小児クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)・発育障害・遺伝子異常[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪) ゆるキャラ 甲Joう君(原案)
(動脈硬化した血管に甲状腺が! バセドウ病の甲状腺がモデル)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は小児科ではありません。クレチン病(先天性甲状腺機能低下症)の診療は20歳以上とさせて頂きます。
Summary
小児甲状腺ホルモン基準値は成人と異なる。甲状腺ホルモンは骨などの臓器の新陳代謝を活発化、成長ホルモン(GH)の分泌を促すため、甲状腺機能低下症は成長障害。子供の成長曲線から外れている場合、甲状腺機能低下症を疑う。甲状腺ホルモンは胎生期・新生児期・乳幼児期の脳神経の発達に重要で、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)は知能障害(知能指数低下)おこすため、見つかれば、直ちに甲状腺ホルモン剤[T4製剤レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)]を開始。母親が甲状腺機能亢進症/バセドウ病、萎縮性甲状腺炎、ヨード(ヨウ素)を過剰摂取したら新生児一過性甲状腺機能低下症。
keywords
小児,甲状腺ホルモン,クレチン症,先天性甲状腺機能低下症,発育障害,知能障害,新生児マススクリーニング,一過性甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,バセドウ病
小児甲状腺ホルモン基準値は成人と異なります。しかし、日本人の小児甲状腺ホルモン基準値はほとんど皆無につき、これまでは海外の小児甲状腺ホルモン基準値を流用していました。そもそも甲状腺ホルモン基準値自体、施設により(測定キットにより)微妙に異なるため、基準を作り難いという理由もあると思います。※長崎甲状腺クリニック(大阪)採用基準値との差は補正すれば解決します。
かつて日本甲状腺学会雑誌(2014 Vol.5 No.1,14-19)で伊藤病院の吉村弘先生が、日本人の小児甲状腺ホルモン基準値を発表されていましたが、今回さらにバージョンアップしたものがEndocrine Journalに掲載されました。[Endocr J. 2023 Aug 28;70(8):815-823.]。
FT3、FT4、TSHともArchitect®(Abbott, Inc.)で測定されたものですが、測定キットの違いによる差は補正すれば解決します。
日本人の小児・青年における甲状腺刺激ホルモン(TSH)の正常範囲
グラフの分布から考えて、9歳以降はTSHの上限値が大人より低くなります。(青い領域が大人の正常範囲)
特にメタボリックシンドローム児ではTSH値が高くなります。脂肪代謝を促進し、さらなる体重増加を防ぐための代償反応と考えられます(Nutr Hosp. 2015 Aug 1;32(2):645-51.)。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の約40%は甲状腺自体の形成障害で、無形成3%、低形成16%、異所性(位置異常)22%。それらは、超音波検査で甲状腺の大きさ・位置を確認すれば診断可能です。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)で甲状腺が年齢相応の大きさでなければ、低形成ということになります。右は6歳以降の正常な甲状腺容積(≒ 重量)です。6歳未満は成長速度が速く、正常値を決めにくいため、甲状腺専門医の経験で判断するしかないようです。
甲状腺容積(mL ≒ g)= π/6(0.52) × 縦(cm) × 横(cm)× 深さ(cm)
の換算式を用います。[Acta Radiol Oncol Radiat Phys Biol. 1978;17(4):337-41.][日生医誌 1986; 14: 43–50.]
※甲状腺の比重はほぼ1.0なので mL ≒ g [Radiology calculators]
更に詳しくは、[Endocr J. 2015;62(3):261-8.]
甲状腺ホルモンも成長ホルモン(GH)と同様に子どもの成長に大きな影響を及ぼします。これは、甲状腺ホルモンと成長ホルモン(GH)には相補性があり、甲状腺ホルモンが骨や他臓器の新陳代謝を活発にすると同時に、成長ホルモン(GH)の分泌を促すためです。甲状腺ホルモンの不足(甲状腺機能低下症)による2次的成長ホルモン(GH)分泌不全を含む成長障害は、甲状腺ホルモン剤を一日1回飲むことで治療できます。
生後2年以内に治療された先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)児は、5歳に正常発育の子供にキャッチアップします(J Pediatr Endocrinol. 1994 Jul-Sep;7(3):211-7.)。しかし、思春期直前まで放置された長期間の成長障害は、すぐに甲状腺ホルモン剤を補充しても、充分な身長のキャッチアップが得られません。(第58回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅡ 小児の甲状腺疾患)(Eur J Pediatr. 1996 May;155(5):362-7.)
