甲状腺とヨード造影剤腎症・ヨード造影剤アレルギー[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。ヨード造影剤腎症の診療を行っておりません。
Summary
ヨード造影剤腎症は腎機能悪化[血清クレアチニン(Cr)値上昇]とヨード排泄障害による甲状腺機能低下症おこす。GFR<59要注意、<30禁。慢性腎臓病(CKD)は、元々腎機能低下と潜在性/顕在性甲状腺機能低下症あり、ヨード造影剤腎症が起き易い。血液維持透析患者は、透析によってヨード造影剤が、ある程度除去されるので、ヨード造影剤腎症の心配ないはずだが、頻回使用で起きる。ヨード造影剤が必要なのは①甲状腺腫瘍、甲状腺癌の広がり・血管との位置関係②TSH産生下垂体腺腫③超音波が届かない場所の副甲状腺④膵内分泌腫瘍の確認。ヨード造影剤点滴後の急激な腹痛はヨード造影剤アレルギー。
Keywords
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ヨード造影剤腎症は、「ヨード剤造影剤投与後、72 時間以内に血清クレアチニン(Cr)値が前値より0.5 mg/dL 以上または25%以上増加した状態」です。腎機能悪化で、ヨードが体内に長く残れば、甲状腺ホルモン合成が一時的に抑制される可能性はあります。
「造影剤の適正使用推進ガイド FAQ」では、「甲状腺機能低下症患者に造影検査をすることには大きな問題はない。 」と書いてありますが、それは甲状腺の専門家が書いたものではありません。
慢性腎臓病(CKD)では、元々腎機能低下があるため、ヨード造影剤腎症が起こりやすく、しかも、最初から潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症の合併が多くいため、甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病が一時的に悪化します。妊娠希望女性・不妊治療中女性で、ヨード造影剤腎症に伴いTSHが2.5 μIU/mL 以上に上昇した状態では、妊娠成功率が下がる可能性があります(不妊症/習慣性流産・不育症と橋本病・甲状腺機能低下症)。
- 糸球体濾過量(eGFR)≧59(mL/min/1.73m2)では、通常通りヨード剤造影剤使用します
- eGFR31~58は、グレーゾーンですが、甲状腺専門医としては、甲状腺への影響を考慮し、造影検査前後に生理食塩水補液または十分な量の水分摂取でヨード造影剤腎症を予防すべきと考えます
- eGFR30~44では、造影検査前後に生理食塩水で補液し、ヨード造影剤腎症を予防します
- eGFR<30は造影検査を行いません。止むを得ず行う場合には、造影検査前後に生理食塩水や炭酸水素ナトリウムで補液し、ヨード造影剤腎症を予防します
(腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018)
ヨード造影剤腎症は、
- 高齢(>75歳)
- 造影剤投与量多い;ヨード造影剤投与量が少ない方が発症率は低くなる
- 脱水・利尿薬投与
- 尿崩症 ;未治療、コントロール不十分
- 消炎鎮痛剤(NSAID)やACE阻害剤など腎障害をおこしやすい薬剤服薬
- 糖尿病
- 経動脈投与
ひと昔前は、
- 甲状腺クリーゼ(甲状腺緊急症)において意識障害のため、ヨード剤を経口で飲めない場合
- 治療抵抗性バセドウ病患者に手術が必要な時、短期間で甲状腺機能を正常化するのに
ヨード造影剤を点滴し代用する事がありました。[Can J Anaesth. 2004 Jan;51(1):38-40.]
しかし、甲状腺機能が正常化していないバセドウ病患者にヨード造影剤を使用すると、ヨード造影剤誘発性甲状腺中毒症、最悪、甲状腺クリーゼを起こすとの報告が出たため、現在は禁忌になっています(筆者は信じていません。ヨード造影剤を使用してもを防げなかっただけと考えます)。[Heart Lung. 2013 Jul-Aug;42(4):267-9.][Ann Med Surg (Lond). 2022 Sep 9;82:104600.][J Endocrinol Invest. 1990 Jan;13(1):73-6.]
