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甲状腺と悪性リンパ腫   [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 内分泌 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

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甲状腺原発悪性リンパ腫 細胞診

Summary

橋本病バセドウ病の甲状腺に発生する甲状腺原発悪性リンパ腫は、MALTリンパ腫, びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL), 両者混合型が3割ずつ。90%は急速に大きくなり、気道閉塞の危険も。IL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)が高値になります。甲状腺超音波(エコー)検査(下部閉塞によるリンパ管拡張で網目状の低エコー領域、偽嚢胞石灰化なし)、甲状腺の穿刺細胞診(MALTリンパ腫は診断できない事が大半)・組織生検、ガリウムシンチグラフィーで診断。橋本病リンパ球浸潤、甲状腺未分化癌と鑑別要する。

Keywords

橋本病,バセドウ病,甲状腺,悪性リンパ腫,MALTリンパ腫,びまん性大細胞型Bリンパ腫,sIL2-R,エコー,PET,ガリウムシンチグラフィー

甲状腺と悪性リンパ腫

甲状腺原発悪性リンパ腫の頻度

甲状腺原発悪性リンパ腫は、

  1. 甲状腺悪性腫瘍(甲状腺癌)の2~3%
  2. 全悪性リンパ腫の1~2%
  3. (リンパ)節外悪性リンパ腫の5%

を占めます

甲状腺原発悪性リンパ腫の頻度

甲状腺原発悪性リンパ腫の種類

甲状腺原発悪性リンパ腫のほとんどは、非ホジキン型のB-細胞性リンパ腫で、一般のリンパ腫に比べ予後良好です。

MALTリンパ腫 組織診

甲状腺原発悪性リンパ腫MALTリンパ腫 びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)、両者混合型が3割ずつです。甲状腺原発悪性リンパ腫甲状腺外悪性リンパ腫に比べて生存率が高いです。

びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL) 組織診

1/3を占めるで甲状腺MALTリンパ腫(節外性濾胞辺縁帯性リンパ腫)

甲状腺原発悪性リンパ腫の1/3を占めるで甲状腺MALTリンパ腫(節外性濾胞辺縁帯性リンパ腫)は、最も悪性度が低く、比較的緩やかな増大速度で、甲状腺内に長く留まるため、頚部超音波(エコー)検査、CT/MRI、PETなどで偶然見つかる事が多いです。(Endocr J. 2009; 56(3):399-405.)

甲状腺専門医では、初診時はもちろん、定期的に甲状腺超音波(エコー)検査を行うので、甲状腺MALTリンパ腫の早期発見が可能になります。

早期発見されず、甲状腺MALTリンパ腫が急速に増大すると、窒息等の危険が生じ、外科手術で甲状腺MALTリンパ腫を甲状腺ごと完全に取り切るのが不可能になります。

甲状腺機能低下症/橋本病に対して、ろくに甲状腺超音波(エコー)検査もせずチラーヂンSを漫然と何年も投与していると、甲状腺原発悪性リンパ腫を早期発見する機会を失ってしまいます(橋本病(慢性甲状腺炎)に発生する甲状腺原発悪性リンパ腫)。

ただし、甲状腺MALTリンパ腫は、診断に苦慮する甲状腺腫瘍の1つです(診断つかない甲状腺MALTリンパ腫)。

悪性度の高い甲状腺原発MALTリンパ腫

例外的に、悪性度高く、初診時から多発肺転移を認めた甲状腺原発MALTリンパ腫の症例も報告されています。

関節リウマチ橋本病が基礎にあり、関節リウマチ自体と、治療薬の免疫抑制剤が、腫瘍に対する免疫監視機能を低下させ、本来、悪性度の低い甲状腺原発MALTリンパ腫を多発肺転移させた可能性が考えられます。(第59回 日本甲状腺学会 P3-4-5 初診時から多発の肺転移を認めた甲状腺原発MALTlymphoma の1 例)

びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)

びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)は、混合型も含め、甲状腺原発悪性リンパ腫の70%を占めます(Surgery. 2009 Dec; 146(6):1105-15.)。

びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)はMS4A1(CD20)陽性、75%はBCL6癌遺伝子(オンコジーン)陽性、50%でBCL2オ癌遺伝子(オンコジーン)陽性(Ann Oncol. 2007 Jul; 18(7):1203-8.)。