特に、胎生期・新生児期・乳幼児期での甲状腺ホルモンの重要性
甲状腺ホルモンは胎生期・新生児期・乳幼児期の神経髄鞘(神経のさや)形成に不可欠で、特に脳神経の発達に重要です。この時期の甲状腺ホルモン不足は不可逆的な知能障害起こす[下記:先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)]ため、すみやかに見つけて治療せねばなりません。
その後も甲状腺ホルモンは脳神経の発達に重要で、発達の臨界期(12歳位)まで知性の形成に関与します。12歳を過ぎてから、いくら甲状腺ホルモンを補充しても知能指数は改善しません。
甲状腺機能低下症の発見が遅れた場合の知能指数への影響
甲状腺機能低下症の発見が遅れた場合の知能指数(IQ)への影響は表の通りです。
これは新生児マススクリーニングが行われていない頃の日本で、甲状腺機能低下症状から発見された子供の初診時年齢別のIQです。
初診時年齢3ヶ月未満では、IQ 90以上が約60%なのに、3ヶ月以降では20~30%に減少、明らかに知能指数の低下の危険があります。
(表;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
ただし、新生児マススクリーニングでも生後1ヶ月までに診断されるのは約10%、3ヶ月以内は35%、1歳までが70%、ほぼ100%診断されるのは3~4歳とされます(Horm Res. 1997;48(2):51-61.)。3ヶ月以内に見つからなかった先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)では、IQが低下する危険性が増します。
甲状腺ホルモンは、新生児期から乳幼児期にかけて脳の発育に必須であり、不足すると知能障害を来します。また、甲状腺ホルモンは骨、肝臓など、臓器機能を維持するのに重要です。新生児期・乳児期の先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)では、
- 活動性の低下(不活発)
- 低体温、四肢冷感
- 心拍数・心機能の低下
- 遷延性黄疸(せんえんせいおうだん)、皮膚乾燥
- 哺乳(ほにゅう)不良、体重増加不良
- 便秘;人工乳では便秘が増悪、ヒルシュスプルング病(Hirschprung病)と鑑別
- 浮腫(むくみ)
- 嗄声(鳴き声がかすれる)
- 小泉門開大、鞍鼻(あんび;鼻すじが落ちこんで低くなった状態)、巨大舌、でべそ(臍ヘルニア)が特徴的
- 甲状腺腫(甲状腺が腫れる;ただし中枢性甲状腺機能低下症では腫れない)
- 胎児胸水(乳び胸水)が遷延(Pediatrics. 1999 Jan;103(1):E9.)
