甲状腺と口腔内潰瘍,ベーチェット病,口腔乾燥症,口腔扁平苔癬[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 超音波 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(内骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。甲状腺のみの診療です。口内/舌疾患の診療は行っておりません。
- 口内炎/口腔内潰瘍
- ベーチェット病
- 口腔乾燥症
- 口腔扁平苔癬と甲状腺
- 舌 (舌と膠原病、舌甲状腺結節(異所性甲状腺)、舌炎と味覚障害、甲状腺未分化癌の舌転移、舌癌と甲状腺癌の重複癌、舌炎、舌癌を伴わない舌痛)
Summary
口内炎/口腔内潰瘍の原因は①甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併する全身性エリテマトーデス(SLE)の無痛性口腔内潰瘍②ベーチェット病:再発性多発性有痛性口腔内潰瘍、ぶどう膜炎は甲状腺眼症と鑑別。甲状腺に関連する口腔乾燥症[シェーグレン症候群、甲状腺悪性リンパ腫の放射線外照射、甲状腺乳頭癌・濾胞癌のI-131 アブレーション治療、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発汗過多・熱中症、尿崩症、糖尿病などの脱水、高カルシウム血症(原発性副甲状腺機能亢進症)、女性更年期障害]。口腔扁平苔癬は甲状腺機能低下症/橋本病と関連。
Keywords
口内炎,口腔内潰瘍,口腔乾燥,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺,ベーチェット病,口腔扁平苔癬
口内炎にも様々な種類があります。いずれにせよ、予防・治療は口の中を清潔に保つことです。

甲状腺・内分泌代謝の病気に関連するものも含めて口内炎/口腔内潰瘍の原因は
- 全身性エリテマトーデス(SLE)特有の無痛性口腔内潰瘍(甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併)
- ベーチェット病:軟口蓋にできる再発性多発性有痛性口腔内潰瘍(甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併)
- 尋常性天疱瘡・水疱性類天疱瘡
- ニコチン口内炎:小唾液腺管の赤い点状斑, しばしば重症(タバコと甲状腺)
- 口内乾燥症
- 亜鉛欠乏、鉄欠乏性貧血(プランマービンソン症候群)、ビタミンB12欠乏性貧血・葉酸欠乏性貧血(メーラー舌炎、ハンター舌炎)
- 免疫不全による感染症;感冒時びらん性舌炎、真菌のカンジダ(カンジダ口内炎)、単純性ヘルペス感染、水痘・帯状疱疹ウイルス感染
- 歯、義歯による物理的な刺激、銀歯・歯の詰め物による金属アレルギー(無機水銀、ニッケルなどの金属アレルギー、銀歯で歯科金属アレルギー)→扁平苔癬
ベーチェット病と甲状腺
甲状腺自己抗体保有率は16.9%とされます(The Scientific World Journal Volume 2013 (2013), Article ID 956837, 4 pages)。無痛性甲状腺炎を合併した小児ベーチェット病が報告されており、ベーチェット病に対するステロイド投与で無痛性甲状腺炎も沈静化します。(第56回 日本甲状腺学会 P1-053 無痛性甲状腺炎を伴った不全型ベーチェット病の13 歳女児例)
関節リウマチと橋本病(慢性甲状腺炎)の合併率は高く、ベーチェット病の関節炎との区別が必要な事があります。ベーチェット病の関節炎は、
- ひざ、足首、手首、ひじ、肩などの大関節に起こり、移動性・非対称性(MPO-ANCA関連血管炎と鑑別)
- 手指などの小関節に起こらない
- 関節の変形やこわばりが見られない
点が、関節リウマチと異なります。眼症状・関節炎・皮膚症状・全身症状に限りコルヒチンが有効とされます。
ベーチェット病の結節性紅斑様皮疹
ベーチェット病のぶどう膜炎
甲状腺眼症に似たベーチェット病ぶどう膜炎。特に、若年男性で発症したベーチェット病は、ぶどう膜炎を合併する頻度が高く、失明する危険性があります。口腔内潰瘍、関節炎、結節性紅斑様皮疹からベーチェット病を疑えば、すぐに眼科受診を勧めねばなりません。
ベーチェット病の遺伝子
ベーチェット病ではHLA-B51(B5)が約60%で陽性になります。
A20ハプロ不全症(若年発症ベーチェット病)
岐阜大学が発見したA20ハプロ不全症(若年発症ベーチェット病)は、常染色体優性遺伝で、TNFAIP3 遺伝子のヘテロ接合性変異により 、その遺伝子がコードするたんぱく質A20 の半量が喪失。
A20は、元々TNF-α刺激伝達経路を抑制しているため、A20ハプロ不全症(若年発症ベーチェット病)では、TNF-αから連鎖的に他の炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β等)も過剰産生され炎症が起きます。(J Allergy Clin Immunol. 2018 Apr;141(4):1485-1488.e11.)