甲状腺原発悪性リンパ腫の中では、最も悪性度の高い組織型で60%が発見時に転移しています。

甲状腺原発T細胞性悪性リンパ腫

甲状腺原発T細胞性悪性リンパ腫甲状腺原発悪性リンパ腫の2%稀です(Histopathology. 1996 Jan; 28(1):25-32.)。

B細胞系と同じく、橋本病を基礎として発生し、sIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)が上昇します。免疫染色では、T細胞マーカーの「CD30」が陽性に染まります。報告例が少なく、治療法は確定していませんが、外科摘出の報告が多いです。予後も不明ですが、予後不良の末梢血Tリンパ腫と異なり、予後良好の報告が多いです。(Pathol Int. 2005 Jul;55(7):425-30.)(World J Surg Oncol. 2012 Apr 19;10:58.)

非常に珍しい甲状腺原発のバーキット様リンパ腫

非常に珍しいですが、甲状腺原発のバーキットリンパ腫の症例も報告されています。(第55回 日本甲状腺学会 P2-05-03 甲状腺悪性リンパ腫(Burkitt-like lymphoma)の稀な一例)(Case Rep Oncol. 2012 May;5(2):388-93.)

甲状腺原発バーキットリンパ腫 組織像複数の有形体マクロファージによる星空パターンになります。

報告では、R-HYPER-CVAD(リツキシマブ、多分割投与のシクロホスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメタゾン)療法を行ったが、好中球減少症のためR-CHOP療法に変更。

甲状腺原発バーキットリンパ腫

甲状腺原発悪性リンパ腫の超音波(エコー)画像

甲状腺原発MALTリンパ腫 超音波(エコー)画像

甲状腺エコー上は、↑写真のような低エコー領域です(甲状腺原発MALTリンパ腫)。

  1. 元々、リンパ球浸潤は低エコーに見えますが、増殖したリンパ腫細胞はエコーを反射しないため極めて低エコーに見えます
  2. まだら状(虫食い状とも表現されます)で、一見、橋本病の炎症によるのう胞変性の集簇に見えますが、極めて低エコーの部分は内部血流が存在するため偽のう胞。拡大してみると、リンパ節の病理組織のような網目状構造が認められます。下部閉塞によるリンパ管拡張で網目状に見えます。
  3. 石灰化しないのが特徴。
甲状腺原発悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像:通常モード

甲状腺原発悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像:通常モード、網目状構造がはっきり分かります。

甲状腺原発悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像:血流

甲状腺原発悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像:血流は、ほどほどにあります。

甲状腺原発悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像:エラストグラフィー

甲状腺原発悪性リンパ腫 超音波(エコー)画像:エラストグラフィー、意外と軟らかい事が多いです。

小さな宇宙 甲状腺

小さな宇宙 甲状腺

びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)超音波(エコー)画像

びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)超音波(エコー)画像;MALTリンパ腫と比べると、内部がかなり粗雑で、血管浸潤も認める(白矢印)(J Thorac Dis. 2017 Nov;9(11)4774-4784.)

橋本病/バセドウ病に発生する悪性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫)

橋本病(慢性甲状腺炎)に発生する甲状腺原発悪性リンパ腫

バセドウ病に発生する悪性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫)

バセドウ病に発生する悪性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫)は見つけにくいですが、123-Iシンチグラフィーの取り込み不良な領域(cold spot)で見つかる事があります。また、131-I 内用療法後、甲状腺全体は縮小するのに、甲状腺原発悪性リンパ腫の部位のみ縮小しないため見つかる事があります。(第55回 日本甲状腺学会 P2-05-01 バセドウ病の131-I 内用療法後に診断された甲状腺MALT リンパ腫の1 例)

甲状腺原発悪性リンパ腫の症状

甲状腺原発悪性リンパ腫90%は3か月程で急速に、10%はゆっくり甲状腺が大きくなる」とされます。確かに、橋本病で甲状腺が大きくなってきた時は甲状腺原発悪性リンパ腫の合併を疑い甲状腺超音波(エコー)検査、甲状腺の穿刺細胞診、甲状腺組織生検、ガリウムシンチグラフィーが必要。

