甲状腺と骨、骨粗しょう症と骨折[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 甲状腺機能低下症 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科学(内分泌骨リウマチ科)で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
現在、長崎甲状腺クリニック(大阪)では、骨密度測定、骨粗しょう症治療を行っておりません。
Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病は甲状腺ホルモンの作用で骨が分解され、骨粗しょう症に。骨由来アルカリフォスファターゼ[ALP3型、BAP]上昇。治療し、甲状腺ホルモンが正常化すれば、閉経後女性も骨密度改善するが、血中ビタミンD濃度[25(OH)D3]低く、副甲状腺ホルモン(PTH)高い場合、改善悪い。甲状腺機能低下症/橋本病では動脈硬化で骨の血流が悪くなり、骨粗しょう症に。甲状腺刺激ホルモン(TSH)は破骨細胞の分化を調節するため中枢性甲状腺機能低下症で骨折リスクが増加。副甲状腺機能亢進症,骨粗しょう症治療薬,カルシトニン,ビスフォスフォネート剤,顎骨壊死,ビタミンDも説明する。
Keywords
甲状腺,骨粗しょう症,甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,ALP,甲状腺ホルモン,アルカリフォスファターゼ,閉経
骨では常に、古い骨が壊され(骨破壊)、新しい骨が作られ(骨形成)、骨が入れ替わる新陳代謝が続いています。
骨粗しょう症(骨粗鬆症:こつそしょうしょう)は骨が弱くなって骨折しやすくなる病気です。骨形成よりも骨破壊が上回る状態が続くと骨がもろくなります。
どんな人でも40歳を過ぎると、少しずつ骨が弱くなります。特に女性では女性ホルモンが減少するにつれ、骨の減少速度が加速されます。しかし、骨粗しょう症の原因は加齢だけではありません。
甲状腺の病気で
- 骨粗しょう症になる
- すでに持っている骨粗しょう症がひどくなる
など、骨に悪影響が及びます。
たとえ甲状腺の病気が加わらなくても
- 日本国内には1000万人以上の骨粗しょう症がいて、年々増え続けている
- 50歳以上の男性の5人に一人、女性の3人に一人が骨折をおこします
- 大腿骨骨折後の要介護率は10人中6人
- 骨折後の介護費用は5年間で1540万円
になるため、甲状腺の病気がある人は特に骨粗しょう症に対する注意が必要です。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病による骨粗しょう症・高カルシウム血症
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の骨粗しょう症頻度
伊藤病院の報告では、20-40歳の若年者甲状腺機能亢進症/バセドウ病で
- 女性の約26%は骨減少症、約16%は骨粗しょう症
- 男性の約25%は骨減少症、約30%は骨粗しょう症
とされます(第58回 日本甲状腺学会 P1-2-6 若年で発症したバセドウ病患者における骨粗鬆症の頻度と骨代謝マーカーの変化について)。骨粗しょう症でも6か月後には骨量に改善が見られるとの事ですが、正常レベルに戻るかどうかは、不明です。
骨粗しょう症になった人は、
- BMI低い(痩せ型)
- ALP(アルカリフォスファターゼ)とBAP(骨型アルカリフォスファターゼ)高い
特徴があったそうです。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアルカリフォスファターゼ(ALP)
AST/ALT、γ-GTPなど特に肝臓の酵素の異常が無い場合、甲状腺機能亢進症/バセドウ病のアルカリフォスファターゼ(ALP)上昇は骨由来(ALP3型、BAP)です。
短期間の甲状腺中毒症では上昇する事少ないため、上昇例では甲状腺機能亢進症状態が長く続いている事が推測されます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病を治療すると骨粗しょう症は改善するか?
男性・閉経前女性
閉経後女性
閉経後女性の多くは、甲状腺機能亢進症/バセドウ病により前腕骨骨量が減少しています。甲状腺機能亢進症/バセドウ病を治療し、甲状腺ホルモンが正常化しても骨密度は回復しないと言うのが通説でした。しかし、伊藤病院の報告では、閉経後女性も骨密度が改善するとされます(Endocr J. 2016 Dec 30;63(12):1113-1122.)。
ただし、血中ビタミンD濃度[25(OH)D3]が低く、副甲状腺ホルモン(PTH)が高い場合、骨密度の改善は悪いそうです。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病と骨折
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の骨折の危険性は、同年齢の人の2倍以上とされます(Thyroid. 2002 May;12(5):411-9)。同時に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の治療により、健常人と同程度の骨折危険率に改善したそうです。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者は大腿骨頚部骨折に注意
特に、高齢者の甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者は大腿骨頚部骨折の危険性があります(Thyroid. 2003;13(6):585–93.)。
脊椎圧迫骨折
脊椎圧迫骨折は、可動性の少ない胸椎と大きい腰椎の接合部(胸腰椎移行)に応力が集中するため起こり易いです。報告されている脊椎圧迫骨折のほとんどは、甲状腺がんの脊椎転移によるものです(甲状腺癌骨転移 )。(Am J Emerg Med. 2014 Jul;32(7):816.e5-7.)(J Clin Endocrinol Metab. 2016 Dec;101(12):4871-4877.)
