甲状腺とむくみ(浮腫)・特発性浮腫・リンパ浮腫・血管性浮腫[橋本病 甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病のむくみ(浮腫)は①低タンパク血症(低アルブミン血症)②鉄欠乏性貧血;浸透圧が低下、血管外へ水分が出る③右心不全;特に顔面のむくみ④前脛骨粘液水腫;すねの前部皮膚がこぶの様に発赤して厚くなる。ムコ多糖類が前脛骨部の皮下にたまる⑤妊娠子宮の圧迫で下腿浮腫;妊娠しやすくなるが、過小月経のため、妊娠に気付かない⑥自己免疫性甲状腺疾患由来血管浮腫;好酸球性血管浮腫と同じ病態。甲状腺機能低下症のむくみ(浮腫)は、ムコ多糖類が皮下にたまり、指で押してもすぐに元に戻る非圧痕性浮腫(粘液水腫)。顔は粘液水腫顔貌。
Keywords
甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,むくみ,浮腫,非圧痕性浮腫,血管浮腫,橋本病,粘液水腫,甲状腺

甲状腺機能亢進症/バセドウ病におけるむくみ(浮腫)は、
- 体の糖・脂肪・タンパクが過剰に燃焼(代謝亢進)されて、または、下痢による消化吸収不良による低タンパク血症(低アルブミン血症)性浮腫。血管外へ水分が逃げ出し、血管外にたまる
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に合併する貧血による低浸透圧性浮腫。赤血球が少なく、浸透圧が低下するため、血管外へ水分が逃げ出し、血管外にたまる
- 甲状腺心臓(サイロイドハート)による右心不全で生じるむくみ(浮腫);特に顔面のむくみは右心不全の可能性が高い。体重増加し、太ったと勘違いする場合があります。
心房細動(Af)などの不整脈、急性冠症候群・心筋梗塞、心臓弁膜症, 心筋症を合併し、右心不全に加えて左心不全(両室不全)をおこすと、心性浮腫(むくみ)が生じます。両室不全では肺うっ血(肺水腫)による呼吸苦や息切れを伴います。
肺高血圧症が加わると右心不全が悪化
- 前脛骨粘液水腫:すねの前部皮膚がこぶの様に発赤して厚くなります。ムコ多糖類が前脛骨部の皮下にたまるのが原因。高弾性のため、指で押してもすぐ元に戻り、跡が残らない非圧痕性浮腫(non-pitting edema)です。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病妊娠:甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、過小月経になる一方、生理周期が長くなり卵胞が成熟するためか、妊娠しやすくなります(流産率も高くなるのですが)。過小月経のため、妊娠に気付かない事があります。妊娠子宮の圧迫により、下腿からの静脈還流が妨げられるため下腿浮腫が起こります。
- 自己免疫性甲状腺疾患由来血管浮腫
- 深部静脈血栓;バセドウ病/甲状腺機能亢進症では①凝固活性亢進[フィブリノゲン高値、凝固第8因子活性亢進、vW因子(血管内皮障害因子)活性亢進]、血栓分解する線溶系低下(プロテインS・プロテインCの分解亢進)により、深部静脈血栓が生じて下腿浮腫をおこす可能性あり。
甲状腺機能低下症のむくみ(浮腫)は、ムコ多糖類が皮下にたまって生じます(粘液水腫)。高弾性のため、指で押してもすぐ元に戻り、跡が残らない非圧痕性浮腫(non-pitting edema)です。顔のむくみは粘液水腫顔貌と呼ばれます。
下記の好酸球性血管浮腫とほぼ同じ病態です。好酸球増加を起こす内分泌異常として、副腎皮質機能低下症(アジソン病)・甲状腺機能亢進症/バセドウ病があります。Ⅰ型アレルギーによる血管透過性亢進が原因で、圧迫痕が残らない非圧痕性浮腫(non-pitting edema)です。(CMAJ 2006;175(9):1065-70)
好酸球性血管性浮腫(グライヒ症候群)は、20-30歳台の若い女性に好発し、甲状腺機能低下症の粘液水腫と同じく、圧迫痕が残らない非圧痕性浮腫(non-pitting edema)。Ⅰ型アレルギーによる血管透過性亢進が原因です。
- 両下肢の対称性浮腫で、上肢の浮腫はほとんど無し
- 50%に蕁麻疹を認める(両肘関節など)
- 臓器障害を伴わない
末梢血の好酸球増多症を認め、数カ月で自然寛解することが多い。浮腫が強い場合、少量の副腎皮質ステロイドが有効。
副腎の病気であるクッシング症候群では、ナトリウムの体内貯留が亢進するため、むくみ(浮腫)を来たします。甲状腺機能低下症のむくみ(浮腫)と異なり、指で押すと跡がしばらく残る圧痕性浮腫(pitting edema)です。
原発性アルドステロン症では、Na(ナトリウム)利尿ホルモン(BNP,ANP)が代償性に分泌される(エスケープ現象)ため、むくみ(浮腫)が起こり難い。