また、最大20%で体重減少や寝汗の症状が出ます(Head Neck. 2013 Feb; 35(2):165-71.)。

教科書的には以上の様になっていますが、現実は異なります。甲状腺原発悪性リンパ腫の30%–60%は甲状腺機能正常(Histopathology. 1996 Jan; 28(1):25-32.)。長崎甲状腺クリニック(大阪)で、橋本病(慢性甲状腺炎)破壊の程度の評価 のため、甲状腺超音波(エコー)検査を行うと、急速に増大しだす前の甲状腺原発悪性リンパ腫が多く見つかります。「90%は3か月程で急速に、10%はゆっくり甲状腺が大きくなり」は、裏を返せば、急速に甲状腺が大きくならない限り甲状腺超音波(エコー)検査をしない医療機関が多いと言う事です。

さらに、最近の超音波(エコー)診断装置の普及と高性能化により、無症状で早期発見される甲状腺原発悪性リンパ腫が急増しています。

特に、甲状腺MALTリンパ腫は、限局性に長期間留まるため、甲状腺超音波(エコー)検査、肺・頚椎のCT/MRI、頸動脈エコー検査などで偶発的に発見される事がほとんどです。

早期発見されず、甲状腺原発悪性リンパ腫が急速に大きくなると、

  1. 微熱、頚の痛みを伴い
  2. 無症状、無痛性のまま

気道閉塞をおこす可能性があり、注意が必要です。

  1. 気道閉塞症状が現れたら、速やかに気管内挿管し、ステロイドパルス療法が必要。(第58回 日本甲状腺学会 P1-13-6 急速に気道閉塞症状を来たした悪性リンパ腫を合併した橋本病の一例)
     
  2. 急速な気道閉塞でなければ、生検後、プレドニゾロン内服を次項の化学療法に先行して行うだけでも甲状腺原発悪性リンパ腫は早急に縮小する場合があります。(第57回 日本甲状腺学会 P2-069 ステロイド投与で気流制限が改善した甲状腺悪性リンパ腫の一例)

また、急激に甲状腺原発悪性リンパ腫が増大する時は、

  1. 破壊性甲状腺炎甲状腺中毒症
  2. 急速な甲状腺機能低下症

になります。

甲状腺原発悪性リンパ腫を気管支喘息と間違われる場合も

甲状腺原発悪性リンパ腫を気管支喘息と間違われる場合もあります。甲状腺原発悪性リンパ腫が急速に大きくなり気道狭窄すると、気管支喘息のような喘鳴(ヒーヒーした呼吸)がおこります。ストライダー(上気道・中枢気道狭窄による喘鳴)で、気管支喘息ではありませんが、聴診すると笛声音(ヒューヒューする音)が聞こえます。気管支喘息の治療目的でステロイド点滴すると、癌化しているとは言えリンパ球なので抑制され、甲状腺原発悪性リンパ腫も縮小、気道狭窄が改善されます。気管支喘息と思い込んでしまい、甲状腺原発悪性リンパ腫が見逃される可能性があります。

甲状腺原発悪性リンパ腫の血液検査・遺伝子検査

甲状腺原発悪性リンパ腫ではsIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)高値[甲状腺機能亢進症、無痛性甲状腺炎でも高値]、LDH高値(国際予後因子)、CRP高値。破壊によるサイログロブリン高値。甲状腺ホルモン値は母体となる甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症を反映する事多い。急激に増大すると破壊性甲状腺炎(甲状腺中毒症)、急速な甲状腺機能低下症。穿刺細胞診は中心部程密度が高く、細胞像は単一な腫瘍細胞、核はMALTリンパ腫(中型)、びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)(大型)ともにN/C比大。DLBCLは非腫瘍性の小型リンパ球とtwo cell pattern。

sIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)

悪性リンパ腫ではsIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)が産生され高値になります。

  1. sIL2-R甲状腺機能亢進症/バセドウ病無痛性甲状腺炎でも、甲状腺ホルモンがリンパ球を刺激する事により高値になります。(第55回 日本甲状腺学会 P1-03-11 可溶性インターロイキン2受容体(IL2-R)異常高値を示した肝不全、DIC合併の甲状腺クリーゼ(TS)の1例)
     
