甲状腺と生理不順・月経前症候群(月経前緊張症)[日本甲状腺学会認定 甲状腺 専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学医学部附属病院 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。月経前症候群(月経前緊張症)の診療は行っておりません。
Summary
甲状腺機能低下症/甲状腺機能亢進症は生理不順(月経不順)の原因になる。甲状腺機能低下症は視床下部からTSH放出ホルモン(TRH)が分泌され、下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)とプロラクチン(乳汁作らせ、生理を止める下垂体ホルモン)分泌を促進、生理不順(月経不順)をおこす。甲状腺機能亢進症の生理不順(月経不順)は月経量が少なく(過小月経)、月経周期が長くなるためにおこる。甲状腺機能低下症/甲状腺機能亢進症症状は月経前症候群(月経前緊張症)に類似。子宮腺筋症は子宮筋層内に異所性子宮内膜組織が浸潤し炎症、月経痛、過多月経がおこる。
Keywords
甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,生理不順,月経不順,プロラクチン,過小月経,月経周期,月経前症候群,甲状腺,TRH,TSH,月経前緊張症
甲状腺機能低下症の生理不順(月経不順)
甲状腺機能低下症では、脳の視床下部・下垂体が甲状腺ホルモンの不足を察知し、
- 視床下部からのTSH放出ホルモン(TRH)合成・分泌↑
- 下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の合成・分泌↑
TSH放出ホルモン(TRH)は、プロラクチンという乳汁を作らせ生理を止める下垂体ホルモンの分泌も同時に促進。
(授乳期間中はプロラクチンが分泌されるため生理が止まります。これと同じ状態になるのです)
よって、甲状腺機能低下症では、乳汁が出る産後のように月経が無くなったり不順になります (当然、妊娠しにくくなります[不妊症/習慣性流産・不育症と甲状腺])。
甲状腺機能亢進症の生理不順(月経不順)
甲状腺機能亢進症の生理不順(月経不順)は、月経量が少なく(過小月経)、月経周期が長くなり、無月経/不妊症になる事があります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病における不妊症/習慣性流産・不育症)。甲状腺機能亢進症の卵巣機能への影響のメカニズムは、まだ解明されていません。
月経前症候群(月経前緊張症)とは?
これらのホルモンが激しく変動すると
- 卵胞期には、卵胞ホルモン(エストロゲン)の増加によって末梢血管が拡張し手足の冷え
- 排卵直前には、卵胞ホルモン(エストロゲン)の増加によって頸管粘液は無色透明でサラサラになり量が増加
- 排卵期には、卵胞ホルモン(エストロゲン)の減少から中間期出血(排卵期出血)
- 黄体期には、黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加し、水分貯留によるむくみや体重増加、基礎体温の上昇(微熱)、乳房緊満感や乳房痛
が増悪し、必然的に月経前症候群(月経前緊張症)も強くなります。
月経前症候群(月経前緊張症)と甲状腺機能低下症
月経前症候群(月経前緊張症)と甲状腺機能低下症の症状は良く似ていて、うつ傾向、動悸、倦怠感、むくみ・体重増加、冷え、便秘などです。
月経前症候群(月経前緊張症)では月経前10~2日のみですが、甲状腺機能低下症の人に月経前症候群(月経前緊張症)が重なると症状が増強されます。
月経前症候群(月経前緊張症)と甲状腺機能亢進症
月経前症候群(月経前緊張症)と甲状腺機能亢進症の症状は良く似ていて、イライラ感・うつ傾向、動悸、倦怠感、食欲亢進、悪心・下痢、体温上昇(微熱)、にきびなどです。
月経前症候群(月経前緊張症)では月経前10~2日前のみですが、甲状腺機能亢進症の人に月経前症候群(月経前緊張症)が重なると症状は増強されます。
月経前甲状腺腫脹(生理前に甲状腺が腫れる)は、よく起こります。
