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先天性・遺伝性甲状腺機能低下症   [甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 内分泌 長崎甲状腺クリニック(大阪)]

甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)

甲状腺の、長崎甲状腺クリニック(大阪市東住吉区)院長が海外論文に眼を通して得たもの、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

DUOX2遺伝子変異・TPO遺伝子変異

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遺伝性甲状腺機能低下症

Summary

遺伝性甲状腺機能低下症は常染色体優性遺伝と常染色体劣性遺伝。①甲状腺形成障害のPAX8、Nkx2.1(TTF-1)(Brain-Lung-Thyroid syndrome)、FOXE1(TTF-2)遺伝子異常症②遺伝性甲状腺ホルモン合成障害のNIS(Naヨウ素シンポーター)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)、DUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2) 遺伝子変異、ペンドレッド症候群、サイログロブリン異常症ヨード再利用障害のDEHAL1遺伝子変異④TSH受容体不活型変異⑤甲状腺ホルモントランスポーター(MCT8)異常のアラン・ハーンドン・ダッドリー症候群などがある。

Keywords

遺伝性甲状腺機能低下症,常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝,甲状腺ホルモン,合成障害,NIS,甲状腺ペルオキシダーゼ,ペンドレッド症候群,サイログロブリン異常症,TSH受容体不活型変異

遺伝性甲状腺機能低下症の遺伝形式

常染色体劣性遺伝 クレチン症

遺伝性甲状腺機能低下症の遺伝形式は、例外を除き、常染色体優性遺伝と、常染色体劣性遺伝の2つがあります。

常染色体優性遺伝は、先天性甲状腺機能低下症の原因となる遺伝子を、両親いずれかから1個受け継ぎます。2本1組の染色体の片方だけの異常のため軽症で、原則、生下時に発症することは無いです(ヘテロ複合型は例外)。大抵は、成人以降に発症する場合が多いです。

常染色体劣性遺伝は、先天性甲状腺機能低下症の原因となる遺伝子を、両親から1個ずつ受け継ぎます(特に、いとこ婚、血族婚で起きやすい)。2本1組の染色体の両方の異常のため重症で、生下時に発症します(NIS(Naヨウ素シンポーター)遺伝子異常症・DUOX2遺伝子変異・ペンドレッド症候群・サイログロブリン異常症などは例外)。

遺伝性甲状腺機能低下症の種類

甲状腺形成障害

先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の内、甲状腺形成障害の割合は約40%)です[無形成3%、低形成16%、異所性22%]。

甲状腺形成障害で遺伝性があり、遺伝子異常が見つかっているものはわずかです。下記に示す遺伝子異常以外は、遺伝性に乏しいとされます。女児に多く、奇形を伴う事も多いです。

PAX8遺伝子異常症

PAX8遺伝子異常症は、常染色体優性遺伝で日本でも家系は見つかっています。PAX8は、甲状腺ホルモンを作る濾胞細胞の増殖・分化に必要な甲状腺特異的転写因子です。PAX8遺伝子異常により

  1. 甲状腺機能低下症
  2. 非常に小型の濾胞細胞増殖により腺腫様甲状腺腫の形態ですが、甲状腺のサイズは大きくなりません。

慶應義塾大学で発見されたPAX8 変異陽性甲状腺機能低下症の国際的に最も規模の多い家系(新規PAX8 変異p.G56Sヘテロ接合性)では、

  1. 不完全浸透により変異遺伝子を持っていても必ずしも発症しない
  2. 新生児マススクリーニングで発見される場合、著明な高サイログロブリン血症を呈する場合がある。

との事です。(第56回 日本甲状腺学会 P1-030 PAX8 変異陽性甲状腺機能低下症の世界最大家系:甲状腺表現型の多様性)

Nkx2.1(TTF-1)遺伝子異常症(Brain-Lung-Thyroid syndrome)

Nkx2.1は甲状腺特異的転写調節因子-1(Thyroid-specific transcription factor-1;TTF-1, TITF1)とも呼ばれ,甲状腺ホルモン合成するサイログロブリン遺伝子のエンハンサーに結合する転写因子です。 Nkx2.1(TTF-1)は甲状腺だけでなく,肺や脳(大脳基底核)でも重要な役割を果たします。

