卵巣と甲状腺 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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Summary
卵巣甲状腺腫は異所性甲状腺で50-60%は卵巣内成熟嚢胞性奇形腫、甲状腺組織を50%以上含むか甲状腺ホルモン産生。甲状腺機能亢進症(機能性結節かバセドウ病でTRAbに反応)、悪性卵巣甲状腺腫(甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌)も。遺伝性Carney(カーニー)症候群は良性濾胞腺腫・甲状腺濾胞癌・甲状腺乳頭癌に卵巣嚢腫(粘液性嚢胞腺腫)合併。遺伝性に大腸がん/大腸ポリープおこすコーデン(Cowden)症候群・ポイツ・ジェガーズ(Peutz-Jeghers)症候群・遺伝性非ポリポーシス大腸がん(リンチ症候群)は甲状腺腫瘍/甲状腺癌と卵巣癌。DICER1遺伝子変異は卵巣性索腫瘍。
Keywords
卵巣甲状腺腫,甲状腺,甲状腺癌,卵巣腫瘍,卵巣癌,甲状腺濾胞癌,甲状腺乳頭癌,DICER1,遺伝,甲状腺機能亢進症
卵巣甲状腺腫とは
卵巣甲状腺腫は、全卵巣腫瘍中の3~5%を占め、
- 卵巣内の異所性甲状腺(異所性甲状腺全体の約10%です)(日臨28: 1784-1789, 1970.)
- 50-60%は、卵巣内成熟嚢胞性奇形腫で、甲状腺組織を50%以上含むか、甲状腺ホルモン産生を行うもの。
卵巣奇形腫全体の約2.7%で、悪性卵巣甲状腺腫の場合は0.1-0.3%(Malignant struma ovarii, in Pathology Annual (ed. S. C. Smmer), pp 403-407, Appleton-Century-Crofts, New York, 1976.)。
卵巣甲状腺腫の病態
- 甲状腺機能亢進症を8%(5-15%)に合併し
①卵巣甲状腺腫が自律的に甲状腺ホルモンを産生する機能性結節;I-123 シンチグラフィーで正位置(頚部)で取り込みなく、腹部で取り込み。(第58回 日本甲状腺学会 P1-12-7 卵巣甲状腺腫による甲状腺機能亢進症の一例)
②バセドウ病でTRAb陽性。I-123 シンチグラフィーで正位置(頚部)と腹部に取り込み。(第57回 日本甲状腺学会P1-073 バセドウ病を合併した悪性卵巣甲状腺腫の一例)
- 悪性卵巣甲状腺腫(5%以下、甲状腺乳頭癌、甲状腺濾胞癌)の事があります。腹腔内転移が多く、大網や対側卵巣へも転移する。
- 95%片側性、5%両側性
- まれにカルチノイド産生腫瘍の場合あり
- メイジ症候群(下記)
卵巣甲状腺腫の検査・画像所見
悪性卵巣甲状腺腫の治療
悪性卵巣甲状腺腫の治療は、
- 両側付属器(子宮,卵巣)切除および腫瘍切除術
- 腹腔内播種に抗がん剤、ブレオマイシン・エトポシド・シスプラチン(BEP)
- バセドウ病合併、機能性・非機能性問わず、甲状腺全摘術後、大量放射性ヨード治療
遺伝性の疾患(遺伝子の変異により起こる病気)で甲状腺腫瘍/甲状腺癌と卵巣腫瘍の両方が発生するものがあります。
Carney(カーニー)症候群
Carney(カーニー)症候群では、良性濾胞腺腫(75%)または甲状腺濾胞癌・甲状腺乳頭癌(10%)に卵巣嚢腫を合併。(Carney症候群 )
卵巣嚢腫は、良性の卵巣腫瘍でCarney(カーニー)症候群の場合、粘液性嚢胞腺腫。
遺伝性に大腸がん/大腸ポリープおこす病気
遺伝性に大腸がん/大腸ポリープおこす病気
甲状腺腫瘍/甲状腺癌と卵巣癌が起こります。
家族性腺腫様甲状腺腫(Familial adenomatous goiter)
家族性腺腫様甲状腺腫(Familial adenomatous goiter)の一つDICER1遺伝子変異は卵巣性索腫瘍の合併が多いです。(Curr Oncol. 2019 Jun;26(3):183-185.)(DICER1遺伝子変異)。
性索間質腫瘍のセルトリ・ライディッヒ細胞腫は、男性ホルモンであるテストステロンを分泌する稀な卵巣腫瘍および精巣腫瘍です。セルトリ・ライディッヒ細胞腫は若年成人に最も多く発生し、卵巣セルトリ・ライディッヒ細胞腫の多くはDICER1 遺伝子の生殖細胞変異が原因。
卵巣セルトリ・ライディッヒ細胞腫では、
- 過少月経、無月経、不妊
- 脱女性化(男性化);多毛、声変わり、陰核肥大、側頭部の毛の後退、筋肉の増加
血清テストステロン値は高値。25%は悪性の卵巣セルトリ・ライディッヒ細胞癌
長年に渡る重度の甲状腺機能低下症により、卵巣容積は増加し、卵巣嚢胞形成が促進されます。
その原因として、
- 粘液多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸塩)の沈着
- それによる卵胞発育の異常
などが考えられます。
甲状腺ホルモン補充療法により甲状腺機能が正常化すると、遅れて卵巣容積・卵巣嚢胞の減少が起こります。(Ann Saudi Med. 2011 Mar-Apr;31(2):145-51.)
