甲状腺と腎臓 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 内分泌 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は、甲状腺専門クリニックです。腎臓の病気の治療は行っておりません。
Summary
慢性腎臓病(CKD)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症で悪化。CKDは①潜在性/顕在性甲状腺機能低下症に症状が類似しマスクされ、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、高齢者他、極端に筋肉量の少ない人のeGFRは過大評価に②ヨード排泄不全による甲状腺破壊・ウォルフチャイコフ効果で甲状腺機能低下症に③尿毒症状態・ステロイドなどで中枢性甲状腺機能低下症④低T3症候群の複雑な病態。慢性腎臓病(CKD)の降圧目標は血圧130-80未満。CKDの早期診断・腎予後予測に用いる尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病でも増加。
Keywords
甲状腺,腎臓,慢性腎臓病,CKD,低T3症候群,甲状腺機能低下症,腎不全,L-FABP,バセドウ病,甲状腺機能亢進症
慢性腎臓病(CKD)とは

慢性腎臓病(CKD)は、
- 尿タンパクなどの腎障害(慢性腎不全・片腎・多のう胞腎など全て含む)か
- 腎臓の働き(eGFR)が健康な人の60%(eGFR60mℓ/分/1.73㎡未満)未満
が3か月以上続く状態です。
- 慢性腎臓病(CKD)では、心筋梗塞/脳梗塞の発症率が高くなります。
- 慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)のリスクファクター
一方、高血圧などの合併症がない高齢者ではGFRは60 ml/min/1.73 m2付近です。
高血圧・高尿酸血症・肥満・糖代謝異常など生活習慣病、糸球体腎炎があると輸入細動脈硬化・糸球体障害が進行し、GFR60 ml/min/1.73 m2未満になり、蛋白尿が陽性化します。不思議な事に、高脂血症にはエビデンスがありません。
慢性腎臓病(CKD)のピットフォール
甲状腺機能亢進症/バセドウ病、高齢者他、極端に筋肉量の少ない人のeGFRは過大評価になり、正確ではありません。シスタチンCを用いたeGFRcysを用いますが、保険の縛りが厳しく実用は難。
急性腎障害では腎機能が安定せず、尿細管からのクレアチニン分泌が亢進しているのでeGFRは不正確です。
尿タンパク量は、慢性腎臓病(CKD)の腎機能障害の進行と心血管障害の発症に関連します
一日尿タンパク量(g/gCr・日):成人の一日のCr排泄量は1gなので、随時尿タンパク濃度と尿Cr濃度から、一日尿タンパク量を計算できます。ただし、筋肉量の多い人はCr排泄量は2g、少ない人はCr排泄量は0.5gに補正が必要です。
慢性腎臓病(CKD)と甲状腺
慢性腎臓病(CKD)と甲状腺の関係は、
- 慢性腎臓病(CKD)では、低T3症候群の頻度も高いです。
糖尿病性腎臓病(DKD)
慢性腎臓病(CKD)の治療
早い段階での治療介入が心血管イベントの予防、腎不全進行阻止に重要です。腎不全進行のリスクファクターは貧血・蛋白尿・高血圧・腎機能障害(糸球体腎炎も)。リスクファクターの可能性あるのは低アルブミン血症・高尿酸血症・高リン血症・代謝性アシドーシス・高脂血症です(なぜか肥満は含まれない?)。もちろん甲状腺機能亢進症/バセドウ病、潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症も治療しなければなりません。
Cr(クレアチニン)>3以上になると透析の下準備が始まります。そうならないよう予防が第一です。
慢性腎臓病(CKD)の降圧療法
慢性腎臓病(CKD)の降圧目標は血圧130-80未満
- 非糖尿病/尿タンパク正常慢性腎臓病(CKD)の降圧薬は何でも良し
- 糖尿病/尿タンパク軽度以上の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)で両側腎動脈狭窄・脱水では腎不全悪化するため、1-2週間後にCr(クレアチニン)を再検査する必要があります。また既に腎不全では高カリウム血症を増悪させる可能性あり、ループ利尿薬・カリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)などを併用します。
第2選択薬はカルシウム拮抗剤、浮腫がある時は利尿薬です。
- 後期高齢者のCKDステージG3b~5(中等度~高度低下:eGFR44以下)ではレニン/アンジオテンシン系阻害薬や利尿薬による腎血流低下のリスクを避け、Ca拮抗薬を推奨(診療ガイドライン2015)
慢性腎臓病(CKD)の食事療法
CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常、CKD-mineral and bone disorder)は、慢性腎臓病(CKD)の初期の血中Ca,Pの値に変化が出る前からおきます。