Nkx2.1(TTF-1)遺伝子異常症(Brain-Lung-Thyroid syndrome)は、

  1. 甲状腺機能低下症・甲状腺腫を起こさない(甲状腺サイズ小さい)
  2. 生下時からの呼吸ひっ迫症候群(ARDS)・反復する下気道感染
  3. 良性遺伝性舞踏病

FOXE1(TTF-2)遺伝子異常症

甲状腺特異的な転写因子の一つであるFOXE1(TTF-2)遺伝子異常症が報告されています。甲状腺腫を来さないのが特徴です。

遺伝性甲状腺ホルモン合成障害

遺伝性甲状腺ホルモン合成障害で、サイログロブリン異常症以外は、血中サイログロブリンが上昇するにも関わらず、甲状腺自体の破壊性変化に乏しく、マシュマロ様の軟らかい腺腫様甲状腺腫の形態を取る事があります。

あくまで仮説ですが、甲状腺ホルモン合成障害で血中サイログロブリンが上昇すると、それに対する抗サイログロブリン抗体産生が誘発され、橋本病が起こり易くなる可能性が考えられます。(第55回 日本甲状腺学会 P2-01-10 TSH 遅発上昇により新生児マススクリーニングをすり抜けた複合ヘテロ接合性DUOX2 異常症に橋本病を合併した女児例)

NIS(Naヨウ素シンポーター)遺伝子異常症(ヨード取り込み障害・ヨード濃縮障害)

NIS(ナトリウムヨードシンポーター or Naヨウ素シンポーター)遺伝子異常症は、甲状腺ホルモン合成を担う甲状腺濾胞細胞内に能動的にヨードを取り込む細胞膜イオンチャンネル[NIS(ナトリウムヨードシンポーター)]の異常です。ヨードを取り込めないため、ヨード濃縮障害による甲状腺機能低下症が起こります。NIS(ナトリウムヨードシンポーター)は甲状腺、唾液腺、胃底腺、授乳中の乳腺などに分布します。

NIS遺伝子異常症

99mTcシンチグラフィーでは、甲状腺の取り込みが低いのに加え、唾液腺にも取り込まないのが特徴です。甲状腺の取り込みが、かなり低いので甲状腺無形成と誤認される事あります。

甲状腺無形成は、唾液腺に取り込みあるため鑑別可能。そもそも甲状腺超音波(エコー)検査をしていれば、甲状腺無形成でないのは一目瞭然ですが・・。それよりも、先天性甲状腺機能低下症が疑われ、特に下記の理由でNIS(ナトリウムヨードシンポーター)遺伝子異常症が強く疑われない限り、甲状腺中毒症バセドウ病無痛性甲状腺炎)でしか保険適応が認められない99mTcシンチグラフィーをする事はありません(自費で10万円以上掛かりまっせ)。

NIS(ナトリウムヨードシンポーター)遺伝子異常症は、ヨード制限で甲状腺機能低下症が悪化する点、橋本病による甲状腺機能低下症と異なります。

NIS(ナトリウムヨードシンポーター)遺伝子異常症の母親は、授乳中の乳腺にもヨードが取り込まれず、乳汁中のヨード濃度が低くなるため、甲状腺ホルモン剤に加えKI (50mg)丸(ヨード含量38.5mg)を併用します。KI 何錠飲めば良いかと言う基準は存在しません。乳汁中のヨード濃度を測定して調節するしかありませんが、ヨード測定は日本の検査センターでは行っていません(保険点数が低く測定すれば赤字になるため)。

NIS(Naヨウ素シンポーター)遺伝子異常症にヨード(ヨウ素)制限行ったら

NIS(Naヨウ素シンポーター)遺伝子異常症と気が付かず(あるいは、他の遺伝性甲状腺ホルモン合成障害でも同じと思いますが)、橋本病と勘違いしてヨード(ヨウ素)制限行ったらどうなるでしょう?

