萎縮性甲状腺炎・甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行・橋本病(慢性甲状腺炎)との鑑別[甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)ゆるキャラ 甲Joう君 (動脈硬化した血管に甲状腺が!バセドウ病の甲状腺がモデル)
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Summary
最初からTSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)しかなければ、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺に結合できず甲状腺機能低下症になる(萎縮性甲状腺炎)。橋本病の破壊抗体が合併しなければ超音波エコー画像で甲状腺内部は正常そのもの、サイズだけ萎縮。萎縮性甲状腺炎はTSBAb変動により病勢変化、TSBAb陰性化すれば甲状腺機能正常化、TSBAb値が高いほど甲状腺機能低下、TSBAb値低下すると甲状腺機能改善。TRAb、TSAb陰性でもTSBAbのみ単独陽性の場合がある。TSH受容体の不活性型変異、先天的な甲状腺低形成と鑑別。
Keywords
TSBAb,甲状腺,甲状腺機能低下症,萎縮性甲状腺炎,橋本病,超音波,甲状腺刺激阻害抗体,TSH受容体不活性型変異,TRAb,TSAb
TSHレセプター抗体(TSH Receptor Antibody:TRAb)には、
の3種類が存在します。
最初からTSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)しか存在しない場合、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺に結合できず、甲状腺機能低下症になります(萎縮性甲状腺炎)。
思春期後に発症した萎縮性甲状腺炎患者の約60%で、TSBAbが陽性だったとされます(Clin Endocrinol. 1995;43:465-71.)。筆者の推測では、TSBAb測定キットにおける感度の問題、TSH受容体の不活性型変異や先天的な甲状腺低形成が混ざっている可能性を考えます。
橋本病の破壊抗体[抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)]が合併しなければ、超音波(エコー)画像での甲状腺内部は正常そのもの、サイズだけが萎縮。
萎縮性甲状腺炎では、TSBAbの変動により病勢が変化します
- TSBAbが陰性化し甲状腺機能が正常化する例も報告されている(J Thyroid Res. 2012;2012:182176.)
- TSBAb値が高いほど甲状腺機能は低下し、TSBAb値が低下すると甲状腺機能は改善する(Clin Exp Immunol. 2017;189:304-9.)
TRAb(ECLIA)、TSAb陰性でTSBAbのみ単独陽性になる場合があります。TRAb(ECLIA)がTSBAbの代用にならないなら、TSBAb自体を測定しない事には診断できません(保険適応外で、患者本人への治療法が変わる訳ではありませんが)。
TRAb(ECLIA)、TSAb陰性でTSBAbのみ単独陽性の妊婦が出産したら
TRAb(ECLIA)、TSAb陰性でTSBAbのみ単独陽性の妊婦が出産したら、新生児の体内には母体のTSBAbが残っています。母体から来たTSBAbが新生児の甲状腺をブロックするため、新生児甲状腺機能低下症をおこし、クレチン症と間違われる場合があります。しかし、TSBAbはやがて消滅し、新生児甲状腺機能は正常化するため、新生児一過性甲状腺機能低下症だった事になります。ここで初めて、TSBAbの存在が疑われ、母体が萎縮性甲状腺炎だったのが分かります。
甲状腺機能低下症妊婦から、新生児一過性甲状腺機能低下症の子が生まれたら、萎縮性甲状腺炎を疑いましょう!
ただ、妊娠中は母体の免疫寛容によりTSBAbは低下するので、新生児一過性甲状腺機能低下症に至らない場合も多いと考えられます。
(第53回 日本甲状腺学会 P21 TRAb 陰性にもかかわらずTSBAb 陽性となった甲状腺機能低下症の2例)
抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)いずれかが陽性で橋本病(慢性甲状腺炎)による甲状腺機能低下症と考えられていた妊婦から新生児一過性甲状腺機能低下症の子が生まれたら、少なくとも母体がTSBAbを持っていた。あるいは、橋本病(慢性甲状腺炎)による甲状腺機能低下症ではなく、萎縮性甲状腺炎によるものだった可能性もあります。[Am J Perinatol. 1989 Jul;6(3):296-303.][Endocr J. 1997 Apr;44(2):233-7.]
同一患者がTSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]; 甲状腺刺激抗体)とTSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体)両方持っていると、その比率により甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症のどちらにも傾き得るため、途中から入れ替わる場合もあります。
最初はTSBAbだけ、あるいはTSBAbがTSAbより優位で萎縮性甲状腺炎の状態でも、後からTSAbが発生あるいは比率が増加しTSBAbより優位になると、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行します。[Thyroid. 2013 Jan;23(1):14-24.]