女性ホルモンの不均衡、即ち、プロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲン(卵胞ホルモン)のアンバランス、特にエストロゲン(卵胞ホルモン)優位の状態はむくみ(浮腫)を引き起こします。
- 月経前;月経前症候群(月経前緊張症)の一症状としても
- 思春期
- 妊娠、産後、
- 女性更年期障害
におこる可能性があります。
女性ホルモンの不均衡は、副腎皮質ホルモンのアルドステロン分泌を刺激し、腎臓からのナトリウム・水再吸収が促進される→循環血液量が増加→毛細血管から細胞間隙に体液が漏れ出しむくみ(浮腫)
特発性浮腫は、甲状腺機能低下症/橋本病と同様、中年女性に多く、起立時にレニン-アルドステロン系が過剰反応するのが原因と考えられます。
特発性浮腫では、長時間立位で足がむくみ、横になると軽快します。低血圧、自律神経失調、利尿薬乱用の人に多くみられます[Nihon Rinsho. 2005 Jan;63(1):109-12.]。閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の人にも多いとされます[Sleep Med. 2004 Nov;5(6):583-7.]。
特発性浮腫と甲状腺機能障害は無関係[Clin Endocrinol (Oxf). 1996 Oct;45(4):467-70.]。
特発性浮腫には、抗アルドステロン薬[スピロノラクトン(製品例 : アルダクトンA)、エプレレノン(製品例 : セララ)]が有効なことがあります。エプレレノン(セララ®)は、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者に投与すると、高カリウム血症をおこすが危険があるため禁忌。
エサキセレノン(ミネブロ®)は、
- 選択的ミネラルコルチコイド受容体ブロッカーで、中等度腎機能障害・アルブミン尿を有する2型糖尿病患者での安全性が確認されている
- ステロイド骨格を持たないため、添付文書に女性化乳房の副作用は記載されていない
- 高血圧症にしか保険適応がない
リンパ浮腫(lymphedema)とは
特発性リンパ浮腫は、先天的な(生まれつき)リンパ管・リンパ節の発育形成不全(細い、流れが悪い)などが原因。
2次性(続発性)リンパ浮腫は、乳癌 や子宮内膜癌・子宮頸癌 ・卵巣癌・前立腺癌の
- 浸潤
- 手術によるリンパ節切除[リンパ節郭清(かくせい)]
- 放射線治療によるリンパ液の停滞
によるリンパ管圧迫や閉塞で生じます。
リンパ浮腫では
- 静脈性ではないので、皮膚発赤や静脈怒張は認めない
- 患肢の皮膚は厚く、固い。皮膚をつまみ上げれないStemmer sign陽性
- 晩期には甲状腺機能低下症の粘液水腫と同じく、圧迫痕が残らない非圧痕性浮腫(non-pitting edema)
甲状腺機能低下症の粘液水腫は原則、全身性ですが、2次性(続発性)リンパ浮腫では片側性の場合があります - 最終的には象皮のようになる象皮症(ぞうひしょう)、リンパのう胞が表面皮膚にできたり、リンパ液が漏れ出してきます[リンパ漏(ろう)]
- 蜂窩織炎(ほうかしきえん)を合併
甲状腺とリンパ浮腫(lymphedema)
頭頸部リンパ浮腫は、甲状腺癌・頭頸部癌の治療後に発症します。うっ血除去療法を行っている海外の施設があります。[Int Arch Otorhinolaryngol. 2023 Apr 28;27(2):e329-e335.]
甲状腺眼症:バセドウ病眼症 とリンパ浮腫は、浮腫、炎症、脂肪増殖など、共通するメカニズムを有します。
- 活動期と慢性期甲状腺眼症:バセドウ病眼症 では脂肪増殖が優位;脂肪形成を阻害する副甲状腺ホルモン様ホルモン(PTHLH)は、活動性眼症と慢性眼症の両方でダウンレギュレーションを受ける
- 慢性期リンパ浮腫では線維症が優勢
[Thyroid. 2011 Jun;21(6):663-74.]
筆者は懐疑的ですが、特発性リンパ浮腫患者の80%に甲状腺機能障害を認めます。[Klin Med (Mosk). 1994;72(2):33-6.]
謎のむくみ(浮腫):非常に稀な全身性毛細血管漏出症候群(systemic capillary leak syndrome:SCLS) は、原因不明の
- 低アルブミン血症
- 血漿の血管外漏出
で、約80%の患者にM蛋白血症を認めます。
結果、
- 利尿薬が効かない(逆に、血管内脱水を悪化させる)謎のむくみ(浮腫)
- 低血圧
- 血液は濃縮され、血管虚脱(血管がへしゃげる)
- 循環血液量減少によるショック
- 血管外漏出した血漿による組織浮腫で急性コンパートメント症候群
に至ります。[Kidney Int. 2017 Jul;92(1):37-46.][Nat Rev Dis Primers. 2024 Nov 14;10(1):86.]