  1. 甲状腺機能低下症が悪化
  2. 腺腫様甲状腺腫が悪化[甲状腺重量増加、血清サイログロブリン値上昇(サイログロブリン(遺伝子)異常症では上昇しない)]

なので、橋本病ではなく、遺伝性甲状腺ホルモン合成障害である事に気付きます。(第59回 日本甲状腺学会 P3-6-2 高齢で見いだされたNIS 遺伝子異常症(ヨード濃縮障害)患者へのヨウ素制限,L-thyroxine 投与の試み)

甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)遺伝子変異

腺腫様甲状腺腫(先天性甲状腺機能低下症)

甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)遺伝子変異は、最も有名な甲状腺ホルモン合成異常です。

甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)遺伝子変異は、①酵素活性欠失と②細胞内輸送障害の2通りの可能性あります。

他の甲状腺ホルモン合成異常と同じく、マシュマロ様の軟らかい腺腫様甲状腺腫の形態を取ります。しかし、サイログロブリン遺伝子異常と異なり、癌の発生は稀で、過去に1例の報告のみです。

DUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異

DUOX2遺伝子変異

DUOX2(Dual oxidase 2)またはThyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異は、最も頻度の高い甲状腺ホルモン合成障害です。DUOX2遺伝子変異は、常染色体優性遺伝性(ヘテロ型)/劣性遺伝性(ホモ型)の、甲状腺細胞濾胞面に存在するDUOX2異常による過酸化水素供給障害です。過酸化水素は、甲状腺ホルモン合成において無機ヨードを有機化する際に必要です。

DUOX2遺伝子変異は、軽症甲状腺機能低下症が多く、ホモ接合体(常染色体劣性遺伝)であっても軽症です(J Clin Endocrinol Metab, 2008, 93(11):4261–4267)。また、甲状腺ホルモン必要量が低下する幼児期以降に甲状腺機能が改善することも報告されています。

常染色体優性遺伝(ヘテロ型)の場合、さらに軽症で甲状腺機能低下症になりません。(一部は優性遺伝でも先天性甲状腺機能低下症を呈する事があります。下記の複合ヘテロ接合性DUOX2 異常症です。) 成人になって、甲状腺機能正常、サイログロブリン高値、甲状腺自己抗体(TgAb・TPOAb)陰性の軟らかい腺腫様甲状腺腫で見つかる事があり、パークロレート放出試験、遺伝子診断[c.3478-3480delCTG(p.L1160del)など]で確定します。家族性腺腫様甲状腺腫 と鑑別要。

複合ヘテロ接合性DUOX2 異常症

複合ヘテロ接合性DUOX2 異常症[E327X]+[H678R]は、例外的に重度の先天性甲状腺機能低下症を来すと報告されています。(第55回 日本甲状腺学会 P2-01-10 TSH 遅発上昇により新生児マススクリーニングをすり抜けた複合ヘテロ接合性DUOX2 異常症に橋本病を合併した女児例)

原因不明の一過性新生児甲状腺機能低下症の半数はDUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異

原因不明の一過性新生児甲状腺機能低下症の半数はDUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異との報告があります。

新生児マススクリーニングで見つかり、精査時、1回目TSH >50 IU/ml、2回目 TSH <10 IU/ml と、一過性新生児甲状腺機能低下症の内、

  1. 甲状腺低形成、異所性甲状腺
  2. 母体がヨード過剰摂取
  3. 母体が甲状腺疾患(①出産後甲状腺機能亢進症/バセドウ病と判明、②萎縮性甲状腺炎妊娠中チラーヂン飲んでいた)

を除外した約半数が、DUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異だったそうです。複合ヘテロ変異 3名(H678R/S965L, K638RfsX11/c.2654G>T, R1110Q/G624AfsX15)、ヘテロ変異1名(H678R)

(第53回 日本甲状腺学会 P23 一過性甲状腺機能低下症におけるDUOX2 遺伝子解析の検討)

一過性甲状腺機能低下症のDUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異はチラーヂン中止すべきか?