TSBAbによる甲状腺機能低下症患者は、10年間の経過中に5.9%がTSAb増加をきたし、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行するとされます[J Thyroid Res. 2012:2012:182176.]。
防衛医科大学の報告では、最初、TSBAb 91.1%・TSAb 415%(萎縮性甲状腺炎)→TSBAb 1%・TSAb 1014%(甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行)。
(第60回 日本甲状腺学会 P1-7-5 甲状腺機能低下時にTSAb・TSBAbが共に強陽性を示し、短期間 で機能亢進に移行した一例)
TSBAbからTSAbへの切り替えは、
- 妊娠中[Endocr J. 1997 Aug;44(4):581-7.]
- 出産後[Thyroid. 1992 Spring;2(1):27-30.]
に起こることがあり、一過性の胎児・新生児甲状腺機能障害もきたします。
エコー上、萎縮のみで破壊性変化の無い甲状腺機能低下症を見つけたら、
- 萎縮性甲状腺炎
- TSH受容体不活型変異
- 先天的な甲状腺低形成(甲状腺形成障害)
のいずれかです。TSBAb自体を測定するしか、鑑別診断できません(保険適応外で、患者本人への治療法が変わる訳ではありませんが)。
橋本病(慢性甲状腺炎)の自己免疫抗体である抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)を同時に持っていると、橋本病(慢性甲状腺炎)の破壊で生じた甲状腺機能低下症なのか、萎縮性甲状腺炎による甲状腺機能低下症なのか判別が難しい。
重度の甲状腺機能低下症なのに、甲状腺超音波(エコー)検査で破壊の程度が軽ければ、萎縮性甲状腺炎を疑います。
下記は、TSH 164 μIU/mL の重度甲状腺機能低下症女性。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)・抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)ともに陽性ですが、甲状腺超音波(エコー)検査で破壊の程度は軽く不自然です。橋本病(慢性甲状腺炎)の炎症があるため、甲状腺は委縮していませんが、TRAb 15.4 IU/Lの萎縮性甲状腺炎でした。
萎縮性甲状腺炎女性が妊娠すると、TSBAbは胎盤を通り抜け、胎児の甲状腺も抑制します。
- 橋本病と同様、妊娠中は甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を補充します[管理基準は、橋本病(慢性甲状腺炎)妊娠と同じです]。甲状腺ホルモン剤(チラージンS)も胎盤を通り抜けるので、胎児の血中甲状腺ホルモンも母体とほぼ同じになります。
- 橋本病と異なるのは、
妊娠中TSBAbが変動すると、甲状腺ホルモン剤の必要量が変化する[橋本病(慢性甲状腺炎)妊娠より管理が複雑]。
妊娠中にTSBAbが減少すると、甲状腺ホルモン剤の必要量も減少する[[Thyroid. 1992 Spring;2(1):27-30.]]
まして、TSBAbが刺激型のTSAb優位に変化すると、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行するため、甲状腺ホルモン剤中止して、ヨウ化カリウム(KI)もしくは抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)に切り替えねばなりません( メルカゾール胎児奇形)。
そして出産後、またTSBAb優位の萎縮性甲状腺炎に戻れば、甲状腺ホルモン剤を再開します。[Endocr J. 1997 Aug;44(4):581-7.]
- 注意すべきは、出産後の新生児です。母体から移行したTSBAbは、出産後数か月間、新生児の血中に残るため、新生児一過性原発性甲状腺機能低下症を来します。悪い事に、母体から移行した甲状腺ホルモン剤(チラージンS)の半減期は9-10日なので(この間、TSHは正常)、生後4-6日目に行う新生児マススクリーニングでは新生児一過性原発性甲状腺機能低下症がマスクされ、すり抜けた後に発症する危険性があります。
TSBAbが消えるまでの間、新生児も甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を飲まねばなりません(通常は1年以内に終了できるとされます)。
報告によると、飲まなかった場合、TSH 700 μIU/mL に上昇したそうです。
(第60回 日本甲状腺学会 P2-7-3 出産した二児がいずれも新生児甲状腺機能低下症をきたした阻害 型TSH受容体抗体(TSBAB)陽性甲状腺機能低下症の一例
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。