB12の腸管吸収に必要な内因子の分泌障害がおこります(巨赤芽球性貧血、血小板減少)。詳しくは、悪性貧血 を御覧ください
橋本脳症に自己免疫性胃炎(A型胃炎)を合併したAPS(多腺性自己免疫症候群)3B型の報告があります[Case Rep Psychiatry. 2016;2016:4168050.]。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)では、赤血球膜の抗原に抗赤血球自己抗体が結合し脾臓で破壊/溶血をおこします。自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、特発性/免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)あるいは両方(Evans 症候群)、白斑などの自己免疫疾患が、自己免疫性甲状腺疾患 甲状腺機能亢進症/バセドウ病、橋本病に合併するとAPS(多腺性自己免疫症候群)3C型。
詳しくは、 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と甲状腺 特発性/免疫性血小板減少性紫斑症(ITP) 白斑を御覧下さい。
こんな事もあるのですね。APS(多腺性自己免疫症候群)3BC型(3B+C型)=甲状腺に自己免疫性胃炎(悪性貧血)と自己免疫性溶血性貧血(AIHA) or 特発性/免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)の両方を合併するとは・・。
埼玉石心会病院の報告では、甲状腺機能亢進症/バセドウ病による甲状腺クリーゼに、悪性貧血と溶血性貧血が同時に合併 したそうです。血小板も6.4万/μLに低下、これは悪性貧血によるか、特発性/免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)によるか、甲状腺機能亢進症による血小板消費亢進か、はっきりしませんが。(第60回 日本甲状腺学会 P1-5-1 甲状腺クリーゼとして入院、悪性貧血と溶血性貧血が同時に合併 したバセドウ病の1例)
悪性貧血と自己免疫性溶血性貧血(AIHA)、いずれも大球性貧血で、
- 楕円赤血球・変形赤血球・赤血球大小不同・ハウエル-ジョリー小体(核の残留断片)・好中球過分葉(悪性貧血)
- 溶血所見・無効造血所見;LDH↑、総・間接ビリルビン↑
が見られます。
多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndrome: APS)3D型は、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、自己免疫性下垂体炎に膠原病または臓器非特異的な自己免疫疾患を合併する複合性自己免疫病です。
合併する膠原病、自己免疫疾患は
- シェーグレン症候群(ドライアイ,口内乾燥)
- 全身性エリテマトーデス(SLE) 副腎皮質機能低下症(アジソン病)に合併(Chin Med J (Engl). 2020 Apr 20;133(8):994-995.)
- 関節リウマチ
- 抗リン脂質抗体症候群 副腎皮質機能低下症(アジソン病)に合併(Chin Med J (Engl). 2020 Apr 20;133(8):994-995.)
- 特発性/免疫性血小板減少性紫斑症(ITP) 自己免疫性下垂体炎に合併(Expert Rev Endocrinol Metab. 2014 Jul;9(4):313-317.)
などです。
APS4型はAPS1型同様に臓器非特異的な免疫異常群です。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。