一過性甲状腺機能低下症と判断され、新生児期、幼児期以降にチラーヂン中止したDUOX2(Dual oxidase 2) or Thyroid oxidase 2(THOX2)遺伝子変異は、片アリル性(ヘテロ接合性変異)であれ両アリル性(ホモ接合性変異)であれ、成人期に甲状腺機能正常ながら腺腫様甲状腺腫の形態になる危険性が報告されています。(第60回 日本甲状腺学会O9-1 成人のDUOX2遺伝子異常症における甲状腺腫大について)(Thyroid. 2008 May;18(5):561-6.)

Dual oxidase maturation factor 2 (DUOXA2)遺伝子変異

Dual oxidase maturation factor 2 (DUOXA2)遺伝子変異が、日本でも見つかりました。(第58回 日本甲状腺学会 O-1-7 本邦初のDUOXA2変異による先天性甲状腺機能低下症の1例)

DUOX1, 2とDUOXA1, 2は、4通りの2量体を形成します。たとえDUOXA2の活性が低くても、(DUOX1, DUOXA1)あるいは(DUOX2, DUOXA1)が過酸化水素を供給できるので、甲状腺機能低下症は軽症で済むのです。

ペンドレッド症候群(Pendred症候群)

ペンドレッド症候群

ペンドレッド症候群は、甲状腺に取り込んだヨードを甲状腺濾胞細胞の中で輸送するタンパク質;ペンドリンの異常で、常染色体劣性遺伝(homo型)の時(1万人に1人)のみ発症し、

  1. 重度感音声難聴;CT またはMRI による側頭骨異常の診断(両側前庭水管拡大、蝸牛低形成)
  2. 軽度甲状腺機能低下症・あるいは甲状腺腫(約50%)のみ

が起こります。常染色体優性遺伝(hetero型)では、症状皆無です。

遺伝子検査で、約50%にSLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)変異が認められます(Eur J Endocrinol. 2015 Feb;172(2):217-26.)。FOXI1遺伝子(患者の1%以下)とKCNJ10遺伝子の変異も報告されていますが、少数です(BMC Med Genet. 2013 Aug 21;14:85. )。

コルチ器と甲状腺

コルチ器と血管条の細胞内のカリウムイオンの流れ(K+サイクル)により聴力が発生します。甲状腺ホルモン受容体(TRβ)は、血管条に沿って存在し、K+サイクルに関与すると考えられています(Hum Mol Genet. 2001 Nov 1;10(23):2701-8.)。

蝸牛管の赤い部分が血管条(図;看護rooより改変)

ペンドレッド症候群 前庭水管 CT画像

ペンドレッド症候群 蝸牛頂 CT画像;のう胞化した蝸牛頂(EPOS DOI: 10.1594/ecr2015/C-0414)

ペンドレッド症候群 前庭水管 CT画像

ペンドレッド症候群 前庭水管 CT画像;両側前庭水管拡大(EPOS DOI: 10.1594/ecr2015/C-0414)

甲状腺機能低下症は軽度なため、腺腫様甲状腺腫の状態でもパークロレート放出試験は陰性になる事あります。(第60回 日本甲状腺学会 P1-10-3 Pendrin遺伝子にgermlineの片アレル変異を認めたPendred症候群の1例)

非常に稀で、原因も不明ですが、ペンドレッド症候群に甲状腺機能亢進症をおこした症例が報告されています。(第58回 日本甲状腺学会 P2-12-1 甲状腺機能亢進症を合併したPendred症候群の1例)

また、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性で、橋本病(慢性甲状腺炎)が合併しており、ペンドレッド症候群と気付かれていない場合が多く存在すると予測されます。(第53回 日本甲状腺学会 P32 新規変異が認められたPendred症候群の一例)

サイログロブリン(遺伝子)異常症

サイログロブリン(遺伝子)異常症とは

サイログロブリン(遺伝子)異常症は、濾胞細胞で異常な構造のサイログロブリンが作られ、濾胞細胞内に蓄積されたまま、濾胞腔内へ分泌できないため、甲状腺ホルモン合成に支障をきたします。