甲状腺機能低下症と動脈硬化と骨粗しょう症

甲状腺機能低下症でも骨密度が低下する報告があります(Horm Mol Biol Clin Investig. 2018 Sep 15;35(1):/j/hmbci.2018.35.issue-1/hmbci-2018-0039/hmbci-2018-0039.xml.)。
一方で、皮質骨・海綿骨に変化が見られないとの報告もあります(Acta Pathol Microbiol Scand A. 1978 Jan;86(1):56-62.)。
甲状腺機能低下症では、骨代謝が低下しますが骨粗しょう症との明確な因果関係は証明されていません。
甲状腺機能低下症/橋本病では、動脈硬化が進みます。動脈硬化と骨粗しょう症は密に関係しています。
- 動脈硬化で血流が悪くなると骨を造る細胞の機能が低下、骨粗しょう症になります。また、骨が壊れ溶け出たカルシウムが血管壁に沈着、動脈硬化が進みます
- 動脈硬化で上昇するホモシステインは、血管や骨組織のコラーゲン間の老化架橋を増加させ、血管や骨をもろくする事が知られます。(Osteoporos Int (REVIEW) 2010; 21: 195―214.)
院長の論文
Increased levels of serum osteoprotegerin in hypothyroid patients and its normalization with restoration of normal thyroid function.(European Journal of Endocrinology)
骨を守る物質オステオプロテグリン (OPG) は、動脈硬化で上昇します。甲状腺機能低下症/橋本病でも高値ですが、甲状腺ホルモン補充で低下することを医学界で初めて報告しました
潜在性甲状腺機能低下症と骨構造変化
潜在性甲状腺機能低下症では、血清甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度の上昇が、骨代謝に影響せず、骨の構造を脆くするとされます(Endocr J. 2007 Aug;54(4):625-30.)。
甲状腺機能低下症/橋本病と骨折
甲状腺機能低下症/橋本病の骨折の危険性は、同年齢の人の2倍以上とされます(Thyroid. 2002 May;12(5):411-9)。甲状腺機能低下症/橋本病を治療しても、骨折危険率は変化しなかったそうです。
甲状腺機能低下症/橋本病患者は大腿骨頚部骨折に注意
特に、高齢者の甲状腺機能低下症/橋本病患者は大腿骨頚部骨折の危険性があります。転倒した後、
- そのまま起き上がれなければGarden分類stage3-4の大腿骨頚部骨折
- かろうじて起き上がり、歩行も可能だが、股関節に痛みがある場合は要注意。Garden分類stage1で、レントゲンでも骨折が見つかりにくく、MRIが必要。見逃すと数日でGarden分類stage3-4になり、大腿骨頭栄養動脈を損傷する。
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン(T4, T3)の分泌を促します。同時に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、骨を形成する骨芽細胞を活性化し、骨を壊す破骨細胞を抑制し、骨保護的に働くという動物実験があります。(Curr Osteoporos Rep. 2009 Jul; 7(2):47-52.)
人においても甲状腺刺激ホルモン(TSH)の合成・分泌が低下する中枢性甲状腺機能低下症で、骨折リスクが増加するとの報告があります。日本甲状腺学会の報告のみで論文での報告は、現時点でありません。(第54回 日本甲状腺学会 P128 下垂体疾患患者における甲状腺刺激ホルモン分泌低下と骨折リスクに関する検討)
中枢性甲状腺機能低下症に性腺機能低下症
中枢性甲状腺機能低下症に性腺機能低下症を伴うと、骨量減量が著明になります。特に女性ホルモン低下は、閉経後骨粗しょう症と同じ原理です。性腺機能低下症の原因として、
- 下垂体・視床下部の異常による中枢性性腺機能低下症(甲状腺と合わせて複合型)
- 卵巣摘出などによる卵巣自体の異常
が考えられます。(第55回 日本甲状腺学会 P2-03-11 多発骨折を有する若年性骨粗鬆症を伴った続発性甲状腺・性腺機能低下症の一例)
甲状腺乳頭癌で椎体骨折リスクが増加する報告があります。甲状腺乳頭癌患者は健常対照群と比較し
- 肥満指数(BMI)とHbA1Cが有意に高い
- 重度の骨粗鬆症が有意に多い(約30% vs 約11%)
- 椎体骨折者数が有意に多い(約44% vs 約16%)
- 2椎体以上またはGrade 3の重症椎体骨折者数が有意に多い(約20% vs 約7%)
甲状腺乳頭癌では椎体骨折のリスクが約5.6倍に増加します。(J Bone Miner Metab. 2020 Mar;38(2):264-270.)(第63回 日本甲状腺学会 YIA-7 甲状腺乳頭癌における椎体骨折リスクの検討)
筆者の推論ですが、甲状腺乳頭癌が産生する何らかのサイトカイン、リン利尿ホルモンである線維芽細胞増殖因子23(FGF-23)が原因しているのではないでしょうか?
