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糖尿病治療薬と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科(第2内科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

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メトホルミンと甲状腺がん

メトホルミンと甲状腺がん(J Endocrinol. 2017 Apr;233(1)R43-R51.)

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックに特化するため、糖尿病内科を廃止しました。

糖尿病治療薬と甲状腺

Summary

糖尿病治療薬でインスリン感受性を改善するビグアナイド剤(メトホルミン/メトグルコ)は①甲状腺未分化癌の抗癌剤感受性を高め②甲状腺機能低下症/橋本病のビタミンB12吸収障害・利用障害による大球性貧血増悪。ヒトGLP-1アナログ(GLP-1受容体作動薬)で甲状腺髄様癌発症の可能性。DPP-4阻害薬テネリグリプチン(テネリア)はQT延長から心室頻拍症、心室細動に移行する可能性があるため甲状腺患者で要注意。デュロキセチン(サインバルタ)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者で要注意。SGLT2阻害薬は甲状腺機能亢進症/バセドウ病で脱水・熱中症に注意。

Keywords

糖尿病,ビグアナイド剤,甲状腺機能低下症,橋本病,GLP-1受容体作動薬,DPP-4阻害薬,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,SGLT2阻害薬,治療薬

ビグアナイド剤(メトホルミン)の抗がん作用・ビタミンB12吸収障害

ビグアナイド剤は肝臓の糖をつくる働きを抑える薬なので肥満になりにくい。筋肉への糖の取り込みも促進。抗癌剤の作用を増強するため、甲状腺癌治療の補助薬としてもにも有効です。(次項)。

反面、肝障害・胃腸障害、危険な乳酸アシドーシス(1万人に1人)の副作用があります。

メトホルミンの禁忌は「重度の腎機能障害(eGFR30mℓ/分/1.73㎡未満または透析患者」。以前、メトホルミン製剤は、腎機能低下時の乳酸アシドーシスから使用が制限されていました。しかし軽度~中等度の腎機能障害では血中濃度上昇が軽度なため、2019年に添付文書が改訂され、

「中等度の腎機能障害(eGFRが30-60mL/min/1.73m2)では治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ使用可能」

になりました。

ビグアナイド剤(メトホルミン)が禁忌となるのは、乳酸アシドーシスをおこす危険のある

  1. 重度の腎機能障害(eGFR30mℓ/分/1.73㎡未満または透析患者
  2. 脱水・アルコール多飲
  3. 心血管系に高度の障害(心不全、心筋梗塞など)、肺機能に高度の障害(肺塞栓など)のある患者

です

抗がん作用

糖尿病治療薬、ビグアナイド剤(メトホルミン/メトグルコ)は、

  1. 肝臓の糖をつくる働きを抑え
  2. インスリン感受性を改善、筋肉への糖の取り込みも促進

高インスリン血症は、甲状腺の腫れ、甲状腺結節、甲状腺癌の危険因子です。メトホルミンは、甲状腺の腫れ、甲状腺結節、甲状腺癌のリスクを低下させます。インスリン/インスリン様成長因子(IGF-1:ソマトメジンC)、mTOR経路に影響し、高インスリン血症を解除させるためと考えられます。(表;J Endocrinol. 2017 Apr;233(1):R43-R51.)(Med Princ Pract. 2016;25(3):233-6.)

メトホルミンと甲状腺腫瘍

メトホルミンが甲状腺未分化癌の抗癌剤感受性を高める報告があります。

  1. 高インスリン血症を解除
  2. 甲状腺未分化癌細胞への糖の供給が減る

ため、甲状腺未分化癌細胞の増殖が抑えられると考えられます。

メトホルミンが甲状腺乳頭癌細胞の糖代謝を低下させるとの報告があります(J Mol Endocrinol. 2017 Jan;58(1):15-23.)。甲状腺乳頭癌細胞への糖の供給が減るためと考えられます。ソラフェニブとメトホルミン併用すると、ソラフェニブの作用が増強され、ソラフェニブを減量し副作用を低減する事が可能です。(Oncol Rep. 2015 Apr;33(4):1994-2000.)

糖質過剰摂取制限だけでも発がん抑制作用

また、糖質過剰摂取を軽減し、HbA1Cを下げると癌の発生率が下がるとの報告が多く見られます(特にHbA1C5.0以下)。

  1. 体の免疫力が上がる
  2. 高インスリン血症、および炭水化物依存性に増殖する癌の発育が抑えられる

などが考えられます。

ビタミンB12吸収障害

ビグアナイド剤(メトホルミン)は、10-30%にビタミンB12の吸収障害をおこすとされます。甲状腺機能低下症/橋本病でもビタミンB12の吸収障害・利用障害をおこすため、糖尿病を合併した甲状腺機能低下症/橋本病では、ビタミンB12欠乏性大球性貧血をおこす可能性があります。(甲状腺機能低下症/橋本病に合併する貧血

ヒトGLP-1アナログ(GLP-1受容体作動薬)注射液で甲状腺癌の危険!

ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、インクレチンとよばれる消化管ホルモンで、食物摂取に応じて小腸下部から分泌されます。GLP-1が膵臓を刺激、

  1. インスリン分泌を促進
  2. 血糖値が高い時には「血糖値の上昇を促すグルカゴンの作用」を弱め
  3. 胃の中の食物排出を遅らせ、急激な食後血糖値の上昇を抑え、満腹感を持続。

糖尿病治療薬として使われるヒトGLP-1アナログ(GLP-1受容体作動薬)注射液は作用時間により

  1. 長時間型;膵臓のインスリン・グルカゴン分泌を改善。空腹時血糖の低下、体重減少。
  2. 短時間型;リキスミア®(リキシセナチド)は胃に作用し、胃内容物排出遅延、グルカゴン分泌抑制するため糖の吸収を抑制

があります。

ヒトGLP-1アナログ(GLP-1受容体作動薬)注射液はエキセナチド(商品名:バイエッタ、ビデュリオン)、リラグルチド(商品名:ビクトーザ)など

GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害剤と同様に、糖尿病性腎症の進行を抑えるため、透析導入を減らす事が期待されています。また、気管支喘息の増悪を抑える効果が報告されています(Am J Respir Crit Care Med. 2020 Oct 14.)

GLP-1受容体作動薬は甲状腺髄様癌リスクを高めます(もちろん、甲状腺髄様癌の既往がある患者には禁忌)。動物試験で甲状腺C細胞腫瘍(甲状腺髄様癌)が認められるも、ヒトC細胞にGLP-1受容体はほとんどなく、影響少ないと考えられていました。しかし、現実には甲状腺髄様癌だけでなく、他の組織型の甲状腺癌の発生率も高めます。

  1. エキセナチドで甲状腺癌甲状腺髄様癌を含むと考えられる)のリスクがオッズ比4.73に増大(Gastroenterology. 2011 Jul;141(1):150-6)
  2. リラグルチドで甲状腺癌甲状腺髄様癌の発生率が最も強く、次いでエキセナチド(J Clin Pharm Ther. 2021 Feb;46(1):99-105.)

GLP-1受容体作動薬投与中の方は、血中カルシトニン値の測定や甲状腺超音波(エコー)検査を定期的に行うことが望ましいです。

それ以外の副作用は、

  1. 腸閉塞(甲状腺機能低下では要注意)
  2. 逆流性食道炎
  3. 消化器症状;悪心(むかつき)26.1%、嘔吐(吐く)8.5%/下痢
  4. エキセナチドで膵炎のオッズ比が6倍に増加、膵臓癌もオッズ比2倍以上に増加(Gastroenterology. 2011 Jul;141(1):150-6)

GLP-1受容体作動薬の適応外使用

2022年3月、日本医師会は、GLP-1受容体作動薬を糖尿病治療以外で投与する適応外使用を問題視し、厚生労働省に対して適切な対応を求めました。

日本糖尿病学会とリベルサスの製造元(ノボノルディスクファーマ社)も、「糖尿病ではない日本人に使用した場合の安全性と有効性は確認できていない」(特に甲状腺癌の発生)との見解を出しています。

DPP-4阻害薬と甲状腺

DPP-4阻害薬と甲状腺機能

ジペチジルペプチダーゼ IV(dipeptidyl peptidase 4 : DPP4)は

  1. GLP-1などのインクレチン
  2. IGF-1(ソマトメジンC)、GHRF(成長ホルモン放出因子)、プロラクチン(PRL)
  3. thyrotropin アルファ(合成TSH製剤、タイロゲン®)
  4. LH アルファ(合成LH製剤)

などペプチドホルモンを分解します。DPP4 阻害薬は、これらの分解を妨げます。

DPP4 阻害薬でTSHが正常範囲ながら有意に高くなる報告があります[J Diabetes. 2019 Jun;11(6):497.](第62回 日本甲状腺学会 P26-1 DPP4阻害薬とTSH)

DPP-4阻害薬テネリグリプチン(商品名:テネリア)は甲状腺の病気にはダメ

経口で飲む糖尿病薬は、低血糖あるいは他の副作用のため、腎機能低下時に禁忌もしくは慎重投与になります。

DPP-4阻害薬のリナグリプチン(商品名トラゼンタ錠)は、初の胆汁排泄型で腎機能低下した糖尿病患者にも使用でき、効果も他のDPP-4阻害薬と変わらないとされます。

テネリグリプチン(商品名:テネリア)

DPP-4阻害薬テネリグリプチン(商品名:テネリア)も胆汁排泄型で腎機能低下した糖尿病患者にも使用できますが、QT延長の副作用をおこす危険があります。QT延長は心室頻拍症、心室細動など命にかかわる不整脈に移行する可能性があります。