  1. (ヨード有機化以降の障害なので)ヨード有機化障害を認めず、パークロレート投与にてヨードの放出を認めません
  2. 血液中のサイログロブリンが低くなる

のが他の遺伝性甲状腺機能低下症と異なります。

サイログロブリン異常症では癌の合併頻度が高く、手術例の癌合併例は約40%で、ほとんどが甲状腺乳頭癌です。乳児期早期よりチラージンで治療されないと、腺腫様甲状腺腫(軟らかくマシュマロ様)になり、癌が発生します。癌組織には活性型BRAF変異が認められます。癌だけ切除しても、残存甲状腺が癌化するので、全摘術が推奨されます 。(エコー・病理写真:隈病院 第10回神戸甲状腺診断セミナーより提供)

サイログロブリン(遺伝子)異常症 機序
サイログロブリン異常症 超音波(エコー)像
サイログロブリン(遺伝子)異常症 腺腫様結節

サイログロブリン異常症の組織を見ると、ふぞろいな大きさの濾胞内にコロイドが充満していないのが判ります。

免疫染色では、濾胞細胞内の小胞体に分泌できず異常蓄積したサイログロブリン(小胞体貯蔵病)が褐色に染色されます。

サイログロブリン異常症 病理組織
サイログロブリン異常症 免疫染色

サイログロブリン異常症の遺伝子変異

日本では主に3種類のサイログロブリン遺伝子変異が多いです。

  1. アミノ酸C1058R変異;四国に限定
  2. アミノ酸C1245R変異;日本全国に
  3. アミノ酸C1977S変異;近畿地方に限定

片側の染色体(片側アリル)に2か所遺伝子変異を認める重症型サイログロブリン(TG)遺伝子異常の家系

常染色体優性遺伝のサイログロブリン(TG)遺伝子異常は、成長・成人に伴い現れる緩徐なものです。しかし、

  1. 両側の染色体(両側アリル)に遺伝子変異を認める常染色体劣性遺伝型
  2. 常染色体優性遺伝型でも、片側の染色体(片側アリル)に2か所遺伝子変異を認める重症型サイログロブリン(TG)遺伝子異常

では、生下時から甲状腺機能低下症で新生児マススクリーニングで見つけられます。

1.については、半数近くは軽症の甲状腺機能低下症で、日本人のヨウ素摂取が多いため、甲状腺ホルモン合成障害を補割れるためと考えられます。

2.については、宮崎大学がIle1912Val(hetero)/Tyr2621X(hetero)とサイログロブリン(TG)遺伝子の重複変異を報告しています。(第57回 日本甲状腺学会 P1-051 サイログロブリン(TG)遺伝子の片側アリルに重複変異を認め先天性甲状腺機能低下症を呈した1 家系)

サイログロブリン(遺伝子)異常症に、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併

サイログロブリン(遺伝子)異常症に、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併すると、

  1. 甲状腺の破壊によりサイログロブリンは高値
  2. 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性ならサイログロブリンは低値
  3. 橋本病(慢性甲状腺炎)による腺腫様甲状腺腫の様に見える

いずれにせよサイログロブリン(遺伝子)異常症の存在に気が付かないでしょう。

DEHAL1(Iodotyrosine dehalogenase 1)遺伝子変異

DEHAL1(Iodotyrosine dehalogenase 1)は、甲状腺ホルモン合成に利用されなかった過剰なMIT(ヨードが1個のモノヨードチロシン)、DIT(ヨードが2個のジヨードチロシン)を脱ヨード化し、ヨードを再利用させる細胞膜酵素です。DEHAL1 の発現調節機構は未だ不明な点が多いです。(FASEB J. 2004 Oct;18(13):1574-6.)

DEHAL1遺伝子変異により先天性甲状腺機能低下症を発症します。ただし、生下時の甲状腺機能は正常で、新生児マススクリーニングをすり抜け、幼少期以降に著明な甲状腺腫を伴う甲状腺機能低下症で見つかります(N Engl J Med. 2008 Apr24;358(17):1811-8.)

