子宮がんと甲状腺 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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(図 gan-mag.comより)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。子宮がんの診療を行っておりません。
Summary
高エストロゲン血症は乳癌・子宮内膜がん(子宮体癌)の原因だが甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)にも関与。子宮内膜がん(子宮体癌)と甲状腺癌(重複癌)・腺腫様甲状腺腫をおこす遺伝病はコーデン(Cowden)症候群、ポイツ・ジェガーズ症候群、遺伝性非ポリポーシス大腸がん(リンチ症候群)、家族性腺腫様甲状腺腫。エストロゲン受容体・プロゲストロン受容体(ER/PgR)を持つ篩(ふるい)型[モルラ(渦巻き)型]甲状腺乳頭癌も存在。子宮体部神経内分泌腫瘍は極めてまれで悪性度が高い。子宮平滑筋肉腫の甲状腺転移は非常にまれで、甲状腺原発の平滑筋肉腫と鑑別。
Keywords
子宮内膜がん,子宮体癌,甲状腺がん,エストロゲン,甲状腺転移,子宮平滑筋肉腫,甲状腺,濾胞癌,甲状腺乳頭癌,腺腫様甲状腺腫
高エストロゲン血症と発癌で有名なのは、乳癌・子宮内膜がん(子宮体癌)です。最近、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)が女性に多いのは、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)の元になる甲状腺芽細胞が、胎児期の高エストロゲン下で発生するためとの説があります[甲状腺癌の発癌理論(芽細胞発癌), 隠れ甲状腺癌(甲状腺ラテント癌), FDG-PET/CTと甲状腺]。
4月9日は”し きゅう=子宮”の日。子宮頚がんワクチン・子宮頚がん検診の陰に隠れ、あまり話題になりませんが、中高年女性の子宮内膜がん(子宮体癌)が増え続けています。子宮内膜がん(子宮体癌)は稀に若い女性にも発生します。
厚生労働省の資料によると、2020年度の子宮頚がん検診(一般的に「子宮がん検診」と呼ばれている)の受診率は15.2%です。しかし、あくまで子宮頚がんだけで子宮内膜がん(子宮体癌)は「子宮がん検診」に含まれていません。(「子宮がん検診」さへ受ければ大丈夫と言うのは、大きな間違いなのです)
子宮内膜がん(子宮体癌)は、高エストロゲン血症が原因となり発症します。具体的には、
- 女性のライフスタイルの変化;妊娠・出産しない女性の増加、晩産化、社会で働く女性の増加→ストレス・生理不順
- 肥満(脂肪組織でアンドロゲンから転換されるエストロゲンが多くなる)
- PCOS(多嚢胞性卵巣症候群);放置すると比較的若年で子宮内膜がん(子宮体癌)を発症する危険。黄体ホルモン補充で子宮体癌を予防。
- 子宮腺筋症、子宮内膜症
- 糖尿病
- 高脂血症
- 高血圧
- タモキシフェン(乳がん治療で使うエストロゲン拮抗薬ですが、エストロゲン類似作用を有します)
- 乳癌・大腸癌・卵巣癌などの家族歴
などです。
子宮内膜がん(子宮体癌)と甲状腺癌(重複癌)・腺腫様甲状腺腫をおこす遺伝病が複数あります。
エストロゲン受容体・プロゲストロン受容体(ER/PgR)を持つ篩(ふるい)型[モルラ(渦巻き)型]甲状腺乳頭癌(cribriform-morular variant) も存在します
子宮体部神経内分泌腫瘍は、極めてまれです。悪性度が極めて高く、
- 大動脈~腸骨動脈リンパ節に転移し、下腿浮腫(むくみ)
- 全身リンパ節に転移し、悪性リンパ腫のような状態
になり予後不良です。(第209回 日本内科学会近畿地方会 演題100 子宮体部神経内分泌腫瘍により全身転移を来した1例)
浸潤性子宮頸癌の根治的子宮摘出と放射線照射後1年して、多発性肝転移と甲状腺転移を来した転移性神経内分泌子宮頸癌の報告があります。血清カルシトニンは高値。(Endocr Pract. Jan-Feb 2002;8(1):50-3.)
子宮平滑筋肉腫の甲状腺転移は非常にまれです。子宮平滑筋肉腫は婦人科腫瘍の中でも特に予後不良で、早期より肺・肝臓・腎臓・脳・骨へ血行性転移します。
子宮平滑筋肉腫の甲状腺転移は
- 50代女性に多い
- 全身への遠隔転移の一部分として発症
- 頸部腫大、全身の遠隔転移検索で見つかる
- 穿刺細胞診による正診率は100%、紡錘形細胞と異型細胞を認める
- 気道閉塞や両側反回神経麻痺があれば甲状腺摘出手術
(Thyroid 17 : 1295-1297, 2007)(Int J Gynecol Cancer 16 : 442-445, 2006)
下は、子宮平滑筋肉腫の甲状腺転移 超音波(エコー)画像(内分泌甲状腺外会誌 32(3):205-210,2015)
甲状腺原発の平滑筋肉腫と鑑別(稀中の稀、誰も知らない甲状腺平滑筋肉腫)(World J Clin Cases. 2019 Feb 26;7(4):473-481.)