一般的なベーチェット病の症状と多少異なり、橋本病(慢性甲状腺炎)の合併が高率(同時発症?)です。(第60回 日本甲状腺学会 O8-6 常染色体優性遺伝形式で橋本病を発症したA20ハプロ不全症の1 家系)
新生児期から20歳頃までの若年期に発症、周期性発熱・遷延性発熱、炎症性腸疾患類似の症状、反復性口腔内アフタ、皮疹、関節痛、外陰部潰瘍、ぶどう膜炎などベーチェット病様症状が起こり、持続します。
甲状腺・内分泌代謝の病気で口腔乾燥症を伴う事があります。
- 甲状腺機能亢進症に伴う精神神経病 甲状腺機能低下症に伴う精神神経病に投与されるベンゾジアゼピン系抗不安薬、抗うつ剤の抗コリン作用で、唾液の分泌が低下
- シェーグレン症候群:自己免疫性の唾液腺炎で、唾液腺が破壊されます。同じ自己免疫疾患である甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併
- 甲状腺原発悪性リンパ腫への放射線外照射による唾液腺の破壊
- 甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)に対するI-131 アブレーション(アジュバント)治療で放射線内照射による唾液腺の破壊
- 脱水;甲状腺機能亢進症/バセドウ病による発汗過多・熱中症、尿崩症、糖尿病などの脱水(糖尿病マウス)(甲状腺と糖尿病)、高カルシウム血症(原発性副甲状腺機能亢進症など)
- 女性更年期障害 ;更年期の女性ホルモン減少による粘液分泌低下と脳の過敏性亢進
口腔乾燥症では、
- 口腔粘膜、舌粘膜が障害され、口内炎、口腔潰瘍、舌炎、味覚障害
- 唾液の殺菌力が失われるため、口内雑菌が増殖、歯周炎、齲歯(虫歯)、口内炎、舌炎、口腔潰瘍。雑菌の繁殖した唾液を誤嚥し誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎。
口腔扁平苔癬は女性に多い自己免疫性粘膜疾患です。口腔扁平苔癬は、CD8陽性細胞傷害性T細胞が口腔上皮の基底細胞を障害するT細胞性免疫異常です(Indian J Dermatol. 2015 May-Jun;60(3):222-9.)。
自己免疫性甲状腺疾患と口腔扁平苔癬の合併率は高いとされます(Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Nov 9;8:310.)。特に甲状腺機能低下症/橋本病との関連が報告されています(Clin Oral Investig. 2013 Jan;17(1):333-6.)。口腔扁平苔癬、橋本病ともにT細胞性免疫異常であるためと考えられます。
皮膚の扁平苔癬は、口唇・前腕・手背・下腿・足背・亀頭部に好発。多発する指頭大までの類円形紫紅色斑内部に白色線条(Wickham線条)を伴います。痒みが強くステロイド抵抗性。病理組織生検では、過角化、顆粒層肥厚、表皮突起の鋸歯状変化、表皮基底細胞の液状変性、表皮直下の帯状細胞浸潤が特徴。
自己免疫性甲状腺疾患との合併率が高いのは口腔扁平苔癬と同じです(Rev Med Chir Soc Med Nat Iasi (2014) 118:953–8.。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併する強皮症で舌小帯萎縮、CREST(クレスト)症候群で舌の毛細血管拡張症。甲状腺疾患と関連する貧血、亜鉛欠乏で舌炎。口腔灼熱症候群の約86%は甲状腺機能低下症、橋本病、腺腫様甲状腺腫いずれかを持つ。原発性甲状腺機能低下症では嗅覚、味覚が低下し甲状腺ホルモン剤治療で改善。甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)に対する放射性ヨード内用療法の合併症で嗅覚、味覚障害。甲状腺未分化癌の舌転移、舌癌と甲状腺癌の重複癌もある。三叉神経痛・舌咽神経痛による舌痛もある。
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,橋本病,舌炎,嗅覚,舌痛,味覚障害,舌癌,甲状腺癌