  2. 実際の所、甲状腺原発悪性リンパ腫(MALT)は、病勢の弱いものが多く、sIL2-Rはリンパ腫の大きさの割に低い(と言うより正常の)症例が多いです。
    甲状腺原発悪性リンパ腫(DLBCL)でリンパ節転移までしたものは著明に上昇します。
     
  3. sIL2-R成人T細胞白血病/リンパ腫、リンパ性白血病、サルコイドーシス/膠原病、結核・肝炎/伝染性単核球症などのウイルス感染症、血球貪食症候群、肺癌など悪性腫瘍でも上昇します。

LDH(乳酸脱水素酵素)

また、LDH(乳酸脱水素酵素)は、悪性リンパ腫の国際予後因子です。しかしながら、甲状腺原発悪性リンパ腫(MALT)は、病勢の弱いものが多く、LDHはリンパ腫の大きさの割に低い(と言うより正常の)症例が多いです。

CRP(C反応性蛋白)

炎症や悪性腫瘍で上昇するCRP(C反応性蛋白)。甲状腺原発悪性リンパ腫でも上昇する事があります。

β2-マイクログロブリン

β2-マイクログロブリンはHLA抗原クラスⅠのL鎖で悪性リンパ腫の他、多発性骨髄腫・慢性リンパ性白血病、慢性腎不全、自己免疫性疾患でも上昇し、ほとんど診断価値はありません。

甲状腺ホルモン

甲状腺原発悪性リンパ腫の母体となる甲状腺の病気、

  1. 甲状腺機能低下症/橋本病
  2. 甲状腺機能亢進症/バセドウ病

の甲状腺ホルモン値を反映する事が多いです。しかし、急激に増大する時は、

  1. 破壊性甲状腺炎甲状腺中毒症
  2. 急速な甲状腺機能低下症

になります。

サイログロブリン

血清サイログロブリンが上昇。甲状腺良性腫瘍(腺腫様甲状腺腫良性濾胞腺腫)、甲状腺分化癌(甲状腺濾胞癌甲状腺乳頭癌)、甲状腺低分化がん など、腫瘍で産生されるサイログロブリンでなく、甲状腺組織の破壊による上昇です。抗サイログロブリン抗体(Tg-Ab)陽性なら、実際よりも低い値になります。

緩やかに大きくなる場合、サイログロブリン値は数百ng/ml、急激に大きくなる場合、数千ng/mlになる事も。報告例、血清サイログロブリン 2,170 ng/mL (第61回 日本甲状腺学会 O22-4 橋本病の長期経過中に甲状腺が急速に腫大し、コア生検で診断し 得た甲状腺MALTリンパ腫の一例)。

BCL2遺伝子

B細胞系リンパ腫の瀘胞性リンパ腫(FL)やびまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)はBCL2遺伝子[アポトーシス抑制遺伝子, t(14;18)(q32;q21) 転座]が特徴的に認められます。

MYC 転座

MYC 転座は、全びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)の5~15%に認められ、R-CHOP療法に治療抵抗性で予後不良とされます。しかし、MYC 転座陽性甲状腺びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)は、R-CHOP療法に良く反応したと言う報告があります。(第59回 日本甲状腺学会 P3-4-4 破壊性甲状腺炎をともなったMYC 転座陽性甲状腺悪性リンパ腫の1 例)

甲状腺原発悪性リンパ腫の穿刺細胞診

甲状腺原発悪性リンパ腫の穿刺細胞診

甲状腺原発悪性リンパ腫は、甲状腺濾胞癌とは逆に、中心部程密度が高く、中心部(右の円の中)から細胞を採ると以下のようになります。甲状腺原発悪性リンパ腫の細胞像は、

  1. 単一な腫瘍細胞が多数
  2. 孤立性散在性、細胞集団を形成しません
  3. 核はMALTリンパ腫(中型)、びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)(大型)、ともにN/C比(核/細胞質比)が大で細胞質が乏しい
  4. びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)では、クロマチンは淡く染まり、核小体は明瞭・非腫瘍性の小型リンパ球とtwo cell patternになります
  5. 背景は汚く、貪食細胞が出現することも
甲状腺原発悪性リンパ腫細胞診