慢性腎不全では、甲状腺が悪くないのに甲状腺の数値に異常がおこることがあります。代謝により生じる老廃物を増やさないため、代謝活性を持つT3合成が抑えられます(低T3症候群)(Aust N Z J Med 7: 612-616, 1977)。重症度に応じ
- 低T3症候群(low T3 syndrome)
- 低T3,T4症候群(low T3,T4 syndrome)
- 低T3,T4,TSH症候群(low T3,T4,TSH syndrome)
になります。これらのノンサイロイダルイルネス、ユウサイロイドシック症候群は、実際に治療を必要とする甲状腺機能低下症との鑑別に苦慮することが多いです。通常のノンサイロイダルイルネスならリバース トリヨードサイロニン(rT3)は高値で、鑑別の指標となりますが、腎不全では上昇しません。
慢性腎臓病(CKD)と甲状腺機能低下症の合併
慢性腎臓病(CKD)では、潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症が多く、甲状腺ホルモン補充による甲状腺機能の正常化にともない慢性腎臓病(CKD)も改善します。
慢性腎臓病(CKD)の臨床症状にマスクされる甲状腺機能低下症
慢性腎臓病(CKD)の症状は甲状腺機能低下症に似ており(全身倦怠感、浮腫、貧血)、甲状腺機能異常を疑われない場合もあります。また、疑っても低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス、ユウサイロイドシック症候群)と診断し治療に結びつかない例があります。(第56回 日本甲状腺学会 P1-075 慢性腎臓病(CKD)の臨床症状にマスクされてしまった甲状腺機能低下症の4 例)
透析中の患者では、TSHが軽度上昇するとの報告は多い(Metab,27: 755-759, 1978.)ですが、透析前の慢性腎不全では正常範囲内とされます(Acta endocrinol,80: 237-246, 1975.)。よって、透析前のTSH上昇は、本当の甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症の可能性大で、透析中であっても軽度でないTSH上昇は本当の甲状腺機能低下症と考えてよいでしょう。
尿毒症による甲状腺機能低下症
尿毒症状態では視床下部下垂体機能異常(Nephron 43: 169-172, 1986)によるTSH分泌障害がおこります。夜間のTSHサージ(TSHが夜間どっと出る)の消失、TSHの糖化(TSHの不活性化)などです。(Indian Journal of Physiology and Pharmacology 2006 50 279–284.)
よって慢性腎不全では、TSHの実測値以上に甲状腺機能低下症状態にあると言えます。
ヨードによる甲状腺機能低下症
慢性腎臓病(CKD)では、ヨードを尿中へ捨てれなくなるため、体内ヨードが過剰になり、
- 甲状腺組織の破壊促進
- 甲状腺ホルモンの合成を抑制(ウォルフチャイコフ効果)
により、甲状腺機能低下症が起こりやすくなります。
甲状腺組織の破壊によって誘発されるのか不明ですが、甲状腺を攻撃する橋本病の自己抗体(TPO抗体とTg抗体が陽性になることがあります。
ステロイド(プレドニゾロン;PSL)による中枢性甲状腺機能低下症
ネフローゼ症候群、ループス腎炎、ANCA関連腎炎などでは、ステロイド(プレドニゾロン;PSL)投与による中枢性甲状腺機能低下症が加わり、病態を複雑化します。ステロイド(プレドニゾロン;PSL)投与後、TSHは減少していきますが、PSLを漸減していくとTSH上昇に転じます。
甲状腺ホルモンが慢性腎臓病(CKD)を防いでいる?
第61回 日本甲状腺学会の国際分子甲状腺シンポジウムで面白い講演がありました。Dr Furuyaによると甲状腺ホルモン受容体(TRα)を持つマクロファージ(免疫細胞の一つ)が、慢性腎臓病(CKD)の進展を抑えている(間質の線維化を抑えている)と言うのです。動物実験の結果ですが、人体で同じメカニズムになっているか今後の進展に興味があります。
甲状腺機能低下症/橋本病では、
- 心拍出量減少(N Engl J Med. 1977 Jan 6; 296(1):1-6.)
- 腎血管収縮(N Engl J Med. 2001 Feb 15; 344(7):501-9.);腎血管拡張因子VEGF、IGF-1の発現低下の(Clin Chem. 2004 Jan; 50(1):228-31.)
- アルブミンの血管外漏出による循環血漿量減少(Am J Med Sci. 1999 Oct;318(4):277-80.)
などに伴う腎血流低下で腎機能低下します。
糸球体濾過率(GFR)の低下には、
- β刺激作用の減少(Eur J Endocrinol. 2006 Feb; 154(2):197-212.)
- レニン-アンギオテンシン系(RAAS)活性の低下(Horm Metab Res. 1997 Nov; 29(11):580-3.)
が関与します。
(表;Indian J Endocrinol Metab. 2012 Mar-Apr; 16(2) 204–213.)