子宮頸癌の甲状腺転移は非常にまれ。子宮頸がん予防(HPV;ヒトパピローマウイルス)ワクチンのガーダシル、サーバリックスで甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の副作用報告あり。複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状は痛みだけでなく甲状腺機能亢進症/バセドウ病のような異常発汗、不随意の筋収縮など。甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン剤の過量投与による甲状腺中毒症がCRPSの発症に関与した報告あり。APS(多腺性自己免疫症候群)1型に尖圭コンジローマ、皮膚粘膜カンジダ症、白斑、原発性副甲状腺機能低下症を併発した報告あり。
子宮頸癌,ワクチン,ガーダシル,サーバリックス,甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,複合性局所疼痛症候群,CRPS
子宮頸癌の年齢階層別死亡率を見ると1995年以降、40歳代と50歳代で増加傾向にあります。
子宮がん検診(子宮頸癌の細胞診)は、健康増進法に基づく健康増進事業として市町村が実施しています。子宮がん検診は対策型がん検診で、集団全体(日本国民)の死亡率を下げるために行われます(ちなみに個人の死亡率を下げるための任意型がん検診は人間ドックなどです)。有効性が確立された対策型がん検診は、子宮がん検診、乳がん検診(マンモグラフィ)、大腸がん検診(便潜血検査)の3つだけです。
厚生労働省の資料によると、2020年度の子宮頚がん検診(一般的に「子宮がん検診」と呼ばれている)の受診率は15.2%です。しかし、あくまで子宮頚がんだけで子宮内膜がん(子宮体癌)は「子宮がん検診」の対象になっていません。
ポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)は、常染色体性優性遺伝による癌抑制遺伝子LKB1(STK11)の機能喪失型変異により、小腸ポリポーシス(過誤腫ポリープ)、多臓器悪性腫瘍が発生する病気です(ポイツ・ジェガーズ(Peutz-Jeghers)症候群)。甲状腺乳頭癌の肺転移と子宮頸部腺癌を合併したポイツ・ジェガーズ症候群(Peutz-Jeghers症候群)が報告されています。消化器癌は発生しなかった様です。(日臨外会誌 70(9) ,2902―2905,2009)
子宮頸癌の90%以上は、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)が性行為感染するのが主な原因(性行為以外では感染しません)。
ヒトパピローマウイルス(HPV)には100種類以上のタイプがあり、中でも16型、18型が子宮頸癌の発生と強く関連し、約70%を占めます。それ以外の子宮頸癌リスクファクターとして、喫煙が最も強いです。
HPV16型と18型に感染すると、子宮頸がんになる危険性が未感染の人に比べて数百倍も高くなります。
しかも、感染から発癌までのスピードが速いため、20-40歳の若い世代で子宮頸がんが発生します。
子宮頸癌浸潤が
- 骨盤壁に達する
- 腟壁下1/3 に達する
場合の病期はIII期になり、手術ができず、化学放射線療法の適応になります。
子宮頸癌浸潤が小骨盤を越えて広がる浸潤・転移はIV Bになり、治療による根治は望めないため、緩和目的の放射線単独照射、抗癌化学療法、終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア/ベストサポーティブケア(BSC)が適応されます。
子宮頸癌の甲状腺転移は非常にまれです。(Acta Medica (Hradec Kralove). 2016;59(3):97-99.)
子宮頸癌の診断から4年後に甲状腺に転移を認めた報告があります。甲状腺転移だけでなく、肺転移、縦隔リンパ節転移も同時に認めています(Yale J Biol Med. 2006 Dec;79(3-4):165-8.)