甲状腺原発悪性リンパ腫の診断

甲状腺原発悪性リンパ腫の診断。特に異型性の少ないMALTリンパ腫はsIL2-R正常、穿刺細胞診で診断不可能なのでガリウム(Ga)シンチグラフィー、甲状腺組織生検(確定診断)が有用。Ga シンチグラフィは甲状腺未分化癌にも強く集積。気道閉塞の危険あればステロイド大量投与で劇的に縮小し治療的診断。PET-FDGは橋本病(慢性甲状腺)でも結節状に取り込み、最大集積値(SUVmax)も同程度で診断に有用でないが、確定診断付いた後の進行度分類[Ann Arbor分類]に必要。

甲状腺原発悪性リンパ腫の診断

甲状腺原発悪性リンパ腫は、腫瘍マーカーであるsIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)も正常で、穿刺細胞診でも診断不可能なこと多々あります(特にMALTリンパ腫)。[MALTリンパ腫びまん性大細胞型Bリンパ腫(DLBCL)の穿刺細胞診の詳細は、 前項 を御覧ください。]

このような場合、

  1. ガリウム(Ga)シンチグラフィーが有用です。強い集積あれば、甲状腺原発悪性リンパ腫の疑い濃厚
  2. 甲状腺組織生検(確定診断)

気道閉塞の危険があれば、ステロイド大量投与(ステロイドパルスなど)による治療的診断(下記)。

ガリウムシンチグラフィ(Ga シンチグラフィ)

ガリウム(Ga)シンチグラフィは甲状腺原発悪性リンパ腫の診断に非常に有用です。

  1. 甲状腺乳頭癌濾胞癌にはほとんど集積しない
  2. 甲状腺原発悪性リンパ腫甲状腺未分化癌に強く集積する
  3. 同時に、甲状腺原発悪性リンパ腫甲状腺未分化癌の全身転移の検索(病期判定)に有効

PET-FDG

PET-FDGは甲状腺原発悪性リンパ腫

  1. 診断に有用でありません。
    背景にある橋本病(慢性甲状腺)の約30%は結節状(nodular)に取り込み甲状腺原発悪性リンパ腫と区別できません。
    同時に、アイソトープ(FDG)の最大集積値(SUVmax)も甲状腺原発悪性リンパ腫橋本病(慢性甲状腺)で有意差なく、背景にある橋本病(慢性甲状腺)の、びまん性集積が甲状腺原発悪性リンパ腫をマスクする可能性があります。
    (第53回 日本甲状腺学会 P-128 甲状腺悪性リンパ腫の病期診断における FDG PET の意義)
  2. 確定診断が付いた後は、悪性リンパ腫病期(進行度)分類[Ann Arbor分類]行うのに必要です。
    その際、耳下腺炎、大腸腺腫、原発性肺がんなどでPET-FDGが陽性になり、病期(進行度)分類を間違える可能性があります。

ステロイド大量投与(ステロイドパルスなど)による治療的診断

気管圧迫症状が出現、気道閉塞の危険があれば、とりあえず緊急入院し、ステロイド大量投与(ステロイドパルスなど)による治療的診断。甲状腺原発悪性リンパ腫なら劇的に縮小します。危機を脱したら、穿刺細胞診、ガリウムシンチグラフィ(Ga シンチグラフィ)で確定診断。