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は別の病態です。
診察では、下腹部に圧痛のある腫瘤を、Douglas 窩(ダグラス窩)に有痛性の硬結を触れます。
チョコレートのう胞(卵巣子宮内膜症)は、0.7-1.6%が子宮内膜症関連卵巣癌(EAOC)に悪性転換します(Reproduction. 2004 Mar; 127(3):293-304.)。組織型は明細胞癌、類内膜癌など。チョコレートのう胞(卵巣子宮内膜症)の既往のある女性が、衣服がきつくなるなど腹部膨満感・下腹部膨隆を自覚し、下腹部に可動性のない腫瘤を触れた場合に子宮内膜症関連卵巣癌(EAOC)が疑われます。
子宮内膜症関連卵巣癌(EAOC)の危険因子は、過剰なエストロゲン刺激に関連する
- 頻回の妊娠
- 肥満
- 不規則な膣出血
- 甲状腺疾患
- 子宮筋腫
などです。(Prz Menopauzalny. 2018 Mar;17(1):43-48.)
CA19-9、CA125 高値(腹膜炎、甲状腺機能低下症の粘液水腫性腹水でも上昇)。
月経(生理)時痛の強さ、今後の妊娠希望を考慮して、治療法を選択。腹腔鏡下手術が第一選択だが、
- 腹腔鏡下嚢胞摘出術;チョコレートのう胞のみ摘出。術後の妊娠は可能だが、5年で40~50%が再発。子宮内膜症関連卵巣癌(EAOC)の危険は残る。
- 腹腔鏡下子宮付属器(卵巣・卵管)摘出術;卵巣・卵管ごと摘出。妊娠できなくなるが子宮内膜症関連卵巣癌(EAOC)に転化する危険は消失。
甲状腺ホルモンは、卵巣癌の細胞間接着因子(細胞同士をくっ付けるだけでなく、増殖刺激を伝えたりします)αvβ3インテグリンに結合し、卵巣癌の成長を促します。αvβ3インテグリンをブロックする新しい治療が研究されています(Sci Rep. 2017 Nov 28;7(1):16475.)。
卵巣癌の基本術式は、子宮全摘出+両側付属器(卵巣と卵管)切除+大網切除です。卵巣癌が発生したのと反対側の付属器(卵巣と卵管)切除も行わねばなりません。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
黄体化過剰反応
黄体化過剰反応は、妊娠・絨毛性疾患(全胞状奇胎による甲状腺機能亢進症 絨毛性腫瘍による甲状腺機能亢進症)による高hCG状態で生じる両側卵巣腫大です。のう胞内出血→腹痛を起こします。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と甲状腺機能
特に甲状腺疾患のない女性では、不妊治療の胚移植に際し卵巣過剰刺激を行った場合、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしても、起こさなくても同程度の血清TSH上昇が起こります。(Fertil Steril. 2011 Jul;96(1):241-5.)
甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン剤を服薬中の女性で、胚移植に際し卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と同時に急激な甲状腺機能低下症の悪化が起こった報告があります(Ginekol Pol. 2014 Jun;85(6):472-5.)
早発閉経・早発卵巣不全とは
早発閉経・早発卵巣不全の80-90%は原因不明です。10〜20%は
- 自己免疫性;橋本病(慢性甲状腺炎)・アジソン病・全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に合併
- 染色体異常;脆弱X症候群・ターナー症候群
- 医原性[卵巣手術、卵巣・他臓器の癌に対する化学療法(抗がん剤治療)、骨盤への放射線治療による]など
原因がある程度分かっています。
早発閉経・早発卵巣不全の診断・検査値は、40歳未満の
- 4〜6ヶ月以上続く無月経
- 卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)低値
- 脳下垂体から分泌されるLH(黄体ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)高値
- 卵巣年齢(残存卵子数)を反映する血清抗ミュラー管ホルモン(AMH)値が、実年齢の正常値より10歳以上低い
です。
早発閉経・早発卵巣不全の治療は、
- 妊娠を希望しない場合;50歳位(一般的な閉経年齢)まで女性ホルモン剤補充。閉経後骨粗鬆症・高脂血症→心筋梗塞の予防
- 妊娠を希望する場合;非常に難しいが産婦人科で複雑な不妊治療自己免疫性と分かっている場合、副腎皮質ステロイドのプレドニゾロン投与
早期発見できれば、卵巣機能が廃絶する前に卵子凍結保存しておく
早発閉経・早発卵巣不全と甲状腺
早発閉経・早発卵巣不全の約24%に橋本病(慢性甲状腺炎)の自己抗体抗、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が認められます(J Clin Endocrinol Metab. 2006 Nov;91(11):4256-9.)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。