下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)のLH(黄体形成ホルモン)は、卵巣を刺激し排卵を起こします。LH(黄体形成ホルモン)は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)と構造が似てい[(共通のアルファサブユニット(α鎖)構造を持つ)]、甲状腺も同時に刺激するため、一時的に甲状腺が腫れるのです(Med Hypotheses. 1983 Apr;10(4):359-63.)。
生理が来なくて甲状腺が腫れ続けたら妊娠の可能性
生理が来なくて甲状腺が腫れ続けたら妊娠の可能性があります。胎盤から出るhCG[ヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピン]が、LH(黄体形成ホルモン)と交代して胎嚢(たいのう)を維持するためです。hCGもTSH(甲状腺刺激ホルモン)と構造が似ているため、甲状腺を刺激し、妊娠終了まで甲状腺が腫れます。
不正性器出血は通常の生理(月経)以外の性器からの出血です。不正性器出血の原因は
- ホルモン異常(機能性子宮出血)(卵巣機能不全、下垂体前葉異常、甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病など)
- 炎症[感染症、萎縮性腟炎/老人性膣炎(女性ホルモン不足により腟粘膜が菲薄化し、接触出血)、子宮腟部びらん]
- 良性腫瘍[子宮筋腫、ポリープ、子宮粘膜下筋腫(甲状腺機能低下症と同じく過多月経や過長月経)]
- 悪性腫瘍[子宮頸癌(上皮内癌での不正性器出血はまれ)、子宮内膜癌/子宮体癌(特に浸潤癌で不正性器出血)、卵巣癌、子宮肉腫、腟癌など]
- 妊娠関連(最も多い);流産、異所性妊娠(子宮外妊娠)、胞状奇胎が考えられ、妊娠反応検査(尿hCG定性検査)が必要
です。
子宮内膜症は、月経困難症をおこしますが、生理(月経)周期に合わせた出血なので、不正性器出血の可能性は低いです。
子宮腺筋症は、経産婦に多いとされ、子宮筋層内に異所性子宮内膜組織が浸潤し炎症を起こします。言わば、子宮内膜症が子宮筋層内に起きた状態です。
子宮は、びまん性に腫大し、腹部超音波、MRI検査では子宮筋層の肥厚を認めます。
子宮腺筋症は、甲状腺機能低下症の生理不順と似ていて、月経痛、過多月経の症状、卵巣の腫瘍マーカーの血中CA125が上昇(甲状腺機能低下症だけでもCA125が上昇することがあります)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病と子宮腺筋症
「甲状腺機能亢進症を合併した子宮腺筋症内感染より敗血症に至った1例」が報告されています(日本産科婦人科学会関東連合地方部会会誌, 47(3) 353-353, 2010)。
元々、甲状腺機能亢進症/バセドウ病があり、十数年間、月経時に38℃台の発熱を繰り返していたそうです。察するに、甲状腺機能亢進症/バセドウ病のコントロール状態が良いとは思えませんが、甲状腺のみで月経時の高熱は説明できず、子宮腺筋症内の慢性炎症(感染症)があった可能性を考えます。
結局、十数年後、子宮腺筋症内感染による敗血症、甲状腺機能亢進症に伴う甲状腺クリーゼおこし、最終的に腹式単純子宮全摘術、両側付属器切除に至る。子宮筋層内には膿瘍(膿)が散在し、子宮周囲は慢性炎症を示唆する癒着を認めたそうです。
子宮腺筋症と子宮内膜がん(子宮体癌)、甲状腺癌
子宮腺筋症(アデノミオシス)の患者は、以下のリスクが高いとされます。女性ホルモンの影響が第一に考えられます(高エストロゲン血症と発癌)。(PLoS One. 2018 Mar 9;13(3):e0194011.)
- 子宮内膜がん(子宮体癌);推定ハザード比2.19倍
- 甲状腺癌;推定ハザード比1.70倍。GRIM-19, CXCL12, PAK4などの遺伝子も関与。(International journal of oncology. 2016;48(6):2321–9.)(Oncotarget. 2017;8(15):24882–91.)(Fertil Steril. 2016 Apr; 105(4):1093-101.)(Fertil Steril. 2015 Apr; 103(4):1089-1097.e2.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。