診断つかない甲状腺MALTリンパ腫

甲状腺MALTリンパ腫 組織生検

異型性の少ない(癌細胞らしくない)MALTリンパ腫は、橋本病(慢性甲状腺炎)の慢性炎症細胞(リンパ球、形質細胞)と区別が難しく、

  1. 穿刺細胞診では診断できない事がほとんどです(ほとんどがグレ-ゾーンのクラス3になり、明らかに癌と診断できるクラス4,5になる事は稀です)。
  2. 甲状腺原発悪性リンパ腫の腫瘍マーカーsIL2-R(可溶性インターロイキン2受容体)も正常な事が多く、例え上昇しても軽度です。
  3. ガリウムシンチグラフィーで陽性に出る確率高いので、陽性なら甲状腺原発悪性リンパ腫の確信が得られます。確定診断のため、内分泌外科に以下を依頼します。ただ、超音波(エコー)検査で、明らかな甲状腺原発悪性リンパ腫であれば、ガリウムシンチグラフィーは省略できます。
  4. 穿刺細胞診より一段階上の組織診(コア生検)を内分泌外科に依頼しますが、それでも確定診断できず、麻酔下にopen biopsy(オープン バイオプシー;切開して組織を一部取り出す)を施行すれば確定診断できます。しかし、明らかな甲状腺原発悪性リンパ腫か、あるいは明らかに切除しなければならない状態(周囲組織へ浸潤、気管等圧排)であれば、(open biopsyはせずに)甲状腺を手術で摘出し、手術標本の病理診断で確定する事がよくあります。(第55回 日本甲状腺学会 P2-05-02 バセドウ病に甲状腺原発悪性リンパ腫を合併した1 例)

    (右)MALTリンパ腫の組織像。紫の点が悪性リンパ腫細胞の核です。甲状腺濾胞に浸潤しているのが解ります。

頚部リンパ節に悪性リンパ腫

頚部リンパ節に悪性リンパ腫が発生し、橋本病バセドウ病を持っている場合甲状腺原発甲状腺外か区別しにくいことが多々あります。

頚部リンパ節原発のホジキンリンパ腫が、甲状腺に浸潤した症例が報告されています。(第54回 日本甲状腺学会 P246 急速なびまん性甲状腺腫大の1例-Hodgkinリンパ腫の甲状腺病変)

甲状腺外の頚部悪性リンパ腫

 を御覧ください。

ホジキンリンパ腫
MALT 甲状腺浸潤 穿刺細胞診

筆者がこれまで経験したのは、甲状腺へ浸潤していく頚部原発MALTリンパ腫です。超音波(エコー)上、浸潤影が明確に分かります。

甲状腺原発悪性リンパ腫の鑑別診断

亜急性甲状腺炎

確かに、発熱、頚部の痛み、急激な甲状腺の腫れ等、症状は共通するものの、超音波(エコー)所見が全く異なるため、まさか甲状腺原発悪性リンパ腫亜急性甲状腺炎と間違える事はないだろうと筆者は考えておりました。

しかし、恐ろしいことに、「発熱、頚部の痛み」の2点がそろい、血液検査で炎症反応を認めると、亜急性甲状腺炎と決め付けて、ためらうことなくステロイド剤を開始する内科医が異常に多いのです。甲状腺部に痛みを呈する疾患の74.1%は亜急性甲状腺炎ですが、残りの約25%は他の病気です(甲状腺の痛み)。

甲状腺専門医は、超音波(エコー)検査なしで亜急性甲状腺炎の診断をする事はありません。

(Acta Cytol. 2006 Nov-Dec;50(6):710-2.)(Harefuah. 1987 Mar 1;112(5):226-7.)

橋本病反応性リンパ球浸潤

橋本病反応性リンパ球浸潤は①数カ月で増大する事もあり、甲状腺原発悪性リンパ腫の可能性が否定できないため鑑別診断を要す②甲状腺超音波(エコー)検査で低エコーや網目状を呈し、sIL2-R (可溶性インターロイキン2受容体)高値、穿刺細胞診で幼若リンパ球を認める点が甲状腺原発悪性リンパ腫と同じ③網目状の低エコー部に血流なく、偽嚢胞(腫瘍性のリンパ球)でない、Ga(ガリウム)シンチグラフィー陰性で取り込みない、病理組織検査の免疫染色で甲状腺原発悪性リンパ腫と断定できない、縮小増大を繰り返し自然消退もあり得る(ヨード過剰摂取制限で縮小)点が異なる。

橋本病反応性リンパ球浸潤の甲状腺超音波(エコー)検査所見は、低エコーや網目状で甲状腺原発悪性リンパ腫と全く同じに見えます。橋本病反応性リンパ球浸潤は数カ月で増大する事もあり、甲状腺原発悪性リンパ腫の可能性が否定できないため鑑別診断を要します。一方で、橋本病反応性リンパ球浸潤ヨード過剰摂取制限を行い、橋本病の炎症が軽快すると縮小します)。

さらに橋本病反応性リンパ球浸潤

  1. sIL2-R (可溶性インターロイキン2受容体)が高値になる
  2. 穿刺細胞診で幼若リンパ球を認める(悪性リンパ腫の疑いと判定される事あり)