- 舌小帯萎縮:膠原病の強皮症(自己免疫性甲状腺疾患の甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併)
- 舌の毛細血管拡張症:膠原病のCREST(クレスト)症候群(限局性皮膚硬化症)(自己免疫性甲状腺疾患の甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病に合併)
舌甲状腺結節(異所性甲状腺)
舌甲状腺結節(異所性甲状腺):表面滑沢な甲状腺濾胞の結節塊、舌背の遠端部、通常は正中線上
甲状腺と関連のある舌炎として、
味覚障害の原因となる舌炎の原因は
- 甲状腺と関連のある舌炎
- 口内炎/口腔内潰瘍
- 口腔乾燥症
- 虫歯・義歯による慢性的な刺激、義歯の合金の成分により発生するガルバニー電流
- 舌下面の静脈瘤
- 舌癌の感覚神経への浸潤
甲状腺機能低下症/橋本病は味覚異常と関連していますが、甲状腺機能低下症患者や医師の多くは気づいていません。。
口腔灼熱症候群の約86%は、甲状腺機能低下症、橋本病、腺腫様甲状腺腫いずれかの甲状腺疾患を有しています。特に、甲状腺機能低下症においては、三叉神経感覚(触覚、温覚、痛覚)の増加が原因の可能性があります。[Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2006 Jan 1;11(1):E22-5.]
原発性甲状腺機能低下症では嗅覚、味覚が低下しており、甲状腺ホルモン剤(L-チロキシン)で3〜6ヶ月間治療すると有意な改善が認められます。また、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)に対する放射性ヨード内用療法(RI 治療;I-131 アブレーション)の合併症で嗅覚、味覚障害がおこります。[Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2016 Oct;124(9):562-567.][Rinsho Shinkeigaku. 1992 May;32(5):547-9.]
舌扁桃は免疫を司るリンパ組織です。
- 鼻・副鼻腔・歯・歯肉などの慢性炎症
- 入れ歯の機械的刺激
により舌扁桃肥大や舌扁桃膿瘍に進展すると、のどの違和感が生じ、甲状腺の病気と勘違いすることがあります。また、舌扁桃肥大で閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)を起こす事もあります。
舌に転移した甲状腺未分化癌が報告されています。甲状腺未分化癌の転移形式は多彩ですが舌転移は極めて稀です。(日臨外医会誌 56(10), 2053-2057, 1995)
なぜ舌に転移したか原因不明ですが、同文献の著者らは、おもしろい仮説を立てています。甲状腺からのリンパ流の一部は下行して気管リンパ節に注ぐが、大半は上行して深頸リンパ節に注ぐ( 解剖学講座.第1版,南山堂,東京,1983, p592-593, p609)。左内頸静脈と随行するリンパ管は腫瘍により圧排され、深頸リンパ節から舌にリンパ液が逆流した可能性が考えられるとの事です。
舌癌と甲状腺癌の重複癌の報告は比較的稀です。舌癌(扁平上皮癌)の顎下リンパ節転移に頸部郭清術を施行、郭清したリンパ節内に甲状腺乳頭癌の転移が発見されたそうです。(J.Jpn.Stomatol.Soc.43(1):46-50,January,1994)
頭頸部領域の重複癌の頻度は4-7%程度(癌の臨床30: 1570-1577, 1984.)とされます。重複癌の原因は、遺伝子変異、喫煙、第1癌の放射線療法・化学療法・侵襲の大きい外科手術に伴う免疫能低下です。
原発性鼻咽頭癌と舌扁平上皮癌、甲状腺乳頭癌のトリプルキャンサーも報告されています(BMC Res Notes. 2013 Oct 28;6:432.)。
舌炎、舌癌を伴わない舌痛の原因として、
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。