などの症状を示します。
しかし、これらの臨床症状が起こってからの発見・治療では、精神発達遅滞を防ぐことができません。新生児期に発見されて治療を受けないと、知能障害や低身長などの成長発達障害が残ります。したがって、早期の診断と適切な治療開始が必須になります。
※正常児の言語・精神発達、
- 3~4 か月児:見えない方向から声をかけてみると、そちらの方を見ようとする。
- 6~7 か月児:家族といっしょにいるとき、話しかけるような声を出す。
- 9~10 か月児 そっと近づいて、ささやき声で呼びかけると振り向く。
- 1 歳児: バイバイ、コンニチハなどの身振りをする。大人の言う簡単な言葉(おいで、ちょうだいなど)がわかる。部屋の離れたところにあるおもちゃを指さすと、その方向を見る。
ほとんどは新生児マススクリーニングで見つかります(と言っても前述の様に、すぐには診断できない)が、中枢性甲状腺機能低下症などマススクリーニングをすり抜けるものがあります。
新生児マススクリーニングで先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が見つかれば、脳の発達を守るため直ちに甲状腺ホルモン剤[T4製剤レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)]を開始します。治療基準は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の治療方法。
新生児マススクリーニングが行われる前の重症の先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
新生児マススクリーニングが行われる(1972年)前後で生まれた重症先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)家系の報告があります。
- 新生児マススクリーニングが行われる前に生まれた兄;出生時より嗜眠傾向、哺乳力低下で、生後2カ月目に重症先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と診断された。甲状腺ホルモン剤投与が開始されたが、既に手遅れで精神遅滞(脳の発達障害)をおこした
- 新生児マススクリーニングが制度化された後に生まれた弟;新生児マススクリーニングで重症先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が見つかる。生後24日より甲状腺ホルモン剤投与が開始されて正常発育
治療開始がわずか5週間遅れただけで、人間の一生が変わるため、新生児マススクリーニングの意義は大きい。(第53回 日本甲状腺学会 P-31 重症クレチン症を呈した兄弟例)
新生児一過性甲状腺機能低下症
下記の原因による一過性甲状腺機能低下症が疑われる場合あるいはその治療中、一度もTSHが5-10 μIU/mL 以上に再上昇しなかったら、生後2-3歳をめどに、甲状腺ホルモン剤を休薬して甲状腺機能低下症が持続しているかどうか「再評価」します。
母親が甲状腺機能亢進症/バセドウ病
母親が甲状腺機能亢進症/バセドウ病で、
- 抗甲状腺薬を妊娠中飲んでいた場合、新生児の体内には抗甲状腺薬が残っているため、一過性甲状腺機能低下症になります。重症の場合、甲状腺ホルモン剤の治療が必要。
- 妊娠中に甲状腺機能亢進症/バセドウ病であることに気付かず未治療だった場合、母体の甲状腺ホルモンが胎児の下垂体からのTSH分泌を抑制していたため、新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症になります。
萎縮性甲状腺炎妊婦が出産したら
TSHレセプターに結合し、TSHの結合を阻害するだけで甲状腺を刺激しないブロック抗体[TSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)]を有する萎縮性甲状腺炎の妊婦が出産した場合、新生児の体内には、母体のTSBAbが残っています。母体から来たTSBAbが新生児の甲状腺をブロックするため、新生児甲状腺機能低下症をおこし、クレチン症と間違われる事があります。しかし、数か月でTSBAbは消滅して、甲状腺機能は正常化するため、一過性新生児甲状腺機能低下症だった事になります。 [J Paediatr Child Health. 1993 Aug;29(4):315-8.][J Clin Endocrinol Metab. 1999 Aug;84(8):2630-2.][Fetal Diagn Ther. 2010;28(4):220-4.]
ただし、最初から母体が萎縮性甲状腺炎と分かっていて、妊娠前から甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を服薬している場合、一過性新生児甲状腺機能低下症だけで済みますが、出産まで萎縮性甲状腺炎による甲状腺機能低下症に気付かなかったら、子宮内胎児発育障害により重度の脳神経障害が子供に残ります。[J Clin Endocrinol Metab. 1999 Aug;84(8):2630-2.]