TSH受容体不活型変異

TSH受容体不活型変異は、TSH受容体(TSHR)遺伝子の異常で、遺伝性甲状腺機能低下症の1%を占めます。上記の甲状腺ホルモン合成障害と同じく、両方の染色体に異常があるホモ接合型は重症甲状腺機能低下症で、新生児マススクリーニングで見つかります。片方の染色体に異常があるヘテロ接合型は軽症甲状腺機能低下症で、新生児マススクリーニングで見つからず、幼児~成人発症になります(J Clin Endocrinol Metab. 2009 Apr;94(4):1317-23.)。当然、橋本病の抗体陰性、エコー上、破壊性変化に乏しく、萎縮性甲状腺炎と同じに見えますが、TR-Ab(TSHレセプター抗体/TSB-Ab(TSHレセプター抗体[阻害型])が陰性であり区別できます。

R450H(p.Arg450His)は、日本のTSH受容体不活型変異で高頻度に認められる遺伝子変異です(Thyroid. 2001 Jun;11(6):551-9.)。

報告例の遺伝子変異はp.Arg450His(ヘテロ接合型)(第54回 日本甲状腺学会 O-3-1 新生児マススクリーニングで異常の認められなかった非自己免疫性甲状腺機能低下症の一兄弟例)

TSH受容体不活性型変異 超音波(エコー)画像

TSH受容体不活性型変異 超音波(エコー)画像;甲状腺は萎縮しており、左葉には単純性のう胞がある。それ以外の実質は、等エコー、均一で破壊性変化は皆無であす。

甲状腺専門医以外は知らなくて良い非古典型TSH 不応症

あまりにもマニアックで甲状腺専門医以外は知らなくて良い非古典型TSH不応症が存在します。奇異性123I 摂取率高値を認める両アリル性TSHR(TSH受容体)変異です。世界で10例も報告されていない様です。昭和大学・慶應義塾大学が、その1例を報告しています。

TSH受容体変異患者の大半は、TSHに反応が悪いため、123I 摂取率は低値から正常値を示します。例外的に、123I 摂取率高値のTSH受容体変異患者が極まれに存在し、非古典型TSH 不応症と呼ばれます。

昭和大学・慶應義塾大学の報告例は、新生児マススクリーニングから先天性甲状腺機能低下症(CH)と診断され、甲状腺ホルモン剤(LT4)補充療法を受けており、甲状腺ホルモン剤休薬時のTSH 68.49 mU/L、FT4 1.1ng/dL、甲状腺サイズ(超音波)-1.4 SD、123I 摂取率(24 時間値)60.16 %(基準値8-40)、パークロレイト放出率57.09 %。TSH受容体の両アリルに既報の異なる変異をそれぞれヘテロ接合性に同定(p.Arg109Gln/Arg450His)。

TSH受容体に変異があるのに123I 摂取率が高値の不思議な病態です。非古典型TSH 不応症ではGs 活性化能とGq 活性化能が不均衡である変異(Arg450His またはLeu653Val)を少なくとも1 アリル有するのが条件との事です。(第57回 日本甲状腺学会 O5-4 奇異性123I 摂取率高値を認めた両アリル性TSHR 変異の一男児例:世界で5 例目の非古典型TSH 不応症)(Clin Pediatr Endocrinol. 2018;27(3):123-130.)

Iodothyrosine deiodinase遺伝子異常

Iodothyrosine deiodinase遺伝子異常(SBP2遺伝子異常症)も甲状腺腫性の先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)を発症します。

新しく見つかったアラン・ハーンドン・ダッドリー症候群

男性にのみ発症(X連鎖性遺伝)、精神発達遅滞をおこすアラン・ハーンドン・ダッドリー症候群(AHDS)は、脳細胞内に甲状腺ホルモンを取り込む甲状腺ホルモントランスポーター[Monocarboxylate transporter 8(MCT8)]の異常です。胎内発育・生下時問題なく、新生児マススクリーニングをすり抜け、一般的な先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)より

  1. 甲状腺機能低下症・成長障害が軽度(成長軟骨などのMCT10は無事のため)
  2. 精神発達遅滞は重度、てんかんの合併多い

が特徴。血液検査も特徴的で、

  1. FT3 増加
  2. FT4 減少
  3. 正常ないし軽度のTSH増加
  4. rT3(リバースT3)減少[保険適応外]
[Am J Hum Genet.2004 Jan;74(1):168-175.][Lancet. 2004 Oct 16-22;364(9443):1435-1437.]