点が、甲状腺原発悪性リンパ腫と共通です。

しかし、橋本病反応性リンパ球浸潤は、

  1. 網目状の低エコー部に血流なく、偽嚢胞(腫瘍性のリンパ球)でない
  2. Ga(ガリウム)シンチグラフィー陰性で取り込みない
  3. 病理組織検査の免疫染色で甲状腺原発悪性リンパ腫と断定できない
  4. 縮小増大を繰り返し自然消退もあり得る;筆者の経験ではヨード過剰摂取制限でエコー輝度が高く(白く)なり、縮小します

点が異なります。
(第58回 日本甲状腺学会 P1-12-6 当初甲状腺原発悪性リンパ腫が疑われたが、縮小増大を繰り返し自然消退した反応性リンパ球浸潤の一例)(第59回 日本甲状腺学会 P4-4-2 悪性リンパ腫が疑われた低エコー領域が自然縮小した慢性甲状腺炎の2 例)

橋本病反応性リンパ球浸潤の甲状腺超音波(エコー)画像

橋本病反応性リンパ球浸潤の甲状腺超音波(エコー)画像は低エコー領域・網目状構造で、甲状腺原発悪性リンパと鑑別難ですが、

  1. 低エコー部に血流(腫瘍血管)を認めません(非腫瘍性のリンパ球の集まり)。
  2. 低エコー部は境界明瞭で、甲状腺原発悪性リンパ腫の様な粗雑さはない。
  3. Bモードの全体的なエコーゲインを上げると、低エコー領域は白くなり、内部構造がはっきりします。すると、単なる炎症像(リンパ球浸潤)であるのが分かります。
悪性リンパ腫の様に見えるが・・

橋本病反応性リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像;(左)低エコー領域の内部構造は不明瞭、(右)エコーゲインを上げると低エコー領域は白くなり、内部構造がはっきりします。

悪性リンパ腫の様に見えるが・・2

橋本病反応性リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像;(左)エコーゲインを上げると低エコー領域は白くなり、内部構造がはっきりします、(右)低エコー領域の内部構造は不明瞭。

甲状腺原発悪性リンパ腫に見えるが橋本病リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像

甲状腺原発悪性リンパ腫に見えるが橋本病反応性リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像;エコーゲインを上げなくても低エコー領域の網目状構造がはっきりしている。しかし、境界明瞭、Ga(ガリウム)シンチグラフィーも陰性、病理組織検査でも悪性リンパ腫細胞は否定された。

甲状腺原発悪性リンパ腫に見えるが橋本病リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像

甲状腺原発悪性リンパに見えるが橋本病反応性リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像

 甲状腺原発悪性リンパ腫に見えるが橋本病リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像(拡大)

甲状腺原発悪性リンパ腫に見えるが橋本病反応性リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像(拡大);よく見ると網目状の低エコー部に血流は認めないため、腫瘍性のリンパ球でない。

網目状構造と偽のう胞形成で、甲状腺原発悪性リンパ腫と橋本病反応性リンパ球浸潤の鑑別難
出産後甲状腺炎 橋本病反応性リンパ球浸潤 妊娠前

妊娠前橋本病反応性リンパ球浸潤 ;左右両葉の腹側(上部)に低エコー領域を認めるが、網目状構造は、はっきりしない。

出産後甲状腺炎の橋本病反応性リンパ球浸潤 出産後10カ月

出産後10カ月、出産後甲状腺炎橋本病反応性リンパ球浸潤。甲状腺機能は正常、SIL-2Rも正常。左右両葉の腹側(上部)低エコー領域は拡大、網目状構造が明瞭に。甲状腺原発悪性リンパ腫を疑い、Ga(ガリウム)シンチグラフィー行うも陰性、病理組織検査でも悪性リンパ腫細胞は否定的。

出産後甲状腺炎の橋本病反応性リンパ球浸潤 出産後10カ月

甲状腺原発悪性リンパに見えるが橋本病反応性リンパ球浸潤 超音波(エコー)画像

出産後甲状腺炎 橋本病反応性リンパ球浸潤 出産後1年2カ月

出産後1年2カ月、出産後甲状腺炎橋本病反応性リンパ球浸潤。甲状腺機能・SIL-2Rともに正常のまま。左右両葉の腹側(上部)低エコー領域は縮小、網目状構造は変化無し。