萎縮性甲状腺炎 超音波(エコー)画像
母親が妊娠中や授乳時にヨード(ヨウ素)を過剰摂取
新生児がDUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異を持っている場合
原因不明の一過性新生児甲状腺機能低下症の半数は、遺伝性甲状腺機能低下症の一つであるDUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異との報告があります。 詳細は、 DUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2) 遺伝子変異 を御覧下さい。
- 一過性甲状腺機能低下症が疑われる場合
- 治療中に一度もTSHが5~10 μIU/mL 以上に上昇しなかった場合
幼児期も甲状腺ホルモンは体・脳神経の発達に重要です。治療基準は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の治療方法 と同じ。
成長ホルモンと同様に脳と体の発育に甲状腺ホルモンは必要不可欠です。発育が終わるまで甲状腺ホルモンが不足する事態があってはなりませんが、先天性甲状腺機能低下症では新生児期以降に甲状腺ホルモンが低下する事もあるため新生児マススクリーニングをすり抜けるものがあります。
発達の臨界期(12歳位)を過ぎてから、いくら甲状腺ホルモンを補充しても知能指数は改善しません。体は成長しますが、成長障害が遅れた分を取り戻せません。治療基準は、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の治療方法と同じ。
体重1kgあたりの甲状腺ホルモン薬治療量は、新生児期から思春期にかけ徐々に減少します。
生後2年以内に治療された先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)児は、5歳に正常発育の子供にキャッチアップします(J Pediatr Endocrinol. 1994 Jul-Sep;7(3):211-7.)。しかし、思春期直前まで放置された長期間の成長障害は、すぐに甲状腺ホルモンを補充しても、充分な身長のキャッチアップが得られません。(第58回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅡ 小児の甲状腺疾患)(Eur J Pediatr. 1996 May;155(5):362-7.)
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の種類
- 甲状腺形成障害(約40%) [無形成3%、低形成16%、異所性22%];一部[PAX8、Nkx2.1(TTF-1)、FOXE1(TTF-2)]を除き、原因遺伝子異常を同定できることは少ない
- 甲状腺ホルモン合成障害(50%)
- 中枢性甲状腺機能低下症(1%)
- TSH受容体の不活性型変異(1%)
- アラン・ハーンドン・ダッドリー症候群(稀)
- SBP2遺伝子異常症 (稀)
一過性(10%);コントロール不良・未治療の甲状腺機能亢進症/バセドウ病の母親から生まれた場合(新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症)など
新生児呼吸窮迫症候群(NRDS:Neonatal respiratory distress syndrome)は早産・低出生体重児において、界面活性剤である肺サーファクタント欠乏が原因で発症します。妊娠(在胎)34 週頃、II型肺上皮細胞から分泌される肺サーファクタントの作用で、出生後に肺胞が膨らみます。
甲状腺ホルモンは、肺サーファクタントの産生と分泌に影響を与え、胎児における視床下部-下垂体軸の機能低下は肺サーファクタント欠乏に繋がります。[Pediatr Rep. 2022 Nov 10;14(4):497-504.][Cureus. 2021 Aug 13;13(8):e17159.]
マイクロバブルテストは、肺サーファクタント欠乏を調べるもので、「出生直後の胃内容物を採取してピペットで吸排して泡立てる。その後4 分間静置して、顕微鏡で1 mm2 あたりの直径15μm 未満の泡の数をカウントする」。肺サーファクタント欠乏では泡立ちが悪く、羊水では5 個/mm2 、胃液では10 個/mm2 未満になります。
小児がんの治療成績は飛躍的に伸びており、2016年での5年生存率は80%を超えています。同時に、小児がん長期生存者(Childhood cancer survivors)では、抗がん剤・放射線療法を受けた影響が出てきます。
小児がん長期生存者の
- ほぼ半数が少なくとも1つ
- 16.7%が少なくとも2つ
- 6.6%が3つ以上
の内分泌異常を来します。
小児がん長期生存者では、特に甲状腺疾患の危険率が増加します。
- 原発性甲状腺機能低下症(危険率[HR]、6.6)
- 甲状腺機能亢進症(HR、1.8)
- 甲状腺結節(HR、6.3)
- 甲状腺癌(HR、9.2)
- 成長ホルモン欠乏症(HR、5.3);特に頭蓋(脳)に放射線照射後
- 肥満(相対的リスク、1.8)
- 糖尿病(相対的リスク、1.9)
- 高リスク療法を受けた女性は、早期卵巣不全のリスクが6倍
- 20g /m2以上のシクロホスファミドまたは20Gy以上の精巣照射を受けた男性は、テストステロン治療を必要とする精巣機能不全になりやすい
- 小児がん長期生存者は、軽い癌治療しか受けていなくても、兄弟姉妹と比較して、全ての甲状腺疾患および糖尿病のリスクが増加
(J Clin Oncol. 2016 Sep 20;34(27):3240-7.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。