複合型遺伝子変異「Pathway Burden 仮説」

最近新しく提唱された、複合型遺伝子変異「Pathway Burden 仮説」があります。先天性甲状腺機能低下症のうち、甲状腺ホルモン合成障害では、片アリル性変異(父母から片方ずつ来る遺伝子の変異)の重積により軽症先天性甲状腺機能低下症を来すと言うものです。新潟大学医歯学総合病院が、SLC26A4(ペンドレッド症候群患者の約半数に認める遺伝子異常)とDUOX2 のヘテロ接合性変異による甲状腺ホルモン合成障害による先天性甲状腺機能低下症を報告しています。(第56回 日本甲状腺学会 O3-3 SLC26A4とDUOX2のヘテロ接合性変異を認めた甲状腺ホルモン合成障害による先天性甲状腺機能低下症の1例)

遺伝性甲状腺機能低下症の発がん

甲状腺ホルモン合成障害では、思春期以降に甲状腺腫から甲状腺癌の発生が報告されています。TSH刺激が続く事により、癌細胞が成長するためと考えられています(J Clin Endocrinol Metab  11:1281–1295.)。

  1. 最も高頻度なのはサイログロブリン(遺伝子)異常症;約50%に甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌甲状腺濾胞癌)(J Clin Endocrinol Metab  91:740–746.)
  2. SLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)変異[ペンドレッド症候群(Pendred症候群)];約1%に甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌甲状腺濾胞癌)、正常なSLC26A4遺伝子(PDS遺伝子)は発癌を抑える働きがある様です。(J Clin Endocrinol Metab. 2005 May;90(5):3028-35.)(Cancer Res. 2003 May 1;63(9):2312-5.)
  3. 甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)遺伝子変異(発癌は稀)(Thyroid. 2012 May;22(5):542-6.)

遺伝性甲状腺機能低下症の超音波(エコー)検査

遺伝性甲状腺ホルモン合成障害

遺伝性甲状腺ホルモン合成障害の超音波(エコー)画像は色々なパターンがあります。

  1. 常染色体優性遺伝型;腺腫様甲状腺腫の形態になります。
  2. 常染色体劣性遺伝型;新生児マススクリーニングで見つかり、適切に治療された場合、甲状腺サイズは正常、内部は極めて低エコーで、甲状腺ホルモンをほとんど作っていないのが分かります。
腺腫様甲状腺腫(先天性甲状腺機能低下症)

腺腫様甲状腺腫(先天性甲状腺機能低下症)

先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)

先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)

橋本病(慢性甲状腺炎)に遺伝性甲状腺ホルモン合成障害の軽症例を合併

橋本病(慢性甲状腺炎)を合併すると、遺伝性甲状腺ホルモン合成障害の軽症例がマスクされ、あたかも甲状腺機能正常橋本病による家族性腺腫様甲状腺腫のように見えます(橋本病も約70%遺伝です)。

遺伝性甲状腺機能低下症の治療

遺伝性甲状腺機能低下症の治療は、通常の甲状腺機能低下症と同じです。TSHが正常範囲に入るように、補充する甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の量を調節します。

甲状腺形成障害の内、甲状腺無形成は、甲状腺全摘出後と同様です。甲状腺から直接分泌されるT3がゼロになる点が、通常と異なります。甲状腺全摘出後は、TSH、FT4よりもFT3が身体症状を強く反映するとされ、FT3を基準にして補充する甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の量を調節する場合があります。
(第55回 日本甲状腺学会 O-03-02 甲状腺全摘出術後LT4服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)
(第57回 日本甲状腺学会 O7-4 甲状腺全摘術後レボチロキシン服用患者の甲状腺機能と身体症状の関連についての検討)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療     長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)

甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)専門医・動脈硬化・内分泌・糖尿病の長崎クリニック(大阪市東住吉区)(近く に平野区、住吉区、阿倍野区、松原市)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]・動脈硬化・内分泌の大阪市東住吉区のクリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪市東住吉区鷹合2-1-16

アクセス

  • 近鉄「針中野駅」 徒歩2分
  • 大阪メトロ 谷町線「駒川中野駅」
    徒歩10分
  • 阪神高速14号松原線 「駒川IC」から720m

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