下;子宮頸癌の甲状腺転移 (左)細胞診標本 HE染色 (右)頚部リンパ節 組織標本 HE染色[Surgical Case Reports volume 7, Article number: 255 (2021) ]
子宮頸がん予防(HPV;ヒトパピローマウイルス)ワクチンとは
任意接種と思われがちなヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンですが、実は定期予防接種(決められた年齢では無料で受けられる予防接種)なのです。副反応が社会問題になった結果、「HPVワクチンの積極的勧奨を差し控える」厚生労働省通知が出され、してもしなくてもよい予防接種との誤解を招きました。現在では、その通知も撤廃されています。
学童期から思春期にかけてヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを接種すれば、HPV16型と18型感染のほとんどを予防できます。性交経験のある人は、すでに感染している可能性があるため、ワクチンの有効率が低下します。
現在、世界の主流になっている子宮頸がん予防(HPV;ヒトパピローマウイルス)ワクチンは4価ワクチン(4種類のHPVに有効)のガーダシル®です。
2価ワクチンのサーバリックス®と比べて
- 守備範囲が広く[4種類のHPV(ヒトパピローマウイルス)に有効、尖圭コンジローマにも有効、外陰・膣上皮内腫瘍にも有効]
- 局所の疼痛・発赤、全身倦怠感などの有害事象はやや少ない
- 予防効果の持続期間は短い
です。
さらには、アジア人に多くみられるHPV52/58型を含めた5種類のウイルス様粒子をガーダシル®(4価HPVワクチン)に追加した9価ワクチンのシルガード®️が薬事承認されましたが、2022年6月の時点で、公費補助による予防接種の対象になっていません。
しかし、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)すべてをカバーできる訳では無いため、HPVワクチンを接種しても、100%子宮頸がんを防ぐことはできません。そのため、例えHPVワクチンを接種していても、20歳以降は子宮頸がん検診を受る必要があります。
2022年1月から4月までで、医療機関からのガーダシル®(4価HPVワクチン)副反応疑い報告頻度は0.0038%でした。
子宮頸がん予防(HPV;ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種と甲状腺
厚生労働省が行ったHPV-010試験では、HPVワクチンとの因果関係を問わず、接種後24ヶ月後までに医療機関を受診した新規発症の自己免疫疾患は、甲状腺機能低下症が最多。サーバリックス®群では553名中5人、ガーダシル®群も553名中5人で同数。この場合、甲状腺機能低下症は橋本病(慢性甲状腺炎)と考えて良いでしょう。
バセドウ病はガーダシル®群でのみ1人、甲状腺機能亢進症も1人ですが、普通に考えれば甲状腺機能亢進症/バセドウ病で2人だと思います(本当、官主導のいい加減なところです)
シルガード®️9でも、海外における製造販売後の安全性情報で自己免疫性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎、もしくは無痛性甲状腺炎と推察されます)の報告があります。
英国ではHPV-16/18 AS04アジュバントワクチン接種後の自己免疫性甲状腺疾患の発生率比は3.75倍でした(Hum Vaccin Immunother. 2016 Nov; 12(11):2862-2871.)。
デンマークとスウェーデンの3,126,790人の女性を対象とした大規模な研究調査でも、ワクチン接種後に橋本病(慢性甲状腺炎)、セリアック病、局所性エリテマトーデス、自己免疫性副腎皮質機能低下症(アジソン病)、レイノー病(膠原病の部分症状)のリスクが高くなるとされます。(J Intern Med. 2018 Feb;283(2):154-165.)
HPVワクチンにより自己免疫性甲状腺疾患(甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病)が誘導された直接的な証拠はありません。ただ、ウイルス感染が自己免疫性甲状腺疾患を誘導、
あるいは、亜急性甲状腺炎を発症させる事は多いため、ウイルス感染と同様の免疫反応を誘導するワクチンで同じ事が起きても不思議ではありません。
ワクチンによる自己免疫の誘導は、autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants(ASIA)と呼ばれ、免疫反応を誘発するためワクチンに添加されるアジュバント(Adjuvant、免疫補助剤)が原因です(J Autoimmun. 2011 Feb; 36(1):4-8.)。インフルエンザワクチン、B型肝炎ウイルスワクチンでも報告されています(インフルエンザワクチン接種で亜急性甲状腺炎に)。
特に、HLA遺伝子のDRB1 *01を有する人に起こり易いとされます(Expert Rev Clin Immunol. 2013 Apr; 9(4):361-73.)。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、ガーダシル®、サーバリックス®ともに報告されています。複合性局所疼痛症候群(CRPSの原因は痛覚過敏とされ、骨折等の外傷や神経損傷後に(大した障害ではないのに)原因となった有害事象とは不釣り合いな強い痛みが持続的に続く病態です。(MB Orthop. 2012; 25(10): 1-11)。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状は痛みだけでなく多彩で、
- 自律神経症状(異常発汗等)(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のよう)
- 感覚神経症状(痛覚過敏、交感神経依存性疼痛等)
- 運動神経症状(不随意の筋収縮等)
- 皮膚の萎縮性変化、関節可動域制限、運動機能低下
甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン剤投与が過量で、甲状腺中毒症から交感神経活動性亢進が起こり複合性局所疼痛症候群(CRPS)の一因になった報告があります。(Semergen. 2013 Nov-Dec;39(8):e75-8.)
子宮頸癌の手術方法は、切除範囲により子宮頸部円錐切除術→単純子宮全摘手術→準広汎子宮全摘出術→広汎子宮全摘出術があり、進行期度に応じて選択されます。
子宮のみでなく卵巣を合併切除した場合、女性ホルモン(エストロゲン)・黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が低下し、自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病・橋本病)の発症・増悪する危険性が増します。
尖圭コンジローマの治療は、
- ベセルナクリーム5%®(イミキモド クリーム);外陰部・会陰部のみ、腟内と子宮腟部には禁忌
- 外科切除、冷凍焼灼、電メス焼灼、レーザー蒸散
尖圭コンジローマの予防は、HPV4 価ワクチン4(4種類のHPVに有効)のガーダシル®。
APS(多腺性自己免疫症候群)1型に尖圭コンジローマ、皮膚粘膜カンジダ症、白斑、角膜症、原発性副甲状腺機能低下症を併発した21歳女性の報告があります。[Dtsch Med Wochenschr. 1997 Nov 7;122(45):1382-6.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。