急性コンパートメント症候群を合併した全身性毛細血管漏出症候群[Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2010 Jul 5;18:38]
遺伝性血管性浮腫(クインケ浮腫:Quincke's edema、hereditary angioedema:HAE)は、常染色体優性遺伝で、
- 補体第1成分阻害因子[C1インヒビター(C1 esterase inhibitor、C1-INH)]の欠損または活性低下
- →補体系、カリクレイン-キニン系を抑制できずブラジキニンの過剰産生
- →皮膚・眼瞼(まぶた)・消化管・喉頭などの血管拡張・血管透過性亢進による浮腫(血管性浮腫)。
- 家族歴あり、血縁者も同じ症状
- 若年発症(10-20歳代)もあり、あらゆる年齢で発症
- 精神的・肉体的ストレス(外傷、抜歯、過労、妊娠、生理、薬物など)で誘発
- 出たり消えたり反復します;24 時間でピーク、72 時間で収まるが、遷延化もある
が特徴。
遺伝性血管性浮腫(クインケ浮腫)の症状は
- 顔面浮腫;甲状腺機能亢進症/バセドウ病の右心不全、甲状腺機能低下症/橋本病の粘液水腫と鑑別
- 眼瞼(まぶた)浮腫;バセドウ病眼症(甲状腺眼症)の様ですが、出たり消えたりする点が異なります。
- 手足の浮腫;甲状腺機能低下症と同じく圧痕を伴わない浮腫(non-pitting edema)ですが、出たり消えたりする点が異なります。甲状腺機能低下症の粘液水腫、RS3PE症候群と鑑別
- 喉頭浮腫;嗄声(声のカスレ)、重症化で窒息の可能性(症状出現から窒息まで早くて20分とされる)(甲状腺機能低下症/橋本病の喉頭浮腫、甲状腺癌の局所浸潤による反回神経麻痺の様だが、出たり消えたりする点が異なります。)
- 消化管浮腫;腹痛、吐き気、嘔吐、下痢(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の腹部症状、抗甲状腺薬(メルカゾール・プロパジール)によるANCA関連血管炎と鑑別)
遺伝性血管性浮腫(クインケ浮腫)の検査所見は、
- 発作時のC4低下
- C1インヒビター活性(C1-INH活性)(保険適応)低下
血清甲状腺ホルモン(FT4)値が、正常範囲内でわずかに低下すると、C1インヒビター活性(C1-INH活性)も低下[Ann Allergy Asthma Immunol. 2016 Aug;117(2):175-9.]
- 特に若年女性で甲状腺自己抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体:TgAb)、マイクロゾーム抗体]の陽性率が高い[J Clin Pathol. 1987 May;40(5):518-23.]
遺伝性血管性浮腫(クインケ浮腫)の治療は
- C1インヒビター補充療法(50kg以下:500単位、50kg以上:1000-1500単位 静注)
- 実際、そんな治療薬を置いている所はほとんど無く、トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)で代用
- ベロトラルスタット塩酸塩(オラデオカプセル®);カリクレイン阻害薬
- ラナデルマブ皮下注;カリクレイン阻害薬
薬剤でも血管性浮腫(血管神経性浮腫)を引き起こします。血管運動神経の興奮、キニン系亢進により毛細血管の透過性が亢進し、眼周囲のむくみ・口舌浮腫(気道閉塞に至ることも)。
甲状腺に合併する高血圧、心不全、糖尿病で以下の薬を飲まれている方は要注意。
- ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
- 糖尿病治療薬のDPP4阻害薬がACE阻害薬による血管性浮腫を増悪させる
- カルシウム(Ca)拮抗薬
- アルテプラーゼ(血栓溶解剤)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬、抗甲状腺薬プロピルチオウラシル(PTU)
妊娠中におきた報告があります[Gynecol Endocrinol. 2013 May;29(5):508-10.]
両側の下腿(足)に浮腫(むくみ)があると言うだけで、原因も調べないで安易に利尿薬を処方されているケースが多々あります。元の原因によっては、利尿薬で悪化する場合があります。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病のむくみ(浮腫)→脱水を加速させる
- 甲状腺機能低下症のむくみ(浮腫)→溜まっているのはムコ多糖類なので意味無し
- 下腿静脈瘤→脱水により血栓形成
- 単なる肥満(脂肪で足が太くなっているだけ)→脱水をおこすだけ
肝腎機能、血清アルブミン値、甲状腺機能を調べるのは当然として、(当院ではおこなっていませんが)BNP値、胸部レントゲン、心エコーなどを評価した上で、本当に利尿薬が必要か否か判断することが大切です。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。