※すでに甲状腺機能が正常化し、かつ安定しているバセドウ病患者なら禁忌ではありません。
また、甲状腺機能が正常化していないバセドウ病患者が急性冠症候群を発症し、ヨード造影剤を使用して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行しなければ命にかかわる時には、甲状腺クリーゼを警戒しながらやるしかありません。
血液維持透析(HD)患者の腎機能は元々廃絶しており、透析によってヨード造影剤が、ある程度除去されます。そのため、ヨード造影剤腎症の心配がありません。ヨードアレルギーさえ持っていなければ使用可能ですが、頻回にヨード造影剤を使用すると、過量のヨード(ヨウ素)が甲状腺ホルモン合成を阻害するため甲状腺機能低下症が起こります。
聖路加国際病院の報告によると、血液維持透析(HD)患者の進行する難治性大動脈解離に対し、1 回100mL (ヨード 30g) x9 回= ヨード 270g のヨード造影剤を使用し、造影CT 施行後の尿中ヨウ素(ヨード)14,600,000μg/g・Cr、非透析日でも546,000μg/g・Crと異常高値を呈して甲状腺機能低下症(TSH 17.870 μIU/mL)になったそうです。(第59回 日本甲状腺学会 P1-7-5 難治性大動脈解離に対し複数回造影剤使用し、甲状腺機能低下症を発症した血液維持透析患者の一例)
子供の腹膜維持透析患者(特に乳幼児)では、ヨウ素誘発性甲状腺機能低下症のリスクが高くなります[Pediatr Nephrol. 2006 Mar;21(3):400-2.]。その原因として、
- ヨウ素(ヨード)含有洗浄液(37%)
- ヨード造影剤(10%)
- ポビドンヨード含有腹膜維持透析キャップ(53%)
[Perit Dial Int. 2024 Jan;44(1):73-77.]
甲状腺、内分泌の診療を行う上で、ヨード造影剤使用が必要になる場合があります。
- 甲状腺腫瘍、甲状腺癌の広がりを調べるには、超音波(エコー)検査よりもCT・MRIが有用です。血管との位置関係を正確に知るのに造影CT・MRIが必要
- TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍・先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体神経内分泌腫瘍)・ ACTH産生下垂体神経内分泌腫瘍(クッシング病)・プロラクチン産生性下垂体神経内分泌腫瘍など、ホルモン産生下垂体腺腫の確認にダイナミック下垂体MRIが必要
- 原発性副甲状腺機能亢進症の画像診断で、超音波(エコー)検査が届かない場所(縦隔内、食道背側、喉頭背側)の副甲状腺を探すのに造影CTが必要(副甲状腺造影CT)
- 膵内分泌腫瘍(インスリノーマ、ガストリノーマ)の確認にダイナミック膵MRIが必要
しかしながら、ヨード造影剤アレルギーがあれば断念して、造影剤抜きでするしかありません。
ヨード造影剤でアナフィラキシーショック(ヨードアレルギー)
ヨード造影剤が、アナフィラキシーショックを起こすリスクは他の薬剤に比べやや高い。
ヨード造影剤点滴後に、体が熱く感じますが、血管が広がり血行が良くなるだけですので、問題ありません。
ヨード造影剤アレルギーが起こると
ヨード造影剤点滴後の急激な腹痛は、ヨード造影剤アレルギーで、嘔吐も起こします。十二指腸-空腸に浮腫が起こり、この時腹部CTを施行すると腸壁が著明に肥厚しています。間もなく、アナフィラキシーショックに至り蘇生が必要になります。
気管支喘息とヨード造影剤アレルギー
気管支喘息の人がヨード造影剤アレルギーを起こす確率は、気管支喘息でない人の約10倍とされます。気管支喘息の人には絶対にヨード造影剤を使用しない病院もあります。[J Investig Allergol Clin Immunol. 2016;26(3):144-55; quiz 2 p following 155.]
気管支喘息のステロイド前投薬
日本医学放射線学会医療安全管理委員会 造影剤の安全性に関する小委員会では、2017年06月、「ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言」を出し、ステロイド前投薬を考慮するよう提言しています。
もちろん、ヨード造影剤アレルギーを既に持っている人には、ステロイド前投薬しても抑えられる保証などないので、通常行いません。気管支喘息の場合、
- 喘息発作が持続している場合、ヨード造影剤は絶対に使用できません
- 気管支喘息がコントロールされていて、喘息発作が出ていない場合、
①プレドニゾロン錠50mgをヨード造影剤投与の13時間前、7時間前、1時間前に経口投与
②メチルプレドニゾロン錠32mg(メドロール錠)をヨード造影剤投与の12時間前と2時間前に経口投与
③経口投与できない場合、デキサメタゾン7.5mg(デカドロン®)、もしくはベタメタゾン6.5mg(リンデロン®懸濁注)などリン酸エステル型ステロイドを静注
いずれかを行う<American Collage of Radiology Manual on Contrast Media に基づくプロトコール>
無治療で、5年以上喘息発作が起きていない場合は造影検査可
また、施行時の工夫として、早くヨード造影剤が抜けるように、可能な限り造影剤の使用量を少なくする、十分な輸液を行うのも良いと思います。
ヨード造影剤による腸管浮腫
ビグアナイド系糖尿病薬、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS) 治療薬のメトグルコは、「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018」で
「ヨード造影剤を用いて検査を行う患者においては、本剤の併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあるので、検査前は本剤の投与を一時的に中止すること。ヨード造影剤投与後48時間は本剤の投与を再開しないこと」
と明記されています。ヨード造影剤投与で一過性に腎機能が低下すると、メトグルコの血中濃度が上昇し、肝臓での糖新生が抑制され過ぎ、異化亢進から乳酸アシドーシスに至る危険性があります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
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