病変が自然縮小したため、甲状腺原発悪性リンパ腫は完全に否定された。

出産後甲状腺炎 橋本病反応性リンパ球浸潤 出産後1年2カ月

出産後1年2カ月、出産後甲状腺炎橋本病反応性リンパ球浸潤。左右両葉の腹側(上部)低エコー領域は縮小、網目状構造は変化無し。

出産後甲状腺炎 橋本病反応性リンパ球浸潤 1年2カ月後2

網目状構造だけでなく、低エコー領域に血流を認める偽のう胞構造も変化無し。

甲状腺全域が網目状構造で、甲状腺原発悪性リンパ腫と橋本病反応性リンパ球浸潤の鑑別難
甲状腺全域が網目状構造の橋本病

甲状腺全域が網目状構造の橋本病で、甲状腺原発悪性リンパ腫と反応性リンパ球浸潤の鑑別難

甲状腺全域が網目状構造の橋本病

甲状腺全域が網目状構造の橋本病

橋本病リンパ球浸潤

拡大して見ると、網目状の低エコー部に血流は認めないため、腫瘍性のリンパ球ではない。

橋本病の破壊によるのう胞変性も甲状腺原発悪性リンパ腫と鑑別を要す

悪性リンパ腫でなく、のう胞変性

橋本病の破壊によるのう胞変性も甲状腺原発悪性リンパ腫と鑑別を要します。

写真の超音波(エコー)画像は、一見、低エコーで橋本病反応性リンパ球浸潤甲状腺原発悪性リンパ腫と区別が難しいですが、内部は無血流・完全な無エコーで、のう胞変性です。

無痛性甲状腺炎の炎症巣

甲状腺原発悪性リンパ腫のように見えても、「実は無痛性甲状腺炎の炎症巣だった」という場合もあります。穿刺細胞診を行えば、炎症性のリンパ球を多数認めます。細胞異型は無く、モノクローナルな増殖で無いため、炎症性リンパ球浸潤と診断できます。無痛性甲状腺炎であるため、数か月で低エコー領域は消失します、

実は無痛性甲状腺炎の炎症巣

実は無痛性甲状腺炎の炎症巣;低エコー領域を認めますが、境界明瞭で甲状腺原発悪性リンパ腫とは異なります。

実は無痛性甲状腺炎の炎症巣 4カ月後

実は無痛性甲状腺炎の炎症巣 4カ月後;無痛性甲状腺炎なので、数か月で低エコー領域は消失します、

甲状腺未分化癌との速やかな鑑別が必要

甲状腺未分化癌との速やかな鑑別が必要。甲状腺原発悪性リンパ腫ならCHOP療法などの化学療法行えば、速やかな腫瘍縮小と気道閉塞解除が期待できます。しかし、甲状腺未分化癌との鑑別が、意外と難しい事があります。微細~破片状石灰化などを伴う典型的な甲状腺乳頭癌成分が存在していれば、超音波(エコー)所見だけでも甲状腺未分化癌と判ります。そうでない場合、甲状腺の穿刺細胞診しても、

  1. 甲状腺原発悪性リンパ腫細胞は異型性が少なく病理診断が難しい
  2. 甲状腺未分化癌は壊死組織が多く、その部分を採取しても細胞が採れない。

次に、甲状腺針生検(組織診)か、血液内科の力を借りて穿刺細胞診材料でフローサイトメトリー(リンパ球の細胞表面抗原を特定)行うかですが、

  1. 針生検(組織診)は侵襲大きいため、気道閉塞し掛けた状態では行い難い。
  2. フローサイトメトリーは頼めば迅速に動いてくれる血液内科が必要

(第54回 日本甲状腺学会 P245 甲状腺未分化癌との鑑別に苦慮した甲状腺悪性リンパ腫の一例)
(第54回 日本甲状腺学会 P248 細胞診による迅速診断と化学療法で窒息を回避できた甲状腺悪性リンパ腫の一例)

甲状腺原発悪性リンパ腫の治療と予後

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,浪速区,天王寺区,生野区も近く。

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