QT延長を起こしやすい患者(重度の徐脈等の不整脈、うっ血性心不全等の心疾患、低カリウム血症)には慎重投与になっています。

特に甲状腺の病気では、これらに該当する可能性が非常に高く、注意を要します。

デュロキセチン(商品名サインバルタ)は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病には要注意

デュロキセチン(商品名サインバルタ)は、セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬で、糖尿病性神経障害に伴う疼痛に保険適応があります。日本ペインクリニック学会のガイドラインでも神経障害性疼痛の第一推奨薬の一つです。めまい、ふらつき、傾眠(眠い)などの副作用で、プレガバリン(リリカカプセル®)・ミロガバリン(タリージェ®)が使用できない時に有用。

しかし、高血圧・心疾患患者には、心拍数増加、血圧上昇、高血圧クリーゼをおこすことがあり、慎重投与になっています。よって、以下の患者には使用すべきではありません。

  1. 甲状腺ホルモンが正常化していない、あるいは正常化して間がない甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者に使用すると症状増悪。
     
  2. 甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病動脈硬化が相当進行している場合、狭心症/心筋梗塞発症の危険がある。(甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症から動脈硬化と狭心症/心筋梗塞
     
  3. 副腎腫瘍がノルアドレナリン・アドレナリンを産生する褐色細胞腫患者の症状を増悪させ、褐色細胞腫クリーゼを誘発する危険がある。

また、デュロキセチン(サインバルタ®)は悪心・嘔吐を来すこともあります。

SGLT2阻害薬は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に使用すべきでない

SGLT2阻害剤 スーグラ錠(一般名:イプラグリフロジン)他多数:尿中へ糖を排出する薬なので、尿量が増え、体の水分が減ります。腎臓での酸素状態/酸化ストレスの改善、糸球体の負担を軽減し、糖尿病性腎症の進行を抑えるため、透析導入を減らす事が期待されています。

また、SGLT2阻害薬の中でもフォシーガ®(ダパグリフロジン)は2型糖尿病の有無に関わらず、慢性心不全患者に対しても保険適応があります(ただし、利尿薬、トルバプタン(サムスカ®)など慢性心不全の標準的な治療で不十分な患者に限ります。)。

一方、脱水・熱中症に注意が必要、予想通り脳梗塞の副作用が報告されています。慢性心不全・腎不全の方には良いかもしれません。体重が減少するとされますが、脱水の影響も含まれる可能性があります。安易な使用は危険
インスリンを併用している場合、インスリンが中断されても血糖上昇を伴わないままケトアシドーシスへと進行する危険があります。

SGLT2阻害薬は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に使用すべきでないと筆者は考えています。甲状腺機能亢進症/バセドウは、

  1. 甲状腺ホルモンの作用で腸からの糖吸収が亢進、交感神経、グルカゴン、カテコールアミン、ソマトスタチンの感受性が上昇し糖分解が亢進、血糖が上昇。脂肪や筋肉などの蛋白分解も亢進し、血液が酸性に傾く糖尿病性ケトアシドーシスを誘発する可能性があります。
    一方で、SGLT2阻害薬のルセオグリフロジンは、1日60gの糖を尿中に捨て血糖値を改善しますが、極端な糖質制限(例えば1日10g)により、脂肪分解が亢進し過ぎてケトン体が血液中に異常増加、血液が酸性に傾くアシドーシスになります[正常血糖糖尿病ケトアシドーシス(eDKA)]。
     
  2. 代謝亢進により発汗量が増加し、脱水傾向になります。一方で、SGLT2阻害薬は、糖を尿中に捨てると、浸透圧利尿により体内の水分も捨ててしまうため脱水傾向になります。過度の脱水は、血管がへちゃげる脳梗塞、心筋梗塞を誘発します。

ピオグリタゾンは活動性甲状腺眼症(バセドウ病眼症)を悪化

ピオグリタゾンなどのチアゾリジンジオンは、核内ホルモン受容体であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)の強力なアゴニストです。PPAR-γの活性化は、脂肪組織の分化を促進します。[N Engl J Med. 2004 Sep 9;351(11):1106-18.]

甲状腺眼症:バセドウ病眼症 の活動期において、後眼窩組織ではTSH受容体、IGF-1受容体、PPARγ遺伝子、secreted frizzled related protein-1(sFRP-1)[後眼窩脂肪組織由来線維芽細胞を成熟脂肪細胞へ分化させ、TSH受容体の発現を誘導するタンパク]の発現が増加します。

PPAR-γの活性化により、線維芽細胞がTSH受容体を持つ脂肪細胞へと分化し、甲状腺眼症:バセドウ病眼症 を悪化させます。[J Clin Endocrinol Metab. 2002 May;87(5):2352-8.]

さらに、2型糖尿病患者ではピオグリタゾン投与中に眼球突出が増加する可能性があります。[N Engl J Med. 2004 Sep 9;351(11):1106-18.]

ピオグリタゾンを中止しても甲状腺眼症:バセドウ病眼症は寛解しません[Clin Endocrinol (Oxf). 2006;65(1):35–39.]。

ピオグリタゾンは、活動性の甲状腺眼症:バセドウ病眼症を有する糖尿病患者に投与すべきではありません。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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