腫瘍性骨軟化症は、リン利尿ホルモンである線維芽細胞増殖因子23(FGF-23)を分泌する癌により生じます(N Engl J Med.2003 Apr 24;348(17):1656-63.)。
腫瘍性骨軟化症を起こした甲状腺未分化癌の報告があります(Bone Rep. 2016 Feb 17;5:81-85.)。
ALP(アルカリフォスファターゼ)は、アルカリ性の環境でリン酸化合物を分解する酵素です。肝臓や骨、小腸、胎盤などに多く、臓器障害により血液中に流出します。
ALP(アルカリフォスファターゼ)は、長崎甲状腺クリニック(大阪)の初診時採血・甲状腺機能亢進症/バセドウ病で抗甲状腺薬投与中の方の定期採血(副作用チェック)では、必ず調べる項目です。
骨型ALP(アルカリフォスファターゼ)[ALP3型、BAP]は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病や原発性副甲状腺機能亢進症で上昇します。(Acta Endocrinol (Copenh). 1983 Sep;104(1):42-9.)
骨型ALP(ALP3型)は、短期間の甲状腺中毒症では上昇する確率が低いとされます。 しかし、上條甲状腺クリニックのデータでは、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の40.1%、無痛性甲状腺炎の6.2%で骨型ALP(アルカリフォスファターゼ)上昇すると報告されており、上昇していない場合、甲状腺中毒症状態が短期間と推測されます。
亜急性甲状腺炎の27.3%でもALP上昇しますが、肝型ALPです。
骨型ALP(ALP3型)上昇例では甲状腺機能亢進症状態が長く続いていると推測されます。
ALP(アルカリフォスファターゼ)は術後低カルシウム血症の予測マーカー
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で甲状腺全摘手術を行う患者では、術前ALP(アルカリフォスファターゼ)が高値なら、術後低カルシウム血症を起こし易くなります(J Laryngol Otol. 2015 Nov;129(11):1128-32.)。
ただし、手術中、副甲状腺を摘出した場合、摘出しなくても副甲状腺を栄養する血管を傷つけた場合は、術前ALP(アルカリフォスファターゼ)に関係なく、術後低カルシウム血症になります)。
1型、2型糖尿病問わず甲状腺疾患の合併が多いとされます。詳しくは 甲状腺と糖尿病 を御覧下さい
糖尿病の高血糖状態では、骨を造る細胞(骨芽細胞)の機能が低下。糖尿病性骨粗しょう症・糖尿病性骨軟化症になる危険があります。
抗うつ薬と骨粗しょう症
抗うつ薬の選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)は、薬剤性甲状腺機能低下症をおこす可能性と同時に、閉経後女性の大腿骨頸部骨密度(BMD)を低下させるという報告もあります(Bone. 2016 Aug;89:25-31.)。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)で骨粗鬆症と骨折のリスク上昇
胃酸分泌抑制薬の主流であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の胃粘膜障害[(甲状腺機能亢進症/バセドウ病と消化管潰瘍(胃十二指腸潰瘍) ]、甲状腺眼症:バセドウ病眼症 橋本病眼症 の副腎皮質ステロイド薬投与中の胃十二指腸予防に使用する事が多いです。
甲状腺ホルモン剤:チラーヂンS(一般名:レボチロキシン ナトリウム)の吸収障害(チラーヂンS錠が下痢/食事/薬で吸収されない? )以外の副作用として、たとえ短期間でもプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服薬すると骨粗鬆症と骨折のリスクが高くなるとされます(Curr Opin Rheumatol. 2016 Jul;28(4):420-5.)。
大理石骨病(marble bone disease)は破骨細胞の異常により一次性骨梁(石灰化軟骨)が吸収されず残存する病態。一次性骨梁(石灰化軟骨)は
- 全身の骨硬化
- 骨髄腔狭小により造血障害
に至ります。
大理石骨病の破骨細胞は副甲状腺ホルモン(PTH)に対する反応が悪いものの、血清副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニンは正常。
大理石骨病患者の骨組織では破骨細胞数が増加。[J Bone Joint Surg Am. 1980 Apr;62(3):384-99.]
大腿骨頭滑り症を合併した大理石骨病と先天性甲状腺機能低下症の報告があります。[Endocr Pract. 2010 Jul-Aug;16(4):646-9.]
(写真;Radiopaediaより改変)
大腿骨頭無腐性壊死は、膠原病[全身性エリテマトーデス(SLE)])やネフローゼ症候群などでステロイド長期投与されるか、慢性アルコール中毒などで起きます。何と、甲状腺機能低下症に合併した?大腿骨頭無腐性壊死が報告されています。原因は、大腿骨頭を栄養する動脈の血栓、脂肪塞栓と考えられます(甲状腺機能低下症の動脈硬化)。(Beitr. Orthop. Traumatol., 20:86-91, Feb. 1973.)(Bone Joint Sur., 53 A: 859-873,1971.)
33歳女性で、ステロイド使用歴、飲酒歴なく、転倒後に右股関節痛出現、2-3日で軽快、歩行可能になるも完治せず。単純レントゲンで帯状硬化像、TC-99m骨シンチで集積を認め、局所の安静を保ち自然修復を待ったそうです(整形外科と災害外科 34(4) 58-61, 1986)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。