慢性腎臓病(CKD)で甲状腺機能亢進症/バセドウ病悪化
慢性腎臓病(CKD)は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で悪化します。過剰な甲状腺ホルモンの影響で、腎血流が異常に増え、収縮期血圧も高くなり、腎血管・糸球体に過剰な負担がかかります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)高値
慢性腎臓病(CKD)の早期診断および腎予後の予測に使われる尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)。尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)は尿細管に、血流障害や酸化ストレスが掛かると上昇します。(Club SRLより)
しかし、甲状腺機能亢進症/バセドウ病などの甲状腺中毒症では、筋組織が分解され血清クレアチニン(Cr)は低値になるが、甲状腺ホルモン上昇の影響を受け尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)は高値になります。甲状腺ホルモンが正常化すると尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)も低下します。
(第61回 日本甲状腺学会 O24-3 甲状腺中毒症における尿L-FABP測定の長期的な臨床的意義)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の循環血液量増加に伴う尿細管の血流増加により、血流障害や酸化ストレスは考え難く、尿細管の代謝亢進により尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)が増加すると考えられます。
よって、甲状腺機能亢進症/バセドウ病など甲状腺中毒症状態での尿肝臓型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)上昇は慢性腎臓病(CKD)の診断に不適切です。
MPO-ANCA関連血管炎 を御覧下さい。
腎臓癌と甲状腺 を御覧ください。
甲状腺とヨード造影剤腎症 を御覧ください。
橋本病(慢性甲状腺炎)に血尿(尿沈渣で赤血球5 個以上/HPF)、蛋白尿、または腎障害を合併した患者の内訳は
- 膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)(20%)
- 巣状糸球体硬化症(巣状分節性糸球体硬化症;FSGS)(20%)
- IgA腎症(15%)
- 慢性糸球体腎炎(15%)
- 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)(10%)
- アミロイドーシス(5%)
- 診断付かず(15%)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2012 May; 76(5):759-62.)
それ以外に症例報告では、ANCA関連腎炎(Clin Exp Nephrol (2000) 4:335–40.10.1007/s101570070011)との合併があります。
橋本病(慢性甲状腺炎)は頻度が高い病気なので、当然、偶然の合併もあります。しかし、一般人口で考えると最も多いのはIgA腎症、慢性糸球体腎炎で、ネフローゼ症候群の数がそれを上回るなどあり得ない事です。また、アミロイドーシスは、ほとんどお目に掛かれません。何らかの自己免疫機序が関与していると考えられます。
橋本病(慢性甲状腺炎)に腎炎が合併する機序として、
- サイログロブリン(Tg)―抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)複合体の糸球体への沈着
- 糸球体に沈着したサイログロブリン(Tg)への免疫反応
[N Engl J Med. 1981 May 14;304(20):1212-5.] - Megalin (gp330) ;メガリンはTSH依存性に甲状腺濾胞細胞上に発現する巨大な糖タンパク質受容体で、腎近位尿細管細胞にも発現している[Physiology (Bethesda). 2012 Aug;27(4):223-36.]
- エピトープスプレディング(epitope spreading);多様な自己抗原に対する免疫応答の出現。糸球体抗原とサイログロブリン(Tg)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する免疫。[Clin Exp Immunol. 2003 Jun;132(3):401-7.]
- 抗原交差反応;糸球体抗原とサイログロブリン(Tg)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する免疫。
などが考えられています。[Front Endocrinol (Lausanne). 2017 Jun 2;8:119.]
IgA腎症とは
IgA腎症は、
- 糖尿病性腎症と異なり、顕微鏡的持続血尿が必発。
- 上気道感染(急性扁桃炎)後数日して肉眼的血尿(コーラ色の尿)を認めます。
鑑別を要する溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、感染終息後10~14 日で発症し、経過が異なります。
- 尿タンパク2g/日以上は予後不良。
- 10-80%で半月体形成性腎炎に
IgA腎症と甲状腺
IgA腎症に
- 甲状腺機能低下症/橋本病(慢性甲状腺炎)を合併(J Nephrol. 2005 Nov-Dec;18(6):773-6.)
- セリアック病、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併(World J Gastroenterol. 2003 Jun;9(6):1377-80.)[Cent Eur J Immunol. 2019;44(1):106-108.]
遺伝性腎炎;アルポート症候群(Alport症候群)と家族性良性血尿
遺伝性腎炎は、
- 家族性良性血尿:腎臓の基底膜がやや薄いのみで、腎機能はほとんど障害されません。
- アルポート症候群(Alport症候群):腎臓基底膜の膠原繊維の構造異常です。女性は軽症で、腎機能はほとんど障害されません。 男性は、生後血尿、思春期にたんぱく尿、30~40歳で人工透析に。10歳ころから難聴が始まり、完全に聴覚を失うことがあります。
男性のアルポート症候群(Alport症候群)は、腎不全・ネフローゼ・難聴となり、腎不全・透析では甲状腺機能低下症を伴うため、遺伝性で重度難聴を伴う先天性甲状腺機能低下症(ペンドレッド症候群)と似たような病態になります。
遺伝性腎炎と甲状腺
アルポート症候群(Alport症候群)の家系では、
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)の陽性率が高い
- 潜在性甲状腺機能低下症・潜在性甲状腺機能亢進症の頻度が高い
(Nephrol Dial Transplant. 1991;6(2):79-85.)
一方で、家族性良性血尿、アルポート症候群(Alport症候群)と甲状腺自己抗体に関連なしとの報告もあります(Nephrol Dial Transplant. 1992;7(11):1082-4.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。